龍姫終焉譚ー滅びの運命を破壊する者ー   作:龍姫の琴音

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第四話桜舞う国の夜

織葉との会話を終えて部屋を出ると丁度、若葉が戻ってきたところだった

 

「あ、お姉様とのお話は終わったんですか?」

 

「ついさっきね。若葉もお疲れ様」

 

「いえ、私は大した事はしてませんから」

 

そう言って控えめに笑う若葉を見て、琴音は以前から気になっていた事を尋ねた

 

「そういえば、若葉って普段は何の仕事をしているの?」

 

「あ、まだお話していませんでしたね

基本的には掃除、洗濯など色々とやっています。ですが主な仕事は料理です。一応、炊事場を預かっています」

 

「それって若葉は料理長って事?凄い!」

 

王族が住む場所で食事を任されるなんて相当凄い事のはずだ

 

琴音が褒めると若葉は困ったように笑う

 

「そんな大したものではありませんよ。私はただ、美味しい料理を食べて欲しいだけですから」

 

その言葉に謙遜はなく、純粋に誰かに喜んで欲しいという君とだけがあった

 

「料理は葛葉に教えてもたったの?」

 

「いえ、別の方です」

 

若葉は嬉しそうに微笑む

 

「もしよろしければ、これから城下町に行きませんか?

私の料理の師匠を紹介したいです。それに、琴音様に桜花国の事をもっと知って欲しくて」

 

葛葉からは場内の案内だけを頼まれていたのにいつの間にか城の外まで案内する気になっている

 

「そうね。お願いしてもいいかな?」

 

「はい!お任せてください」

 

若葉に連れられて城を出る

外へ出た瞬間、琴音の視界いっぱいに城下町が広がっていた

活気に満ちた声、行き交う人々。そして、後ろを振り返ると、城のさらに奥に空へ届くほどの巨大な桜の木が満開の花を咲かせていた

 

「立派な桜ね」

 

「常世桜です

遥か昔、外の世界では人間と魔族が戦争していました

ご先祖様達は人と魔族のそれぞれの特徴を持っていたため、どちらかの種族からも迫害を受けていました」

 

若葉が桜花国の歴史を語り始める

 

 

「そんなご先祖様達が安寧の地を求めて最後に辿り着いた場所がこの桜が咲き乱れる島でした

ここで生きて行こうと誓い、国の永遠の繁栄と国民を見守り続けて欲しいと言う願いを込めて“常世桜“と名付けられたそうです」

 

常世桜から感じる大きな力はおそらく、この島の地下には巨大な地脈が流れているのだろう

常世桜はその力を取り込みながら成長し、今では根を島全体へ張り巡らせているのだろう

だからこそ、この国はこれほど自然豊かなのかもしれない

 

「賑やかで楽しい所ね」

 

城下町には活気が満ちており、子供達が遊んでいたり、商人と客が談笑していたりと居心地のいい雰囲気だ

 

「あ、あそこのお店です」

 

若葉が指差した先には『分福』と書かれた看板があった

 

「こんにちわ」

 

暖簾をくぐり、店内に入ると人で溢れかえっていた

だが、その中でも一際騒がしい席があり、その場所に見知った顔がいた

 

「あれって、轟鬼丸じゃない?」

 

「ですね……」

 

巨体のせいで座っていても目立つ

 

「おう!琴音じゃねぇか!」

 

豪鬼丸もこちらに気付くとこっちに来いと手招きする

拒否しようとしたが、轟鬼丸はおそらく酒を飲んでいる。酔っ払いの願いを無視するとどんな面倒な事になるか分からないので嫌な予感を覚えながらも言われた通り、轟鬼丸に近づく

 

すると、轟鬼丸は琴音の肩を掴む

 

「紹介するぜ」

 

そして、嫌な予感は的中した

 

「こいつが俺を叩き伏せた剣士の琴音だ!」

 

「はぁっ!?」

 

葛葉から口外するなと釘を刺されていたのに轟鬼丸は一瞬で暴露した

琴音は慌てて周囲を見る

王が負けたなど聞けば、普通なら空気が悪くなるはずだ

 

だが──

 

「轟鬼丸に勝ったのか!?」

 

「すげぇな嬢ちゃん!」

 

「見た目は細ぇのにやるじゃねぇか!」

 

飛んできたのは琴音を称賛する声だった

 

「轟鬼丸、顔にでも見惚れて負けたんじゃねぇのか?」

 

誰かの飛ばした野次に轟鬼丸は豪快に笑う

 

「見惚れてはいねぇ!だが、強さには惚れた!」

 

大盃の酒を一気に飲み干す

 

「真正面から全力でぶつかって俺は負けた。だったら認めるしかねぇだろ」

 

その言葉に店中が盛り上がる

 

「今日は気分がいい!」

 

豪鬼丸は机を叩く

 

「今日は俺の奢りだ!好きなだけ飲め!食え!騒げ!」

 

歓声が分福に響き渡る

 

「なんか凄い事になっている……」

 

「あはは……」

 

琴音が呆然としている横で若葉は苦笑いしていたその時

 

「おや?若葉ちゃんじゃないか!」

 

声を掛けてきたのは給仕服を着た狸の獣人の女性だった

 

「福乃さん」

 

「丁度よかった。轟鬼丸様の奢りだからねぇ!今日はいーっぱい稼がせてもらうよ」

 

にやりと笑い、若葉の腕を掴む

 

「だから若葉ちゃんも手伝って!」

 

「え!?で、でも……」

 

「いいからいいから」

 

有無を言わさずに若葉を調理場へ引きずられていった

 

取り残された琴音は苦笑しながら調理場の前の席が空いていたので、そこの席に腰を掛けて轟鬼丸の方を見る

 

