お試し倉庫   作:ケツアゴ

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獅子身中の鬼の王(仮)4

 非常に困った事になった。葵さんの戦う姿に疼き、至近距離に一般人らしき少女が居るにも関わらず雷撃を放った事は反省しよう。

 

  強烈な音と光を浴びた巫女服の彼女は目を回して気を失い、失敗を自覚して猛省する中、何処からともなく声が響いた。

 

「見させて貰っていたが、一般人の至近距離で雷撃だなんて駄目じゃないか。君らしくもないよ、坂田君。金太郎が涙で前掛けを濡らしているよ?」

 

「その一般人を追い掛け回した化け物は貴女の術でしょうに、学園長」

 

 聞こえて来たのは十歳前後の幼さが抜け切らない声で、注意混じりにしては何処か楽しそうにも聞こえる。

 事実、楽しんでいるのだろうと私を含む全員が考え、表情も自然と思い浮かんだ。

 

「それで彼女は何者ですか? どう見ても関係者じゃありませんよね?」

 

 鍛えられた様子の無い体付きや武器を握り続けて豆を潰し続けた痕跡の無い綺麗な指。この気絶が狸寝入りでも無ければあの程度で気絶するのも私達とは住む世界が違う証拠となって来る。

 

「侵入者?」

 

 三浦さんは小首を傾げながら呟くも、直ぐに『違った』と続ける。巨大な骸骨に追いかけ回される事になる程奥に入り込める筈もないからだ。

 

 故に可能性が高いのは客人だが、一般人を何故わざわざ呼んだ?

 

「いや、その子はお客様だ。悪いけれど私の部屋まで連れて来てくれるかい? 罠は作動しない様にしておこう」

 

 そもそも学生に対して罠を用意するな、そのように抗議しても無駄なのだろうか? ……無駄だろう。

 

 仕方が無いのでこの少女を連れて行くしか無いが……少し困った。

 

 緊急時なら異性の私が運ぶのも問題無いが、この場合はどうするべきか少々迷わされながら腕で支えた状態のままの少女を眺めていた時だ。

 

 横合いから伸びた葵さんの腕が自然な動きで巫女服の少女を姫抱きにしていた。

 

 「気絶させたのは君だし、龍洞君が運ぶべき、とは言わないよ。君も彼女も後で気まずいだろうし、此処は僕が運ぼう」

 

 軽くウインクをしながら此方に笑みを向けた葵さんは軽やかな足取りで螺旋階段を下って行く。正直言って助かった。

 

「助かりましたよ。その子も初対面の男に運ばれていては良い気分はしなかったでしょう。怪物に襲われて気絶して、更に……なんて可哀想だ」

 

「別に君なら良いとは思うけれどね。いや、僕としてはそちらだと困るか。吊り橋効果で惚れられても困る」

 

「まーたそういった発言を。ファンクラブに皆さんに睨まれるのは私なのですよ?」

 

 私の抗議にも葵さんは微笑みだけで何も言わない。残り二人に視線で助けを求めるも目を逸らされ、この場に味方は誰も居ないのだと今更ながら再認識する私であった。

 

 

 

  

 

「始業式で顔を見たばかりだね,諸君。呼び出しに応じてくれて感謝するよ」

 

 学園長室の扉を開けば其処は何処かの山の中の寺院を思わせる和室。開いた障子の向こう側では新緑の木々を微風が揺らし、時折鳥の鳴き声が聞こえて来る。

 

 差し込む日光の暖かさはまるで本物で、此処が地下深くだと言われただけでは信じられそうにないだろう。

 

 その部屋の中央,何枚も重ねた座布団の上から此方を見下ろすのは錫杖を背負い僧衣を纏う十歳程度の見た目は少女、実年齢は不詳。

 

 丸い瞳をしたおかっぱ頭の彼女こそが八咫烏学園に創立当初から君臨する【鞍馬学園長】。

 試練と称して生徒に無茶振りをする迷惑なロリババアだ。

 

 何でも牛若丸と肩を並べて修行したとか、安倍晴明の式神を借りパクしようとしたら怒られたとか、胡散臭い武勇伝を朝礼で語るのだが、時々展開が変わるので嘘だろう。

 

 もしくはボケて妄想が入っている。

 

「それで学園長。彼女は……例の編入生とやらですか?」

 

 視線を向けたのは横並びに寄せた座布団で未だ眠る少女。急な事態だったので直ぐには思い浮かばなかったが、十中八九は正解だと四人で道中結論付けた。

 

「おっ! 察しが良いじゃないか。その子こそが訳有りで今年から学園に通う元一般人。実は彼女のお世話を君達にお願いしたいのさ」

 

