お試し倉庫   作:ケツアゴ

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企画

思い付き 質問 掛け合い  修正

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概要 キャラ募集欄  修正

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獅子身中の鬼の王(仮)

 とある人里離れた山中に其の池はある。澄み切った水面はまるで磨きぬかれた鏡の様で、満月の晩にその池を眺めれば誰しもその美しい光景に息を飲むだろう。

 

 草を掻き分けながら池に近寄る影が一つ。茶色い毛並みの犬で、山中に捨てられたのか、それとも飼い主とはぐれて迷い込んだのかは分からないが、その首には先が切れたリード付きの首輪が巻かれていた。

 

 犬は池に近寄るとそっと口元を水面に近づけ、喉が余程乾いていたのかぺチャぺチャと音を立てながら水を飲んでいた。そして満足したのか頭を上げたその時、カサリという音が鳴り、犬は反応して耳を動かして周囲を伺う。

 

 だが、周囲に何者の気配もなく、犬の優れた嗅覚も他の生き物の匂いを感じ取れなかった。

 

 喉を潤した犬は池から離れ茂みの中に入って行き……。

 

「キャウン!」

 

 最後に悲鳴だけ上げて息絶えた。

 

 クチャクチャと下品な食べ方をする音が響き、周囲に血が飛び散る。灯りなど有るはずもない場所が怪しく光り、何かが蠢く音がした。

 

『ヒヒ、ヒヒヒヒヒ……』

 

『美味い、美味いぞぉ』

 

『やはり肉が一番じゃ』

 

 其の灯りは茂みから飛び上がり、正体を晒す。現れたのは人間の頭部。個体差はあれど、どれも肉が腐り落ちて骨が露出し、中には左の目玉が辛うじてぶら下がっているだけのモノも居る。

 

 数は計三つ。光の正体は鬼火と呼ばれる火で、其れに包まれた頭部達は口元を血で濡らしながら飛び交っていた。

 

 空想上の存在と思われていた化物達は犬の死体を喰らい続け、最後には骨をバリバリと噛み砕いて食べ尽くす。頭部だけの存在が食べた物が何処に行くのかという疑問はあるが、存在自体が異質故に其れは無視して良いだろう。只分かるのは化け物である、それだけだ。

 

『しかし、暫く人の肉を喰ろうてないな』

 

『儂は女が良い。生きたまま食った時に聞こえる悲鳴が堪らんわい』

 

『最近は異国の化物が入り込み、本当に住みづらくなったわい』

 

 三体の化物は口々に人の肉の旨さを語り、最後には子供の肉が一番だという結論に達した。そんな時、一体の目玉がギョロリと動いて少し離れた場所を向く。

 

 人の目には決して捉えられない距離だが人外の目には十分な距離であり、その視線の先には人間の子供の姿があった。年の頃は五歳ほどで大人しそうな顔付きの黒髪の少年。それを見た三体は口角を釣り上げ、一気に飛んでいく。

 

『ああ、美味そうじゃ美味そうじゃ』

 

『こんな時間にこんな場所に来るとは悪い子じゃ。仕置に喰ろうてやらねばな』

 

『煮ても焼いても美味かろう』

 

 化け物達は少年を囲むように飛び交いながら嗤う。待望の獲物を見付けた事に歓喜し、自らが絶対の捕食者だと信じて疑わない。だからこの様な時間にこの様な場所に幼子が居る事など大して疑問に思わず、何かあってもどうにでもなると思っていた。

 

 

『先ずは腕じゃ。端から少しずつ少しずつ時間を掛けて味わって喰らわせて貰おうかのぉ』

 

 態とらしく音を立てながら茂みの中を飛び交い、怯えた子供の顔を楽しみながら一体が飛び出す。

 

 歯の形状は人の其れと変わらず、先程喰らった犬の血肉に加えて汚らしく黄ばんでおり、手入れをしていないのかガタガタだ。

 

 口の周囲が裂けるのも気にせず大きく口を開けば当然ながら少年は視界の中心から若干ながら外れる。

 

 それは一瞬の事、即座に視線を切り替えて今から泣き叫ぶ獲物の姿を捉えようとして、視界が斜めにずれた。

 

 写真を右上から左下まで綺麗に両断したかの様に目の前の光景が切り替わり、同時に少年は視界から消失。

 

 背後からわずかに聞こえた鍔鳴りの音。何事も無かったかの様に悠然と歩く少年の手には刃から瘴気を立ち昇らせる刀が握られていたが、斬られたという事実を認識出来はしないだろう。

 

 腐敗が始まった肉は一瞬でドロドロに溶け悪臭漂う腐汁となって地面にぶち撒かれ周囲の草花を瞬時に枯れさせて行く。

 

『兄者ぁあっ!?』

 

『あの小僧、もしや封魔士……』

 

 斬られた一体が先行していた為に二体はその光景を目撃した。但し、全容は不明だ。

 