轟鬼丸は身振り手振りを交えて戦いの様子を語っている

 

「……負けたのにまるで勝ったみたい」

 

小さく呟くと琴音の席に小鉢が出された

 

「騒がしくて悪いな」

 

調理をしていた熊の獣人の男性が低い声で呟く

 

「騒がしいのは割りと好きよ」

 

琴音は小さく笑う

 

「といっても、一緒に騒ぐよりはこうして遠くから眺める方が好きだけど」

 

「……そうか」

 

短い返事を返され、琴音は出された小鉢へ箸を伸ばした

 

「美味しい……」

 

素材の味を生かしながら調味料が絶妙に調和している

派手ではないが、驚くほど完成された一品だ

 

「口に合ったか?」

 

「とっても美味しい」

 

素直に料理の感想を告げる

 

「若葉が料理の師匠がいるって言っていたけど……それって貴方?」

 

琴音の質問に手を止める

 

「俺は話すが苦手だ」

 

確かに必要最低限しか喋らない

 

「しかも、顔が怖いとも言われる」

 

確かに迫力がある顔をしている

 

「だから、教えるんじゃなくて技術を見せる事しかできなかった」

 

そう言って不器用に笑う

 

「けど、あいつは毎日俺の料理を見てた。気づけば俺の技術を全部覚えてやがった

姉とは違うが、若葉は努力の天才だ」

 

「葛葉を知っているの?」

 

「あぁ

 

料理の手を動かしながら答える

 

「昔、俺が一人でいた時に福乃に引っ張られてな。そこで轟鬼丸、葛葉、織葉と出会った

いつも五人でなにかやって、時々、若葉が葛葉の後を追いかけてきた事もあった」

 

「幼馴染ってやつ?」

 

「腐れ縁だ」

 

ぶっきらぼうに返す

 

「料亭をやりたいといったら福乃が“大衆食堂の方が儲かる“とか言い出してな

気づけば店まで出来ていて、いつの間にか店の名前も決まっていた」

 

迷惑そうに話すが、その話をする横顔は嬉しそうだった

 

「そっか」

 

二人の間に沈黙が流れる

しかし、不思議と嫌ではない。騒がしい店内の音、料理の音、酒の匂い、賑やかな会話が心地いい

 

「剣士さん!飲んでるかい!?」

 

福乃が酒瓶を持ってやってきた

 

「雰囲気を楽しめさせてもらっているよ」

 

琴音は軽く笑いながら返す

 

「そういえば、自己紹介してなかったね。私は琴音」

 

「大衆食堂『分福』の若女将にして看板娘の福乃だよ」

 

福乃は親指で調理場を指差す

 

「あっちは旦那の源蔵」

 

「あ、夫婦なんだ」

 

「そりゃもう!源蔵の料理に惚れて。子供の頃から唾をつけてたからね!」

 

豪快に笑いながら酒を注ぐ

 

「今日は琴音のおかげで大儲けだよ。支払いは気にせずにどんどん飲んじゃって!」

 

客の前だと言うのに堂々とお金の話をす。でも、不思議と嫌悪感はない

きっと、福乃の明るい性格が客との距離を近づけているのだろう

 

琴音は渡されたお酒を飲み、料理に舌鼓を打ちながら分福の雰囲気を堪能した

 

それから長い夜が過ぎ──空が白見始める

 

「まさか朝まで騒ぎ続けるとわ……」

 

「つ、疲れました〜……」

 

若葉は夜通しで手伝わされていたため一番疲れている

対して轟鬼丸は朝だと言うのに元気そのものだ

 

「最高の夜だったな!」

 

朝日に照らされる桜花国を見つめながら琴音は静かに口を開いた

 

「轟鬼丸」

 

「おう?」

 

「私はこの国が好き」

 

豪鬼丸は何も言わない

 

「余所者の私を受け入れてくれて、みんな笑ってて、すごく楽しい夜だった」

 

琴音は拳を差し出す

 

「だから、防衛戦では全力を尽くす」

 

決意に満ちた真っ直ぐな視線を轟鬼丸に向ける

 

「全部守りましょう。一緒に」

 

豪鬼丸は口元に笑みを浮かべる

 

「おう!」

 

二人は拳を合わせ、共に戦う事を誓う

 

そのまま城へ帰ると──

 

葛葉が待っていた。しかも、とんでもなく怒った顔で

 

「夜通し飲み明かすとは、随分と楽しい夜を過ごしたようねぇ?」

 

怒りのこもった声に若葉が琴音の背後に隠れる

 

「若葉……葛葉の訛りがないんだけど?」

 

小声で聞くと若葉は頷く

 

「姉様は怒ると訛りが抜けるんです」

 

それはつまり、葛葉は限界まで怒っていると言う事だ

 

「これはどう言うことか説明してくれるのよねぇ?」

 

葛葉は新聞を突きつける

『轟鬼丸敗北!相手は謎の女性剣士!?』と一面に大きく書かれている

 

「負けた事を口外しないようにと私は言いましたよね?」

 

笑顔なのに目が笑っていない

 

「どうして一晩で国中に知れ渡っているんですか?」

 

「細けぇ事は気にするな!」

 

轟鬼丸は大量の紙のを葛葉に押し付けた

 

「あとこれ、経費で頼む!俺は寝る!」

 

そのまま逃げるように轟鬼丸は歩き出す

 

葛葉は渡された紙の束に目をやると、固まった

 

「……なにこれ」

 

それは分福からの請求書だった

しかも、とんでもない金額が書かれている

 

「経費で落ちるわけないでしょうがぁぁぁ!」

 

葛葉の悲鳴が朝の桜花国に響き渡った

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