スリザリンの末裔 ~Silver-Haired Wizard’s Legacy~ 作:如月斎
禁断のホムンクルス
「坊っちゃま! 誰か来ます! おそらく魔法省の人間です! 逃げなければ!」
ノクティが周りを見渡し叫ぶ。セリクスは即座にアウレウスの胸倉を掴み、ノクティの手を握った。ノクティが瞬時に姿くらましを発動させた。
バチンという音とほぼ同時に、魔法省の人間らしき魔法使いと魔女の2人が、姿現わしで先程までセリクスたちがいた場所へ現れた。
「……遅かったか。もういないな」
「でも絶対誰かはいたみたいですよ。うわ〜、地面が割れてる。戦闘でもしてたみたい」
「手分けして周囲を調べるんだ」
「はいは〜い」
2人は近辺を調査した。周囲の木は軒並み
「《
男が強く息を吹き付けると、辺り一面に金色に輝く粉がキラキラと散りばめられた。金粉はしゅるしゅると意志を持って動き、つい先程までここで戦闘していたであろう人物の足跡を浮かび上がらせた。
「魔力の残りカスが荒れすぎてて、足跡くらいしか拾えませんね。……男性かな? 足跡が2人分……。やっぱり決闘してたみたいですね。あれ? 裸足の子供の足跡かな? よく見えないな。これ……途中で3人とも綺麗に消えてますね」
「……姿くらましか」
「う〜ん。手掛かりはこれだけですかねぇ」
「とんでもない魔力のぶつかり合いを検知したと思ったら、すぐ側に未成年の"匂い"まで……。魔法を使ったのはこの男2人か? 小さな子供に姿くらましが出来るとは思えんしな……」
「この戦闘跡は到底未成年魔法使いとは思えませんよ」
「すごいな……。歴戦の闇の魔法使い同士が決闘したと言われても納得する」
「ほわ〜。なんの魔法使ったらこうなるのかな?」
「……被疑者がいないんじゃ仕方ない。さっさと片付けて撤収するぞ、ドーラ」
「トンクスって呼んでくださいっていつも言ってるじゃないですか! シャックルボルトさん!」
「なんでだ。ドーラ可愛いじゃないか」
「だから嫌なの!」
2人は騒がしく言い合いながら、荒れ果てた周囲を魔法で元通りにすると、また姿くらましで魔法省へと帰っていったのだった。完全に元通りになった道には、湿った風だけが流れていた。
◆ ◆ ◆
その頃、セリクスたちはノクティの姿現わしで、一気にゴーント邸まで戻ってきていた。セリクスはアウレウスの胸倉を離し、床に放り出す。広い玄関ホールにアウレウスが倒れ込む音が響いた。アウレウスとセリクスが睨み合う。
「お早いお戻りだ」
「ち、父上……」
セリクスの後ろから低い声が響いた。蒼褪めた2人が慌てて振り向くと、無表情のマウリシオが腕を組んだまま立っていた。2人はすぐにマウリシオの前に並んだ。まるで教師に叱られている時の小学生のようだ。
「セリクス、私はお前になんと言ったかな? お買い物ついでにお散歩でもと勧めたかな?」
「い、いえ……。アウレウスが……どうしても行きたいと……」
「そこで僕のせいにするのか!? お前も最後は賛成していなかったか!?」
アウレウスが裏切られたような顔でセリクスを責めてくる。おかしい。先程裏切られたのはセリクスのはずだ。マウリシオが更に声を低くした。
「そこの馬鹿の甘言にのこのこと乗ったのは誰だ?」
「私です……。申し訳ありません」
セリクスは潔く頭を下げた。こういう時は素直に謝った方が早い。アウレウスは1度顔を背けて反抗しようとしたが、マウリシオから物理的な冷気が流れてきたタイミングで、セリクスからの強烈な肘鉄が脇腹に入り、渋々頭を下げる。しばらく地獄のような空気が流れた後、マウリシオは溜息をついた。
「はあ……。とりあえずセリクスに話がある。そいつをどこかへやれ」
「アウレウスがいない方が?」
「うむ」
セリクスは即座に鞄を開け、またアウレウスをひっ掴むと、有無を言わさぬ勢いで鞄の中へ放り込んだ。鞄の中へ落ちていくアウレウスは聞くに堪えない罵声を吐いていたが、セリクスはそれを一切合切無視し閉めてしまった。
「私の書斎へ行くぞ」
「はい……」
