イースタルの片隅で   作:ありさかいずも

16 / 16
冬支度

 木々が葉を落とし始める頃。

 冬の気配は、日を追うごとに色濃くなっていった。

 

 タキは小屋の脇で、薪を積んでいた。

 祖父がやっていた手順を思い出しながら、薪を一本ずつ積んでいく。

 

【挿絵表示】

 

「よお。積んどるなあ」

 

 振り返ると、村の木こりが薪束を背負って立っていた。

 

「まだ足らんと思う」

 

 タキは薪の山を見た。

 

「この小屋、隙間多いし。夜、冷えるさけ」

 

「そりゃそうだ。山の冬は甘くねえ」

 

 木こりは笑い、背負っていた薪束を軒先に下ろした。

 

「余りもんだ。持ってけ」

 

「ええの?」

 

「この前の干し魚の礼だ」

 

「おおきに」

 

 タキは短く頭を下げた。

 

 木こりは小屋の屋根を見上げ、少し眉をひそめる。

 

「屋根、右の端が浮いてるな。雪が積もったら、そこから漏るぞ」

 

 タキも見上げた。

 確かに、芝を張った屋根の端が少し浮いていた。

 

「あとで直す」

 

「ひとりでやるなよ。梯子が滑る」

 

「ほな、頼むわ」

 

「おう」

 

 それだけ言って、木こりは村の方へ戻っていった。

 

 

 昼前、村の老婆がやって来た。

 背中の籠には、大根に似た根菜と、乾かした山菜が入っている。

 

「タキや、これ持っていき」

 

「ええの?」

 

「あんた、この前、鹿分けてくれたじゃろ」

 

「おおきに」

 

 タキは籠を受け取ると、代わりに岩魚を二匹、熊笹に包んで渡した。

 老婆は嬉しそうに笑う。

 

「冬前は、何でも蓄えておくもんじゃ」

 

「うん」

 

「山の子なら、分かるじゃろ」

 

 その言葉に、タキは少しだけ目を伏せた。

 

          *

 

  午後になると、水門市から荷駄が上がってきた。

 塩、布、油、鉄釘。領主館から村々へ回す、冬越しの物資だという。

 

 荷を運んでいた若い猟兵が、タキの小屋の前で足を止めた。

 

「ここにも置いていけと言われてる」

 

「うちにも?」

 

「ソノハラ卿からだ。山の狩人には、冬に働いてもらうこともあるだろう、とのことだ」

 

 若い猟兵は、少し困ったように笑った。

 

「受け取ってくれ。持って帰ると、俺が怒られる」

 

 タキは包みを解いた。

 塩と油紙に包まれた釘。

 それに、厚手の布。

 

「…おおきに」

 

 ゆっくり頭を下げる。

 

「礼なら卿に言ってくれ」

 

「うん。でも、運んでくれたんは、あんたやろ」

 

 猟兵は目を丸くし、それから照れたように鼻の下をこすった。

 

「まあ、そうだな」

 

 荷駄が去ると、山道に静けさが戻った。

 

 高価なものではなかったが、日々の生活には必要なものだ。

 

          *

 

 夕方、木こりが再びやって来た。

 

 約束通り、梯子を担いでいる。

 屋根の端を押さえ、板を直して留め直した。

 

「これでしばらくは持つだろ」

 

「助かった」

 

「雪が本格的に来る前に、もう一度見るぞ」

 

「うん」

 

 木こりは屋根から下りると、手に付いた木くずを払った。

 

「火、焚いてるか?」

 

「今から」

 

「なら、少しあたらせてもらう」

 

 タキは小さく頷き、小屋の前で火を起こした。

 鍋に水を張り、根菜と干し肉を入れる。

 弱い火でじっくり温めると、湯気が白く立ち上った。

 

 木こりは椀を受け取り、ひと口すすった。

 

「…うまいな」

 

「干し肉、よう出汁が出る」

 

「これを食うと、もう前の飯には戻れんな」

 

 木こりはそう言って笑った。

 

