琴音が修行を続けていると、天照と月詠から呼び出しを受け、観測室へと向かった
「お呼びですか?師匠、先生」
「待ってたぞ琴音。ちょっとこれを見てくれ」
天照が空中に二つの画面を表示する。そこにはぬ数の数字の羅列が映し出されていた
「何の数字ですか?」
月詠が右側の画面を指差す
「こちらは、琴音が最初に訪れた世界から算出された観測値です
“歪み“が発生すると、このような数列として反応が現れます。私達はこの数値を検知したからこそ、貴女に調査を依頼しました」
続けて、左側の画面に視線を向ける
「そして、もう一つは……私達が消滅させた世界の観測値です」
琴音は二つの画面を見比べる
しかし数字は無秩序に並んでいるようにしか見えず、共通点はどこにもない
すると月詠は操作パネルに触れて表示範囲を拡張する
拡張された観測値の後半部分の数値が一致した
「っ……!」
琴音の表情が変わる
「貴女から“違和感があった“という報告を受け、通常より深く解析した結果です
極めて微弱ではありますがこの二つの世界は“同一の歪み”の影響を受けていた事が判明しました」
「それって……普通じゃないって事ですか?」
琴音の問いに天照が真剣な表情で答える
「普通じゃない
“歪み”っていうのは異世界の力と世界そのもののエネルギーが拒絶反応を起こした結果、生まれるもんだ。同じ数値になるなんて本来あり得ねぇ」
本来はあり得ないことが起きている。それはつまり……
「……誰かが意図的に引き起こしている可能性が高い」
その言葉に琴音の背筋が凍る
もし、誰かが歪みを意図的に操っているとしたら、それは神に匹敵する力を持った存在という事になる
しかも、観測を逃れるほど微弱な干渉量に調整しているとしたら──相手は“観測者“の存在すら把握している可能性もある
月詠は二つの画面を消し、新たな観測結果を表示する
「そして、この世界からも同じ数値が観測されました
そこに映る観測値は先ほど一致した数列と同じ反応を示している
「誰かが意図的に行なっているのか、それとも私たちが未だ観測した事のない未知の歪みなのか……現時点では判断できません」
そことで言葉を区切り、二人は琴音を見た
「観測者として琴音、貴女にこの世界の調査を命じます」
天照は静かに笑う
「行ってこい。お前の五感全部で、その世界を感じてこい」
そして、真っ直ぐ琴音を見る
「その先で、お前自身の答えを見つけて来い」
初めての任務は“救済“という目的が最初から決まっていた
だが、今回は違う
見て、感じて、考え、自分で結論を出さなければならない
自分の報告一つで、その世界の命運が決まる
琴音はその任務の重さを理解していた
「……その調査、全力で遂行します」
本音を言えば怖い。自分の言葉で、世界の生死が決まる
だが、それ以上に嬉しかった
二人が自分を信じ、任せてくれた事が
もう二度と、目の前で世界が消える光景を見たくない
その思いを胸に、琴音は異世界へと繋がる門へ足を踏み入れた
───
とある異世界
桜舞う国に鎮座する城
その一室で、九つの尾を持つ女性が静かに瞳を開く
「……来ます」
その言葉に傍で腕を組んでいた大柄の男が口元を吊り上げる
「そうか」
男はまるで、待ち望んだ祭りが始まるかのように笑う
「なら、迎えにいかねぇとな」
嬉々とした表情のまま、男は隣に置いてある金棒を肩に乗せ、部屋を後にした
静寂の中、一人残された女性は障子の向こうで舞う桜を見つめる
その瞳には期待と不安が入り混じっていた
「この出会いが、この国を、世界を救う希望となるのか……」
一瞬の沈黙、やがて、未来を恐れるように呟く
「……それとも、終焉を招くのか」