第16話
「あ、しずく先輩! こっちっす!」
とある山間部にある崖の上でひかりが駆けつけたしずくたちに手を降る
崖…と言うよりも大穴になっているそれは確かに人が簡単に下だれるようには見えなかった
「この穴の中に住んでる大蜘蛛の討伐に来てたんだけど…」
「う、ウチが蜘蛛、怖くて…震えてたら、狙われて…みらい先輩が気付いて庇ってくれたんすけど…そのまま…」
ひかりたちの話によると蜘蛛はみらいの身体を糸で束縛し、そのまま巣穴へ引きずり込んだという
太陽の光が届かず底も見えない大穴
いくら巫女であり普通の人間より身体が丈夫とはいえ飛び降りるのは危険だし、そもそも飛行能力のない3人では降りてしまえば上がってくることもできないだろう
「みらいが連れて行かれる寸前にしずくに助けてもらうように言ってたんだ」
「うん、私なら氷を操って飛ぶことはできるから」
「そんなことまでできるんすか、しずく先輩」
「でも…」
問題はまだあった
光が届かない穴の中
目が見えない状態と等しい条件で妖怪を退治しなければならないのである
しかし…
(あかねさんの炎は飛行するための氷を溶かしかねない…でもひかりちゃんの雷は明るくできるのは一瞬だし制御しきれないから私まで巻き込まれて…)
そこまで考えていると
「…あの、しずく様…もしかして、この中で戦う光りが足りない感じでしょうか?」
流れでついてきてしまっていたいろはがそう聞いてきた
「うん…流石に何も見えない状態じゃ、みらいさんも助けられないし…他の巫女も呼ぶしか…」
「それなら、私に手伝わせてください」
いろはは胸をポンと叩く
そして…
「わっ!」
大きな声を出すと穴の中で音が反響する
そして…
「居ました…ここから50メートル下…穴は更に奥がありますが、途中で止まってます。糸のようなものが張り巡らされていて…恐らくクモの巣があるようです」
「み、みえるの!?」
「いえ…聞こえるんです。私は歌…つまりは音の巫女、音の反射で物体や人の有無を聞くことができます。そして、音が反響する場所であれば…そこは私のテリトリーです」
そう言うといろははしずくの手を握る
「しずく様のお友だちは…必ず救います!」
そう宣言したいろはは、あのオドオドしていた姿からはかけ離れていた
それを見たしずくは小さく笑う
誰かを助けるためなら強くなれる
彼女も立派な巫女であると
「…あの…はじめましてっすけど…みらい先輩のことをお願いします! ウチ…本当に…なにも…出来なくて…」
ひかりはいろはにそう言いながら涙を流す
そんなひかりにいろははニコリと笑う
「はい…あっ、一つお願いをしていいですか?」
そう言うといろはは自分の服に付いている鈴の一つを取り外す
そしてそれをひかりに渡した
「音が反射していれば私は常にこの穴全体を見ることができます。だから、ここから鈴を鳴らし続けてください。あなたがみさい様を救うためにできることはあるんですよ」
そう言い、しずくの方を向く
「行きましょう、しずく様!」
いろはの背中を見ながらひかりは涙を拭う
そんな二人の巫女を見たしずくは少しだけ目を閉じ、そして開く
「うん、行こう!」
「じゃあ、私が合図するところまでは一気に落ちて…」
「いろはちゃんの合図で足場を作って浮かせるね」
いろはは頷き、しずくはいろはの手を強く握り直す
そして、二人は大穴に飛び込む
穴の中にはひかりが奏でる鈴の音が反響していた
「今です、しずく様!」
その言葉を合図にしずくは氷の塊を作りいろはを抱きながら着地する
そして次の瞬間、周りから何かの糸が揺れるような音がする
周りには暗闇しか無く、流石のしずくも冷や汗を流す
しかしいろはは冷静だった
「すぅ…」
いろはは大きく息を吸い込むと、次の瞬間隣りにいるしずくが驚くほどの高音の声を発した
「っ!?」
思わずしずくも耳をふさぐ
しかしその音はすぐに止む
手を繋いでいるしずくにはまだいろはが何かを発しているのは伝わるがもうその「歌」はしずくには届いていなかった
「〜〜〜♪ 〜〜〜♫」
しばらくすると、何かが切れる音と何かが落ちる音が響く
そして…