「わざわざ僕達にんて、彼女にどの様な秘密があるんだい? 普段みたいに思い付きだと言うのなら……」

 

 

「鬼門」

 

 学園長の声は軽薄な物から物理的な重圧さえ感じさせる物となって場を支配する。自ずと姿勢を正さざるを得ない中、錫杖の先が三浦さんへと向けられる。

 

「基礎知識のおさらいだ。三浦君、鬼門について答えてくれたまえ」

 

「丑寅……北東の方向。鬼……だけじゃなく、封魔士が相手取る存在が訪れる方角」

 

「そう、そして文字通り門の役割を果たす。鬼共が住まう【裏界】とこの世を特定の場所や時間のみ繋げるね」

 

 そして門と言うからには鍵も存在する。【妖具(ようぐ)】と呼ばれる道具の中でも特に危険とされる物の一つ。

 

 【鬼門の鍵】、それがその道具の名だ。

 

 ただ、鍵を使うには適合者が必要だ。世界にたった一人だけ。更に使う資格があっても霊力が相応に無いと適正も宝の持ち腐れ。

 

 だから放置されていた。筈なのだが……。

 

 

 

「ああ、成る程。彼女が鬼門の鍵の適合者である【鬼門の巫女】な訳ですね?」

 

「うへへ~。ケーキ食べ放題~」

 

 場の重苦しい空気を台無しにする寝言が聞こえて来るも、空気を読んで誰も反応しない。ある意味、肝が座っていると言えるのだろうか?

 

 

 

 

「頼みとは他でもない。彼女……【丑宮 虎空(うしみや こあ)】が学園で過ごす際に面倒を見て欲しい。無論、他の生徒には鬼門の巫女については秘密でね」

 

 再び口調は軽い物へと変わるが学園長の目は笑っていない。有無を言わさぬ老獪な封魔士が其所に居て、私達に断るという選択肢を与えずにいた。

 

 

「霊力の扱いは同年代の男女で励むのが一番効率が良い。報酬は払うからお願いするよ」

 

 

 

 

 鬼門の巫女を学園長に預け、私達は学生寮へと戻って来ていた。彼女が追われていた理由を聞きそびれたものの、崇高な理由は存在しないと結論付けてソファーに腰かける。

 

「さて、お楽しみの時間ですね」

 

 本当は呼び出しを無視しても帰って読みたかった『魅惑の生足・美尻コレクション』を取り出して早速表紙を眺める。

 

 胸が大きいのは好みではないが、長く立派な足を惜しげもなく晒す美女の写真に期待が高まり、ページを開けばベッドの上にうつ伏せに寝転がって此方を振り向いているモデルの写真ですが、パンツを途中まで下ろしてお尻が丸出し。

 

「神作だ。間違い無い」

 

 このページを堪能したいが次も気になって捲ろうとした時だ。後ろから伸びた腕の一本は私の首に絡み付き、もう一本は乱暴な手付きで私から雑誌を奪い取った。

 

 

 

 

 

「えー? おいおい、尻でも足でも私が好きなだけ見せてやってるし抱かれてやってるんだからこんなの必要か? っつーか、何冊目だよ、エロ本」

 

 本を手に不満そうな表情を見せるのは眼帯で片目を隠した金髪の少女。頭の狐耳とズボンから飛び出した尻尾が人ではない事を告げている。

 

 

「それとこれは別ですよ、琴音(ことね)。それと伯父さんにとある情報を伝えた所、大婆様からの呼び出しを受けそうです。その場合、お留守番をお願いいたしますので……」

 

 奪われた本を奪い返し、堪能途中だったページを彼女の顔の前に持って行く。

 

 

 

 

 

「この本と同じポーズを見せて下さい。拒否権は有りません」

 

「へいへい、しゃーねえ。私まで行ったら誰かしらにぶっ殺されちまうから大人しく留守番しとくし、所有者様の頼みは断れねえよ。……その代わり、今晩も可愛がれよな」

 

 大婆様……大江山に君臨し、神酒によって退治された()()()()()()()酒呑童子からの呼び出しは少し億劫だ。

 童貞を無理に奪われた雪女郎まで居るし、甘えるようにすり寄ってくる琴音を始末したがっている方も居る。

 

 

 何より、封魔士にとって獅子身中の虫である私としては発覚を恐れ、接触は避けたい気分だ。

 

 

 

 

 

「普段通りなら伯父さんが連絡役をして下さるんですが」

 

「あのコブ取り爺さんみたいな術を使われんのかな?」

 

「既に使われているので溜まった物を解消できないと嘆いていました」

 

 

 




琴音 
【挿絵表示】
  タクティカル祓魔女子メーカーver2.0
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