「矢張り何処かの誰かさんを引き入れておいて正解でしたね。物事がスムーズに進む」
「おい! 言いたい事があるのならハッキリと言え、坂田」
「カビが生えた選民思考の持ち主が何も知らずに絡んでいたらややこしい事態になっていたので引き込んで正解でした」
「はぁああああああっ!?」
相変わらず打てば響いて面白い人だ。自業自得だからそれなりに叩いても良いのが素晴らしい。
自分が言えと口にしておきながら正直に言うと隣で騒ぐ碓井君を無視しながら丑宮さんの様子を眺める。
この時期に入って来た一般人という事もあって数人の女子が周囲に集まってはいるものの険悪な雰囲気は無し。
普通にクラスメイトとして歓迎するか、もしくは興味無しと関わらずにいるか。
少なくとも訳有りの訳の部分を聞き出そうとする人は居ない模様だが、それは当然だ。
厄介そうな情報は見ざる聞かざる言わざる、の”三サル“。薄情や臆病だけではなく、噂を聞いた人の前に現れるタイプの怪談と同じく詳しく知る事で縁が結ばれる。
故に君子危うきに近寄らず、あくまでも級友としての付き合いだけで踏み込まない。
それを臆病と見なすのが碓井君だ。小さいな、人間が。
「……ふん。中途半端な事だ。怖いなら一切関わらなければ良いものを」
「詳細は知らずとも大変そうなクラスメイトに気を遣ってだと思いますが、そんな意見が速攻出るから倫理関連の評価が低いんですね」
「はっ! 結局最後に命を張るのは力有る者達だ。前から言っているだろう、坂田。負わされる責任に相応しい立場を要求しろと。貴様はそれがなっていない」
言わんとしている事は分かるが、この気質は生まれ育つ中で得た物だ。大婆様の配下にさえすかしていると非難されるが変える気は無い。
「でも、私に全戦全敗ですよね? ほら、背負う物がより大きい相手への態度……おぇ。駄目だ、私に遜る貴方を想像したら……」
「五月蝿いぞ、坂田ぁああああっ!! ……良いだろう、次の模擬戦の授業で勝負だ!!」
口を押さえて吐き気を堪える演技と軽口に激しく激昂した碓井君は叫び声を上げながら私に指を突き付ける。彼は葵さんとは別の方向で強さを突き詰めているタイプで戦っていて楽しい。
さてさて、今回はどの様な技を模倣して来たのやら。
少し肌寒い校庭に二年生全員……数としては三十名にも満たない数だが、各々好きな格好をしているので武道着や甲冑、もしくは扱う術に適した服を着ているので仮装大会か何かに見える。
私は通気性や耐久性諸々を考えて当然ジャージだ。それも登校時は緑だが、今は濃い赤。汚れが気にならないお気に入り。
何が言いたいか? ジャージこそ至高! タンクトップこそ最高と主張するとある鬼とは相容れない。
今から行うのは結界内部での模擬戦。大抵ペアで行っているので成績上位は人気が集まる。尚、言動の悪さで碓井君は別。
「あ、あの、旦那。お約束の方は……」
組みたい相手が先に選ばれないかや誰と戦うか等で場の空気がピリピリする中、私は希少なエロ本を探し出してくれた蔵人君が向ける上目使いの視線に親指を立てて答える。
約束通り私は彼と組む気だ。あの本は良かった、非常に素晴らしい。恩には報いなければ。
……対戦相手が実力だけなら男子二位の碓井君になりそうなのは秘密にしておくが、葵さんと組んで来なければ今の私の強さなら何も問題無い、筈。
「へ、へへへ、助かりますよ、旦那」
「じゃあ、二年生最初の武器戦闘の授業ですが、二対二にします。普段ならば好きな相手とペアを組むか戦うかするけれど……今回は運も実力って事でクジでペアを決めての総当たり戦ね」
「……え?」
あちゃ~。雪山先生の無慈悲な決定に蔵人君の表情が固まり、何かに祈るかの様に両手を組む。
「はっはっはっ! 坂田の小判鮫で成績をかさ増しする算段が崩れたな。おい、坂田。ペアが雑魚だと言い訳するなよ。完膚なきまでに叩きのめしてやる」
「直接的な戦闘力だけが必要って何時の時代で脳味噌が止まっているんですか、貴方は……。彼の強みはそれとは別。貴方でも得意分野では敵わないですよ?」
