龍姫終焉譚ー滅びの運命を破壊する者ー   作:龍姫の琴音

27 / 27
第十四話師匠と先生からの餞別

着せ替え大会の次の日

今日は修行をせずに明日の出発に備えて琴音は自室で精神を集中させて回復に専念していた

すると突然、目の前に魔法陣が出現した

魔法陣の出現を感知して驚いた琴音が目を開けると魔法陣から二人の人物が姿を現した

 

「師匠!先生!」

 

そこにいたのは天照と月詠だった

 

「よぉ!元気そうだな琴音」

 

「随分と無茶をしたようね琴音」

 

天照はいつも通りの軽い調子で挨拶する。その一方で月詠は琴音の右腕と右目を心配そうに見つめる

 

「どうしてここに?」

 

「月詠がお前の事が心配で来たんだよ」

 

「天照は大丈夫だと言いますが、自分の体に取り込んだんですよ。一歩間違えたら琴音が死んでいたのかもしれません」

 

天照は全く心配していないが月詠は逆に琴音の事を相当気にしているようだ

 

「大丈夫ですよ先生。師匠はいつも言ってました

戦いで生き残れるのは最後まで生きる事を諦めなかった者だけ。私は最後の瞬間まで諦めなかった。だから今、こうして生きているんですから」

 

どんなに惨めでも最終的に生き残れば勝ち

それが戦士として天照が琴音に教えた戦いに対する心構えだった

 

しかし、月詠はそう言う状況にならないように何重にも策を巡らせ、不測の事態に対処できるように備える策士としている

だからこそ月詠は天照の考え方を完全に理解できないのだ

 

「それで、師匠達はお見舞いに来たという事でいいんですか?」

 

「ん?月詠はそうだが私は違うぞ」

 

「……え?」

 

「私は分福の料理と酒が目当てだ!」

 

天照らしいと言えばらしい考えだが少しはこちらの心配もして欲しいと思いながら琴音は溜め息を吐く

 

「だから認識改変魔法まで張っていたんですね……」

 

二人が来たと同時に認識改変魔法を張っていたのは分かっていたがまさか料理を食べるために張っていたとは思わなかった

 

「と言うわけで、早速案内してくれ」

 

「はぁ……分かりましたよ師匠」

 

月詠が止めなかったと言う事は許可した事だろ。それなら、琴音が天照を止める理由はない

 

部屋を出て廊下を歩いていると若葉と出会った

 

「お出かけですか?琴音様」

 

「ちょっと分福まで二人を案内しようと思って」

 

「天照様、月詠様。こんにちわ」

 

二人の姿を見て若葉は挨拶をする

認識改変魔法によって天照と月詠の事を最初から知っていると言う認識に書き換えられている

そのため、二人と初対面のはずの若葉はまるで以前から二人の事を知っているように接していた

 

「おう!」

 

「琴音をお世話してくれていつもありがとうね」

 

「いえ、これが私の仕事ですから」

 

若葉は少し考え込み──

 

「あの……私もついていっていいでしょうか?」

 

琴音が二人を見ると天照と月詠h問題ないと頷いた

 

「じゃあ、一緒に行こうか」

 

「はい!すぐに準備してきますね」

 

そう言って若葉は廊下を駆けて行った

若葉が自分から何かをしたいと言ってきたのが珍しくて琴音は少し驚きながら、若葉の後ろ姿を見送った

 

それからしばらくして若葉が戻ってくると琴音達は分福へと向かった

 

暖簾をくぐって中に入ると相変わらずの盛況ぶりで満席になっている

 

「お、琴音じゃねぇか」

 

声をした方を見ると轟鬼丸が酒を飲んでいた

 

「昼間っから酒なんて飲んでいいの?」

 

「この程度で酔うわけないだろう。それよりも、お前の師匠である天照に用があるんだ」

 

「ん?私にか?」

 

「あぁ、本当なら喧嘩をしたいが復興中に喧嘩して派手に喧嘩するわけにはいかねぇ。そこでだ!」

 

