第7話
「一緒に妖怪退治してほしいっす!」
ひかりがそう訴えてきたのはしずく達が巫女寺子屋にやって来てから7日目のことだった
「そう言えば、巫女通貨持ってないんだったね」
「よく一週間の間暮らせたものね」
ソフトクリームを食べながら話を聞くしずくとみらいにひかりはちらりと横を見る
その、ひかりの横にいたあかねは首を傾げた
「あかね先輩が毎日食事は作ってくれたんで…」
「女子力!!」
「巫女は代々女子力を犠牲に巫力を手にすると言われているのに…例外がいるなんて…」
「しずくもみらいも何言ってんだ?」
目を丸くするしずくと無表情ながらも驚くみらいにあかねが呆れながらツッコミを入れた
「とにかく今はお金が欲しいっす…いつまでもあかね先輩に頼るわけには行きませんし…」
「それで、どんな妖怪を倒しに行くの?」
しずくが首を傾げながら聞くとあかねが代わりに手配書を見せた
「これが今回のターゲットの人面魚だ。ひかりの雷と相性もいいし、最悪しずくなら凍らせることができるしな」
「!?」
「…」
人面魚の手配書を見たしずくが凍りついたかのように動きを止め、みらいがその様子を見て助け舟を出す
「正直、そのレベルなら私やしずくは必要ないと思うのだけれど」
「念には念をと思ってな。最悪の未来もみらいがいれば回避できるだろうしな」
ドヤ顔をするあかねにみらいはため息を吐く
「…残念ながらもう最悪の未来に足を踏み込んでるのよね」
「え?」
あかねが首を傾げるとしずくが涙目になって呟くように口を開けた
「お、お魚は、その、なんか苦手で…」
「何でだよ!?」
「まぁ、苦手なものなんて誰にでもあるものよ。で、どうするの、3人で行く?」
みらいの言葉にしずくとあかねがうーん、と悩む
するとしずくの懐にしまってあった札が光り、中から氷狐が飛び出す
「魚の妖怪もたくさんいるんだから、逃げてたら立派な巫女になれないよ。という事で強制参加だね」
「え、えぇ〜!?」
「式神に言われてていいのか、しずく…」
「それじゃあ決まりね。ひかりもそれでいいかしら?」
「う、ウチは手伝って貰う立場だから…しずく先輩、なんかすいませんっす…」
こうして4人は近頃人面魚が目撃されているという川に行くこととなった
「で、それがこの川か」
都会のド真ん中にある汚水が流れ込む川にあかねが覗き込みながら言う
その横でみらいが顔をしかめる
「臭いわね…いままで都会の川を見ることがなかったからこんなにひどいとは思わなかったわ」
川というよりは堀に作られた溝や下水のようにも見えるそれを見ながら言うみらいにひかりは素朴な疑問をぶつける
「みらい先輩って何処出身なんすか?」
「…」
「ノーコメントらしいぞ。多分ド…」
「ド田舎じゃないわよ…たぶん」
(その割には未来予知までして否定するあたり気にしてたか…)
なんてやり取りをしていると
「きゃあ!?」
「しずく!?」
「もしかして、妖怪っすか!?」
悲鳴を上げるしずくにあかねとひかりが駆け寄る
するとしずくは涙目になりながら川を指さす
そのには大量の魚が群れで泳いでいた
「き、気持ち悪い〜!」
「ほ、ほんとに魚が苦手なんすね…」
「てか、妖怪は平気なのに何であれがダメなんだよ」
呆れるあかねとひかり
と、そこでみらいが何かを感じ取る
「どうやらこっちよ、みんな、ついてきて」
「はいっす!」
移動を始めるみらいにクーラーボックスを持ったひかりが付いて行く
「ところで、さっきから気になってるんだけど…それ、なんだ? まさか人面魚を捕獲しようとか考えてるんじゃないだろうな?」
「あ、これは違うっすよ。式神のウナちゃんが入ってるっす」
「…そ、そうか」
あかねはこれ以上のツッコミが面倒になったのか、震えているしずくの服を掴んで引きずりながらみらいの後を追う
そして…
