龍姫終焉譚ー滅びの運命を破壊する者ー   作:龍姫の琴音

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第二話桜花国の参謀

「ん……?」

 

轟鬼丸が目を覚ますと見慣れた天井が目に入る

 

「目が覚めた」

 

声がした方に視線を向けると、琴音が煎餅を齧りながらこちらを見ていた

 

「……あぁ!?それ、俺の煎餅じゃねぇか!?」

 

勢いよく起き上がった瞬間、体に激痛が走る

 

「ぐっ……!」

 

轟鬼丸は顔を歪め、体を押さえた

 

「あんまり動かない方がいいよ。殺すつもりは無かったとはいえ、あの一撃を受けて大怪我で済むなんて奇跡なんだから」

 

「ふー……」

 

呼吸を整えながら痛みを抑え、轟鬼丸は周囲を見渡す

 

「ここは俺の部屋だな。お前がここまで運んだのか?」

 

「運んだのは私だけど、案内してくれたのはこの蜘蛛よ」

 

琴音が肩を指差すと、小さな蜘蛛が一匹ちょこんと乗っていた

 

「人目がつかない場所ばかり通って、いかにも緊急用って感じの隠し通路を抜けたらここに辿り着いたってわけ。その後は糸でぐるぐる巻きにして治療までしていたよ」

 

「そうか……あいつらの仕業か」

 

轟鬼丸は納得したように頷き、残る疑問を口にする

 

「で、お前は何で俺の部屋でくつろいで、俺が秘蔵していた煎餅を食ってやがる?」

 

「ここにいれば私の疑問の答えが聞けると思ったから

それに、ここに留まるって言ったらこの蜘蛛が煎餅を出してくれたのよ」

 

「……あいつめ」

 

頭を抱える轟鬼丸を見ながら、琴音は本題を切り出す

 

「ねぇ、そろそろ説明してくれない?」

 

轟鬼丸は全ての疑問の答えを得て納得しているが琴音には何一つ情報がない

 

「分かった。だが、俺は小難しい話は苦手だ。代わりの奴に説明をさせる」

 

腕を組んで堂々と宣言する

 

まぁ、予想はしていた。天照も事務仕事は月詠に投げっぱなしだったし、こういう話は参謀役に聞く方が早い

 

すると部屋の襖が開き二人の女性が入ってきた

 

一人は九つの尾を持つ狐の女性。もう一人は上半こそ女性だが、下半身は蜘蛛の姿をしている

 

「初めまして、桜花国の参謀を務める葛葉いいます。よろしゅう」

 

「私は桜花国の情報統括担当しております、織葉と申します。その子の母です」

 

蜘蛛の子供が織葉の元へ駆け寄る

織葉は優しく抱き上げ、その小さな頭を撫でた

 

「案内と治療してくれてありがとうねぇ」

 

慈しむような声色は母性を感じるが、その指先には獲物を愛でる捕食者のような妖しい優しさが見えた

 

織葉は琴音へ軽く会釈すると、そのまま静かに部屋を出ていく

 

「私は琴音。それで、参謀の人が直々に来たって事は全部説明してくれるって事でいいのかしら?」

 

葛葉は頷き、轟鬼丸の方に視線を向ける

 

「その前に、一つ確認させてもらってもええですか?」

 

「おう?」

 

「轟鬼丸。お前さんから見て……琴音はんはどないやった?」

 

その問いに轟鬼丸は豪快に笑う

 

「盛大に負けたが、いい勝負だった!俺は満足だ!」

 

豪快に笑いながら自分で負けた事を話すと葛葉は溜息を吐く

 

「轟鬼丸の気持ちは、よう分かりました。せやけど……“負けた”っちゅう話を大名連中に流す訳はいきまへん」

 

武人として誇れる敗北でも、立場を重んじるものからすれば話は別だ

国の当主が敗れた──その事実だけが一人歩きしてしまう危険性がある

 

「せやから、表向きは“桜花国の当主が琴音はんの実力を認めた”──そういう形にさせてもらいます。せやから、負けた事は口外せんように頼みますえ」

 

「おう!任せておけ」

 

「身勝手なお願いやちゅう事は、分かってます。……せやけど、琴音はんにもお願いできますか?」

 

「そっちの事情なんて私の知った事ではないけど……全てを説明してくれるなら、そのお願いを聞いてもいいわよ」

 

葛葉は頷き、静かに語り始めた

 

「私には、未来を視る力があります

少し前から、この世界に琴音はんが来る未来が視えてましてなぁ。今日、琴音はんが現れる場所と時間も分かりましてな。せやから、轟鬼丸を先回りさせる事が出来たんです」

 

「なるほど。国家機密というのはそ、の未来視の事だったのね」

 

未来が視える力

そんなものが知られれば狙われる理由には十分すぎる

 

「ただし──私の未来視は“可能性”を視せるだけのもんです

ほんの少し行動が変わるだけで、未来ちゅうもんは簡単に姿を変えてしまう。せやから便利な力という訳でもありませんのや」

 

と葛葉は肩をすくめる

 

「待ち伏せの件は分かりました。それで、私に何を求めているの?」

 

「……もう一つ、視えている未来があります」

 

先ほどまでの柔らかな空気が消え、葛葉は静かに琴音を見据える

 

「近いうち、この桜花国へ──かつてない程の魔族の大群が攻め込んできます

琴音はんには、桜花国の防衛を手伝ってほしいんです」

 

自分が転移してきた直後に魔族の大侵攻

偶然にしては出来過ぎている。だが、今の情報だけでは判断材料が足りない

 

「私にもこの世界に来た目的があります。その目的のために貴方達を利用するかもしれないわよ」

 

葛葉は少しだけ目を細める

 

「・・正直でよろしいなぁ」

 

扇子で口元を隠し、小さく笑う

 

「そう言えるちゅう事は“今”は少なくと敵になる気はあらへんのでしょう?」

 

「利用されるかもしれないのに随分と楽観的ね」

 

「逆ですぇ。本当に危ない相手は“利用する”なんて口にしまへん

黙って懐に入り込んで、気づいた時には喉元に刃ぁ突きつけとる。そないな連中を、何人も見てきました」

 

「……」

 

「せやから最初に“利用するかもしれない”と口にした琴音はんの方が、まだ信用できます」

 

それを言えるという事は少なくともそういった経験を何度かしているという事だ

飄々としている言動に、本心を見せないための扇子の使い方、あえて、敵を懐に誘い込む胆力。その全てが琴音を遥かに上回っている

 

「……やっぱり一筋縄ではいかないか」

 

琴音が小さく呟く

アニメや漫画を見ただけのお粗末な腹芸では、本職の相手には敵わないようだ

 

「私は桜花国に戦力を提供する。桜花国は私に何を提供してくれるの?」

 

「情報なら、どうや?」

 

目的を達成するにはどんな小さな情報でも欲しい琴音からすれば喉から手が出るほど欲しい代物だ

 

「随分と痛いところを突いてきたわね」

 

葛葉は扇子を広げて口元を隠す

 

「綺麗事だけでは生きていけへんからね」

 

扇子に隠れて口元は見えない

だが、その奥に不敵に笑っている事だけは容易に想像できた

 

「私の負けね。利害関係が一致して、その上で魅惑的な報酬まで提示されたら断れないわ」

 

琴音が手を差し出す

 

葛葉は扇子を閉じ、その手を取った

 

「契約成立や」

 

琴音と葛葉の手が重なる

 

利害で結ばれたその契約が、後に桜花国の運命を大きく変える事になる──しかし、今はまだ誰も知らない

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