第六話
戦闘が続くにつれ、琴音の龍気術を使う頻度は明らかに増えていた。まだまだ粗削りではあるが龍気術の練度は確実に上がっている
「頃合いだな」
天照が呟くと琴音の斬撃を弾き、距離を取ると武器を納刀する
「どうかしましたか師匠?」
「興が乗った。琴音、お前の全力の一撃を私に見せてみろ」
天照の体から神々しいオーラが発生する
「閉ざせ天岩戸」
オーラが天照を半円状に包み込んだ
「この技は私の技の中で最も弱い防御だ。今のお前にこの技を破れるか?」
いくら弱い技と言っても神である天照が使う技となれば半端な攻撃では破るどころか傷をつける事すら出来ない
琴音は龍葬を納刀し、抜刀の構えを取る
剣術を教えてくれた天照が初めて本気の一撃を求めていた。弟子として、一人の剣士として天照の気持ちに応えたい
その気持ちに答えるかのように琴音から今まで以上の龍気が溢れ、溢れだした龍気は龍葬へと収束されていく
(もっと……もっと多くの龍気を、この刃を、届かせるために!)
やがて、龍気は限界まで龍葬に集まり、呼吸が止まり、世界が静止したかのように庭園に静寂が訪れる
「いきます!」
「来い!」
力強く大地を蹴り、一気に加速して間合いを詰める。龍葬が届く距離に達した時、全力の一撃が放たれる
「──龍刃閃!」
全てを賭けた一撃が天照の防御結界と激突する
次の瞬間、空気が裂けるような轟音と共に庭園全体に衝撃波が広がった
衝撃波によって砂埃が舞い上がり、徐々に晴れていくと天照の前で琴音が龍葬を地面に刺し膝をついていた
「ギリギリ及第点ってところかな」
防御結界には傷一つないが、琴音の最後の一撃に満足したのか天照は結界を解き琴音を見下ろす
「最後の一撃、どうしてダメだったか分かるか?」
「単純な力量差という訳ではないですよね?」
「それもあるだろうが、本質は他にある」
「……あの時、私が扱え、制御できるギリギリまで龍気を収束させました。それで届かないとなれば私が未熟なのが原因だと思います」
「ハズレだ」
「えっ?」
「お前の一撃は確実に私の防御を壊せるだけの威力はあった
だが、実際は結界に傷をつける事が出来なかった。その理由を考えろ。その答えを見つけた時、もう一度お前の全力を試してやる」
天照は琴音に手を差し伸べ、琴音は差し伸べられた手を握り立ち上がる
「今日の修行はこれで終わりだ。風呂に入ってゆっくりと休め。休息を取るのも修行の一環だ」
「はい。ありがとうございました」
深々と頭を下げると琴音は龍葬を納刀し風呂の方へと向かった
庭園に一人残った天照の元に月詠がやってきた
「随分と派手にやったようね天照」
グチャグチャになった庭園の様子を見ながら月詠はため息をつく
「だが、弟子の成長はしっかりと感じれたぜ」
そう言って、天照は自身のお腹の部分をなぞると、そこには薄く、だが確実に血の滲む一筋の傷が刻まれていた
「まさか……」
「琴音の技は確かに届かなかった。だが龍気は届いていた」
「ギリギリ及第点で届いた……合格点を上げる時はどれほど危険な存在になるのか恐ろしいわね」
「確かに力だけを見れば恐ろしいな。だが、力には善も悪もない。扱う者の心次第で決まる
そして琴音は善も悪も飲み込む龍王を宿している。その力はきっと良い方向に向かっている。お前もそうだろう?月詠」
「私達は力をある者を何人も見てきました
力に溺れる者、力に呑まれ自我を失う者、その力に恐れられ、裏切られ、悪に堕ちていった者。強大すぎる力は身を滅ぼす。神として、琴音は危険な存在だと思います」
今まで多くの異世界を観測してきた経験上、琴音の力というのは脅威にしかならない
「ですが、琴音には力と向き合う覚悟がある。貴女と共に三人で過ごした時の中で私は琴音であればその覚悟が揺らぐ事はないと信じています」
神として場合によっては琴音を処分しなければならない。でも育ての親としては琴音なら大丈夫だと信じている
「相変わらず真面目だな月詠。素直に琴音なら大丈夫だって言えないのか?」
「貴女のように感情で物事を決めれない臆病な性格なだけよ」
「その性格のおかげでいつも助けられているよ。これからも一緒に側で見守ってやろうぜ」
月詠は静かに頷く。そして二人は荒れた庭園の修復へと取り掛かった