お試し倉庫   作:ケツアゴ

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封魔の鍛冶師 6

 お昼ご飯を何にするか迷い、直ぐに一つの答えを出した。

 

「残り物で良いや。一人分だけ作るの面倒だし」

 

 野菜スープにハムにパンの残り。新鮮な食材は有るけれどフライパンやまな板を洗うのは面倒だった。

 

 誰か作ってあげる人が居ないのなら楽をするに限る。愛される系末っ子美少年のぼくだけれども労力なんて物は出来るだけ省きたいんだ。

 

 それに一人分用の調理器具なんて持ってないから大きな鍋だと一人分の調味料とかが直ぐに煮詰まるし、だったら手抜きで良い。

 

 パッと作ってザッと持ってガッと食べてゴロゴロする事に決めた僕が残り物を適当にパンに挟んで冷えたスープで流し込もうとした時、天文台からの手紙が目に入った。

 

 ソファーに寝転がりながらご飯を食べつつ手紙に目を通す。兄ちゃんがやってたら行儀が悪いって注意する僕だけれど、誰も見ていないから別に良いや。

 

 口の中の物をスープで流し込みながら目を通したのは手紙の裏、本来なら何も書かれていない場所だけれど、僕は天才だから気が付いた。

 

 兄ちゃんが読んでいる時に薄らと見えた光る文字。擦れて読めない場所も有るけれど、これにはちょっとした仕掛けが存在する。

 

 文字を見るには一定以上の魔力が体内に存在する事。これがスタートライン。

 此処から先は技術の問題だ。魔法を発動させる直前の状態で止めるコントロールを行えば文字がクッキリと現れる。

 

 これが手紙の相手が本物だと確信した理由。裏の文の冒頭に書かれていたのは届いた日の家の中の事。

 

 出会った人との遣り取りだったら仕込みを疑うが、この内容と噂で聞く天文台の占い師が繋がって本物と判断した。

 

「兄ちゃんには言うなとも書いてあったけれど、僕が居るなら行動を変える事態に遭遇するって事だよね?」

 

 それはちょっと気になるけれど、僕は兄ちゃんを信じているから心配までは行かない。

 ただ、もう一人の方、アーロン兄ちゃんについては心配だった。

 

 

「何か三割位はアーロン兄ちゃんへの照れ隠しの罵倒で二割は渋々ながら自分との相性の良さを語ってるんだけれど、何やったんだよ、あの馬鹿の方の兄ちゃん」

 

 どうせ自覚無しに助けて口説いたのだろう。アーロン兄ちゃんに関しては本当に心配だよ。

 

 僕が美少年を利用するのは意識的にして頭も使っているってのに、アーロン兄ちゃんは無意識で頭は使えない。これは少し不平等だ。

 

 ヒガン兄ちゃんなんて滅多に女の人に声を掛けられないんだよ?

 

 

 

「……それはそうとして、今なら掃除の名目で兄ちゃんの部屋に入って隠している気になってる大人向けの本とか見れちゃう?」

 

 でも子供は見たら駄目な奴だしなあ。兄ちゃん如きにバレるとは思わないけれど……別に見なくて良いかな。

 

 僕は未だ十歳だし、ちょっとは興味が有るけれどそこまでじゃない。途端に暇になったから魔法の練習でもしておこう。

 

 兄ちゃんには時間が掛かると言ったけれど実際は十秒で終わらせた人魚の涙の杖への装着。

 水を通す筒の穴を大きくしたみたいに魔力の流れ易さが大きく変わったのを感じる。

 

 これなら少ない消耗で大きな力が使えそうだ。……逆を言えば普段通りの使い方をすれば威力が過剰になっちゃうって事だけれど、僕は天才だから少し頑張れば慣れるだろう。

 

「それにしても手紙の人、アーロン兄ちゃんに激重感情抱いてるよ。何をしたのさ……」

 

 エルフの運び屋にダークエルフの族長の娘に人狼の女医さんに貴族の子女等、僕が名前を知っている相手だけで十人を軽く超える。

 

「本人の自覚が無いのが一番タチが悪いよね」

 

