スリザリンの末裔 ~Silver-Haired Wizard’s Legacy~ 作:如月斎
秘匿された双子
翌日、セリクスとマウリシオはコーウェンとセドリックを出迎えるために、応接室の暖炉の前でスタンバイしていた。暖炉には火が入っておらず、綺麗に
案の定、レギュラスはアウレウスの正体のことをマウリシオから聞き、倒れて寝込んでしまっている。セリクスはすぐに見舞いに行ったが、レギュラスから涙ながらに心配され、さすがにほんの少し反省したのだった。
レギュラスに『安らぎの水薬』でも調合した方がいいだろうか、などと内心つらつらと考えていたが、暖炉が緑の炎を上げたのを見てセリクスは思考を中断した。
まず出てきたのはエドモンドとコーウェンだった。エドモンドは多少緊張した顔で、まっすぐマウリシオの元へやってくる。コーウェンが慌ててそれに続いた。
「マウリシオ様。この度は私どものお願いを聞いて下さり……」
「礼には及びません。困った時はお互い様と言いますし」
2人はしっかりと握手した後、笑顔で挨拶を交わした。続いて恰幅の良い壮年の男性が暖炉から出てきた。細いフレームの銀縁眼鏡を掛け、人が良さそうな顔で、セドリックと同じダークブラウンヘアに少々の白髪が混じっている。
「初めてお目に掛かります。エイモス・ディゴリーと申します。うちの息子がセリクス君に何度もお世話になったと聞いております」
「マウリシオ・ゴーントです。セリクスの方もセドリック君には良い刺激を貰っているようです」
初対面だからか、どこか緊張感漂う挨拶になった。大人たちの挨拶が終われば、次は子供たちの番だ。コーウェンとセドリックが、わっとセリクスの元へ集まった。
「セリクス! 会いたかった!」
「良かった。元気そうだね」
「大袈裟だな。まだ夏季休暇が始まって1ヶ月しか経ってないぞ」
セリクスは呆れたように微苦笑を浮かべる。しかしコーウェンの眉は、情けなく垂れてしまった。
「心配もするよ! だって
「大丈夫だ。ここの結界は
「セリクス、格好良すぎるでしょ……」
「格好付けたつもりはないんだが……」
少し間の抜けた挨拶が終わり、ひとまずはお茶会が始まった。アゼルとノクティが揃って丁寧に給仕していると、屋敷しもべ妖精が複数もいるとは思っていなかったらしいエイモスとエドモンドが目を丸くさせている。それはそうかもしれない。屋敷しもべ妖精が1人でもいる家は、裕福で地位が高いことを示している。それが2人もいるのだ。驚くのも無理はなかった。
「セリクスの家のチーズケーキが1番美味しいんだよね。どこのお店のなの?」
「既製品じゃない。ティフルが作っている」
「ティフル?」
「3人目のハウスエルフだ。後で感想を伝えておく。きっと喜ぶだろう」
セリクスの台詞で、大人組の口が開いたまま閉まらなくなってしまった。セリクスはその間抜け面を見て、黙っていた方が良かったかもしれないと思った。
「あぁそうだ。エイモスさん、あなたとお話したかったんです」
「私と? 何かな?」
「クリスマスプレゼントにセドリックからスノードームを貰ったんですが、スノードームに魔法を掛けたのがエイモスさんだと聞きまして」
セリクスはそう言いながら、鞄からスノードームを取り出した。明らかに見た目の容量以上の物が出てきたので、魔法省勤務の2人の眉毛がぴくっと動いた。無許可の拡張呪文は厳しく規制されているが、ゴーント家のような古い純血家系では家財道具に古来の魔法が掛かっていることも珍しくないため、あえて追及はしないようだった。
「あっ、セリクス、まだそれ大事にしてくれてたんだね!」
「もちろんだ。セドリックがくれた物だからな」
「……えへへ」
何故かセドリックが照れ笑いをしながら、後頭部を掻いている。セリクスはそれを気にせず、目の前のテーブルに置く。自然と全員がスノードームを覗き込んだ。
中では木々に囲まれたミレヴィエル湖が見える。湖畔に腰掛けて、足先だけを水に浸して涼をとっているちびセリクス。どこで用意したのか分からないが、海パン1枚で元気にクロールをしているちびセドリック。小さな浮き輪をつけて、不安げな表情でぷかぷか浮いているちびコーウェン。それぞれが特徴豊かに水遊びを楽しんでいるようだった。特にちびコーウェンの情けない顔を見て、その場にいたコーウェン以外の人間がつい和んでしまった。本物のコーウェンがぷくっと頬を膨らませた。
「確かに僕、泳ぎは苦手だけど、ここまで精巧に反映しなくてもいいのに……」