2人はマウリシオの書斎に入り向かい合ってソファに落ち着いた。まぁセリクスは全く落ち着けなかったが。マウリシオの書斎には数えるほどしか入ったことがない。やはり話題はあのことだろうか。アゼルに淹れてもらった紅茶にも手を出す気にはなれなかった。何も入っていないはずの胃が重い。
「さて、頭のいいお前のことだ。何を聞かれるか分かっているだろうな?」
「なんのことか……」
「セリクス?」
「……」
すっかりバレている。セリクスは遂に完全降伏することにした。
「アウレウスのことですか?」
「トム・マールヴォロ・リドル。やつのことについて調べてみたが、卒業後しばらくしてから消息不明になっている。そのまま死んだのかと思いきや……。先程ノクティから伝言を託されたアゼルから聞いた。──あいつは闇の帝王の魂だな?」
「その通りです……」
「──セリクス! ヴォルデモートがどういった存在だったか今まで散々教えただろう! お前は魔法界、いや世界を混沌に陥れるつもりなのか!」
マウリシオの怒号が部屋に響き渡った。久しぶりにマウリシオの逆鱗に触れてしまったらしい。しかしセリクスにも言い分があった。顔を強張らせつつも反論する。
「父上。あいつは確かにヴォルデモートの魂の欠片です。しかしヴォルデモート本体ではありません。あいつ自身は16歳の少年であり、そして有用性があります。従属契約が成されていますから、裏切ろうものならすぐに制圧出来ます。現に先程は私が圧倒しました」
「……」
マウリシオの表情は緩まない。マウリシオを中心とした半径5メートルほどがビキビキと音を立てて凍り付いていく。セリクスは更に言い募った。
「私はあいつに責任をとらせようと思っています。ヴォルデモートが英国魔法界を壊しかけた。ならヴォルデモートの魂を制圧し、服従させ、調教し、この英国魔法界の役に立ってもらおうかと。都合のいいことに私と顔がそっくりですし」
「お前……恐ろしいことを考える……」
マウリシオは呆れ返ったようだった。その代わり先程までの怒りが若干落ち着いたようで、凍り付いていた床やテーブルが静かに溶けていく。
マウリシオがソファに背中を預け、深く深く溜息をついた。随分心労が溜まっている様子だ。セリクスは父の怒りが落ち着いた様子に、内心安堵していた。
「それで?」
「? それでとは?」
「しらばっくれるな。あいつ何か妙な物を持っていただろう。魔力が2つに分かれていた」
「さすがは父上。分かりますか? それを巡って先程アウレウスと大喧嘩してきました」
「大喧嘩……」
この達観している息子の口から出たとは思えない単語に、マウリシオは瞬きをした。おそらく言葉の響きほど可愛らしいものではなかっただろう。後で目撃したはずのノクティに詳しく聞かなければ。マウリシオはそう決めた。
「オミニス様の兄、マールヴォロが所持していたゴーント家の家宝の指輪を回収しに行っていました。やつの本体はその指輪に致死性の呪いと、自身の魂の欠片を封印したようです。私もあの呪いについては知らなかったですね。……つまり闇の魔術に関しては私以上の深い知識があるということです」
「ヴォルデモートは学生時代からそこまで深く闇の魔術に染まっていたのか……」
マウリシオの声音がまた深刻そうな響きを帯びてしまう。また破壊に天秤が傾いてもいけない。急いで話を変えることにした。
「中に封印されている魂をアウレウスに融合させたいんですが、何か方法に心当たりはありませんか?」
「……なくはない」
「それは?」
「ホムンクルスだ」
「……なるほど……」
セリクスは膝の上に置いていた拳に力を入れた。ホムンクルス、それは──
「錬金術の中でも最高峰の錬金術師しか成しえない禁断の秘術。やり方だけは以前教えただろう。私は手を貸さない。お前だけでやってみろ」
セリクスは実の父親を睨み付けるような目付きで見つめた。確固たる意思。エメラルドグリーンの瞳がセリクスの高揚に反応して明度を上げていく。
「承知しました」