「う、五月蝿い! ペアになった奴共々僕一人で叩きのめすから覚悟しろ! あっおいさーん! 僕の成長した姿を見ていて下さいねー!」
「こーら! 授業中よ、騒がない! そんなに元気なら最初に引かせてあげるから大人しくしてなさい!」
休みの間に余程実力をつけた自負があるのか碓井君は私に勝てると思っているらしい。私に強さを認めてはいる上であの態度だ。
つまり余程の……。
「だ、旦那。どうしましょう……」
「ペアを組むのは今回だけでもないですし、次に組めば良いですよ。蔵人君の特技を発揮出来る時なら私も助かりますし、その時に頑張りましょう。……なので本は返しませんよ」
話している間にクジは引かれて行く。葵さんは……三浦さんとペアですか。一位と三位のペア、戦闘の相性も悪くないと来れば強敵になりそうだ。
そして今まではペアが多かったが今回は一人増えて奇数。当然ながら余るのは戦闘経験の無い丑宮さんで、いきなり戦わされない事に安心している彼女に近付けば嬉しそうに向こうも寄って来た。
「龍洞さん、応援していますね。今回は見学で助かりました」
ホッと胸を撫で下ろす彼女だが、安心したのは此方も同じ。霊力の操作どころか拳や武器の振るい方も防御や受け身の方法すら覚束ない相手との戦いなんて神経を擦り減らすだろう。
そして相変わらずの巫女服。登校時とは微妙に色合いが違うので着替えたんだな。
さて、私は……四のB。四のAがペアですので探しませんと。
「おーい! この僕と組める運の良い奴は誰だー? 共に坂田を叩きのめそうじゃないか。四のBは誰だー?」
……マジか。あれだけ宣言しておいて。彼は悪くないとはいえ、運以外……。
「ええい! 何故貴様がペアなんだ、坂田!」
「貴方のクジ運の悪さが理由では?」
結界は四方が柱に囲まれた場所で展開される。目に見えない透明の壁が展開され、どんな状況でも戦えるようにとランダムで環境が変わるのだが今回に限ってはシンプルな物だ。
影響するものを遮るものも無いただ広いだけの真っ平な地面。其処で腕を組んで未だにブツブツ文句を言う碓井君だが、別に彼がペアでも私は文句は無い。
何かと絡んで来る彼だが大口を叩くだけの実力と向上心は確かなものだ。
「僕だけが悪い筈が無いだろう! 人のせいにするな!」
「はいはい」
「はいは一回!」
「はぁぁぁい」
「思いっきり伸ばすな!!」
それに面白くて見ていて飽きない。碓井君は弄れば幾らでも楽しめる相手だ。
適当に相手をしても大きな反応が返って来るので笑いを堪えるのが大変で大変で。
下手に怒ったり泣いたりすれば攫われて来た他の子供の様な目に遭うからと手に入れた表情の操作がこんな所で役に立つだなんて。
「それで作戦はどうしますか?」
外からは十メートル四方の面積だが、結界内部は空間が拡張されて反対側にいる相手が霊力で強化した視力でも朧げに見える程度。それと妨害役としての式神……契約や封印で従わせている妖怪が数体。
「僕が突っ込む。そして倒して最高点をもらう。貴様は一切手を出すな」
「嫌ですよ。成績表の数字でお盆のお小遣いが変わるんですから」
「……あの購買の店員、そんな感じだったんだな。だが、知った事か! 【
一歩前に踏み出す、碓井君の姿が左右にぶれて二人に増え、更に一歩踏み出せば三人へと増える。
「「「ふははははははっ! どうだ、僕の美技は!」」」
それが繰り返され十人にまで碓井君は増殖した。何かキモい。
一人居れば三十……。
「だぁれがゴキブリだぁ、坂田ぁああああ! せめてビスケットにしろ、ビスケットに!」
「心を読まれた…だと……!?」
「口に出してたぞ、愚かも、ちぃ!!」
戦闘中に見せた間抜けな隙を狙い迫る矢。それを碓井君は私の方を向いたまま弾き……弾いた矢に隠れる様にして放たれていた矢、鏃の先端を潰した物が碓井君の股間に命中した。
ひゅっ。
「……隙だらけ」
「相変わらず目が良いね、上総。この距離では僕には敵の姿が見えないのに」