お試し倉庫   作:ケツアゴ

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獅子身中の鬼の王(仮) 9

 股間目掛けて放たれた隠し矢、エグい。これは対戦相手は女だな。同じ男ならば、思いついてもこんな非道な真似はしない。あまりにも容赦のない攻撃に僕は肉体よりも精神にダメージを受けた。

 

 立ち直れ、闘志燃やせ。敵は呑気に待ってくれない。

 

「潰れてませんか?」

 

「直前で捻って玉にも棒にも当たっていない! 気が散るから余計な事を言うな!」

 

 なんて腹立たしい! 恋敵にして目の上のタンコブ!

 

 僕は坂田龍洞が嫌いだ。実力は認めてやるが、人の上に立つべき力を持っていながらそれを良しとしていない。

 

「それにしても忍者みたいで格好良い技ですね。ステップと体幹の移動が特殊な様ですが、相変わらず使い熟している」

 

 ああ、これだ。よりにもよって僕が嫌いな男が僕をちゃんと評価しているだなんて。

 

 いい加減悟れよ。圧倒的に強い貴様が目線を合わせても弱者は惨めなだけなんだぞ。

 

 まあ、わざわざ教えてやる義理は無いから失敗して葵さんに愛想を尽かされてしまえ!

 

 

 

 

 コピー、模写、贋作と本物を真似た存在を指し示す言葉は多くあり、恐らく大半の人間が抱くのが偽物は本物よりも価値が劣るという物だ。

 

 馬鹿馬鹿しい。その分野の初代なら理解してやるが、それ以降の全ては初代の模倣だ。

 

 代を重ね精錬され続けた技術が劣るか? 効率化こそ人類の技術の進歩の歴史だろう。

 

 故に僕は嫌悪する。その技を編み出した本人、そしてそれに連なる自分の技こそ至高であり、門前の小僧が習わず覚えた経には価値が無いと断じる物達が。

 

 片手で覆い霊力を注げば()が熱を帯び始める。

 

開眼(かいがん)

 

「その隠し方、風俗店のプロフィール写真みたいですよね」

 

 黙れ、坂田ぁああああっ!!

 

 手を退け目を見開けば僕の瞳からは金色の光が放たれる。この僅かなやり取りの間にも速射と連射を組み合わせ無尽蔵の如く矢が降り注ぐ。

 これだけの矢を持ち込めない筈だ。つまり対戦相手は……。

 

「妥当な所か。僕と……一応坂田の実力からすればな」

 

 矢は坂田と増えた分も含む僕へと向かい避ける隙間は存在しない。対処法は防ぐか範囲外へと逃げるか……撃ち落とす!

 

 

五仰斬(ごぎょうざん)

 

 構えた刀の左右に二振りずつ、計四振りの刀が現れ、僕の動きにシンクロして動く。

 これは幻、中心を含めどれか一本以外は実体を持たない。

 

 そう、手に持っている一本ではなくどれか一つ。つまりは……。

 

「はぁああああああああさっ!!」

 

 そのどれかを瞬時に的確に切り替えれば分身と共に振り注ぐ矢全てを叩き落とすなんて容易だ。

 他の矢に隠した矢も、僅かな力加減で直前に減速してタイミングをずらす矢も関係無い。

 

 須く見切り一本残らず叩き落とす。単純に、それだけの話だ。

 

 

 

 

 

「す、凄い! あの人、凄く口が悪いけれどとても強いです! ……殆ど動きが見切れませんが」

 

 結界内部の様子を空中に映し出した映像、更にそれをスローカメラを通して漸く視認した虎空(こあ)は驚きと感心に胸を躍らせる。

 

 まるでCG合成が行われた映画やアニメの世界の如き動きは何処か現実離れした印象を与え、戦いが行われているという実感を奪っていた。

 

 今の彼女からすればショーでも見ている気分であったが、周囲を見れば真剣な眼差しや何処か諦念の込められた物、そして……。

 

 

「あのパクリ野郎。また人の家の術を盗みやがった……」

 

「編み出し継承し続けた一族への尊敬って物がないわけ?」

 

 それを口にした者達には見覚えがある。同じクラスなだけではなく、編入の事情に突っ込む事無く自分に話し掛けてくれたからだ。

 

 嫉妬に侮蔑、今の発言をした者達とは数日の付き合いでしかない彼女にも伝わるネガティブな感情に受けていた印象と大きく剥離し戸惑うが、此処で何も言わないでいられる程に彼女の正義感は小さくは無い。

 

「あ……」

 

「ほら、授業に集中しなさい。……それと丑宮さん、それは彼が嫌う事よ。全部含めて受け入れてやっているの」

 

「え? それはどういう意味ですか……?」

 

 咎めようと口を開いた虎空の肩に手を置き、全体に注意をした後でアルカは小さな声で虎空を止める。

 意味が分からないといった様子の彼女を前に一瞬迷った様子のアルカであったが映像から目を離さずに口を開いた。

 

「封魔士の一族には血統の秘伝や門下生にだけ習得を許す術技が存在するわ。彼の一族が持つ【真羅の瞳(しんらのひとみ)】もその一つ。構造上不可能な場合を除いて発動中に視認した術技を使えるという物」

 

 それが気に入らないって嫌っている人だって居るわ。彼等からすれば受け継いで来た財産の贋作を勝手に作られているのと同じだから、と溜め息混じりに呟く中、降り注ぎ続ける矢を一本残らず叩き落としながら是清が違う構えを見せる。

 

 刀を握った手を大きく斜め後ろに伸ばし、背中を大きく逸らす様にして引き絞った。

 

