古来より世界各地の伝承に登場する奇々怪々な怪物達。妖怪、悪魔、堕ちた神。
それは未知への理由付け、或いは教訓、無知からの妄想、そして宗教的な理由からの設定だったりするが……其れらは実在する。
語り継がれる事で発生したのか、存在するから語り継がれるのかは不明だが、伝承通りに、若しくは伝承とは違った形で人に牙を向くその存在に対処すべく存在する者達が居る。
「陰陽師やエクソシストにシャーマン、各地で呼び名は様々ですが、今の総評は【封魔士】、そう呼ばれています」
その封魔士を育成すべく設立された教育機関【八咫烏学園】の教室にて一生徒でしかない私が教壇に立って講義を行っていた。
それを聞くのは亜麻色の柔らかそうな髪質の少女。人畜無害で人が良さそうな雰囲気の一般人だと見て分かり、とても説明の内容に関わりの有る人には見えないだろう。
青い瞳に少しポケっとした美少女。こんな物騒な学校よりも芸能人の育成スクールでグラビア写真のポーズでも習っていそうな容姿だ。
「な、成る程。この世には不思議な事が沢山有るのですね」
「私達からすれば在って当然の物。まあ、江戸時代に現代の道具を持ち込めば奇術扱いされるでしょうが、其処迄身構える必要は有りませんよ?」
だって貴女も此方側の住人なのですから、と私は初対面の少女に自分達が幼い頃から知っていて当然の基礎知識を語る。
目をパチクリさせて全てを飲み込みきれていない様子だが、印象通りに超常の世界とは関わらずに生きて来たのだから致し方無いのだろう。
だが、同情されて然るべき立場だとしても今まで通りに無知無関心でも良い立場に彼女は居ないのだ。
この世には抗えない運命が存在する。私の家族が殺されたのと同じく。通り雨に遭う様に、彼女も否が応でも此方の世界に関わりざるを得ないのだから。
……故に面倒な役目を押し付けられた事も我慢しよう。大丈夫、きっと良い事が待っている。
今日は朝から気疲れする事ばかりだと、目の前の相手に分からない様に溜め息を吐き出した。
「いやいやいや!? 水着エプロンは葵さんが言い出したんでしょう!? 勝手に負けた際の条件に付け加えて人が強制したみたいに言わないで下さいよ!?」
「そうだね。これは僕の意思で背負ったリスクの結果さ。君が気に病む必要は無い。勝者として堂々としてくれたまえ。……この格好の感想を言ってくれても良いんだよ?」
「寒そう。お身体を冷やしたらいけませんのでお願いですから服を着て下さい」
私にとって葵さんは苦手なものの一つだ。トラウマからボンキュッボンなナイスバディの女性は苦手だが、長身でスラッとした体型の彼女は別の理由である。
封魔士の一族の中でも名門の出身の彼女は当然の様に入学主席。座学は当然として、霊力と呼ばれる力を消費して扱う術や武術も総合成績は学年首位をキープ。
かく言う私は総合成績四位をキープしているのだが、武術の成績だけは学年トップ。
実技の授業で彼女と当たり、そして勝った時から何かと勝負を挑まれている。
「これでもレディ達以外にも人気が有るのだけれどね。矢張り君は面白い。他の男子諸君とは違っているよ」
色仕掛けとも取れる姿に塩対応で返しても不満や憤りは返されず、逆に楽しそうだ。
封魔士の世界では男女の筋力差等は些細な物。霊力を纏う事での身体強化の効率も術の燃費も女性の方が上だ。
その結果、私以外の男子は次席でも十位辺りを上下している始末。
「これでも武門の出身なので無様な姿は晒せませんよ。まあ、壊滅しましたけれど」
そんな理由からか彼女は私に興味を抱き、気に入られてしまった結果が前述の結果だ。
敗者が勝者に何か奢るとかを勝手に決めてプライベートまで観察されているのだから非常に厄介。
だって彼女は優雅で格好良いですから王子様か何かみたいに女性に持て囃されるだけでなく男子にも人気なのだ。
「あ、葵さん、何という格好を!? また貴様か、坂田ぁああっ!」
「……おや、彼も出るのか」
寮の廊下に響く叫び。これが葵さんを苦手にしている理由である。
彼女が私に楽しそうに絡めば嫉妬の感情を向けられる。それだけなら良いが、今の様に絡んで来る奴も居るのだから厄介だ。
オールバックの爽やか系の彼がその筆頭。入学前から彼女に好意を寄せ、どうにかお近付きになりたいとアピールしているのは良いのですが、私を敵視するのは勘弁して欲しい。
何度褒め散らかしてデートに誘っても断られる位には好かれていないのに何故気が付かない?
