防衛戦に関する会議が始まると、一人の大名が静かに口を開いた
「まずは確認したい。此度の防衛戦、魔族の目的は常世桜であった事は間違いないのですね?」
「はい。間違いあらへん」
大名の質問に葛葉が答える
「では、次に琴音殿に聞きます
報告と民間人の証言を総合すると、其方は常世桜にて魔族の指揮官と交戦。指揮官も他の魔族と同様に自爆を行い、民間人を巻き込んで常世桜を侵蝕しようとし、琴音殿はそれを止めた。私の言葉に間違いはありませんか?」
「はい。間違いありません」
葛葉の返答に倣って大名の言葉に同意する
「琴音殿の行動で民達に被害はありませんでした。それに関しては感謝します」
そこで大名は一度言葉を区切る
「しかし、民を守った結果、常世桜の一部が枯れてしまった事に関して、あの時の判断は本当に正しかったのですか?」
常夜桜の一部が枯れた
その言葉が重く胸に沈む守ると言ったのに……守れなかった。悔しさが溢れ出し左手を強く握り締める
「常世桜とは国そのものです
枯れるという事はこの国の終わりを意味しています。この国に生きる者達の未来を考えるのであれば、あの場にいた者達を見捨ててでも常世桜だけを守るべきだったのではないのですか?」
感情論で言えば冷徹な考えだ
だが、桜花国の未来だけを考得るのであれば、その判断もまた正しいと言える
大名の発言に他の大名も続く
「そもそも、轟鬼丸様が認めたからと言ってもその者は余所者。余所者に国の命運を委ねたのが間違いだったのでは?」
「左様。その判断は軽率だったと言わざるを得ません」
完全に琴音へ責任を向ける空気の中、葛葉は静かに手を上げる
「琴音に全ての責任があるちゅうのは間違いや
私は未来視で視た映像を元に作戦を立てました。その段階で常世桜が狙われる可能性を想定出来なかった。現場指揮官として、私にも責任があるんとちゃいますか?」
続いて織葉も口を開く
「葛葉の言う通りです
私も、情報を瞬時に全ての戦闘区域に伝達させるために子供達を最前線に置いていました
しかし、魔族達の自爆に巻き込まれて情報網は混乱し、立て直すのに時間を要しました。その結果、敵司令官の常世桜への接近に気づくのが遅れてしまいました」
二人が琴音を庇うように自分達にも責任があると主張するが大名達の視線は変わらない
そんな中、今まで沈黙していた轟鬼丸が低い声で呟いた
「……くだらねぇ話し合いだな」
その言葉に会議の間の空気が張り詰める
「お言葉ですが、今までこの国を守ってきた常世桜が枯れたのですよ。これは大問題です
我々としては責任の所在をしっかりと明確にする必要があります」
大名は責任の所在を明確にするべきだと主張する
豪鬼丸は腕を組んだまま、大名達を睨みつけた
「常世桜が枯れたなんて誰が言った?枯れたのは一部だけだ。違うか?」
「それは……」
轟鬼丸の言葉に大名は口ごもる
「それと、俺からも聞きてぇ事がある」
豪鬼丸の鋭い視線が会議の間を見渡す
「あの時、敵の狙いに気付き、敵司令官と交戦できて尚且つ、民衆と常世桜の両方を守る事が出来る奴がこの桜花国にいたか?」
「……」
轟鬼丸の質問に大名達は誰も答えられずに視線を落とす
「……答えられねぇか」
豪鬼丸はゆっくりと立ち上がる
「なら、今から俺が教えてやる」
豪鬼丸は大きく息を吸い込む
「顔を上げろ!」
怒声のような声に大名達全員が反射的に顔を上げた
轟鬼丸は琴音の手を掴み、大名達の前へ立たせる
「琴音、その包帯と眼帯を取ってくれ」
「……醜いですよ」
自分でもどういう状態なのか分からないが、人様に見せるような傷跡ではないのは確かだ
「俺からすればその傷跡は国と民を守った証だ」
琴音の言葉に轟鬼丸は即座に返す
琴音は静かに頷き、右腕に巻き付いている包帯と眼帯に触れると結び目が解け、床へと滑り落ちた
顕になった右腕は侵食によって真っ黒に染まり、眼帯の下の皮膚は火傷のように爛れている
黒く染まった右目を見た瞬間、数人の大名が息を呑み、思わず目を逸らした
「あの時、一番最初に魔族の目的に気付いたのは誰だ!?
誰よりも早く、常世桜に辿り着いたのは誰だ!?
民を守るため、常世桜を守るために命懸けで敵の前に立ったのは誰だ!?」
答えなど分かりきっているのに大名達は何も言えない
「この国と一切の縁もない余所者だ!」
大名達が使った“余所者”という言葉
だが、轟鬼丸の口から放たれるそれは別の言葉のように聞こえた
「こいつの姿を見ろ!腕を蝕まれ、目を潰されても、命を賭けて民を守り、常世桜を守った者の姿だ!」
大名達の目に琴音の姿が映る
「今もこうして桜花国が存続出来てるのは、琴音があの時、全てを守ってくれたからだ
今回の防衛戦、一番の功労者が誰かなんざ、誰の目を見ても明らかだろうが!」
轟鬼丸の言葉には否定し難い重みがあり、大名達は誰一人として反論出来ない
「もし、この戦いでの責任の所在を明確にしたいと言うのなら──」
豪鬼丸は親指を立て、自らの胸へ突きつけた
「琴音をとこ夜桜へ向かわせた、この俺だ」
全ての責任は自分にある
桜花国の当主である轟鬼丸にそこまで言われ、大名達は完全に口を閉ざした
重苦しい沈黙が会議の間を包み込む
その時、不意に襖が開いた
「失礼します」
若葉が給仕の者達を連れて入ってくる
「皆様、会議を一旦中断しませんか?お茶を用意しましたので休憩にしましょう」
給仕の者達が次々と大名達の前へ茶と茶菓子を置いていき、若葉は琴音の傍へと歩み寄る
「それに、琴音さんは目覚めたばかりでまだ本調子でありません。取ってしまった包帯と眼帯を巻き直す必要もありますので半刻ほどお時間を頂けないでしょうか?」
若葉の穏やかな言葉に先ほどまでの空気が僅かに和らぐ
そして、若葉はそっと琴音の手を取った
「琴音様、来てください」
耳元で優しく告げると、そのまま琴音を会議の間から連れ出した