書斎の窓から見える空はどんよりと曇り、風も強く吹いている。嵐になりそうだった。
◆ ◆ ◆
話が一段落し、2人はやっと紅茶の味を楽しめるようになった。屋敷しもべ妖精が淹れる紅茶は、いつまで経っても飲み頃の温度だ。
「アウレウスのこと、レオさんには……」
セリクスがおずおずと話し出すと、マウリシオは悩ましげに眉を寄せ腕を組んで考え込んだ。
「うーむ……。黙っている訳にもいくまい。まぁショックで倒れるかもしれんが。私から上手く話してみよう」
「よろしくお願いします」
「あいつはお前のことを殊更大事にしている。あまり心配を掛けるようなことをするな」
「……はい」
「はあ……。ここ最近毎年面倒事を持ち帰るようになったな」
マウリシオは疲れたように額に手をやり、項垂れてしまった。セリクスはティーカップで口元を隠しながら呟いた。
「ホグワーツにも責任があると思いますが……」
「黙れ。少しは反省しろ」
「……はい……」
"スリザリンの氷王"も父親の前では無力な15歳の子供である。少しの間しょんぼりと
「あ、あの、父上。もうすぐコーウェンとセドリックが泊まりに来る予定なんですが、今年は……」
全然落ち込んでなどいなかった。マウリシオは思わず半目になる。こいつの辞書に反省という文字はないのだろうか。
「それなんだが、シリウス・ブラックが脱獄したせいで、彼らの親御さんから逆に是非預かって欲しいと要望があった。ここはゴーントの結界で護られているからな。安心なんだろう」
「そうですか」
セリクスは無表情ながらも、どこか嬉しそうに頷いた。マウリシオはこの少し人間味の薄い息子にも、心を許す友人が出来たことを喜ばしく思っていた。
「彼らにあの馬鹿のことも紹介しなければ。破綻しないような細かい設定をお前たちで練り上げておけ」
「分かりました」
こうしてゴーント家の親子のお茶会は、微塵もほのぼのとしないまま終わりを迎えたのだった。
◆ ◆ ◆
マウリシオから解放されてセリクスは、少しだけふらつきながら自室へと戻った。鞄を床に置き、中に滑り込む。床に着地したと同時に、目の前に攻撃魔法が飛んできた。咄嗟に杖を抜く。
「《
「《
「くそっ! 防ぐな!」
アウレウスが悔しそうに地団駄を踏んでいる。まるで
「落ち着け。私につくんじゃなかったのか?」
「それとこれとは違うだろ! この僕の胸倉を掴んで放り投げるのまでは許容してないぞ!」
「……あの時は仕方ない。次から善処する」
「善処じゃなくて約束しろ! 今!」
「私は出来ないことは約束しない主義だ」
「……ぐぬぬぬぬっ」
顔を真っ赤にさせて歯軋りをしている姿からは、稀代の闇の魔法使いには到底見えなかった。セリクスはまずこの利かん坊の躾から始めないといけないことに、頭痛がする思いだった。
「……とりあえずお前の肉体を錬成する方法を教える」
「──っ!」
アウレウスははっとしたような顔で黙った。大人しくなったアウレウスを見て、セリクスは軽く息をついた。鞄の中のアウレウスの私室に移動しソファに座る。セリクスは杖を振って紅茶を淹れた。アウレウスが嫌そうに一口飲む。そんなに飲みたくないなら飲まなくてもいいのにとセリクスは思った。
「なんだこれは。色付きのお湯か? ……それで? どうやるつもりだ?」
「うるさい。──ホムンクルスだ。お前も聞いたことはあるだろう」
「……ホムンクルス?」
アウレウスは難しい顔をして腕と足を組んで唸った。
「ホムンクルスってあれだろう? 馬糞に人間の精液を入れて40日間発酵させるとかいう……。でもあれは小人が出来るって聞いたことが……」
「それは人間が昔やっていた"錬金術ごっこ"だな。そうか。お前はホグワーツ入学まではマグル界にいたんだったか。本物の錬金術はマグルのそれとは根本から違う」
「そうなのか……」
セリクスも腕と足を組んだ。無意識だったが2人はまったく同じ体勢になり、それはまるで鏡映しのようになっていた。
「私は幼い頃から魔法薬学だけでなく錬金術にも慣れ親しんでいた。ホムンクルスの錬成方法も習ってはいる。確かに難易度は高いが……。それよりも問題は材料なんだ」