「葵さん、これから二人で登校しませんか! 坂田、お前はさっさと行け。目障りだ」
「悪いね。彼との先約があるんだ」
気遣いか家同士の関係か無碍に扱わないものの、葵さんは出来るなら相手をしたくないのか私を盾にしがちだ。
今も私に隠れる様にくっついて顔を出せば笑顔にときめいた後で嫉妬の炎を燃やして私を睨む。
「……さっさと行きましょうよ。三人揃って遅刻のペナルティを受けるとか洒落になりませんって」
時の流れは此方の都合に合わせてくれやしない。無駄話している間にも登校時間は迫っているのであった。
封魔士は様々な場所や敵を相手に戦う役目を背負う。故に普段から学園は生徒に訓練を課す。
それは寮から校舎までの本来ならば徒歩五分以内の道のりであっても同じ事。
「あははははっ! 二年生ともなれば難度が一気に上がって来る物だね! 実に楽しい」
本来ならば平坦で安全な筈の道は落石が絶え間無く転がり落ちる荒れた坂道となって私達の行手を阻む。
これは一種の結界、作り出された空間だ。登校時までこの有り様とは合法ロリ学園長も意地が悪い。
それを口に出せば絶対に難度が上がるので出しはしないのだが。
「一緒に登校と言いつつ遅れてるね、彼」
「余所見していて岩に跳ね飛ばされていましたから。まあ、遅刻は確実でしょう」
絶対に遅刻ギリギリになれば成る程に険しくなる道を葵さんは楽しそうに駆け抜け、私はそれに並ぶ。あの絡んで来た同級生はずっと後ろだ。
葵さんのお尻に視線を奪われていたからだろう。確かに形は良いが、少し大きいので私は目を奪われる事は無い。
これで小さく引き締まったお尻なら數歩遅れて走るのだろうが……。
「そうそう、彼が居るから言えなかったが編入生が来るそうだよ」
「編入生? 新年度からだなんて……」
二十キロ以上もの距離に拡張された道を駆け抜け漸くゴールが見えた所で葵さんが思い出した様に口を開く。
家の方針で入学させなかったのが急遽変わった、とは違った様子だ。弱い人やそもそも力を持たない一般人を蔑む彼(なので葵さんに嫌われているとは気が付いていない)が不在のタイミングという事は……。
「訳有りですか」
「詳しくは聞いていなくてね。偏見を持たずに新たな仲間を迎え入れたいじゃないか。……さて、もう直ぐゴールだが、勝った方がお昼休みに膝枕されるってのはどうだい?」
「嫌ですよ。無駄に目立つじゃないですか。まあ、勝負事態は受けますが」
出口を示す柱を前にラストスパートを掛ける彼女を置き去りに私は一気に加速する。
矢張りジャージ! ジャージを着ている私が圧倒的に有利!
耐久性、伸縮性、通気性、どのどれを取っても負ける筈が無い。差を付けてゴールした。
「仕方無いなぁ。お昼には僕の膝を貸すとしよう」
「要りません」
勝ったのに負けた気分だ……。
私達は封魔士見習い、されど学生。大昔は日常など切り捨てろとばかりに校則でギチギチだったそうだが今は違う。
封魔士とて人間だから日常を大切にして若者は青春を楽しめとなっている。
「いや、自由にも程度があるから」
「うわぁ……」
服装が幾ら自由と言っても水着エプロンは流石にアウトだったのか校門で止められた葵さんを放置して下駄箱まで向かえば手紙が詰まっている。
呪いと悪意を込めた物は自動で弾かれるものの、手紙を取り出さないと上履きが取れないのは困った物だ。
茶会の招待状にラブレター、それと決闘状。手紙の内容は様々でも理由はほぼ同じ。
私は男なのに殆どの女生徒よりも順位が上、それで粉を掛けるなり他よりも良く見えるなり気に入らないなりと違う部分も勿論あるのだけれど。
手紙を鞄に押し込み、一番目立つ金箔付きのの手紙に出し主を理解してドン引きしたりとしている内に予鈴が鳴った。
どうやら葵さん達は仲良く遅刻扱いでペナルティを受けそうだ。
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