「ご、ごめん……」
「ほう。人形や周りの装置も精密に作られていますね。でも驚くべきはこの動く魔法です。ミスター・ディゴリー。これの魔法式を伺っても?」
意外なことに、真っ先に食い付いたのはエドモンドであった。興味津々に身を乗り出して、ちびセリクスたちの動向を観察している。その視線に気付いたのだろう、ちびセリクスが鬱陶しそうに空を見上げて小さな杖を向けてきた。
「か、可愛い〜! セリクスがこっちを威嚇してる!」
コーウェンの甲高い歓声にエドモンドははっと我に返り、顔をスノードームから離した。ちびセリクスはふんっと鼻を鳴らし、またぱちゃぱちゃと足で水を蹴り始めた。本物のセリクスよりもどこか子供っぽい仕草だ。
「さすがにあのちいさな杖からは魔法は出ないのかな?」
「ははは。出たら面白いですな。そうそう、これに掛けた魔法ですがね──」
しばらくはお茶菓子そっちのけで、スノードームの話で盛り上がったのだった。
◆ ◆ ◆
お茶会が一段落したところで、マウリシオが場を区切るかのように咳払いをした。全員の注目が集まったのを確認して話し出す。
「皆さんに紹介したい子がいます。──アウレウス、入ってこい」
──扉が静かに開いた。
廊下から応接室に入ってきたのは、黒髪黒目の美青年だった。濃紺のジャケットとスラックスを着ている。色味は全体的に暗いのに、その美貌が眩しすぎてコーウェンとセドリックは一瞬クラっと
しかしその顔をよくよく見ると誰かに似ているではないか。綺麗なアーモンド型の瞳。すっと通った高い鼻筋。酷薄そうに見える薄い唇は愛想が良い笑みの形をしている。
あれは──
「……え? セリクス?」
「なんだ? コーウェン。私はこっちだが」
「えっえっ? セリクスが2人? どういうこと?」
「落ち着け、コーウェン。──アウレウス、自己紹介を」
セリクスが冷ややかな横目を向け、アウレウスをそうせっついた。アウレウスと呼ばれた青年は苦笑いを浮かべ軽く肩を
「お初にお目にかかります。僕はアウレウス・マールヴォロ・ゴーント。セリクスの双子の弟です。以後、お見知り置きを」
「「ふたごぉ!?」」
コーウェンとセドリックの驚愕の声が、見事にハモったのだった。
◆ ◆ ◆
しばらくゴーント家以外の全員がパニックでてんやわんやしていたが、なんとか落ち着いてお茶会の続きをすることができた。セリクスの横に座ったアウレウスの前にも、紅茶とチーズケーキが用意される。マウリシオが淡々とアウレウスの経歴を紹介した。
「──と、言う訳で、アウレウスは最近までほとんど
「はい。それで離れ離れだった兄に会いに、遊びに来たんです」
アウレウスはにこにこと胡散臭い笑顔で、爽やかに相槌を打っている。セリクスはアウレウスの本性を知っているだけに、背中がむず痒くて仕方なかった。しかしここで
「見れば見るほどそっくりだね〜。でも色彩が真逆だから、イメージはちょっと違うかも……」
「コーウェン! 失礼なことを言うな!」
コーウェンのなんの気なしの軽口に、エドモンドが厳しく叱責した。普段コーウェンには比較的甘い父親の一喝に、コーウェンは肩を竦めて怯えた表情をした。
「あぁ、いいんです。会う人には大抵ヒソヒソされるんで、もう慣れっこというか。逆にストレートに聞いてくれた方が説明出来ますから。僕の髪と目の色は父方の祖母からきてるんです」
アウレウスは全く気分を害した様子もなく、そう説明した。謎に包まれたゴーント家の家族関係を聞けそうだと、エドモンドとエイモスが僅かに身を乗り出す。アウレウスの言葉に、マウリシオが補足説明を入れた。
「私の母は、クラリッサ・ゴーント。旧姓はレストレンジです」
「……レストレンジ……」
エドモンドとエイモスが思わず顔を見合わせる。2人の脳内には、獄中にいる3人のレストレンジたちの顔が浮かんでいた。さーっと顔から血の気が引いていく。
「お2人はロドルファスとラバスタン、そしてベラトリックス・レストレンジを想像していらっしゃるかと思いますが……母は彼らの伯母にあたります。しかし母は若い頃から、レストレンジ家の過激な純血思想にはついていけなかったようでして。ちょうどその頃、ヨーロッパではグリンデルバルドが勢力を伸ばし始め、魔法界全体が不安定になっていました。思想の違う者が"安全に暮らせる場所"など、どこにもなかった時代です。母は身を守るためにイギリスを離れ、ドイツへ渡りました。……もっとも、当時のドイツも決して平穏ではありませんでしたが」