 弟まで巻き込まずに勝手にやってて欲しいよ。家族の助け合いは自業自得には発生しないと思う。だってアーロン兄ちゃんなら大抵の事はどうにだってなるんだから心配するだけ無駄だもんさ。

 

 手紙をもう一度読み終えると丸めて火の中に放り込む。これで他の誰にも読まれる事は無い。

 

 高位魔法なら灰から再生とか出来た気もするから後は川にでも流そうかと思った時に家の敷地に誰か入ったらしい。

 

 ミラみたいなのを警戒して設置した来客を知らせる魔法の鈴の音。

 

 また武器を求めてか、そてとも山道で迷ったのか、はたまた知人が訪ねて来ただけか。

 

「あー、あー。発声良し。表情の切り替えも良し。来たのが誰でも大丈夫」

 

 無邪気な顔か健気に頑張る顔か少し大人びた真摯な顔か。アーロン兄ちゃんと違って僕が自分の顔を最大限に利用するには切り替えが必要だ。

 相手を見て瞬時に向けるべき顔を整える。切り替えの際の不自然さも感じさせず、美少年を最大限に利用する。

 

 それが僕の処世術。どれも一側面ではあるから相手を騙してはいないのさ。勘違いさせて指摘をしないだけでね。

 

 

「やっほー! 二人共元気ー?」

 

「なんだ、カンナ姉ちゃんか」

 

 表情を作ろうとして損したと一瞬すんっってなる。入って来たのは黒髪の三つ編みを腰まで伸ばした胸も背も小さめのお姉さん。但し野伏(レンジャー)なので筋肉は薄らと。

 

 徒歩で楽に通える近所(但しこの人の感覚で)に住むカンナ姉ちゃん、兄ちゃんの幼馴染だ。因みにアーロン兄ちゃんには惚れていなくって天然だって理解しているから対応が楽な相手だ。

 

 なので顔を作る必要も無い。素顔知ってるなら無駄だし、それなら面倒なだけだ。

 

「人の顔を見るなり軽い扱いね、エトン君。それはそうとヒガンは作業中? でも鎚の音は聞こえないわね。あっ、これ新薬。完成したからお裾分け」

 

「何時も有り難う。それで兄ちゃんに会いに来たんだろうけれど留守だよ。ちょっと遠出してる」

 

「……え? エトン君無しで遠出とか大丈夫? 馬車の乗り換えとか不安じゃない?」

 

 兄ちゃんが居ないと知るなり見るからにガッカリしたカンナ姉ちゃんだけれども、表向きの理由を思い出してか幾つかの瓶を渡して来た。

 

 これは【魔法薬】。薬材を使った調合の際の手順に魔法を加える事で作る、言うなれば持ち運びが可能な回復魔法みたいな物だ。

 

 人を癒せる力を持っていても本人が魔法を使えない状態なら意味が無いし、僕が居ても割と重宝する。

 

 カンナ姉ちゃんの薬はそれなりの評判だしね。見た目は地味な村娘なのに調薬の知識とかかなり豊富なんだ。

 

「そうしたらエトン君は一人でお留守番なのね。一旦ウチ来る? ご飯とか一人だと適当にしちゃうでしょ?」

 

「いや、来客の対応とかあるから良いよ。食い扶持は稼がないとね」

 

 兄ちゃんの作品や僕のアミュレットはそれなりに売れるけれど、有名だった婆ちゃんの孫で弟子な事以外に大きな実績も無い兄ちゃんだとギルドへの貢献という名の献金が無いと爪弾きにされてしまう。

 

 収入は多いけれど支出も多いんだよね。

 

「商売関連は全部エトン君がやってるからヒガンも鍛治に打ち込めるんだものね。じゃあ仕方無いから明日も顔見せに来るしご飯作ってあげる」

 

「えー? 良いよ、別に。どうせ数日の間だしさ」

 

 

 

 

 

 

「異議は年上なので却下します。あっ、そうそう。変な噂聞いたけれどエトン君なら何か分かるかもって思って。……モンスターに人の心と言葉を話す知恵を与える【知の泉】って知ってる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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