実戦訓練を始まるとアマテラスの猛攻が琴音に襲いかかる
薙ぎ払い、袈裟斬り、突きと間髪入れずに繰り出される斬撃がまるで雨のようだ
(速い……)
相手は自分よりも遥かに格上の天照
一瞬でも反応が遅れれば、それで終わる
何度も金属がぶつかり合う乾いた音が庭園に響く中、琴音は内心焦っていた
(龍気術が、使えない……)
打ち合いの中、何度も発動させようと試みる
だが、頭の中で形を作ろうと意識を集中した瞬間、鋭い斬撃が迫る
咄嗟に防ぐ度に思考が途切れる。再び意識を向けても同じように斬撃が思考を断ち切られる
(駄目だ……!)
刀に意識を集中すると龍気術が使えない
龍気術を使おうとすれば、刀への意識が疎かになり攻撃に対応出来ず、どちらも中途半端になってしまい、体の動きが鈍る
「隙だらけだ!」
強烈な衝撃が龍葬を通して伝わり、受け身も取れないまま地面に転がる
すぐに立ちあがろうとした瞬間、喉元に刃を突きつけられ、動気が止まる
「これが本当の戦いなら今のでお前は死んでいた」
淡々と事実を告げられる
月詠に教えてもらった事が活かせなかった悔しさが込み上げ、龍葬を握る手に力が入る
「……今の戦いで何が駄目だったか分かるか?」
「師匠の攻撃を捌くだけで精一杯で、龍気術を使う余裕がありませんでした。そのせいで中途半端になり、大きな隙を晒しました」
琴音の答えに天照は静かに頷く
「戦いとはいつ始まるか分からない。不意打ちもあれば、自分に有利な状況を作って待ち伏せる事も、罠に誘い込む奴もいる
どんな敵、どんな状況にも対応できるように教えた“剣術の基本“を思い出せ」
「剣術の、基本……」
その言葉に琴音は修行初日の記憶を思い出し、ゆっくりと立ち上がる
「師匠、もう一本お願いします」
「あぁ、納得いくまで付き合ってやる」
再び猛攻が襲いかかる。琴音は心を落ち着かせ、一撃、一撃を的確に捌いていく
その中でかつての言葉を思い出す
───
「いいか琴音、剣術には“型“というものがある
型を無意識で扱えるまで体に叩き込目ば最適な一手を選び取れる
「でも、型って読まれませんか?」
「その通りだ。型は強みであると同時に弱点にもなる」
「アニメとかだとカッコイイんですけどね……」
「それには同意する。型の最後で決着がつくという演出は胸が熱くなるよな」
琴音の意見に同意し、うんうんと何度も頷く
月詠に隠れてアニメを鑑賞していた際に天照に見つかり、それ以来二人は見つからないように隠れてアニメを趣味目的で鑑賞する会が度々行われていた
「っと、話が脱線したな
型は確かにカッコいい。だが、お前がこれから相手にする奴らを想定すると型を覚えさせるのは得策ではない
そこでだ、お前には“型に頼らない剣術“を教える
相手の技、間合い、流れ。その全てを見極め、その場限りの最適解を作り出せ
「それって一回限りしか使えない剣術って事ですか?」
「そうだ。一度きり、二度と再現できない技。言うなれば──再現不能の剣術だ」
その場で生まれ、その場で失われる剣。同じ技は二度と使う事も再現する事も出来ない
「この剣術を会得出来るかどうかはお前次第だ」
難易度は確かに高い。だが、それ以上に心が燃える
「なら、私が会得するまで付き合ってくださいよ師匠!」
──あの日の記憶が今へと繋がる
繰り出された薙ぎ払いを受け止める
(考えるな!)
受け止めた斬撃を弾く
(感じろ!)
さらに迫る斬撃
(流れを読め!)
琴音は踏み込み、斬撃を繰り出す
「……!」
繰り出される斬撃に危機感を感じた天照は咄嗟に回避する
振り抜かれた斬撃は衝撃波となり、龍が空を登るように空の彼方に消えていった
「……出来た」
斬撃を繰り出す時、琴音は何も考えていなかった。いや、考えるよりも先に体が動いた
そして──意識せずに龍気術が発動した
それを見て天照の口元がわずかに緩む
「それでいい。ようやく“戦える“ようになったな」
「偶然ですが……確かな手応えはありました師匠」
龍気術が発動した事の実感はまだ薄い。だが、発動した瞬間の感覚だけは確かに残っている
「なら、それが偶然じゃない事を証明してみろ」
「このまま会得してみせます」
二人の戦いは、次の段階へと進んだ