目を覚ますと目の前に一体の龍がいた
半身を黒い鱗、もう半身を白い鱗で覆われている
一度も会った事のないはずなのに、琴音はその龍の正体を直感で理解した
「龍王……」
圧倒的存在感と威圧感を放つ龍の頂点に立つ王
龍王カオスエンド・オーバーロードがそこにいた
琴音は龍王の魂を宿している。ならばここは自分自身の精神世界なのだろう
その時、琴音の右腕に突然、激痛が走る
視線を向けると、真っ黒に染まった右腕から“歪み”が溢れだし、龍王に襲いかかる
“歪み”は龍王の体に触れる
だが、龍王は顔色一つ変えない
“歪み“は龍王の体を侵蝕しようとするが、一向に侵蝕できない
やがて龍王の体から龍力が溢れ出す
その瞬間、龍力に当てられた“歪み”は抵抗すら許されずに一瞬で消し去った
「凄い……」
命懸けで解析し、ようやく消し去った“歪み”を、龍王は片手間で消滅させた
これが龍王の本来の力
龍王から力を借りているだけの存在である琴音との圧倒的な力の差だった
“歪み”を消し去った龍王はまるで興味を失ったかのように琴音へ背を向ける
「待って!」
呼び止めようとした瞬間、琴音の体が後ろへ引っ張られる。おそらく、現実世界で目覚めようとしているのだろう
琴音は抗う事も出来ず、意識は現実へと引き戻された
───
「んっ……」
ゆっくりと目を開ける
しかし、右側の視界は黒く塗り潰されており、右腕を動かそうとするがまるで感覚がない
「あれは、精神の侵蝕を止めただけか……」
もしかしたら肉体の侵蝕も消し去ってくれたのか
そんな淡い期待を抱いていたが、どうやら現実はそこまで甘くないようだ
「琴音……様?」
声のした方に視線を向けると、若葉がちょうど部屋に入って来たところだった
「琴音様!」
若葉は飛び込むような勢いで琴音の傍に駆け寄る
「お体は大丈夫ですか!?痛む所はありませんか!?ご気分は悪くありませんか?何か欲しいものがあれば何でも申しつけてください!」
「えっと……とりあえず落ち着こうか若葉」
そう言われて、若葉は我に帰った
「あ、すいません……」
一度深呼吸をすると、若葉は改めて姿勢を正す
「おはようございます琴音様。ご気分はいかがですか?」
「右腕と右側の視界が駄目な事以外は万全ね。私はどれぐらい眠っていた?」
「三日です」
命懸けの賭けをして、三日で目を覚したのなら上々だろう
「私が眠っている間、桜花国はどうなったの?」
その質問に若葉の顔が曇る
「それは……」
言いづらい事があるのか、若葉は口ごもり、視線も泳がせた
琴音が言葉を続けようとした時、部屋の襖が開く
「目が覚めたようですね琴音様」
現れたのは織葉だった
おそらく、小蜘蛛がどこかで監視しており、琴音が目覚めた事を織葉に伝えたのだろう
「見ての通り、万全じゃないけど体は動くわ」
若葉の補助を受けながら琴音は布団から起き上がる
「目を覚したばかりで申し訳ありませんが、琴音様には会議に出席していただきます」
「織葉お姉様、それは流石に……」
若葉が止めようとするが、琴音は了承する
「いいよ。私には起きた出来事を話す責任があるから」
常世桜で起きた事は琴音にしか説明できない。当事者である以上、琴音には報告する義務がある
だからこそ織葉は目覚めたばかりの琴音を迎えに来たのだ
「ご理解してくれてありがとうございます
若葉、琴音様の補助をお願いしてもよろしいですか?」
「はい!任せてください!」
若葉に支えられながら琴音は織葉の後を追う
やがて、大きな襖の前で織葉は足を止めた
「ここが会議の間です」
織葉は琴音の方を見ると琴音は黙って頷く
「若葉、ここからは私一人で行くね」
「琴音様、無茶はだけしないでくださいね」
若葉は深く一礼してその場を後にした
「若葉は、貴女様が目を覚ますまでほとんど眠らずに看病を続けていました」
「知ってる。本人は気丈に振る舞っているけど、目の下の隈までは誤魔化せないからね」
看病に加えて城内での仕事もしていたとなれば相当無理をしていたに違いない
「若葉は超が付くほどの頑張り屋さんですから。琴音様、準備はよろしいですか?」
「いつでも」
その言葉を聞き、織葉は襖を開けた
「失礼します。琴音様をお連れしました」
会議の間に入ると、轟鬼丸と葛葉が正面に座っており、その向かい側に大名達が並んでいた
琴音は織葉に案内されて葛葉の隣に座り、織葉もその隣へ腰を下ろす
全員が揃った事を確認すると葛葉が口を開く
「では、会議を再開します」
話し合われたのは現在の桜花国の現状についてだ
倒壊した建物の復旧、各地域の復興の進行度、それによる人材と資材を送る優先順位などの様々な魏大が挙げられ、その度に意見を交わしながら、一つずつ解決していく
ここまでの内容は内政に関するものだったため、琴音は口を挟まず聞き役に徹していた
「以上で復興に関する会議を終わります」
葛葉がそう告げると張り詰めていた空気がわずかに緩む
だが、一人の大名が静かに手を上げた
「では次に──今回の桜花国防衛戦発生した“問題“についての会議を行いたいと思います」
その言葉に会議の間の空気が一変した
琴音はゆっくりと顔を上げる
本当の戦いはこれから始まる