太陽と月は同時に存在する事はない。それが世界の常識
しかし、この世界では違う。太陽の女神『天照』と月の女神『月詠』の2柱の神がいるこの小さな世界『
そんな世界に異世界から来訪者がやってきた
「うん?」
「あら?」
天照と月詠は来訪者の気配を察知し、その場所に向かうとそこにいた者の正体に驚く
「おいおい、これはどういう事だ?」
「どうして・・・いえ、それよりもどうやってこの場所に?」
目の前にいるのは生まれたばかりの赤子だった。色々とわからない事はあるが赤子をこのまま放置するわけにはいかないため2人は赤子を抱きかかえて城へと帰還した
※※※※※
自室に戻り、天照は赤子を抱きかかえ、月詠は赤子の体を調べると何か分かったのか保管庫に行き、いくつかの書物を持って帰ってきた
「何か分かったか?」
「えぇ、この子は龍人族の子よ」
「龍人族?鬼人みたいな人の姿をした龍ってことか?」
天照の言葉に月詠は首を横に振り、書物を開く
「いいえ、龍人族とは体の中に龍の魂を宿し、その力を行使する事が出来、龍と会話をする事が出来る唯一の種族です。しかし、この赤子の場合は少し・・・いいえ、かなり特殊なようです」
「特殊?・・・はっ!もしかして忌み子として捨てられたとか!?」
一族の風習などではよくある事であり、そんな光景を何度も見てきた天照は悲しそうな表情をする
「忌み子の方がマシだと思えるほどに特殊よ。天照、その子の体の内部を感じ取ってみなさい」
「お、おう」
月詠に言われた通り、赤子の内部の気配を探る
「・・・っ!」
神でありながら天照は一瞬、赤子から底知れない恐怖のどん底に引き摺り込まれる感覚が全身に電流のように走った
「おいおい、今まで気づかなかったけど物凄い異質な力を秘めているぞ」
赤子の状態でここまで異質な力を持っているとなると、成長した時にこの力がどこまで増大するのか神ですら想像出来ず冷や汗をかく
「文献によるとこの子に宿っている龍は龍王と呼ばれる存在よ」
「龍王?龍の王って滅茶苦茶ヤバそうなんだけど」
「かつて火、水、風、雷、地、闇、光の7つの属性の頂点に立つ龍が最強の座を賭けて戦った
その戦いは一年近く続き、戦いによって周囲の環境は無茶苦茶になる程で、あと数日も戦いが続いていたら世界そのものが戦いの余波に耐えられずに崩壊していたと記録されているわ」
「龍が最強の生物であるっていうのは知っているが、戦うだけで世界が滅亡する危機になるなんてヤバすぎだろう。それで、その戦いは一体どうなったんだ?誰が勝ったんだ!?」
赤子の話だというのに天照は龍の頂上決戦の話に興味を持ち、続きを早く聞かせろと月詠に催促する
「戦いの果て、勝者となったのは暗黒龍ダークネスドラゴン
暗黒龍は勝利した後、戦いに敗れた6体の龍を喰らい、自らの力の糧とした事で龍と言う種族を超越した龍王と呼ばれる存在へと進化した
闇の正反対である光を吸収した事で光と闇の境界が混ざり合い、混沌へと進化し、更に混沌の中に5つの属性が加わった事で全てを終わらせる終焉を司る存在となった
その存在の名は混沌と終焉を司る龍王カオスエンド・オーバーロード」
「すげぇ・・・そんなすごい龍がいるなんて」
聞かされた龍王という存在が自分の想像以上の存在である事に天照は戦ってみたいと体が武者震いを起こす
「戦ってみたいという気持ちでいるところ悪いけどそれは無理よ」
「え?どうしてだ?」
「器が耐えられないのよ。いくら龍人族であったとしても1人の人間の体に龍王の魂が収まるはずがない
この子の体を見てみなさい。龍王の魂の影響が体に出ているわ」
月詠に言われるままに赤子をまじまじと見るが普通の人間の赤子と違いがない。髪色と瞳の色が左右で違うのは珍しいが気にするほどの事ではないと思う
「普通の赤子に見えるが?」
「その普通が異常なのよ。この子の体は人の形をしているけど中身は既に龍と遜色ないほどに変化している