「…しずく様、もう少し右に寄れますか?」
「え? う、うん」
いろはの指示に従い氷の塊を少し移動させると、不意にいろはがしずくの手を離す
そして…
「みらい様」
「…助かったわ」
暗闇の中でみらいの声が聞こえた
それを聞いたしずくは一人困惑する
「え? え? …もしかして、もう終わってた?」
「はい、言ったじゃないですか。音の反響する場所は私のテリトリーですって」
自信満々のいろはの声にしずくは苦笑いする
その後3人は氷に乗りながら地上へ戻るのだった
地上につくとすぐにひかりがみらいに抱き着き、みらいは「暑苦しい…」と迷惑そうにする。他の4人はそれを微笑ましく見守るのだった
「い、一体どうやって倒したの?」
真っ暗で何も見えていなかったしずくは地上に戻り落ち着いた後でいろはに聞く
するといろはは少し照れたような笑い方をする
「超高音の声を発したんです。それで妖怪の足を切り落としました」
詰まるところ、ソニックブームのようなものだろうか
流石のしずくも驚かずにはいられなかった
「ま、待って…歌声って…そんな事まで出来るの!?」
「はい、あまり連発すると声が枯れてしまう諸刃の剣ですが…あの環境であれば簡単です」
そう言ういろはにしずくはまた苦笑いする
この子はなぜあんなに自信なさそうだったのか…なんて思っていると
「いろは先輩! ありがとうっす! いろは先輩のお陰でみらい先輩が助かったっす!」
「はひぃ!?」
ひかりに声をかけられた瞬間いろははしずくの後ろに隠れる
「や、やっぱり恥ずかしいですぅ…」
「あ、あはは…」
あの環境
真っ暗で人の目に付かない音の反響する場所
それが彼女にとって最も向いていた理由は…人前ではない状態で歌えたからだったのかもしれない
なんて思っていると
「…さて、しずく。来るわ」
みらいがそう呟く
しずくは黙って頷くと片手を上げた
それを見たいろはとひかりは首を傾げる
「あ、あの?」
ひかりが言葉を発する寸前、いろはが顔を青ざめさせる
次の瞬間、大蜘蛛が穴から飛び出してきた
「しまっ…もう復活して…!?」
「大丈夫、凍らせて…」
氷を生み出そうとするしずくの肩をあかねが叩く
それをみたしずくは手を下ろした
「し、しずく様?」
攻撃の体制を解除したしずくにいろはが疑問の目を向ける
するとしずくは苦笑いする
「少し良いところ見せようと思ったけど…あかねさんが少し溜まってたみたいだから」
「ボクの仲間と後輩を傷付けた恨み! 晴らさせてもらうぜ!!」
瞬間、まるで太陽が2つになった様な火の塊が地面に落ちる
熱をまとった砂埃が舞い、吹き荒れ、しずくは慌てて氷の壁を作りあかね以外を包み込む
それでも氷の壁は溶け、そして砂埃が止んだ後にはまだ赤く火が燻る地面が残っているだけだった
「たぶん、今回不甲斐なさを一番に感じてたのは…あかねさんだったんだね」
大蜘蛛を札に封印しているあかねを見ながらしずくがそう言った
こうして、みらい救出作戦は幕を閉じたのであった
数日後
「〜〜〜♪」
巫女寺子屋にいろはの歌声が響く
しずくはそれを聞きながら水を飲んでいた
「やっぱりいろはちゃんの歌はうまいなぁ…」
「えへ、う、嬉しいです…」
すっかり仲良くなった2人はたまに部屋で遊ぶようになっていた
「せっかく可愛くて歌もうまいんだからもっと自信持てばいいのに」
「で、でも恥ずかしいですし…」
目を><の形にしながら顔を赤くするいろはに苦笑いするしずく
この間からずっと苦笑いしている気がする
そして、少しだけ気に買っていたことを聞く事にする
「そう言えば…いろはちゃん、この前大穴で戦った時に気になったことがあったんだけど…」
「なんですか?」
「あの時、ひかりちゃんに鈴を鳴らさせてたけど…服にもいっぱい付いてるよね、服についてる鈴の音でなんとかならなかったの?」
「なりましたよ」
あっさりと答えるいろはにしずくは驚いた顔をする
「でも、ひかり様にも「出来る事」を与えてあげたかったんです。だって何もできなかったなんて…嫌じゃないですか」
そう笑ういろはにしずくは笑顔を返す
「やっぱり、いろはちゃんも立派な巫女だね」
続く