少年、鉄華オーカミは、毎晩同じ夢を見る。
瓦礫や倒壊した建物が散乱する荒廃した街中で、誰かと命を賭けたバトルスピリッツを行っているのだ。
顔に黒い霞がかかっているため、その対戦相手が誰かはわからない。ただ1つわかることは、その対戦相手が、オーカミに勝とも劣らない実力者であると言うことだけ。
「やれ」
オーカミが、悪魔の名を持つモビルスピリット、バルバトスにトドメのアタックを指示。
バルバトスが戦棍を振い、対戦相手のライフバリアを全て砕くその瞬間……
いつも夢はここで終わる。
「ブロック」
しかし、今日は違った。その夢の先が見えた。
ライフバリアを砕くバルバトスを蹴り飛ばし、その行動を妨害したのは、目の釣り上がった、黒い戦士。
「オマエはなんだ。一体なにがしたい」
夢の中のオーカミが、眼前の対戦相手に訊いた。
「オレは、オマエの全てを奪いに来た」
対戦相手の男が、高らかにそう叫んだ直後、オーカミは夢から覚める。
「……」
目が覚めたオーカミは、知らないベッドの上で、知らない天井を見上げていた。
辺りを見渡そうと、彼はベッドから上半身だけを起こす。先ず最初に目に映ったのは、ベッドの脇で突っ伏している風見センカの姿。寝てしまっている彼女の姿を見るに、相当長い時間、オーカミを看病していたのがわかる。
「お、目が覚めたか」
オーカミが、センカに気付かれないように立ち去ろうとした直後、部屋に白衣を着た茶髪の若い男性が入室。
「貧血で倒れてた割には元気そうだな。良かった良かった」
「アンタ誰。ここはどこだ」
警戒しているのか、非常に棘のある言い方で、オーカミは男性に訊いた。
「テメェ命の恩人に向かってなんつー物言いだ」
もう1人若い男性が増えた。同じ白衣を着こなす、黒髪の男性だ。
「まぁまぁマコト。そう言ってやるな、警戒してんだよ。悪りぃな少年。オレの名は春神イナズマ。この徳川研究所の職員だ。で、こっちのツンケンしてんのが」
「嵐マコト。オマエをここに連れて来た張本人。僕とイナズマのアニキと2人、オマエの命の恩人だからな」
自己紹介後、温厚そうな男性、イナズマが「恩着せがましい言い方はよせ」と、マコトを宥めると、オーカミへとまた視線を送る。
「君は、鉄華オーカミだったな」
「なんでオレの名前を」
「そこで寝てる女の子から聞いたよ。君のことを相当心配していた。あとで労ってあげるといい」
「……」
オーカミは少しだけセンカに視線を移す。センカは余程疲労していたのか、まだ深く眠っている。
「他にも聞いたよ。君が記憶喪失なこと、変な男に出会ってバトスピのデッキを渡されたこと、その男とはまた別の男に命を狙われて、命懸けのバトルスピリッツに身を投じたこと」
「……」
「奇天烈な話だが、オレにはどうも嘘とは思えなくてね」
イナズマの、何かを勘繰っているような言い方は気になる所だが、オーカミは口を開き、返答する。
「コイツの言ったことは、全部本当だ。オレは半年前からの記憶が全部ない。そして今日、このデッキを貰って、その日に命を賭けたバトルスピリッツをした」
「そして勝って、結果的にその男の命を絶った」
「……」
イナズマはオーカミに現実を突き付ける。
事実その通りだ。やや受動的だったとは言え、オーカミは自分の記憶を取り戻すためだけに、「真のバトルスピリッツ」と呼称されたそのバトルを受け、相手をこの手で葬った。
張り詰めた緊張感の中、マコトが唾を飲み込むと、オーカミは涼しい顔のまま、答える。
「あぁ、そうだな。オレは人を殺した」
「にしては随分と涼しい顔だな。君は、今まで何度そうして来た」
