最悪の事態だ。心の中で毒を吐きつつ周囲の反応を伺う。この場で私に発言権は存在しないからだ。
床に刻まれた魔法陣、見覚えの無い文化の装飾がされた巨大な部屋の中で周囲の騒がしい声が響く。
「勇者様がこんなにも……?」
「いや、一人以外は巻き込まれただけでは?」
聞き慣れないイントネーションで交わされるその会話から何が起きたかは予想が出来た。留学先……実際には属国からの人質として送られたリュケオン王国が過去に魔王を退治する為に異世界から勇者を召喚したとか。
その功績だのシーンを求めて集めた資金で今も続く発言権の強さを得たとも伝わる。
「これはどういう事だ! 我々が誇りある貴族と理解しての蛮行か!」
声を上げたのはリュケオン王国の辺境伯、つまり隣国との境目を、領土に持つ防衛の要。当然ながら強力な武力を保持していても王家に文句の発言権を持つ。異世界から召喚された勇者は辺境拍を当初侮っていたと言うエピソードが残っているが、下手すれば公爵よりも立場が上の場合もある。
クラウド・クロード。この場で最も発現金の高い生徒だ。教師の姿はなく、今ここにいるのは生徒達だけ。
実に面倒な話だ。こういう時こそ貴族としての社会経験豊富な先生方に交渉関連を任せたいところなのに、自尊心が膨れ上がる年頃の未熟ものしかいないのだから。
「……アンタが言うっすか。勇者を召喚したのって当時のクロード家……痛っ!?」
隣にいる私にしか聞こえないほどの声で文句を呟いた女生徒を周囲に気づかれないように軽く蹴る。彼女はレジーナ・バルサ。私の祖国であるユヴェナル王国の伯爵令嬢であり、王子である私の配下として留学している。
その立場を考えて、余計なことを呟いてしまうのは本当に困ったものだが、家臣の失態は主の失態、主の失態は主の失態。このような場で余計なことを言う家臣を普段から諫めておけなかった私の責任だ。
「実は、我が世界は魔王と呼ばれる存在の侵攻を受けておりまして、異世界より召喚した勇者様にお任せする他無いのです」
「マジっすかね、殿下? リュケオン王国みたいな事を企んでそうっすけれど」
「言葉を慎め。何処からどうやって監視されているか分からないんだぞ」
勇者召喚と言えば聞こえが良いが、要は拉致からの強制労働だ。子供を攫って武器を持たせて敵陣に突っ込ませるのと何が違う。
「それでどうやったら我々は元の世界に戻れる?」
「それなのですが、魔王さえ倒してしまえば……」
「くっ! 選択肢は無いという事か」
相手の言葉を信じるなら、な。クラウドの奴も召喚した側の子孫だから分かってるだろう。
この場で私達に真実を教える誠実な連中なら召喚などするものか。
無論本当の可能性もあるが、実際は直ぐに帰れたり、実は帰れなかったり、帰れても実は帰れなかったと言ったり、パターンは幾つかだ。
「それでは皆様、旅の支度をしますので採寸の方をお願いします」
此方の意見が纏まるより前に旅は決定か。クラウドの奴も苦虫を噛み潰した様な顔をしているが、本来なら隠すべきだろう。本音ぶちまけて良い事など無い状況なのにだ。
「それではお嬢様方は此方で……」
男女に分かれて連れて行かれるらしい中、私達に声は掛けられる。背後でジーナが笑いを堪えている。
「生憎だが私は男だ」
何故間違えたか? 私、リュカ・二アイスが絶世の美少女……に見える男だからだ。
「そりゃ殿下の格好とかまるっきり女物っすからね」
「ゴツい見た目で着るよりはマシだろう? それと家臣がこれを笑うな馬鹿」
私が着ているのはフリルや装飾が多いドレスの様で下はズボンタイプになっている服。
王家に伝わる特別で意味ある物だ。
お陰で余計に性別を間違われるのだがな!
