この日、私は久々に強く困惑していた。一年生を伴っての軽い任務が待っており、その前の顔合わせに集まったのは良いけれど……どっちだ?
「初めまして。渡辺アヤセでーす。宜しくお願いしますね、せ・ん・ぱ・い」
「あ、あの。雪山サーシャです。宜しくお願いします」
丑宮さんを加えて合計三人の面倒を見る事になってはいたが、事前の工作を避ける為か学園長のお遊びなのか二年生には一年生の詳しい資料は渡されておらず、精々が性別だけ。
そのせいで今現在困惑中だ。おのれ、合法ロリババァ。絶対楽しんでやっているだろう。
待ち合わせ場所にやって来たのは髪を後ろで束ねた小柄で童顔なバーテンダー風衣装。
もう一人は底が分厚い履き物に雪国を思わせる着物とフード。
どちらも見た目は小柄な美少女だけれども、片方は男である。もう一度言おう。片方は男である!
これは聞いて良いのだろうか? どちらが男なのかと。駄目な気がする……。
助けて下さい、学園長! せめて趣味なのかLGBTなのか家や能力に関連するのか、踏み込んでも良い理由なのかだけでも明確にして貰えないと初対面で地雷の上でムーンウォークの猛特訓状態ですから!
もう特別な場合を除いてジャージを着れば良いと思う。ジャージこそが最高の服だからだ。
女装はしていても男として扱われたかった場合、男だと思われたと片方も怒らせてしまって任務が気まずい物となる。
頼れる優等生を目指して演じている身としては大きな痛手だろう。
「黒八木さん、どちらだと思いますか?」
「喉仏のある方が……駄目、二人揃って首を隠してる」
小声で相談をするのは黒髪ロングスレンダーの女子学生、但し服装は魔法少女風でとんがり帽子を深く被って服の間から触手がチラチラヌメヌメ見え隠れしている。
連れて来たんですか、その変態触手(正体不明。名前は確かレオナルド)。一応何処かの神の分け御霊らしいっちゃらしい。
彼女は
『挨拶代わりに交流も含めて乱交でもしようぜ。1/3の確率で欲求に適合してるかもだしよ』
声に合わせて触手が蠢き、黒八木さんの下腹部や胸の辺りをニュルニュル動くのが膨らみで分かる。
それで身悶えしているこちで
うわっ、エロ。そして公衆の面前で触手プレイとか可哀想に。そんなのと契約しちゃうから。
数日に一度は繰り広げられるこの光景に丑宮さんも一年生も唖然として見ているしかなく、私はせめてもの情けで視線を外す。離れた窓のガラスに映っているので何とか見えた。
息が荒く声も艶めかしい物になっては行くも、頻繁に行われているからか強めの声量と共に服の上から叩かれて漸く止まった。
「駄目だからね、レオ!? 普通は食欲や睡眠欲だし、残る2でアウト……いや、適合していてもアウトじゃない!?」
「適合? 適合って何の事ですか?」
この空気の中でよくもまぁ…… 。
分かっていて質問して来たのではないかと訝しむが、顔を見れば普通に疑問に思ったらしい。
だが、凄く言い難いので同性である黒八木さんに伝えてもらうとしよう。
「え、えっと、霊力を伸ばす訓練をしていると三大欲求の何れかが普通より強くなっちゃうの。ほら、上総ちゃんが眠そうにしているよね?」
そう、封魔士の修行をしていると魂や精神に影響が現れ、それが肉体の変化として現れる事がある。
どうやら才能や修行期間が影響しているらしく、睡眠欲なら頻繁に眠気を感じ、食欲なら代謝が上がって腹が減るし、性欲なら胡散臭い精力剤の広告みたいな感じになる。
「じゃ、じゃあ私も……」
霊力を漲らせれば落ち着くし、それをコントロールする術も習う。それでも日常的にとは行かず、成長期や思春期が重なると何とも。