 タキも椀を両手で包み、一口ずつ飲む。

 根菜の甘みと干し肉の塩気。

 寒い日の汁物は、それだけで体が温まる。

 

 木こりはしばらく火にあたっていたが、やがて腰を上げた。

 

「道、気ぃつけて」

 

「お前もな。夜中、妙な音がしても出るなよ」

 

「分かっとる」

 

「本当か?」

 

「たぶん」

 

 木こりは呆れたように笑い、手を振って村へ下りていった。

 

          *

 

 日が落ちると、冷え込みが厳しくなった。

 

 タキは火の始末をし、軒下の薪をもう一度見た。

 

 屋根も直した。 

 小屋の隙間には粘土を詰めた。

 

 戸を閉め、炉端に座る。

 ぱち、と薪が爆ぜた。

 

 元の世界への思いは、確かにあった。

 だが、まずこの世界で生きることが先決だった。

 

 明日の朝は、また薪を割らなければならない。

 沢の様子も気になる。

 生活に追われ、考えている余裕はなかった。

 

 タキは膝を抱え、囲炉裏の火を見つめた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

神ゲーなのに、今日も釣り日和(作者:ひよこ大福)(原作:シャングリラ・フロンティア)

幼馴染の一言をきっかけに始めた神ゲー――シャングリラ・フロンティア。▼だが幼馴染の朝倉湊の目的は攻略ではなく、暮らすこと。▼採取、釣り、料理、調薬。戦闘は最低限。▼のんびり過ごすはずだったゲーム世界は、気づけば少しずつ広がっていく。▼最前線を走る幼馴染の裏で、マイペースに遊ぶもう一人の物語。▼これは《えびす天丼》のスローな冒険記。


総合評価:445/評価:7.11/連載:41話/更新日時:2026年05月29日(金) 15:00 小説情報

転生バドは勝利を夢見る(作者:ぶーく・ぶくぶく)(原作:機動警察パトレイバー)

※本作は作者が読みたい原作改変を自給自足する趣味作です。感想や考察はありがたく拝見しますが、展開は作者の予定と趣味を優先して進めます。▼オタクの夢見る転生もの。▼リアルっぽい世界でインドで人買いに攫われて外れかと思ったら、ボク、バドリナード・ハルチャンドやん!▼グリフォン乗れるやん!▼ならアルフォンスに勝たなあかん。▼原作通りなんてつまらない。▼性能は勝って…


総合評価:899/評価:6.95/連載:47話/更新日時:2026年08月01日(土) 05:00 小説情報

ようこそ財力至上主義の教室へ(作者:ウメSUN)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

金で買えないものはない......少なくとも、この高度育成高等学校では。▼金に強い固執を持つ少女、辰見鱗(たつみ りん)。彼女は龍園率いるCクラスと共に、プライベートポイントを以て、この学校を攻略し、8億ポイントを目指していく。


総合評価:1572/評価:8.32/連載:16話/更新日時:2026年07月12日(日) 18:29 小説情報

忍の世界とか割と詰みである(作者:こうすけ増田劇場版)(原作:NARUTO)

面白いからを理由に転生させられる極々普通の転生者の話。▼それはそうとこの世界線、アニナルっぽいので割と手厳しいと言うかNARUTOの世界ってチートを貰ってようが普通に厳しくね?な話▼ヒロイン?最終回発情期とかあるし息子世代の話もあるし、まぁ、500話以上あるアニナルを見てどうすんか考えるっぺ。


総合評価:5527/評価:6.87/連載:52話/更新日時:2026年07月30日(木) 20:57 小説情報

鋼は錬金術師(作者:むつきばな)(原作:魔法科高校の劣等生)

▼十三束 鋼。▼いまの俺の名前だ。▼どうやら魔法科高校の劣等生の世界に憑依転生してしまったらしい。▼お兄様がヒャッハーする世界で生きてくとかマジで嫌なんだけど…。▼まぁ、転生してしまったのだから仕方ないか。▼


総合評価:12762/評価:8.11/連載:19話/更新日時:2026年06月30日(火) 00:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>