「材料?」
「ムーンカーフの乳、アストランティアの花弁、ルーン刻印銀粉、フェニックスの涙の結晶、ドラゴンの心臓の琴線、ドラゴンの卵の殻、ユニコーンの血液。ここまではまあいい。しかしマンティコアの脊髄液。これだけは入手難易度が高いんだ。まぁムーンカーフの乳も違う意味で面倒なんだが……」
「マンティコア……」
アウレウスが唖然とした声を出した。
マンティコア──魔法省がXXXXX(最高危険度)に指定する魔獣。金色の髪を持つ人間のような顔に、巨大なライオンの胴体、そして猛毒を蓄えたサソリの尾。
その外皮はほとんどの呪文を弾き返すほど強靭で、並の魔法使いでは傷ひとつ付けられない。
高い知性を兼ね備え、ヒト語での会話さえ可能だが、気性は凶暴そのもの。肉の匂いを嗅いだ瞬間、躊躇なく襲いかかってくる生粋の捕食者である。
その本質は──"暴力と知性を持つ災厄"。自然界に現存する魔法生物の中でも、最も出会いたくない部類の怪物だった。
「お前……。あんなものに手を出すつもりか?」
「なんだ、お前は自信がないのか?」
セリクスがくいっと顎を上げて、見下すようにアウレウスを見る。瞬時にアウレウスの瞳が紅く輝き出したが、先程の決闘の力量差を思い出したのか賢明にも何も言わなかった。
「……ふん。マンティコアは大抵の魔法攻撃を無効化する。お手並み拝見といこうじゃないか」
「お前は……どこまでも上から目線だな。嫌われるぞ」
「誰にだ!? あと、お前にだけは言われたくない!」
アウレウスがソファから立ち上がって激昂する。セリクスは呆れたように片目を
(あの老いぼれ以外に、僕をここまで苛立たせる者がいるとは……)
ここまで思い通りにならなかったのは、ダンブルドアを前にした時だけだとアウレウスは考えた。
「すぐに取りに行きたいが……。明日から夏休みが終わるまで、コーウェンとセドリックが泊まりに来るんだ。マンティコア狩りは次の冬季休暇だな」
「……誰だ?」
「私の親友たちだ。コーウェン・セルウィンとセドリック・ディゴリー」
「……お前友達とかいるのか。……なるほど取り巻き……」
「違う」
セリクスは一刀両断した。どこまでもひねくれていて失礼な男だ。きっと学生時代から本当の友人なんていなかったのだろう。セリクスは内心見下しつつ憐れんだ。アウレウスは敏感に何かを察知し、セリクスを睨み付ける。
「とりあえずこれは決定事項だ。お前の表向きの設定を詰めるぞ。明日までに全て頭に叩き込め」
「ふん。造作もない」
「……あと、その生意気な口の利き方を改めるんだな。行儀良くしておけ」
「うるさい! お前にだけは言われたくない!」
「……お前の方がうるさいんだが」
2人は粗方の設定を詰めた後、深夜遅くまでホムンクルスのことを話し合ったのだった。
【あとがき】
●アウレウスとセリクスの関係性
この2人は常に喧嘩していますが、5章ではずーっとこの調子で言い合っています。考え方と気が心底合わないんですよね。アウレウスはセリクスに偉そうに指図されるのが嫌いだし、セリクスもアウレウスの他人を塵芥としか見ない価値観が気に入りません。でも頭脳と能力は近いのでお互いに利用し合っています。
●ホムンクルス
分霊箱からの復活方法って絶対ホムンクルスじゃないですよね。すみません、めちゃくちゃ捏造しました。なんかヴォルデモート本体は賢者の石を利用して復活しようとしていましたし、日記のリドルはジニーから魔力もらって復活してやるぜみたいな感じでしたけど、そんな簡単に復活したらちょっと物語の都合上マズかったんです( ̄▽ ̄;) あと、心の底から悔い改めたら切り裂かれた魂ってくっつくんでしたっけ? まぁアウレウスは更生しない気がしますけどね。あと悔い改めたらっていうのを、セリクスもマウリシオも知りませんので……。そもそも彼らは分霊箱って言葉も知りません。なお、ホムンクルスの錬成方法も完全オリジナルです=͟͟͞ _|\○_<ユルシテ!