 

蛙跳(あちょう)!」

 

 叫ぶと共に引き絞られ貯められていた力が解放される。振り抜かれた刀から放つのは飛ぶ、いや、跳ぶ斬撃。

 

 地面を不規則に跳ね回りながら射手が居るであろう方角へと向かうその技が放たれた時、侮蔑の感情を隠そうともしなかった生徒があからさまに不快感を表しながら舌打ちをした。

 

「雪山先生、あの技ってもしかして……」

 

「ええ、あの子の家に伝わる剣技よ。でも、今の一族の誰も是清君以上に使いこなせていないわ」

 

「それって見ただけで技を極められるって事でしょうか? それなら羨まれるのも……」 

 

 未だこの境界について無知な部分が多い虎空でも繰り出される技にどれだけの血がにじむような努力が必要であろう事は想像出来る。

 それを見ただけで真似されては面白くも無いだろうと。

 

 

「いえ、あくまで使えるだけ。自転車の補助輪の様な物。乗る事は出来るけれど、補助輪を着けただけで極芸じみた乗り方なんて不可能でしょう? だから……後は本人の素質と努力次第」

 

 彼は使い方を知っただけの道具を使いこなす努力を重ねて本来の使い手よりも使いこなしている。

 それを虎空が理解した頃、盤面に動きがあった。

 

 

「悪いが近付かせて貰った!!」

 

「問題無い」

 

 地面を跳ね回る斬撃と共に前進した是清の見詰める先には弓に矢を番える上総の姿。

 刀が届く距離まで残り十秒で到達可能な中、是清の肩を矢が射抜いていた。

 

「ぐっ! 馬鹿な、術を使用する挙動なんて見せなかったぞ!?」

 

「……ん。術の初動を関知しても無駄。速く射た、それだけ」

 

 再び矢筒に納められた矢に上総の指先が触れるや否や、是清は身を捻る。右の太股スレスレを矢が通り過ぎる感覚に冷や汗を流しながらも更に一歩前に踏み出す。

 彼の左右に存在する分身も同じ動きをするも矢を避けられたのは本体だけで、他は矢がすり抜けていた。

 

「立ち位置を移動中に変え続けたのだが、君には矢張通じないか!」

 

「矢だけに?」

 

「だが、今度こそ貰った!」

 

 再び取る構えは蛙跳の物。先程とは僅か半秒程に長い溜め時間。それを前にした上総の選択は追撃ではなく回避。斜め後ろへと地面を蹴って翔びながらも矢に手を伸ばせば、是清も刀を振り抜いて跳び跳ねる斬撃を放つ。

 

「【蛙跳・五群(あちょう・ごぐん)】!」

 

 その数、()()。地面ではなく互いを足場にして跳ね回る斬撃は空中で足場も無く方向転換不能な上総を囲む様にして向かっていった。

 

「やった!」

 

 勝利を確信して是清の口元が緩んで飛び出すのはお決まりの台詞。それに被せる様にして薄い氷が割れる時と同じ音が微かに聞こえ、上総は空中で再び跳んで迫る斬撃を回避するなり矢で相殺した。

 

「馬鹿な!? そんな術、僕のデータには無いぞ!?」

 

 勝利を確認しつつも是清の視線は上総を捉えたままだった。故に翻るスカートの中にドキリとし短パンを履いていた事にガッカリしつつも足元に現れた物の正体は見抜いていたのだ。

 

 それは掌サイズの薄く脆い霊力の板。足の裏から放出した霊力を成形し足場にしたのを見た是清の思考が僅かに硬直した瞬間、靴の裏が僅かに湿り気を帯びる。

 

 直感で飛び退くも完全に退避するよりも先に天に目掛けて滝の如き勢いで大量の水が吹き出した。

 

「相変わらず初見の術技には弱いな。それと眼に頼り過ぎて死角への警戒が疎かだよ、碓井君」

 

 空間が煙の様に揺らぎ、其所に初めて現れた様な水の壁が崩れて葵が姿を見せる。片手で持った薙刀を肩に預けて見据える先にはずぶ濡れになった是清と、彼の襟首を掴んで範囲外にまで移動した龍洞の姿があった。

 

「……誰が助けろと言った?」

 

「普通に授業で先生が仲間は助けろと。駄目ですよ、ちゃんとお話は聞いていないと」

 

「ええい、喧しい! 意味が違うだろう、意味が! 分かってる癖に!」

 

 襟首を掴む手を振り払った是清は二人から視線を外さないまま苦虫を百匹は噛み潰したような表情のまま刀を構えて口を開いた。

 

「葵さんは貴様が相手をしろ。僕が三浦さんを相手取れば勝利は此方の物だ。無駄口叩かず従えよ、坂田」

 

「はいはい」

 

「返事は短く一回だ!」

 

 是清も跳躍と共に霊力の板を展開、数度踏み込みに耐えられず途中で砕けながらも前に進む中、龍洞も葵に向かって一歩踏み出した。

 

 

「今回の賭けはどうしようか? 勝った方が膝枕をするってのはどうだい?」

 

「これは授業なので賭けは無しですよ。それと膝枕よりもご実家の倉で武具を見せていただける方が私は嬉しいですね。あれは見応えがある」

 

「相変わらず厳しいなぁ。ところで武具とジャージ、どっちが好き……」

 

「ジャージですよ。むしろジャージ以外あり得ますか?」

 

 お互い能天気に会話を交わしながらも一歩更に距離を詰め、次の一歩で踏み込んだ二人の刃が激突した。




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