お試し倉庫   作:ケツアゴ

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獅子身中の鬼の王(仮) 22

 ……愛しい人。とってもとっても大好きな貴方。ずっと支えて来たのはアタシ。誰よりも助けてあげたのに、誰よりも頼りにされたのに。

 

 

 なのにどうして?

 

 どうしてどうしてどうしてどうして

 どうしてどうしてどうしてどうして

 どうしてどうしてどうしてどうして

 どうしてどうしてどうしてどうして

 どうしてどうしてどうしてどうして

 

 ……いえ、いえいえいえいえ、良いのです。

 

 貴方の本当の助けになれるのは、貴方が死ぬ時に本当に一緒に居るのはアタシなのだから。

 

 彼を愛して支えて愛して支えて 彼を愛して支えて愛して支えて 彼を愛して支えて愛して支えて 彼を愛して支えて愛して支えて 彼を愛して支えて愛して支えて 彼を愛して支えて愛して支えて……来たのですから。

 

 だから大丈夫大丈夫、最後まで彼の側に在るのはアタシだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へえ、京都の実家に行くのかい? 風を通しに行くなら僕も手伝おうじゃないか」

 

 休日の前夜、食事を奢ってくれるらしいので葵さんとやって来た焼肉屋にて牛タンを引っくり返しながら話すのは休日の予定。

 学園の修練場を借りる生徒もいればプライベートを楽しむ生徒も。封魔士などは命懸けの上に脚光を浴びはしない。

 

 ……寧ろ使途不明金とか莫大な公共事業費のニュースを見る度にこんな所から活動費が出てるのが気になる位で。

 

「僕も一緒に行こうかな。どうせなら僕の家に泊まるかい? 両親も喜ぶだろうし」

 

「嫌ですよ。外堀埋めて来るじゃないですか」

 

 高峰家って封魔士の名家ではあるものの、其処の長子次子である姉妹に許嫁が居る訳でも無し。

 結婚相手位見つけて来いや、試してやるから……そんなノリで遊びに行った私は襲われた。

 

 式鬼やら使用人が逆刃刀の峰打ちで向かって来るのは良いとして、面白いからと引退した老人方が来るのはどうなのか?

 

「お眼鏡に適った君が悪いのさ。両親や僕達姉妹のね。姉さんだったら妾にしても良いよ? 君なら個人としても高峰家の次期当主候補としても君が望ましいと考えているからね」

 

「是清君とかどうです? 彼も実力は申し分無いし、鬱陶しい位に気持ちをぶつけて来るじゃないですか。少し粘着質で煩わしい選民思考ですが」

 

「まあ、急いで決めなくて良いさ。定期的に僕の気持ちを伝えつつ会話をする理由が欲しいだけなのさ。ふ、普通に話し掛けるのは恥ずかしいし」

 

 是清君に関してはスルーをしつつ、口説いている最中に自分を口説いて来る相手を勧めたのが嫌なのか足先を踏み付けられる。

 

 そして水着エプロンは平気でも普通の会話をするには勇気が足りないって基準がどうなっているのやら。

 普段の堂々とした立ち振る舞いは何処へやら、耳まで真っ赤にして私の顔を見られないとはこれ如何に。

 

「君にとって悪い話じゃ無いだろう? 遺産も秘伝の術も門外不出の機密も差し出せとは言わないし後ろ盾には十分なのに」

 

「確かに虫除けには良いでしょうね。高峰家に喧嘩を売ってまで価値が不明の遺産を狙うのは相当な馬鹿だけだ」

 

 別に坂田家の復興とかは興味が無いのですが、琴音が居なくても婿入りはちょっと……。

 

 胸は良いが高身長とデカ尻の葵さんに背も尻も小さいが胸が問題の姉の方……と見た目の問題ではなく、名家の婿入りが問題だ。

 

 婿に実権握らせる気は無いらしく、事情を知る表社会の住人や同業者、人の社会に適応している魔の存在等との交渉調整は血筋の者、高峰家の場合は葵さんの母親の仕事なので仮に、本当に仮に婿入りしても役割は肉体労働が主とはいえ、丸投げで好きな立ち振る舞いをとは行きはしない。

 

 要するに面倒臭い。フリーで仕事を回してもらう元請け下請け程度が一番良い関係性だ。

 

「おっと、タンが良い感じに焼けた。表面に火が通った程度が最高だよ」

 

「私は焦げる手前が好きですがね。まあ、好みの範疇でしょう」

 

 例えば私は味噌ダレにニンニクを入れるのが好きですが葵さんはタレよりもマヨネーズ。

 鬼も金童子さんは生を丸齧りですが茨城童子さんは軽く炙って岩塩でと聞いている。

 

 何を食べる際かは……まあ、命乞いが殺してくれに変わる生き物としか。

 

 タンを焼き終わったので網交換の後でミノでも頼もうかと迷った時、硬い物が折れる音がしたので見てみれば葵さんの右手の中でトングが折れていた。

 

「ああ、申し分無い。店員さん、僕の不注意だ。弁償はするが新しいトングを頼めるかい?」

 

