お試し倉庫   作:ケツアゴ

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企画物です


タイトル募集企画
マッチポンプヒーロー


 ある日、世界は超人的な能力の持ち主で溢れた。それに伴って科学は超科学の次元へと、犯罪も凶悪さを増し、それに対抗する超人達を人々はこう呼んだ。

 

 ヒーロー、と。これはヒーローを管理し秩序を守り抜くヒーロー保安協会に所属する……社畜の物語である。

 

 

 

 

「明日にでも世界滅びねえかな。俺に隕石呼ぶ力有ったら確実に滅ぼしてるわ」

 

 換気設備は整っているのに淀み切った空気。オフィスの中には疲労から来る呻き声が響いて。俺の発言を咎める声は出ない。

 

「巨大隕石なんて直ぐに対応しちゃいますよ。能力強化トレーニングがどれだけ進んでると思ってるんですか」

 

「散々税金投入したそのトレーニング理論が流出したからって残業してるんでしょ?」

 

 此処はヒーロー保安協会の超人犯罪対策課。ヒーローが起きた犯罪に対処するのなら、俺達は超人による犯罪の発生を予防したりする部署だけども、公に公表出来ない仕事だって存在する。

 

「MP当番誰だっけ?」

 

 

「ヒーロー側はミセス……ミス・タイタンでしたね。間違ったら怒られちゃいますよ」

 

「離婚騒動後もミセス呼びしたマスコミにブチ切れてましたもんね。最初にミスからミセスを変えた時は間違えられても笑って訂正してたのに……」

 

 

 パソコンの画面に映し出されたのは三十代のメイクをバッチリ施した女性。但しその背丈はオフィスビルに匹敵し、身に纏うのはガッチガチのボディアーマー。

 

 ミスタイタン。巨人に変身する超人で十代後半からこの業界で活躍するベテランヒーローで、新人時代はジャンプからの着地で道路を陥没させ戦闘の余波で建物を壊していたが、今となっては繊細かつ大胆な動きで救助に戦闘にと大活躍。

 

 五年前にスピードマスターって高速移動能力の持ち主と結婚、ミセスタイタンに改名し、三年前にミスタイタンに再改名した時は結構な騒ぎになった。

 

 

「結婚したのと離婚したのの違いだろ。巨大化系能力の持ち主が相手なら佐々木だな。頑張れと大怪我しても昨今の医療の発達は著しいぞ。全身骨折も一日で治る」

 

「やだー。痛い物は痛いし、寧ろ急速な回復って凄く痛いんですからねー」

 

 指名されたのは眼鏡の少し地味な女性。

 

 ヒーローが活躍する世の中になってから幾星霜、掛かる費用は鰻登りだ。

 この業界はショービジネス。脚光を浴びればグッズも出てお金が入る。

 

 だから後先考えずに派手な活躍でアピールするのが居て、出した被害の修繕にもお金が必要。ヒーローも一種の公務員だがモチベーション確保の為にある程度は見逃しだよ。

 

 さて、此処で発生するのが世論だ。ヒーローが増えれば犯罪も災害も被害が減って、人は直ぐに痛みを忘れる。

 

 結果生まれるのはヒーロー業界に注がれる公的資金の減少案。経済の専門家が尤もらしく経済へと掛かる負担を説明し、マスゴミ……マスコミによって簡単に世論は傾く。

 

 それでヒーローが減ったとして、功名心旺盛で自己顕示欲からヒーローを目指した戦闘訓練を受けた連中が一般企業でペコペコ頭を下げて働けるか?

 

 そしてヒーロー業界が細くなった所で大災害や大規模犯罪が起こったら終わりだ。ヒーロー側から政府への信頼も下がっていて立て直す事すら無いだろう。

 

 

 

 だから極秘裏に創設されたのがMP(マッチポンプ)ヒーロー制度。要するにヤラセだ。

 ある程度の被害を出してヒーローショーじゃなくて現実の犯罪と治安維持機構だって忘れさせない為のな。

 

 

「ミスタイタンとの通信開始! 敵超人についての情報を送ります!」

 

「毎回言うが漏洩には気を付けろ! ……こんな事してる時点で終わってるよな」

 

「没収不可能な殺戮兵器持ってる人が当たり前に居てる時点で終わってますよ。幼い子供が銃を暴発させる銃社会どころの問題じゃ無いんですから」

 