基本的に恥ずかしい隠すけれど葵さんは性欲だろうと思っている。丑宮さんは……修行の基礎の基礎だから素の状態? 鬼門の鍵の影響は知らない。
「私はちょっとお腹が減りやすいのが悩みです……」
性欲が増幅されるとの話が刺激的だったのか丑宮さんは真っ赤になり、雪山さんは別の理由で恥ずかしそうだが、年頃の彼女が食欲に負けるのは恥ずかしいのだろう。
何人か低カロリーの携帯食を常備している人も居ますしね。
この時点で女性が何方かは予想が出来ていた。その理由は彼女じゃない方、渡辺君だ。
「ねえ、ボクはどっちだと思う?」
「え、えっと……」
甘ったるい印象の声、声優が演じる少女の声だが何処か演じていると評するべきか、こうあろうとして必要以上に在りたい自分に近付いている印象を渡辺君から受けた。
丑宮さんが面白いのか顔を近付けてクイズ感覚で訊ねるが、流石に此処迄だ。
「お遊びはその程度にして任務について話しましょう。楽な相手ですが油断は禁物ですよ、渡辺君に雪山さん」
因みに私は食欲……申請上は。体が大きいから沢山入りますし。鬼や山姥の血も流れているので誤魔化しは効くはず。
サキュパスにインキュパス、夢の中に現れて誘惑して性交渉を行う異国の魔物。
正気を吸われるものの最近は封魔士を警戒してか少し寝付きが悪かった程度の疲労しか残さず、深層心理に働き掛けて理想の相手として現れるので問題は然程無いのだ、サキュパスだけなら。
問題はインキュパス……サキュパスとは同一の存在であり、搾った物を注ぐ時の姿の名だ。
「時間と工程を挟むので妊娠率は低いそうですが、托卵の内5%はインキュパスの仕業とされてます」
「普通の托卵の割合が二十倍近いとか生々しいですね……」
「はいはーい! 付け加えるなら基本的には女で、インキュパスはバイのサキュパスが生やす時の姿なんだよね。ボク、知ってるよ」
「生やす……」
海外から入るのは人間以外も同じ。飛行機や船に紛れ込んで楽して入国して来る。
時間と場所の制限も呼び出す儀式が有効なのが異国の存在の厄介さ。そのせいで座学の範囲まで凄い事になってしまって。
『最近インキュパスとして行動してる奴が居るって話だったよな! 良いな、片っ端から尋問しよう、性的な!』
「レオはちょっと黙ってて!」
こんな内容を学生に回すなと思う。実際ノリノリなのは触手だけで女子二人は顔が真っ赤、男の娘も妙にテンションが高い。
『……おい、アセヤっち。少し質問させろ』
「わぁ! レオ君ったらボクに興味深々なんだね、嬉しいな。良いよ、何でも答えてあげる。でも、スリーサイズはナイショだからね?」
真剣な声がこの場全員の頭に響く。人ではない異形の身から頭の中に強制的に入り込むその声に二人は身構え一人は受け流し、残る二人は諦める。
いや、呆れ返る。
『テメェ、まさかウケるからやってるだけのガワだけ男の娘じゃねえだろうな?』
「ボクは最高に可愛いボクを追求してるだけだよ? 何なら五秒だけぎゅーってしてあげようか?」
『なん…だと……!?』
ほら、予想通りと言うべきか何も言いたくない流れに。黒八木さんは両手で顔を覆っているし、私も声が出ない。
目を潤ませ小首を傾げた渡辺君は両手を広げてヌルヌルの触手を受け入れ体勢。
其処迄やるか……。
「レオ、この子に変な事をしたら一週間は使わないからね?」
『あっ、はい。サーセンした。お預けだけはご勘弁を……』
黒八木さんも申告上は食欲らしく間食が多い。だが、多分違うんだろうとは伝わって来ていた。
「じゃあ五人で向かいますけれど……着替えれますか?」
魔法少女に巫女に着物にバーテンダー、目立つ! ジャージの私以外凄く目立つ!