そう言って轟鬼丸は酒樽を天照の前に置く

 

「これで勝負するのはどうだ?」

 

轟鬼丸からの勝負の申し出に天照は笑みを浮かべる

 

「その勝負、受けて立つ。琴音、審判しろ」

 

「えぇ〜……」

 

いつの間にか琴音も巻き込まれた。その横で残された月詠に若葉が声をかける

 

「あの、月詠様。もしよろしければ私に料理を教えてくださいませんか?」

 

「料理、ですか?私が教えるような事はないと思いますが……」

 

「琴音様はこれから危険な場所に行きます。私に出来る事は琴音様の帰りを信じて待つ事だけです」

 

会議の時に琴音は若葉を必要だと言ってくれた。しかし、若葉に出来る事は少ない

 

「ですから琴音様が帰ってきた時、少しでも心が癒されるように……琴音様の好きな料理や味づけを教えて欲しいんです」

 

琴音が赤ん坊の頃から食事等の面倒を見てきたのは月詠だ。その月詠なら琴音の事を誰よりも知っている

月詠は優しく微笑み若葉の頭を撫でる

 

「琴音の事をここまで大切に思ってくれる貴女の気持ち、育て親としてとても嬉しいです。喜んでお教えしましょう」

 

「ありがとうございます!」

 

深々と頭を下げて若葉は源蔵さんに許可を貰って厨房の一部を借りる

 

それから月詠は自分が知る限りの琴音の好きな料理とその味付けを教えた

若葉はそれを真剣な眼差しで見ながら一つ一つ記録していく

 

「これで私が教えられる事は全部です」

 

「ありがとうございます。私、同じ味が出せるように頑張って練習します」

 

「残念だけど、どれだけ頑張って練習しても、同じ食材を使っても同じ味には出来ないの」

 

「?」

 

若葉は首を傾げる

今まで聞いた調理法には特別な食材や技術が必要なものはなかった

何ども練習すれば同じ味には出来なくても、かなり近づける事は出来るはずだ

 

「琴音はね、人の感情を五感で感じる事が出来るの

私はいつも、琴音に健やかで、元気に育って欲しいという気持ちで料理を作っていた。琴音はその気持ちを味覚として感じ取る」

 

人でありながら龍王のように人の感情を感じ取れる琴音は同じ料理を食べたとしても感じる味が違う

 

「若葉が琴音に向ける感情は私とは違う。だから若葉が私の料理の味を真似する事が出来ない。逆に私にも貴女の料理と同じ味をする事は出来ない」

 

月詠は若葉の目をまっすぐ見つめる

 

「琴音の事を大切に思う。貴女だけが作れる料理なら……琴音はきっと喜ぶわ」

 

「はい!私、頑張ります」

 

月詠から料理に対する極意のようなものを授かり、料理教室が終わる

 

その頃、轟鬼丸と天照の酒呑み対決は酒が全て尽きてしまった事で強制的に終了となった

 

「次会う時は喧嘩で白黒つけようぜ!」

 

「もちろん受けて立つぞ」

 

約束を交わして轟鬼丸は城に帰り、若葉も仕事に戻ると言って轟鬼丸と共に城へと帰っていった

 

残った琴音達は最後に常世桜の元に向かった

 

「これが常世桜か。立派だな」

 

「地脈の影響を受け続けた結果ですね。とても壮観です」

 

二人が琴音の方に振り返る

すると、天照は琴音の右腕に、月詠が琴音の右目に触れた

 

二人の力が琴音に流れ込むと触れた場所が淡く光る

 

「うし!これで侵食は完全に祓ったぞ」

 

「……え?」

 

包帯を取ると右腕は普通に動くようになり、右目の視界もはっきりと見えるようになった

 

「私達からの餞別です。頑張りなさい琴音」

 

「私の弟子なんだから絶対に負けんなよ。そして、死ぬな」

 

「はい!」

 

二人からの餞別と激励の言葉を受け、琴音は力強く返事をした

その言葉を聞いて天照と月詠は元の世界へと帰って行った

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。