「知らないよ。記憶がないんだから」
オーカミはそう告げた直後、ベッドから立ち上がり、2人の研究員に頭を下げることなく立ち去ろうとしたが。
「ちょっと待て。その貰ったデッキとやら、まだ持ってるんだろ?」
イナズマが、オーカミの動きを、言葉で制止させる。
「うん。持ってる」
「そうか。なら、それを使って、オレとバトルしてくれ」
「!」
イナズマのこの発言に最も驚いたのは、彼の弟分であるマコトだった。
「なんですかアニキ。コイツが本当にバトルスピリッツで人を殺めてたならどうすんすか!?」
「いや、話を聞いた限りだと、おそらくその要因は相手側にある。まぁやばくなったらBパッドの電源を落としてでも逃げるさ」
イナズマは「それに」と言葉を続けて。
「仮に殺人を行なっていたとて、それでも尚クールでいられる、この少年のバトルを見てみたいんだ。オレは気になったことは、とことん調べてみたい派だからな」
「それ、アニキの悪いクセっすよ」
「NO。長所と呼んでくれ。どうだオーカミ君。病み上がりの身だ。もちろん無理強いはしないが」
イナズマが改めてオーカミに問うた。
基本的に自分の記憶を知らない者に興味はないオーカミ。頭の中では、この誘いを断ろうと考えていたが。
「わかった。やるなら早くやろう」
二つ返事で引き受けてしまった。
理由はやはり、オーカミの心の根底にある、カードバトラーとしての本能だろう。断ろうと頭の中で考えていても、それが許してはくれなかったのだろう。
「話が早くて助かるよ。それじゃ、研究所内にあるバトル場に行こうか」
イナズマが部屋の扉を軽く指差しながらそう告げたタイミングで、眠っていたセンカが、欠伸をしながら起き上がった。
「ん。ん〜〜〜。アレ、オーカミ起きてる!!…良かった〜」
センカの笑顔は、緊張感のある雰囲気を少しだけ和やかにした。
******
東京にある徳川研究所。
研究長と研究員2人の計3人が勤務しているこの場所の地下には、1ペアがBパッドを使用してのバトルスピリッツを行えるだけの広いスペースがある。
本来ならば研究の実験に使う場所だが、今回の用途はフリーバトル。鉄華オーカミと春神イナズマは、互いにBパッドを左腕に装着し、バトルの準備を完了させていた。
「ねぇマコトさん。ここ研究所って言ってたけど、具体的には何を研究してるとこなの?」
2人のバトルを今かと待ち侘びているセンカが、同じく待機しているマコトに訊いた。
「ここは、バトルスピリッツのカードが持つ『進化』の力を研究する施設だよ」
「進化?」
「うん。『オーバーエヴォリューション』と言って、カードはカードバトラーの力や想いに呼応して、別のカードに変化する時があって」
「へぇ」
説明を始めるマコトだが、自分で訊いたにもかかわらず、センカは空返事のリアクション。彼女には難しい内容だったようだ。
「とにかくオーカミ頑張れぇ!!」
「君は、なんで平気でいられるんだ?」
「え」
「アイツは、バトスピで人を殺したんだろ?」
今度はマコトが、センカに訊いた。
オーカミが平気な顔で人を殺めた場面を間近で目撃したにもかかわらず、彼に対して献身的な態度を見せるセンカへの単純な疑問だ。
「んーー。まぁそうかもしれないけど、やって来たのは向こうからだから」
「……」
真顔で正当防衛と言う趣旨を主張するセンカに、マコトは冷や汗をかいた。一見すると平凡な少年と少女だが、実はとんでもない連中を研究所に入れてしまったのではないかと勘繰ってしまった。
「よし。始めようかオーカミ。君のバトル、楽しみだよ」
「……」
……ゲートオープン、界放!!
