第一話龍姫と鬼人の決闘
異世界へと転移すると琴音の前に大柄の大男が待ち構えていた
「鬼……?いや、鬼人かしら?」
容姿こそ人に近いが、額から生えた二本角が人ならざる存在である事を示している
「種族なんてどうでもいいだろう。俺はお前と戦いたいんだ」
周囲に鬼人以外の気配はい
全身に刻まれた無数の傷跡と片方が折れている角を見るだけで、この鬼人がどれほどの修羅場を潜り抜けて来た猛者なのかが分かる
「戦いが望みなら受けてあげる。でも、その前に一つだけ教えてくれない?」
「なんだ?」
「貴方はここで私を待っていた。まるで私がここに来る事を最初から知っていたみたいに」
琴音の問いに鬼人は少し考え──
「それはこの国の重要機密ってやつでな!教える事は出来ん!スマン!」
豪快に謝られ、琴音は思わず笑ってしまう
(なんだが、師匠を男にしたみたいな人だな……嫌いじゃないかも)
短いやり取りの中で、むしろ気が合いそうだとさえ思ってしていた
「国の事情なら仕方ないね」
そう言って龍葬を抜く
琴音の動きを見た鬼人は肩に担いだ金棒を地面に突き立てる
「俺は桜花国の当主、轟鬼丸
だが、俺はお前と対等に戦いたい。当主としてではなく、一人の武人としてお前との勝負を望む!」
嘘偽りのない馬鹿正直な感情がひしひしと伝わってくる
当主という立場を捨て、武人として勝負を挑んでくるのなら、此方も応えなければ無作法というもの
「龍姫、琴音」
龍葬を構える
「その勝負、お受けします」
轟鬼丸も構えを取る
二人の間に静寂が訪れ、一陣の風が吹き抜けた。舞い上がった桜の花弁が二人の間へと落ちていく
花弁が地に落ちた瞬間、先に動いたのは琴音だった
地を滑るような踏み込み、一瞬で轟鬼丸の間合いへと入り込んだ琴音の刃が轟鬼丸へと迫る
(速い!)
その速度に驚きながらも轟鬼丸は金棒を振り上げ、琴音の斬撃を真正面から受け止める
金属同士が激突した瞬間、甲高い衝突音が響き渡り、凄まじい衝撃によって轟鬼丸の足元に亀裂が走り、地面が砕け散った
「見事な速さだ。龍姫!」
轟鬼丸は力任せに金棒を振り抜き、琴音を押し返した
「速さでは敵わないが、力勝負なら俺の勝ちのようだな」
「そみたいね……じゃあ、これならどうかしら」
次の瞬間、琴音の姿が消えた
轟鬼丸の周囲を高速で駆け回り、その速度に残像が浮かび上がる
「更に速度を上げるか!」
袈裟斬り、逆袈裟、薙ぎ払い、刺突──神速の連撃が四方八方から絶え間なく轟鬼丸に浴びせる
「ははっ!おもしれぇ!」
轟鬼丸は笑いながら金棒を振るい、嵐のように繰り出される斬撃を全て捌いていく
互いの武器がぶつかる度に火花が散り、その衝撃で桜吹雪が舞い散る
幾度も続いた攻防は、不意に終わりを迎える。琴音が後方へ飛び轟鬼丸と距離を取った
「……準備運動はもういいかしら?」
轟鬼丸は自分がまだ本気ではない事を見抜いた琴音と、あれほどの速度で動きながらも本気を隠していた琴音に対してさらなる高揚感を覚える
「あぁ、十分だ」
次の瞬間、龍葬の刀身に黒い龍気が纏う
轟鬼丸の金棒にもまた桜色の闘気が宿る
これ以上、言葉はいらない。語るべきものは全て、この一撃の中に込める
二人から放たれる圧に地面が軋み、空気が震える
「いくぞ、龍姫!」
「──参ります!」
二人が同時に地を踏み込み、龍と桜が真正面から激突した
轟音、衝撃、舞い散る無数の桜
その中心で、二人は互いに背を向けたまま静かに立ち尽くしている
やがて、轟鬼丸の口元が僅かに吊り上がる
「……見事 」
その言葉を最後に轟鬼丸はゆっくりと倒れ伏した