龍力についての講義を終えた月詠は本を閉じて教壇に置き、もう一冊の本を開いた
「……では次の講義を始めます。先ほどの講義で龍力について説明しました。今回はそれを戦闘用に変換した“龍気“と“龍気術“についてです」
月詠は光を収束させて龍の形を作る
「まず、龍は自然ネルギーを吸収します」
龍の周辺に滞留している光の粒子が龍の体の中に吸い込まれていく
「吸収された自然エネルギーは体の中で龍力へと変換されます」
光を吸収した龍の像からオーラのようなものが滲み出し始めた
「このオーラのようなものが龍力です。龍力は生きているだけで消費されていき、やがてこのように体外へと霧散していきます
龍とは戦いを求める種族です。長い年月の中でこの生きるためのエネルギーを戦闘用に変換する術を身につけました。それが“龍気“です」
今までは無意識に龍気を使っていたが、こうやって言葉にして説明を受けると自分の持つ力の凄さが実感できる
「龍人族がその龍気を自分達でも使える技として昇華したもの──それが“龍気術“です」
説明を終えると月詠は本を閉じ、教壇に置く
「ここまでは書物にも記されている内容です」
一度言葉を切り、月詠は僅かに間を置く
「ですが──龍王を宿した貴女は例外です」
その一言で空気が一変した
「龍王を宿した貴女が使う龍気術は“混沌”の性質を持つ」
「混沌……」
「全てが混ざり合った状態。混沌の前では境界も、法則も意味を持ちません」
月詠の視線がまっすぐ琴音に向けられる
「どれほど世界の法則から外れていようとも貴女が“出来る“と強く思えば実現できる。逆に“出来ない”と思えば永遠に出来ません」
出来るか出来ないはか──その全てが自分の意思で決まる
「それって、つまり……」
「えぇ、龍王の力とは想像を具現化する力と言っても過言ではありません」
琴音は自分の手を胸に当てる
前の講義で知った龍王の危険性と語られた規格外の力。その両方が自分の中に宿っているという実感へと変わっていく
「……危険で、それでいて凄まじい力なんですね。そんな力を使いこなすのはすごく難しそうですね」
「難しそうではなく、実際に難しいんです」
月詠は即座に琴音の言葉を否定した
「強力であるがゆえに、明確なイメージが不可欠で、曖昧なイメージでは、力は形になりません」
望めば何でも出来る
だが、明確に思い描けなければ龍気術は発動しない。まるで──龍王に試されているように思える
「貴女が龍気術を扱えるようにするためにはまず“イメージを明確にする”訓練“を課しました」
「アニメを見たり漫画を読む事ですよね」
「えぇ、視覚情報が多い映像作品と漫画から登場人物が使う技を“見て“再現する」
第一段階では視覚情報で技を模倣する
「次に小説です。文章だけを頼りに技を想像し、再現する」
「これは、かなり大変でした」
視覚情報がない分、全て自分の中で想像して構築しなければならない。何度も読み返し、言葉の意味を調べてようやく形にする事が出来た
「それでも一切弱音を吐かず、やり遂げたのは貴女の努力の賜物です。結果として──訓練は非常に順調に進みました」
「はい!」
月詠に褒められ、琴音は嬉しそうに胸を張る
「しかし……」
月詠は難しい顔をして人差し指を額に当て、わずかに眉を寄せた
「アニメそのものに没頭し、完全な趣味になってしまったのは想定外でした」
自覚があったのか月詠の言葉に琴音は視線を逸らす
「最初は教材としてアニメや漫画を与えていました。貴女は意欲的に訓練をしており、結果も出していました。それには私も感心していました。ですが、訓練を続けるにつれて理解しました
琴音……貴女、技を模倣する訓練を“技がカッコいいから真似したい“という動機で訓練していますね?」
「ソンナコトナイヨー」
図星のため、不自然な片言で誤魔化す。その行動に月詠は小さくため息をつく
「……褒めるべきか、注意すべきか」
成果は出ている。だが、動機が不純とも言える
以前、この件を天照に相談したら──
「別にいいんじゃねぇか?やる気が上がって成果はでるんだろう。なら、問題ない。それに、趣味に関しては個人の自由だ。私達が口出しする事じゃない」
とあっさりと返された。まぁ、天照が言うように成果は出ているし趣味に口を出すのも違うのは月読も分かっている
「訓練に支障が出ない限り趣味を楽しむのは容認します」
「よっしゃ!」
琴音は思わずガッツポーズを取る。だが次の瞬間
「最後に一つ、忠告しておきます」
その言葉で空気が引き締まり琴音も真剣な表情に戻る
「貴女の龍気術は“ただの技“ではない」
そこで言葉を区切り、
「──世界すら塗り替える可能性を秘めた力だという事を、忘れないように」