 そりゃヒーローが活躍する映画だのなら良いさ。それが現実ならお終いだ。徹底的な監視と管理でもして疑わしきは罰せよって恐怖政治でもなけりゃな。

 

 俺達がやってるのも同じ必要悪だが、絶対に受け入れられねえ。本当に今の世界はクソだわ。

 

 佐々木が入ったのは卵型のカプセル。中でヘルメットを被り手足を装置に繋げれば起動する。

 遠隔操作で動く岩肌の巨人。危機感を世間に植え付けヒーローの必要性を広める為に作られた生体兵器【MPヴィラン】。個体名ゴレムリン。

 

 山の中から突如現れた巨人に騒然となる市民。数年前までは感覚が麻痺でもしてるのかヒーローショー感覚で見物している馬鹿が多かったが、最低限の犠牲が出たお陰で今は避難誘導に従ってくれていた。

 

「あの馬鹿な犠牲者の身内への支援金って無駄だったよな」

 

「ちょっと不謹慎ですよ。それが当たり前の世の中がおかしかったんですから!」

 

 三徹目の頭で出した感想を嗜められながら光学迷彩ドローンからの映像を見ていれば街で暴れようとするゴレムリンに向かって一人の女性がバイクで近付き、ジャンプと同時に巨大化した。

 

「警告するわ! 此処で大人しくしないのなら武力での制圧を行います。従わないならこのミセ……ミスタイタンが相手よ!」

 

 ちょっと初っ端に躓いたが問題無い。事前の演技指導と殺陣の練習で打ち合わせはバッチリだ。

 

 俺達の仕事に必要なのは相手をするヒーローの厳選。演技力と注目を浴びる派手さに加えて汚れ役に徹する割り切りが出来るか。詐欺みたいなもんだし、被害が出るから非難も受ける。

 

 いや、普通に体張って人の為に頑張ってもマスコミは被害を受けた奴の訴えを取り上げるし、訴訟大国じゃ裁判のオンパレードでヒーロー業界は壊滅。完全に軍事組織に編成してるとか。

 

「こんな茶番に付き合ってくれて公務員なのに個人事業主のヒーローは大変……げっ!?」

 

 画面に映る新規の超人反応の警告。ヒーローは顔識別で接近を判別しているので邪魔が入り辛いが、そうではないケースがある。機を見て出て来た普通の犯罪者なら良いんだ。叩きのめせば。

 

 問題は……。

 

 

 

「ミセスタイタン、協力するぜ! このプロミネーターがな!」

 

 登録されていない名前、自作っぽいヒーロースーツ。これは最悪のケース。

 

 

「自称ヒーローかよ。クソが! 絶対後で勾留してやる」

 

 本来ヒーローは実技試験筆記試験精神鑑定をクリアして漸く名乗れる資格職だが、そんなのヒーローじゃないとか受からなかったとかで勝手にヒーローごっこを現場でする馬鹿が居る。

 

「炎を噴射して飛んでますね。炎系超人みたいですが、架空の放火の罪でぶち込んでやりたい」

 

「今日も残業。娘の誕生日に深夜帰宅。世間の平穏の為に家庭の平穏が……。ところであのヒーローごっこしてる男の声、何処かで聞いた覚えが」

 

「ニュースかワイドショーな気がしてるな。それよりも声が出なくなるまで殴りてぇ」

 

 室内が殺気立つ中、プロミネーターがゴレムリンへと向かった瞬間にミスタイタンの腕が伸びた。

 

 

 

 

 

テメェの浮気でミスに戻っただろうがボケがー!!

 

「へぶんっ!?」

 

「あっ、思い出した」

 

 ミスタイタンに殴り飛ばされるプロミネーターの仮面が外れて顔が見えて思い出す。あの声を聞いたのは謝罪会見。女性絡みのトラブルを起こして資格停止になった元ヒーローで……ミスタイタンの元夫だ。

 

 

 

「他のカメラには撮られてねーな?」

 

「妨害電波出してまーす」

 

「まあ超人って頑丈だから生きてるだろ」

 

 

 浮気者がぶっ飛ばされてもヒーローの戦いは終わってない。適度に被害出してヒーロー社会の維持の為にお仕事だ。

 

 

 

 例えマッチポンプだの自嘲してもそれが俺達の仕事。裏方には裏方なりのヒーロー活動があるのさ。

 

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