髪の色が左半分が黒、右半分が白いのも、左目が赤、右目が黄金色であるのは龍王の姿と一致している」
書物に書かれたページを天照に見せる
そこには今の赤子と同じように体の左右で鱗の違う龍王の絵が描いてあった
「おそらく他の龍人族の者がこの子が生まれてすぐに封印、最悪の場合は殺す事を考えているのを察知した龍王の魂が防衛本能としてこの場所に転移してきた。そう考えればこの世界にやってこれた事に説明が付く」
本来であれば2柱の内、どちらかが許可を出さなければ立ち入る事はできない場所だ
「この世界は本来、簡単に入れる場所ではない。けど、龍王となれば話は別よ」
龍王は混沌を司る。太陽と月という同時に存在しないものが存在するこの世界なら龍王が侵入する事は可能だ
「今は安定しているから侵食が進む事はないけど、いつまた不安定になるか分からないわ
このまま放置していれば侵食が進行して器が限界を迎えた時、私達がいるこの小さな世界なんて簡単に吹き飛ばせる程の大爆発が起きるわ」
月詠の説明を受けて天照は腕の中で眠っている赤子を危険因子として排除しなければならないの事に絶望する
神として危険因子は排除しなければならない。でも、善悪の区別が付かず、なんの罪も犯していない赤子を殺すのが果たして正しい事なのか理解できない。そんな天照の気持ちが赤子に伝わったのか赤子がぐずり始めた
「お、おい月詠!こういう時はどうすればいいんだ!?」
「子育てした事のない私がわかるわけないでしょう!?えっと、こういう時は子守歌かしら?と、とりあえず育児の本を探してこないと」
2柱の神が赤子をあやそうと右往左往していると天照は部屋の中にある琴が目に入る
「あ、月詠の琴!琴の音色を聞かせれば落ち着いたりしないか?」
「ええっと・・・分からないけどとりあえずやってみる!」
上手く行く保証なんてないのに天照に促されるまま月詠は琴を弾く。琴の音が広がると赤子はピタリと泣きやみ、琴の方に視線を向ける。月詠がもう一度弾くとパァッ!と笑顔になり、無邪気に笑った
「お、月詠の琴が気に入ったようだぜ」
赤子を琴の隣に下ろすと赤子は琴を興味津々に覗き込む。その姿はどこにでもいる普通の赤子と変わらない
「・・・月詠、決めたよ。私はこの子を育てたいと思う」
「危険よ。暴走したらどうするの」
「させない。この子はまだ力の使い方を知らないだけだ
私達が力の正しい使い方を教える。力の危険性も教える。全部を教えて力を正しい方に使えるように私たちが導く。協力してくれた月詠」
天照は真っ直ぐに月詠の方を見る。月詠は小さくため息を吐く
「貴方がそうやって頼む時は自分の考えを絶対に譲らない時。私が何を言おうと無駄ね
良いわ。貴方の友人として私もこの子を育てるのに協力してあげる」
「ありが「ただし!」
天照の言葉を遮り月詠は人差し指を立てて天照の方に向ける
「月の女神として、この先の未来で危険だと判断した時は、分かっているわね」
「あぁ、それで良いよ月詠」
あえて言わなかったが天照は理解している
力を正しい方に向けたとしても危険な力である事には変わりない。もしもの時は世界を守る神として非情な決断を下さなければならない事も覚悟しなければならない事を
「じゃあ、まずはこの子の名前を決めないとな」
「考えはあるの?」
「おぅ!月詠の琴の音色が好きという事で琴音ってのはどうだ?」
「琴音・・・」
(琴には龍の名前がついた部位がある。龍との関係性がある名前にもなると考えればピッタリな名前かもしれない)
「思いつきで出た割には良い名前ね」
「だろう?」
得意げな顔をすると天照は琴音を抱き上げて月詠の横に腰を下ろす
2人は小指を琴音に近づけると琴音は天照の小指を右手、月詠の小指を左手で掴む
「太陽の女神『天照』と」
「月の女神『月詠』は」
「「貴方が生まれてきた事を祝福します」」
琴音が歩む未来が、どれほど温かく、そしてどれほど過酷なものになるのか
2人はまだ知らない