タキは、城館の厨房を訪れていた。
ソノハラ卿から依頼された、使用人への料理指導のためである。
〈狩人〉の制約のため、屋内での調理が行えなかったが、料理の方法を伝えることはできた。
「火ぃは強うせんでいい。時間かけて…ゆっくり…」
季節の野菜と鹿肉が、大鍋の中でコトコトと煮込まれる。
大地人たちは、空腹を誘うその香りと、深い出汁の味わいに驚くばかりだった。
ソノハラ卿は、その様子を満足げに見つめていた。
数日が過ぎ、領主は再びタキを呼んだ。
「礼をさせて欲しい」
「いらへん。当たり前のこと教えただけやけ」
差し出された金貨を、タキは首を振って拒んだ。
「欲がないな…では、何を望む?」
タキは少し考え、
「鍛冶屋と、調剤師、紹介してくれはる?」
領主は頷いた。
「それくらい、容易いものだ」
卿は紹介状をしたため、せめてもの礼だと言って、化け猪の牙と毛皮をタキに押し付けた。
城館を後にしたタキは、紹介状を片手に、水門を流れる川沿いにある職人街に向かった。
まずは、熱気と騒音に包まれた〈鍛冶屋〉を訪れた。
熟練の職人は、作業台に置かれた一発の弾丸を、不思議そうに見つめた。
「…こんなもの、初めて見る。この筒も、先の丸い塊も」
タキは、銅塊と鉛を並べて言った。
「これが材料や」
「この銅の筒が薬莢。鉛は弾頭に。この通りに作ってほしいんや」
「…やってみるか。理屈はわかった。銅は叩き出し、鉛は鋳る。形があるなら、造れないこともないだろう」
鍛冶屋はしばし唸っていたが、タキが渡した薬莢と弾頭の寸法を測ると、腹を括ったように頷いた。
金床を叩く音が、鍛冶場に響きだした。
次に向かったのは、薄暗い棚に無数の瓶が並ぶ〈調剤師〉の店だった。
タキは調剤師に、おがくずと硫黄、そして硝石の粉末を渡した。
「これを混ぜ合わせてほしいんや」
〈調剤師〉は未知の配合を前に、眼鏡の奥の目を細めた。
「褐色火薬…ですか。薬ではなさそうですね」
「武器に使うもんや。熱で爆(は)ぜるさけ、気ぃつけてな」
調剤師は半信半疑ながらも、薬秤を使って、慎重に粉末を計る。
「素材と完成品が判るなら、あとは混ぜ合わせるだけのこと」
すり鉢の中の素材が、光とともに混ざり合い、褐色の粒が残った。
「未知の薬品か…ふむ、レシピにない物ができるとは、面白い」
数刻後。
それぞれの職人の手から、完成した素材が手渡された。
タキは、素材の入った木箱を抱えて、宿に戻った。
ここ数日、タキが泊まっている質素な宿。
家具は、簡素なベッドと、座り心地の悪い椅子。
それだけの部屋だったが、テーブルだけは少し広かった。
大地人たちが作成した薬莢、鈍く光る鉛の弾頭。そして、爆発力を秘めた褐色の丸薬。
タキは、それらをテーブルに並べた。
そして、スキル名を呟く。
「ハンドローディング」
素材が一瞬光る。
弾丸を作り出す、〈ライフルクロスボウ〉に付随する特殊スキル。
ライフルクロスボウが「ネタ武器」扱いされた理由の一つが、この妙に凝った仕様である。
「…できた」
光が消えると、テーブルの上に弾丸が並んでいた。
村田銃を手に取ると、ボルトを引いて、真新しい弾丸を試してみる。
弾丸は今までのものと同じように、薬室に収まった。
タキは銃を横に倒して弾丸を取り出した。
そして、テーブルに並んだ弾丸と一緒に、ベルトポーチに仕舞いこんだ。
用語
・褐色火薬:黒色火薬を改良したライフル用の火薬。
・ハンドローディング:本来は薬莢、雷管、火薬、弾頭を組み合わせ、手作業で弾丸を製作する作業。