マウリシオはそこで一拍置き、言葉を継ぐ。
「そこで父──カシュートス・ゴーント──と出逢い、父は動乱の中必死に母を守り支え合い、そして家族になったのです」
マウリシオが無表情のまま淡々と説明したので、エドモンドとエイモスはほっと息をついた。
「まぁ確かに私は、アズカバンに投獄されている死喰い人とは
「……確かに……」
エイモスが呟く。大事なのは血の繋がりではなく、本人の思想であると理解したようだ。
「レストレンジ家はみんな黒髪黒目でしたね。なるほど。アウレウス君はお祖母様の血を濃く継いだという訳か」
「えぇ、そうなんです」
エドモンドがそう納得するのに、アウレウスが笑顔で即座に頷く。どうやら無事丸め込めたらしい。実際はアウレウスの黒髪黒目がどこから来たのかは定かではないが、そんなことは口が裂けても言えないので、昨夜は親戚の誰が黒髪黒目であったか調べなくてはならなくて面倒であった。ちなみに現在のクラリッサは黒髪に白が混じり、上品な銀灰色になっている。
(睡眠時間を削った甲斐はあったか……)
セリクスがそう独りごちながら紅茶を飲み終える頃、お茶会が終了したのだった。エドモンドとエイモスが暖炉から帰っていく。
「いいか、良い子にしてるんだぞ。マウリシオ様に迷惑を掛けるのだけは駄目だ」
「分かってるってば。父さんしつこいよ」
エドモンドがコーウェンに
「夏休みが終わる頃にはまた迎えに来るからな。その頃にはまた一回り大きく成長してるだろうなぁ」
「父さん、恥ずかしいから……。そろそろ行って」
エイモスは少しだけ親馬鹿の気があるらしい。セドリックは頬を赤らめていたが、でもどこか満更でもなさそうな顔をしていた。
大人が帰ってしまうと、マウリシオもすぐに自室へと引っ込んだ。ここからは子供たちだけの時間である。コーウェンとセドリックが、わくわくとした顔でアウレウスを見ている。きっと色々と聞き出したいのだろう。アウレウスは穏やかな微笑みを浮かべているが、セリクスには内心不愉快であろうアウレウスの心情が手に取るように分かった。
「……私の部屋に行くか」
「うん!」
「行こう!」
「……」
セリクスは歩き出しながら、心の中でアウレウスにだけ淡い激励を送った。
──せいぜい上手くやれ。
直後、背中にじっとりと絡みつく視線を感じたが、セリクスは無視を貫いた。アウレウスが何を訴えたいのかなど、言われるまでもない。
それでも足取りは変わらなかった。
【あとがき】
●スノードーム
皆様覚えていらっしゃいますでしょうか。セドリックの手作りスノードームが再登場です。実はずーっとセリクスの枕元の棚に置かれていて、毎日寝る前に観察するのが日課になっております。無表情ながら無心で眺め続けているので、だいぶお気に入りなようです( ̄▽ ̄;)
●セリクスのおばあちゃん
セリクスのおばあちゃんは、死喰い人兄弟の父親の姉に当たります。まだ存命で、せっせと手芸で小物を作っては、最愛の孫にフクロウ便で送ってくれる優しいおばあちゃんです。いきなり孫が増えたなんて言ったら、ショックでぶっ倒れるかもしれません。カシュートスおじいちゃんは激怒しそう……。ちなみにクラリッサおばあちゃんは、私自身の母方の祖母をモデルにしてたり(笑) 刺繍が得意で、新宿のタカノフルーツパーラーが好きで、ゴテゴテの宝石をつけた指輪をしているのに、何故か下品には見えない不思議なおばあちゃんでしたꉂ(´ᗜ` )
【お知らせ】
明日、日曜日20時から、新シリーズ『SPRの新人調査員』(ゴーストハント二次創作)が始まります。スリザリンの末裔がまだ完結していないのですが、思いついたらどうしても書きたくなっちゃって( ;^ω^ )
スリ末の更新頻度は、しばらくは落とさない予定です。今後は土曜日にスリ末、日曜日に『SPRの新人調査員』を更新する予定です。引き続きよろしくお願いいたしますm(_ _)m
ゴーストハント(悪霊シリーズ)をご存知の方はいらっしゃいますか? 30年以上前に刊行が始まった、小野不由美先生のホラーミステリー小説です。漫画化やアニメ化もされています。めちゃくちゃ面白いです。なんと、今年ついに原作小説が電子書籍化されました!(*’ω’ノノ゙☆パチパチ
原作を知らなくても読めるように書いていますので、ご安心ください。ちなみに……どこかで見たことがあるような銀髪の青年も出てきます。
もしよければ、少し覗いていただけたら嬉しいです!