「ここに現れるわ。問題は…どうやってこの下の川にいる人面魚を倒すかね」
川の横にある道からは数メートル下に流れる汚水の川
作り上、水の無い場所が無く、下へ降り立つのは不可能そうだ
「絶対入りたくはないし…しずく、水面を凍らせられないのか?」
「やれるけど魚が…」
涙目で震えているしずくの懐から再び氷狐が飛び出し、しずくを川へ突き落とす
「きゃあ!?」
しずくはとっさに川を凍らせ着地すると氷狐を睨んだ
「流石にいまのはひどくない!?」
「みんな、これで着地できるけどあかねは一応上に残ったほうがいいんじゃない? 足場溶けると困るし」
「聞いてないし!」
自分を無視する氷狐に怒るしずくの隣に飛び降りるひかりとみらい
さらに氷狐へ文句を言い続けるしずくの横でみらいがそれを察知する
「来るわ」
「は、はいっす!」
「!」
しずくもようやく戦闘態勢を取り、ひかりも身構える
すると氷を突き破り人の顔そっくりの魚が氷の上に飛び出してきた
「き、気持ち悪い!」
「流石にこれは私から見ても気持ち悪いわね」
しずくは鳥肌を立てながら自分の体を抱きしめるように手で覆い、大声で拒否をする
その隣でみらいも珍しく顔を歪ませていた
しかし
「…そうっすか? キモかわいい気がするっすけど」
ひかりはむしろ気に入っているようだ
「お前ら、一応現代妖怪だぞ! 油断するな!」
川の上の道からあかねが叫ぶと同時にひかりに人面魚が飛びかかる
すると、次の瞬間ひかりの指先に雷が落ちた
「行くよ! 雷撃!!!」
「…え?」
「なんか…」
「…」
そして指先から雷が倍増した状態で放たれる
それを見たしずくとあかねが目を点にして驚き、みらいは無表情でひかりを見る
「お、おお…一番弱い術でもなんとかなるものっすね」
「え、ひ、ひかりちゃん…いまのが一番弱いの?」
消し炭と化した人面魚がみらいの札で封印されている横でまだ唖然とするしずくが聞く
ひかりはえへへ、と頬を掻く
「そうっすよ。いやあ…先輩方の前でこんな弱い技で恥ずかしいっす」
(中級術くらいの威力はあったんですけど!?)
しかし、先輩の威厳を保ちたいのか、しずくもあかねもそのツッコミは口にはしなかった
口にはしなかったがひかりを怒らせてはいけないということだけは学習した
「というわけで、今日は初任給が入ったお祝いっす! 好きなだけお肉を食べてほしいっす!」
ひかりの部屋に集まった4人の前に並ぶ大量のお肉
「こんなに買ってまたすぐ巫女通貨無くなるぞ」
「こ、今回だけっすから」
あかねのツッコミに苦笑いするひかり
「でもあの強さなら次からは1人でも妖怪退治できそうだね」
「えへ、そうっすかね?」
嬉しそうに照れるひかり
その横でみらいがホットプレートに箸を伸ばす
「…あ、これもういいわね」
「おい、みらい、それボクが焼いてた肉だぞ!」
そして始まる肉争奪戦
そこでしずくがふと気づく
「そう言えば飲み物ないね。私の部屋からお茶持ってこようか?」
「それなら、いまから買ってくるっすよ。コーラとお茶と水があればいいっすよね?」
「ホント無駄遣いばかりダメだよ?」
しずくは心配そうにそう言うが「大丈夫!」とひかりは部屋を出ていってしまった
それを眺める3人
肉の焼ける音とウナちゃんの水槽の泡の音だけがしばらく流れる
「とりあえず、焼けた肉キープしておいてあげるか」
「そうだね、主役はひかりちゃんだし」
と、あかねとしずくが肉に手を伸ばしたタイミングで
「…あ」
みらいが何かを視る
同時にあかねのスマホが震えた
「ん、ひかりからだ、コーラ売り切れてたとかか?」
そして電話に出ると
「せ、先輩〜、巫女通貨、残高足りないっす〜…たすけて…」
情けないひかりの声がスマホから漏れ出した
「残高の確認くらいしろ!」
ひかりの金欠問題が解決するのはもうしばらく先になりそうだ
続く