イースタルの片隅で   作:ありさかいずも

15 / 16
贋作

贋作

 

 ある日、タキはソノハラ卿に呼ばれ、城館を訪れていた。

 城館の応接室には、ソノハラ卿と数人の職人がいた。

 鍛冶屋、木工職人、弓職人。

 その全員の視線が、タキの肩に掛けられた長銃に向けられていた。

 

「その武器を、領内で再現できぬかと思ってな」

 ソノハラ卿は、静かな声でそう切り出した。

 

 タキはすぐには答えなかった。

 村田銃を肩から外し、膝の上に置く。

 

「…戦に使うんは、あかん」

 短い言葉だった。

 

 ソノハラ卿は、目を細めた。

 

「その理由を聞いてもよいか」

 

「これは、獣を獲るもんや。あと、村を守るもんや。人を撃つために増やすんは、あかん」

 

 部屋の中が静かになった。

 職人たちは、青ざめた表情で顔を見合わせた。

 ソノハラ卿だけが、穏やかに小さく頷いた。

 

「ならば、こう定めよう」

 

 卿は机の上に置かれていた羊皮紙を引き寄せた。

 

「この武器は、ソノハラの門外不出の武具とする。使用は領内に限る。狩猟に用いる場合も、領内の山に限る。戦に用いることを禁じる。ただし、水門市および周辺村落を守る防衛戦においては、この限りではない」

 

 タキはしばらく考えた。

 

 外に出さないこと、戦に使わないこと、街を守る時だけ使うこと。

 難しい言い回しは半分ほどしか分からなかったが、それだけは分かった。

 

「…それなら、ええ」

 タキはそう言った。

 

          *

 

 しかし、再現は難しかった。

 鍛冶屋は銃身を見て唸り、弓職人は機構を見て首をひねり、木工職人は銃床の形を写そうとして手を止めた。

 

【挿絵表示】

 

「形だけなら作れんこともない」

 鍛冶屋の親方は言った。

 

「だが、これは筒の中で何かを弾き出す道具だ。仕組みは分かる。だが、同じようには動かん」

 

 試しに作られたものは、どれも中途半端だった。

 長い筒を持つ重いクロスボウ。

 火薬を使おうとしても、弾はまともに飛ばない。

 金具は歪み、薬室は火に耐えず、銃床は反動を受け止められない。

 何より、タキの村田銃にある"確かさ"がなかった。

 

 タキはそれらを見て、首を横に振った。

 

「…違う」

 

「どこが違う?」

 職人が問う。

 

 タキは困った顔をした。

 

「分からん。けど、違う」

 

 それ以上は、うまく説明できなかった。

 

 翌日、噂を聞いて、一人の男が名乗り出てきた。

 職人街の端に住む、痩せた男だった。

 男は〈贋作師〉で、骨董品や名の知れた武具などを本物らしく複製することを生業にしていた。

 

「本物を作るのではありません」

 男は、タキの村田銃を前にして言った。

 

「本物に似たものを、贋作として写すのです」

 

 その言い方に、鍛冶屋たちは渋い顔をした。

 だが、ソノハラ卿は止めなかった。

 

「やってみよ」

 

 男は村田銃を手に取り、長い時間かけてながめた。

 銃身や照星、使い込まれた木の艶。

 複雑な形状のボルトと薬室。

 指先でなぞるように触れながら、何度も角度を変えた。

 

 彼は寸法を測り、紙に写し、工具を並べた。

 やがて、手をかざすと、淡い光とともに一本の銃ができあがった。

 

 でき上がったそれは、よく似た形をしていた。

 長い銃身と木の銃床、使い込まれたような金具。

 だが、タキは一目見て言った。

 

「うちのとは違う」

 

 贋作師は苦笑した。

 

「もちろんです。これは贋作ですから」

 

 鑑定の文字には、こう出ていた。

 

 《贋作・村田銃》

 武器レベル二十五。

 

 彼の贋作師としてのレベルは五十。

 写し取れたのは、本物のせいぜい半分だった。

 しかも、それは外形と武器の一部性能に限られていた。

 

 原型が持つ、現実の銃の射程や弾丸の威力までは写せなかったのである。

 贋作は、あくまでシステムの中にある武器だった。

 

 それでも、既存のクロスボウより威力があった。

 的を捉えやすい。

 単発の装填も、慣れれば速かった。

 

 その後、複製銃の試射が行われた。

 訓練場で衛兵が撃つと、的にした鎧に大きな穴が空いた。

 白煙が広がり、重い音が城館の壁を震わせた。

 

 衛兵たちは驚き、鍛冶屋たちは顔を見合わせた。

 ソノハラ卿は、しばらく的を見つめていた。

 

「十分だ」

 

 タキは何も言わなかった。

 

 十分。

 たぶん、そうなのだろうと思っただけだった。

 

          *

 

 複製銃は、ソノハラ卿の命によって門外不出とされた。

 領外への持ち出しを禁ずる。

 売買を禁ずる。

 譲渡を禁ずる。

 使用は、ソノハラ領内の狩猟と防衛に限る。

 

 銃は領主館の武器庫で管理された。

 弾丸もまた、領の管理下に置かれた。

 

 だが、その銃が領内の猟師たちに広まることはなかった。

 理由は簡単だった。

 

 一発撃てば、山の獣は散る。

 白煙は目にしみ、火薬の匂いは鼻に残る。

 弾丸は矢のように拾って使い回すこともできない。

 

 猟師たちは結局、使い慣れた短弓を手放さなかった。

 

「あんなもん、毎度山で撃っとったら、鹿も猪も寄りつかんようになる」

 ある猟師はそう言った。

 

 ルソーラ猟兵団にも、正式な貸与は認められなかった。

 彼らは衛兵ではなく、狩猟のために使うわけでもないのだ。

 もっとも、猟兵団の側も欲しがらなかった。

 

「あれは駄目だ。轟音がひどいし、目が痛い」

 メドヴェはそう言って、鼻を鳴らした。

 

「それに、撃った場所がすぐ分かる。山で使う武器じゃねえ」

 

 タキも、それには頷いた。

 

「せやな」

 

 自分の村田銃は山で使う。

 だが、誰にでも向く道具ではなかった。

 

 ただし、防衛用としては話が違った。

 城壁の上から撃つ。

 水門の通路に並んで撃つ。

 門前へ押し寄せる魔物の群れに向けて、衛兵が横一列に構えて斉射する。

 

 そういった使い方であれば、贋作銃はクロスボウよりもずっと頼りになった。

 

 狙いはつけやすい。

 重い弾丸は、厚い毛皮や金属の鎧を破壊した。

 訓練を受けた衛兵なら、装填もクロスボウよりずっと速い。

 白煙も轟音も、城壁の上では欠点になりにくい。

 むしろ、魔物の群れを怯ませるには都合がよかった。

 

 村田銃の複製は、猟師の道具にはならなかった。

 それらは、街を守るための武器として、水門市の武器庫に収められた。




用語
〈贋作師〉:原作かTRPG版かはわかりませんが、職業名だけ存在するサブ職業です。ここでは、複製したアイテムのレベルや価値を、〈贋作師〉レベル/100としています。ただし、本物と同等の複製や、本物を超えることはないと考えます。ですので、最高でも99%までです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。