センカとマコトが見守る中、バトルスピリッツの進化を研究する施設、徳川研究所の地下にて、鉄華オーカミと春神イナズマによるバトルスピリッツが幕を開ける。
先攻はオーカミだ。無言のままターンを進めて行く。
[ターン01]鉄華オーカミ
「メインステップ。創界神ネクサス、クーデリア&アトラを配置」
ー【クーデリア&アトラ】LV1
オーカミの1枚目は、フィールドには何も出現しないタイプの創界神ネクサス。
「ターンエンド」
手札:4
少ないアクションでターンをエンドとするオーカミ。
次はイナズマだ。彼は気合を入れてターンを進めて行く。
[ターン02]春神イナズマ
「メインステップ。私はバーストカードを1枚セットし、ターンエンドだ」
手札:4
熱量の割にはオーカミよりも消極的なプレイでそのターンを終えるイナズマ。その分、裏側で伏せられたバーストカードが際立つ。
[ターン03]鉄華オーカミ
「メインステップ。バルバトス第4形態を召喚」
ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV1(1)BP5000
このバトルで、初めてスピリットを呼び出したのはオーカミ。
命懸けのバトルスピリッツを行った相手、ワイチとの戦いでも活躍した、白装甲と黄色いツノを持つモビルスピリット、バルバトス第4形態が、黒き戦棍を片手に、地中から登場。
「これが鉄華団。紫属性のモビルスピリットが主体なのか、珍しい」
「アタックステップ。アタックだ」
イナズマのリアクションを無視し、オーカミはすぐさま静かにアタックを宣言。バルバトス第4形態が戦棍を構える。
「ライフだ」
〈ライフ5→4〉春神イナズマ
バルバトス第4形態は、戦棍を横一閃に振い、イナズマの前方に展開された半透明のバリアを1枚砕く。
「痛みがない。そうか、やはり君自身に害はないんだな。安心したよ」
「……ターンエンド」
手札:4
センカから聞いた話とは違い、バトルダメージに連動した痛みがないことから、イナズマは、オーカミ自身に、バトルスピリッツで人を殺す力が無いことを悟る。
「それにしても、見知らぬカード、見知らぬ敵、見知らぬバトルスピリッツ。そして、記憶のない少年。君達の周囲で起こった出来事には興味が唆られる」
「雑談はしない。早くターンを進めろよ」
オーカミや、彼の周囲で起こった出来事に強い関心を示すイナズマ。逆に彼には全く関心を示さないオーカミ。
ある意味で、水と油のような関係の2人のバトルは、第4ターン目、イナズマの二度目のターンを迎える。
[ターン04]春神イナズマ
「メインステップ。先ずはライダースピリット、50マッハと、2体のディケイド響鬼を召喚」
ー【50th 仮面ライダーマッハ】LV1(1)BP1000
ー【ディケイド響鬼】LV1(1)BP1000
ー【ディケイド響鬼】LV1(1)BP1000
イナズマはここで0と1の軽量のコストを持つ、赤属性のライダースピリット達を大量に展開。
オーカミが、この展開を布石だと理解した瞬間、イナズマは、さらなるカードを1枚、手札から引き抜いて。
「さらに、赤き灼熱のライダースピリット、龍騎サバイブをLV2で召喚!!」
ー【仮面ライダー龍騎サバイブ】LV2(2)BP11000
イナズマが、引き抜いたカードを装着したBパッドへと叩きつけた瞬間に立ち上る火柱。
それを内側から吹き飛ばし、赤き龍の力をその身に纏うライダースピリット、龍騎サバイブが姿を見せる。
「これがオレのエースカード。さぁ、ここから面白くなるぜ」
「……」
興味と誇りが交差したことにより執り行われたバトルスピリッツ。
果たして勝利を収めるのは、徳川研究所の研究員、春神イナズマか、それとも過去の記憶を失った少年、鉄華オーカミか。
次回、「止まらない力」
******
《キャラクターファイル》
【風見センカ】
性別:女
年齢:17
身長:160cm
誕生日:4月27日
使用デッキ:【無し】
概要:オーカミに一目惚れした少女。常に彼のそばにいることを心掛けている。