 体の端から徐々に食い進める事で苦痛に満ちた悲鳴と泣き声を楽しむ筈だった獲物が一瞬で仲間の背後に移動し、そして斬られた仲間は腐り落ちた迄は分かっても、そうなるに至る過程は目で追えていないのだから。

 

 それでも彼が何かをして、同時に何者なのかを悟った時には既に片方の眉間に刀の切先が突き立てられて貫通、

 内部から腐り落ちて肉だった物が飛び散る中、突き立てた動きのまま横薙ぎに振るわれた刃は最後の一体さえも斬り伏せた。

 

「……ふぅ。終わった終わった。小腹が減ったし、何か食べたいな」

 

 腐臭が周囲に立ち込める中、少年が刀を鞘に納めるなり小さく腹の虫が鳴る。

 先程まで刀を握っていた掌が僅かながら赤く爛れて腫れ上がった状態で腹に当てられる中、腕時計の液晶画面はもう直ぐ日を跨ぐ時間帯だ。

 

「もう直ぐ誕生日だ。お父さん達、何か買ってくれるかな? 大婆様も今度は……」

 

 この様な時間に幼子が刀を持って化生の類を滅する姿は普通ではない。あと一分も経たない内に切り替わる日付に目を輝かせる姿さえも場所と今までの状況からして異常である。

 

 

「お誕生日の前日までお仕事なんて頑張り屋さんですね、褒めてあげます」

 

 そんな彼の背後から先程まで絶対に居なかった女の声がした。振り返れば立っていたのは……鬼。

 

 身長は六尺程。角を加えれば七尺にも届くだろう。

 

 長い髪は微風に揺らめきながら炎の様に赤く周囲を照らし、額から生えた双角は白磁の如き白さ。

 

 邪魔とばかりに肩口から袖を引き千切った山伏の服の胸元からは存在感を抑え切れずに主張する深い谷間が頭を覗かせ、肌は陽に焼けた漁師を思わせる黒さだ。

 

「その手に持っているのは……」

 

 少年が目を見開いて指差したのは鬼が手に持つ男女の頭部。首の辺りは強引に引き抜いた痕跡が見受けられ、至る所に齧られている。

 

「ええ、貴方のご両親です。他の人達と一緒に殺しちゃって、貴方もついでに殺そうと思ったのですが……お誕生日ですから特別待遇で良いでしょう」

 

 ゴミか何かの様に投げられた首が池に落ちる音が響く中、鬼の手が少年の頭へと伸ばされた。

 

「……このまま握り潰しても良いですか?」

 

 鬼の目が金色に怪しく輝き、鋭い爪の先が髪の毛に触れた。

 

 

 

 

 

 

「これはまた懐かしい夢を見ましたね……」

 

 学生寮の自室で目を覚ませば時刻は起きるべき時間の十分前。二度寝には短く、このまま起きるには少し口惜しい。

 

 夢見が最悪とは言わないが少し損した気分の中、スマホを弄っていればアラームが鳴り響く。

 朝の内にサイトを見て回る時間が少し貰えたと思って納得しようとするも納得出来そうに無かった。

 

 顔を洗って朝食を食べ、後から起きて来る子の為に朝食の支度を整えれば出なければならない時間帯だ。

 服装は自由なので緑のジャージで身を包み、鞄を持ってドアノブに手を掛けた所で振り返る。

 

「では、行って来ます」

 

 寝室の方から返事の代わりに聞こえたのはポスポスと柔らかい物でベッドを叩く音。

 ドアを開け、表札を見れば書かれているのは『坂田 龍洞(さかた りゅうどう)』、私の名前だけだ。

 

「よしっ!」

 

 分かっていた事だが部屋に住むのは私だけ。成績上位者の特権である個室を得た事を改めて喜んで拳を握れば隣室の扉も開いて部屋の主が姿を見せる。

 

 青い髪を短く切り揃えた少女。育ちの良さを伺わせる気品のある仕草に表情からは余裕と自信が満ち溢れ、爽やかな笑顔を浮かべて空を見上げていた。

 

 彼女の部屋も『高嶺 葵(たかみね あおい)』と一人分の名前しか書かれていない表札がつけられており、個室である事が示されている。

 

 

「やあ。今日は新学期に相応しい快晴だね、龍洞。僕達二年生の新生活を天が祝っているみたいじゃないかい?」

 

「ええ、そうですね。葵さん、所で痴女になった理由をお聞きしても?」

 

 但し着ているのはエプロンと水着。一瞬裸エプロンかと思ってビックリしたけれど、ピンクのフリル付きエプロンと学校指定の水着の組み合わせなら五十歩百歩。

 

 さて、ちょっとだけ距離を取ろう。誰かに見られたら同類扱いされる気がする。

 

 

 

 

 

 

「おいおい、酷くないかい? 僕だって恥ずかしいが、君との約束を守ってこの格好で登校するんだよ?」

 

「そんな約束した覚えは有りませんし、学校じゃなくて警察に投降して下さい」

 

 遅かった。本人に同類扱いされるだなんて……。




因みに(仮)も正式タイトルです
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