龍姫終焉譚ー滅びの運命を破壊する者ー   作:龍姫の琴音

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第十一話桜花国に潜む蜘蛛

琴音の提案が告げられた瞬間、会議の間に動揺が走った

若葉は葛葉の妹であるものの、政治に関してはほとんど知識も経験もない。当然、大名達の中から反対の声が上がる

 

「反撃に出るという案には賛成です。ですが、若葉殿を同伴させるのは反対です

桜花国は今まで他国との外交をしてこなかった国。外の国と関わるという事はそれは外交。知識のない者が行くのは危険でしょう」

 

大名が手を挙げると大名の背後に黒い羽を持つ鴉天狗が姿を現した

 

「それに、若葉殿には自分の身を守る術がありません

私の部下であれば交渉術、護身術のどちらも身につけております。外交の役を任せるのであれば、こちらの者の方が適任かと」

 

確かに若葉は戦闘能力がない。大名が若葉の身を心配しているのであればその言葉は正論だ。しかし、感情を読み取れる琴音には大名が何か企んでいる事は分かっている

外の国と繋がりを持つと言う事は、桜花国が外交を始めるという事だ。その第一人者となれば大きな功績となる。だからこそ、自分の部下をその役目に付けたいのだ

 

だが、魔族の支配によって憔悴し切った人々の元へ、野心がを持つ者を送り込むのは危険だ。もし、相手にその野心を悟られれば警戒心を強められてしまい、地脈防衛のための連携にも支障が出る可能性がある

 

「確かに桜花国からすれば外交になる。でも、旅の目的は地脈の開放であって外交じゃない。知識がなくても人の心に寄り添える若葉だからこそ私は旅の同伴に若葉を選んだの」

 

若葉には感情に裏表がない。まっすぐで純粋な気持ちで相手と接してその心を開き、傷ついた心を癒す事が出来る。今回の旅において必要なのは政治の知識や交渉術ではなく、相手の心に寄り添える事が重要なのだ

 

轟鬼丸と葛葉も納得するように頷く。これで同伴者が若葉で決定すると思ったその時、予想外の人物から反対の声が上がった

 

「私は反対です」

 

琴音は驚き、声をした方を見ると織葉が鋭い眼光で琴音の事を睨んでいた

 

織葉はゆっくりと立ち上がると琴音の隣にいる若葉の前まで歩み寄る

 

「若葉、外の世界にはあなたの知らない事が沢山あります。良い事もあるけど悪い事も同じぐらい……いえ、もしかしたらそれ以上にある可能性だってある。心優しい貴女にはきっと辛い事です

傷つくかもしれないのであればこの国に留まるべきです。貴女大好きなこの国なら貴女を傷つけるような人はいないのですから」

 

そっと織葉が差し出した手を若葉は握り、そして首を横に振った

 

「織葉お姉様が私を心配してくれるのはとても嬉しいです

ですが、琴音様は何の才能も力もない私を選び、頼って下さいました。私にしか出来ない方法で姉様達と一緒に戦えるのなら……こんなに嬉しい事はありません」

 

政治に関しては若葉にできる事は無かった

何もできない自分を歯痒く思っていた若葉にとって琴音が頼ってくれた事で姉達の助けになると思うと例え危険な旅だとしても若葉は喜んで協力したいと思っている

 

「……」

 

織葉はしばらく若葉を見つめた

目の前にいるのは、昔のように自分達が守るべき妹ではない。戦い方は違っても共に戦おうと決意した仲間だと感じた

 

「若葉がそういうのなら私は若葉の意志を尊重します。ですが、無理だけはしないで下さいね」

 

「ありがとうございます。織葉お姉様」

 

次に織葉は反対をしていた大名の前まで移動する

 

「山田様、今回は若葉に出番を譲ってもらえないでしょうか?」

 

「いくら織葉殿の頼みといえど今回の件ばかりは……」

 

大名はこの機会を逃さまいと食い下がらない。せっかくの好機を簡単に手放すつもりは毛頭ないらしい

織葉はそんな山田を見つめ、そして──優しく微笑んだ

 

「そうですか……では、山田様の好物である桜花堂の『花霞』でいかかでしょうか?」

 

その瞬間、大名の顔が少し引き攣った。その様子を見ながら織葉は言葉を続けた

 

「山田様は特に二段目が好みでしたよね」

 

「……っ!」

 

引き攣った顔が更に引き攣り、額に冷や汗が浮ぶ

会議の間にいた大名達は示し合わせたように一斉に織葉から目を逸らす

 

「おい織葉。『花霞』に二段目はねぇだろう」

 

大名達が目を逸らす中、轟鬼丸は会議の間の雰囲気が変わった事に気づかずに首を傾げながら和菓子の方を質問する

 

「きっと特別製なのでしょう。二段目は色も形も全くの別物でしたから」

 

不敵な笑みを浮かべながら織葉は答える

場の空気が変わった事に不思議に思っていた琴音は轟鬼丸の隣で頭を抱える葛葉を見て琴音は現状を何となく察した

織葉は子蜘蛛を使って桜花国全域を監視し、情報収集する事が出来る

つまり──どれだけ必死に隠し事をしようとも織葉には全て筒抜けになるというわけだ

 

そして、今のやり取りから考えれば『花霞』の二段目と言うのはおそらく、賄賂の事だろう

大名も山田というも者は賄賂を渡した、もしくは受け取った事があるのだろう。他の大名が視線を逸らしたのは自分達の事まで明るみに出る事を避けるためだろう

葛葉はそれを理解しているから頭を抱えている。対して轟鬼丸は──

 

「二段目って、どんな菓子なんだ?」

 

完全に『花霞』の二段目の事の方が気になっているようだ

 

山田は無理やり笑顔を作り、乾いた笑みを浮かべる

 

「ま、まぁ……今回は地脈の正常化が最優先の目的であるのなら、我々は解放された国への支援と防衛に尽力した方が良いですな」

 

「ご理解いただき感謝しますわ」

 

笑顔で感謝の言葉を口にしているが、理解したと言うより、脅迫に屈したと言った方が正しいのだがそれを指摘したところでどんな事を言われるか分かったものではないから誰もいう事ができない

 

「織葉だけは絶対に敵に回さない方が良さそうね」

 

誰にも聞こえないように呟き、琴音は織葉だけは敵に回さないように気をつけようと心に誓った

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