 少し気恥ずかしそうに折れたトングを見せる葵さんの体は僅かに霊力を纏い、その体は強化されていた。

 

 これには理由がある。食事をしながらの会話中に身体強化したせいで壊してしまったのではなくて、容易に壊せる程の強化状態で飯を食い話をしていたのだが、コントロールを誤ったに過ぎない。

 

「葵さんにしては珍しい。普段ならその様なミスはしないでしょうに」

 

「少し君の口から聞かせて欲しい質問があってね。……君のこ、好みってどんな子だい? 僕としても合わせる為に知っておきたいんだ」

 

「……茨の道だろうが地獄の道行だろうが手に手を取って鼻歌混じりに歩いてくれる方……でしょうか?」

 

 その為には何もかも捨てて私と一緒に居てくれる相手でないとならず、琴音以外は今の所考えられない。

 

 一緒に背負わせるには重く、私に他の誰かの物を背負う余裕が無い、それだけだ。

 

「成る程ね。君の心を射止めるのは苦難の道らしい。良いじゃないか、挑みがいがあってさ」

 

 私の言葉に怯みも戸惑いもせずに言い切る姿からは別に侮っているらしい様子も見受けられず、言葉の通り何があっても乗り越える気らしい。

 

 こんな台詞遠平気かつ本気で言えるとは流石は同性にさえ人気がある筈だ。

 私の人生と性癖が別物だったらどうなっていた事やら。

 

 

 

 

 

「おーう、りゅー坊。わざわざ迎えに来てやったぞ」

 

 休日、寮から実家まで走って向かい(そっちの方が早いので。認識阻害の術は使った)、実家の庭から裏界に入れば待っていたのは立ち込める靄に浮く屋台船の船首に足を乗せて笑う金童子さん。

 

 【靄船】は比叡山延暦寺に纏わる怪談話に登場する亡者を乗せた船。見た事は無いが少なくても既にドンちゃん騒ぎが聞こえて来る屋台船ではない筈だ。

 

「その船はどうなさったので?」

 

「ニャハハハ! 亡者の天ぷらを食いたくなってな。ついでに奪って改造した」

 

「そうですか……」

 

「ほれ、それはそうとして獲物を見せろ。うちが手入れしといてやる」

 

 既に存分に飲んでいるらしく酒臭い口を開きながら差し出された手に刀を渡せば鞘を投げ捨て、小柄な体躯が私の眼前に降り立つ。

 反応する間もなく脇腹目掛けて振り抜かれる一撃。回避は到底敵わず、無様に吹き飛ばされこそしないものの両足が数メートルに渡って地面に線を刻み込んだ。

 

「ニャハ! 相変わらずつまらない鍛え方をしたままだから耐えられないなら真っ二つにしようと思ったけれど杞憂だったか。頑張ってるな、りゅー坊」

 

「そりゃどーも。刀の手入れは大親方に頼む予定なので結構ですよ」

 

 青痣と内臓への深刻なダメージこそあれど両断されていない事に安堵しつつ容赦無く刃の部分を向けて振るった金童子さんに冷や汗が出そうになる。

 

 取り敢えず整備に関しては問題無いと伝えれば少し拗ねたよyすd様子で船に刀を投げ入れた。

 

「まあ、うちよりダタラの方が鍛治師としては上だし? 別に良いが退屈だな。あs、そうだ。茨城や雪来の伽をするならうちも混ざって良いか?」

 

「嫌です」

 

「おー、言いよる。此処で気を遣って受け入れたら拳万食らわす所だったぞ。うちは色より酒だからな! ニャハハハ!」

 

 いやいや、本当に鬼との会話は疲れる。この時ばかりは琴音が連れて来なくても何も言われない立場で良かったと安堵しかなかった。

 

「んじゃあ、取り敢えず……お帰り、りゅー坊。よく帰って来たな」

 

「ええ、只今戻りました」

 

 一転して暖かく言葉を掛けて優しい笑みを向けられる。ああ、本当に鬼は厄介だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……随分と使い込んでいるな。血と怨みを吸い続け刀身の輝きが増している。鞘を新調せねばならぬな」

 

 息を吸い込めば肺が焼け、玉の様な汗も即座に乾いて消え去る。猛火に炙られているよりも猛火の中に佇む感覚だ。

 事実、此処に常人が放り込まれれば蒸し焼きになって酒の肴にされてしまうだろう。

 

 此処は鍛冶場、酒呑童子配下の者達の獲物全ての整備を担う鍛冶屋の仕事場だ。

 一つ目に片手片足の【イッポンダタラ】、この鍛冶場の大親方と呼ばれる彼は防毒の布を口に巻いて手入れをするのは私の相棒である七巻半(やたらず)の整備。

 

 他の職人が押さえ、並みの鬼を凌駕する豪腕が鎚で叩き研ぎ、最後に捕まえて来た小鬼を切り伏せて仕上げとする。

 

 気休め程度の布を貫通した毒に肺を侵され血を口元から垂らしながらも出来栄えに満足そうだった。

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