門を通った先は映像で見た枯れた森の中だった
「映像以上に酷い状況ね」
近くの枯れ木にそっと触れると、その部分に亀裂が走り粉々に砕け散った
「枯れたというよりは命そのものを吸い取られたみたい」
次に、地面に手を当てて龍気を流し込む
本来なら感じられるはずの地脈の気配は全く感じられなかった
「地脈のエネルギーが供給されなくなって森が死滅したってところかしら」
「カァァァ〜!」
不意に鴉の鳴き声が森の中に響く
空を見上げると一羽の鴉がこちらに向かって一直線に急降下してきた
琴音は右腕を差し出すと、鴉は三本の足でしっかりと掴みそのまま着地する
「お勤めご苦労様。八咫烏」
それはただの鴉ではない
天照の遣いである神獣の八咫烏だ
「琴音!あっち!あっち!」
翼を広げて行くべき方向を示す
「はいはい。あっちね」
「はいは一回!はいは一回!」
「了解しました」
琴音が苦笑すると八咫烏は腕から離れると体が大きく変化する
琴音はその背に乗って空へと舞い上がる
空から森を見下ろすと森の一角だけが不自然に枯れ落ちている
まるで、その一点から命を吸い上げられているかのようだった
「これが……歪みの影響なの?」
たった一つの歪みだけでここまで世界を侵食する。その異常さに思わず息を呑む
やがて森を抜け、海に出た。
しばらく海の上を進むと海面にぽっかりと開いた巨大な穴の上で八咫烏が静止した
「降りるぞ!降りるぞ!」
「いつでも行けるよ!」
警戒を強め、八咫烏と共に穴の中へと飛び込んだ
内部は異様な光景が広がっていた
周囲を囲むように海水が壁となり、どこから襲撃が来てもおかしくない
しかし、予想に反して何も起こらずに海の底へと到着した
八咫烏の背から降りて周囲を見渡す
そこには赤黒い塊が宙に浮いており、地面から無数の管のようなものが塊に接続されている
「見えますか?師匠、先生」
八咫烏は天照と五感を共有する事が可能で八咫烏が見ている光景は八咫烏の目を通して天照月詠界にいる二人にも届いており、天照達の言葉は八咫烏を通して琴音に伝える事も出来る
『あぁ、あれが原因だろうな』
『あの塊が“歪み“でしょう
地面から伸びている管はおそらく、地脈を吸い上げているようです。まずはあの管を切り離してください』
『油断はするなよ。歪みには自身を防衛するタイプもいる。まずは観察してみろ』
「はい」
琴音は龍葬を抜き、刀身に混沌の龍気を纏わせる
「まずは防衛タイプか見極める。龍閃衝」
混沌を纏った斬撃を衝撃波として飛ばすと龍閃衝は歪みと繋がる管を全て切断した
切断された管は地面に戻るとエネルギーの供給を失った歪みは形が歪み始め、それに同調するように周囲の海水の壁が音を立てて崩壊を始めた
「管は切断には成功しました!けど、この後は!?」
『八咫烏に乗って脱出しろ』
指示に従って八咫烏に飛び乗り、穴から脱出する
それと同時に海水の壁は完全崩壊して海水が一気に流れ込み、歪みは海底へと沈んだ
「……これで終わりですか?」
『歪みの完全消滅を確認した。任務完了だ琴音』
『お疲れ様です』
「はい……」
あまりにも呆気なく終わった
初任務は何事もなく終わった──はずだった
『帰還の門を開くから少し待っててくれ』
「分かりました」
通信が切れると琴音はふと森の方へと視線を向ける
「ねぇ、八咫烏。元の場所まで連れて行ってくれない?」
「何故だ!何故だ!」
「ちょっと気になる事があって……」
「分かった!分かった!」
八咫烏は琴音の気持ちを汲んで森へと戻る
森へと戻ると琴音は地面に手を当てると地脈は確かに戻っていた。流れも正常、循環にも異常はない
時間は掛かるがこの枯れ果てた森も再び緑豊かな森へと戻るだろう
(全てが元通りになった。なのに……何かがおかしい)
確かめてもなお、胸の奥底に残る拭いきれない違和感
「私じゃなくて龍王が反応している?」
龍は自然エネルギーを自らのエネルギーに変換している
つまり、自然の変化には一番敏感に反応できるとも言える。龍の頂点に立つ龍王が何かを警告しているのかもしれない
「一応、二人に報告しておけば問題ないよね……」
小さく呟き、二人なら言葉に出来ない違和感の正体を掴んでくれると自分に言い聞かせる
初任務は成功したが、何も終わっていないような、そんな嫌な予感だけが静かに残る結果になった