「そこの君達可愛いね。俺と遊ばない?」
「生憎私の股間にも貴様と同じ物がぶら下がっているが?」
召喚されてから早3ヶ月。もう何度も繰り返した遣り取りを行い声を掛けて来た相手を追い返す。
召喚によって与えられた力の安定には特定の条件が必要。そんな風に言われて旅に出た際の条件は召喚対象二人一組+α。
私の相方は当然レジーナだ。そんな訳で一緒に旅をしているが、ちょっと街の中に居たらナンパばかり。
「長い便所だな。護衛が二人同時にいなくなってどうするんだ。……監視でも他にいるのか?」
今ここに居ない二人について愚痴をこぼす中、不意に街中が騒がしくなる。
空を見れば自我を持った石の悪魔像、ガーゴイルの群れが迫っていた。
「敵っすね!」
「支援は任せたよ、子猫ちゃん」
私の前に飛び出す二人。巨大なハンマーを持ったレジーナと長剣を持った中性的イケメンフェイスのアル。護衛と監視役が前に出る中、私は王家に伝わる特殊魔法用の杖【マイク】を取り出した。
「皆ー! 盛り上がってるー? じゃあ次の曲いってみよっか!」
この言葉で魔法の起動が開始する。王家に伝わりし魔法の名は歌魔法。戦う仲間を鼓舞し強化する大勢を率いる程に真価を発揮する力。
「よっしゃー! これで力百倍っす!」
「凄まじい力だね。まるで別人だ」
この魔法、魔力以外にも歌唱力と歌い手への好意の強さで効果が変わって来る。
レジーナは分かるんだ。小さな頃から一緒だし、将来的に側室になる予定で……まあ、ちゃんと避妊はしている。
問題はアルの方。私を子猫ちゃんと呼んでお姫様扱いするイケメンフェイスだけれども、何で此処迄強化されているんだ!?
レジーナが言葉の通り百倍なら六十倍にはなっているのだ。……何故?
「ふっ。今日も君の歌は最高だ。籠の鳥として私だけの為に歌って欲しいとさえ思うよ」
アルは髪を掻き上げ歯を光らせて私へと迫る。戦いが終わると大抵こうだ。この世界では戦いの興奮で発情でもするのか?
「壁ドンからの顎クイ止めろ」
「頬にならキスをしても良いかい?」
「断固拒否する」
文字通りにガーゴイルを秒殺。 他のグループとの情報交換でガーゴイルに苦戦しているので強化がどれだけ重要か分かるのだが……本当にアルの好意が気持ち悪い位に高い。
一応無理には迫らないが、なんでここまで私を気にするのやら。
「そりゃ殿下にベタ惚れしてるんじゃないっすかね。顔面美少女だし、向こうは顔面イケメンじゃないっすか」
「勘弁してくれ……」
夜、俺の腕に抱き付きながらレジーナが怖いことを言う。もう少し真剣に悩みに答えてくれない奴には主人として罰を与えるべく二回戦に突入しようとした寸前、勢い良くドアが開かれた。
「混ぜてくれ! 私も子猫ちゃんを愛でたい!」
「そっちも貴族だろうが。混ぜるな危険だろう。そもそも鍵はどうした、鍵は」
「店主に言って合鍵を渡して貰ったのさ! 王族の権限って便利だね。さあ、愛の時間だ!」
こっちの意見も聞かずにアルは服を一瞬で脱ぎ捨てる無駄な隠し芸を披露。服の下には僅かだが女性特有の膨らみがあった。
「どうせ第七王女など政治の道具だ。なら、処女くらいは美少女の様な君で散らしたいのさ! 魔法で避妊すれば中に出しても問題ないさ!」
「手を出す時点で大問題だよ!?」
堂々と潔く私、を押し倒すアル 抵抗する俺 まだ自分も足りないので混ぜて欲しいと言うレジーナ。
勇者召喚なんて大嫌いだー!!