次の日
琴音は右手に力を込めるとぎこちないが指先がゆっくりと動いた
「回復に専念すれば予定通りに完治しそうね」
予定通りに事が進みそうで良かったと安心する
だが、問題は回復に専念するので剣術や龍気術のような体や龍気を激しく使うような修行ができないと言う点だ
「久しぶりに“あれ“をしようかな」
そう呟くと琴音は部屋の中に置いてある姿見の前に立つ
「龍気陣展開」
琴音の足元に五芒星の陣が展開された
「
龍気陣が強い光が帯びると琴音の服装が袴から格闘家の服装へと変わる
姿見の前で後ろを向き後ろ姿まで確認する
「完璧ね」
満足そうに頷くと今度は巫女服、軍服、洋風のドレスと様々な衣装へと変えていった
「全体の完成度、細かい所の装飾までちゃんと再現されているわね」
傍から見ればただ着せ替えしているだけの遊びにしか見えない。しかし、琴音にとっては想像力を鍛えるれっきとした修行だ
龍気術は術者がどれだけ明確に対象をイメージ出来るかによって完成度が変わる。曖昧な想像では細部までの作り込みが甘くなる
だからこそ、様々な衣装を観察して、それを正確に再現する事は琴音にとって想像力を鍛える訓練になる
そして、琴音の足元に展開した陣は龍気術を補助するためのもの──龍気陣
陣の中から動けなくなる代わり琴音が想像するものをより強固な形になるように補助してくれる
「ん?」
その時、遠くから織葉がこちらに向かっている気配を感じ取った。琴音は龍気陣を解除して襖を開けると廊下の奥から織葉の姿が見えた
「琴音さん、ちょっといいかしら?」
「……良いよ」
何か良からぬ事を企んでいるような不適な笑みを浮かべている
琴音は少し警戒しながらも、特に断る理由もないのでとりあえず了承する
(危なくなれば止めればいいか……)
そう考えて織葉の後をついていく
織葉が案内した先は昨日まで会議が行われていた部屋だった。中に入ると轟鬼丸、葛葉、そして若葉の三人がいた
「織葉が集めたの?」
「えぇ、琴音さんが面白い事をしていたので是非とも私達も混ぜて欲しいと思いまして」
「まさか、そのためにこの場所を借りたの?」
「えぇ、ちょっとお願いしたら喜んで貸してくださいました」
笑顔で答える織葉
だが、琴音は織葉の言葉の裏に気づく
絶対に何かしらの弱みに付け込んで許可をもらったのだろう。葛葉の方を見ると同じ予想をしているようで溜め息を吐いている
一方で轟鬼丸はこれから何をするのかと楽しそうにしている、若葉は織葉の言葉を素直に受け取って
「織葉お姉様は凄いです!」
と目を輝かせて織葉を尊敬の眼差しを向けている
「はぁ……分かったわ。でも、他人用に調整した衣装を要望通りに用意出来る保証できないからそこだけは勘弁してね」
今まで自分の姿に合わせて衣装を作成していたから他人の体型に合わせて衣装を作成した事がない
それに加え、この場にいる全員が角や尻尾と言った琴音にはない身体的特徴がある。それを考慮する必要があるとなると難易度は上がる
「そこまで我儘は言いませんよ♪」
「おい、そろそろ何で俺達を呼んだか説明してくれないか?」
琴音と織葉の間で話が進んでいるが、他の三人はどうしてここに集められたのか未だに分からずにいた
「説明するより実践した方が早いね」
琴音は再び龍気陣を展開すると左手を轟鬼丸の方に向ける
「
轟鬼丸の体が光に包まれると和装から軍刀を携えた軍服へと変えた
「おぉ!なんだこの服!滅茶苦茶強そうじゃねぇか!」
見慣れない衣装のはずだが轟鬼丸は気に入ったようだ
「……琴音、これは?」
逆に葛葉は琴音の術に警戒の色を示す
「私の使う術の一つ。対象の服装を変える事が出来るだけの術」
「面白い術と思わない?葛葉」」
「そう言う問題やあらへん……」
織葉は笑っているが葛葉は見慣れない術に対して警戒を緩めない
「葛葉も試して見れば良いんですよ。琴音さん」
「私はまだやるなんて……!」
葛葉が言い切る前に琴音は葛葉の方に左手を向ける
「龍装変心ドレス・チェンジ」
今度は葛葉と若葉、織葉の三人に向けて龍気術を発動させ、三人の体が光に包まれ──
葛葉はスーツ
若葉はメイド服
織葉は洋風のドレス
それぞれの服装が一瞬で変化した
「わぁ〜!可愛い服。琴音様、一体この服はなんなんですか?」
「葛葉は勉学を教える教師の服、若葉は給仕をする人が着るメイド服、織葉にはドレスを仕立ててみたけどどう?」
葛葉は自分の姿をまじまじと見つめる
「まぁ、ええやないの……」
どうやら気に入ってくれたようだ
「ご希望があれば他の衣装も出来るよ」
普通の服から漫画の登場人物が着るようなコスプレ衣装まで様々な服が載っている本を何冊も取り出して渡す
「お、この服も強そうだな」
轟鬼丸は漫画の登場人物が着る服に興味を持つ
「葛葉、この服なんかいいんじゃない?」
織葉はやたらと露出の高い衣装を葛葉に見せる
「露出が多すぎや、遠慮しとくわ」
と片っ端から却下していく
みんなが話している中で若葉は黙って本を見ている
琴音が本の中身を覗き込むと見ていたのは魔法少女もののフリルがあしらわれた衣装に、大きなリボンがついている
「着てみる?」
「い、いえいえ!ちょっと子供っぽいと思うのでやめておきます!それに、このメイド服?っていう衣装も気に入りました。他にもこういう服があるんですか?」
慌てて本を閉じて話題を変える
それからしばらくの間、みんなで様々な衣装を試し、着せ替え大会のような時間を過ごした
「さて、俺はそろそろ仕事の時間だから行くぜ」
轟鬼丸が立ち上がり、葛葉と共に部屋を出る
「なら、私もこの本を参考に色々と服を作ってみたいと思います。琴音さん、本日はありがとうございます」
深々と一礼して織葉も出ていき、琴音と若葉の二人だけになった
「若葉、今なら私達しかいないよ」
「……!」
そう言うと若葉は顔を赤ながら先ほど見ていた魔法少女の衣装が載ったページを琴音に見せる
「あ、あの……これを、お願い、します」
「お安い御用です」
琴音が龍気術を発動する
光に包まれた若葉の服装が魔法少女の衣装に変わると目を輝かせて織葉が用意した姿見の前に立ち、自分の姿をみる
「……可愛い」
姿見の前で本に写っているポーズを真似して今日一番の笑顔を浮かべる
二人だけの着せ替え大会……と思われているが、実はこの様子を見ている者がいた
会議の間の天井の隙間から一匹の子蜘蛛がこちらを見下ろしている
子蜘蛛が見聞きした情報は例外なく織葉の元に送られていた
「なるほど……若葉はこういう服が好みですか」
子蜘蛛から受け取った情報を手元の本に全て記録すると恍惚とした表情を浮かべる
「やっぱり若葉は可愛いですね」
嬉しそうに呟くと本を閉じる
そして、その本を本棚にしまう。しまった本、そして本棚に入れられている全ての本の背には若葉観察日記と書かれていた