羽川翼と阿良々木暦の交際物語   作:四角いトマト

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第3話 つばさアルマゲドン其之一

放課後の学習塾跡。

僕の「避難所」であったはずのその場所は、今や阿鼻叫喚の図列と化していた。

 

「阿良々木先輩! 聞いたぞ!羽川先輩と付き合ってからというもの、阿良々木先輩の性癖が『委員長』という狭い檻に閉じ込められ、私の変態的ポテンシャルが供給過多で爆発寸前だと!」

 

バスケ部のエース、神原駿河が、なぜかブルマ姿で僕の脚にタックルをかましてくる。

 

「落ち着け神原! 供給過多の意味がわからんし、そもそも供給過多ってなんだ! 在庫を抱えすぎた問屋みたいな言い方をするな。ていうか、なんでブルマなんだ! 時代を考えろ!」

 

「なるほど!さすがは阿良々木先輩。私立直江津高校が誇るブルマーの中でも最上位に君臨する阿良々木先輩なら、やはりブルマを着用するには春先ではなく…」

 

「そうじゃない!僕を勝手にブルマーの最上位に君臨させるな。その王座には永遠に誰も座らなくていい。時代を考えろと言ったのはあくまでブルマが、2010年代初頭にはほぼ姿を消した密着型デザインによるセクハラや性犯罪の対象になり得るという懸念が強まった結果、現在はハーフパンツへ移行してしまったという失われしオーパーツとしての輝きに決して僕が興奮しているからではない。それ以前にこの場所は塾の跡地であって、神原の特殊性癖個展会場じゃないんだぞ!」

 

「何を仰る阿良々木先輩!ブルマはこの日本では正装なのだぞ!それに時代はともかく季節感ならバッチリだ!今の私の心は、阿良々木先輩への情熱で常に真夏(オールサマー)! そしてこのブルマこそが、羽川先輩という『正妻の壁』に挑むための、私の正装――いわば決戦用機動服なのだ!」

 

神原は僕の膝にしがみついたまま、キラキラとした、しかし確実に何かが欠落している瞳で見上げてきた。

 

「決戦用にしては布地が少なすぎるだろ! 面積比で言えば、神原…お前のやる気はほぼ全裸に近いぞ!」

 

「おやおや、私の敬愛する阿良々木先輩ともあろうお方が、どうやら語彙力が貧しくなっているではないか!全裸ではなく『開放』と言ってくれ。……阿良々木先輩が羽川先輩という『完璧なる理性の化石』と結ばれたせいで、この街の変態エネルギーの均衡が崩れている。いわば、阿良々木先輩という逃げ場を失った私のリビドーが、行き場をなくして逆流し、神原駿河という器を内側から破壊しようとしている!」

 

「逆流させるな! そのまま勝手に消えてくれ!日本の国力の低下もさてはお前が原因だろう神原!全てお前のせいだ神原!というか、なんで僕が結婚(まだしてないが)したことが、お前のエネルギーの不法投棄に繋がるんだよ!」

 

「阿良々木先輩が羽川先輩一筋になるということは、私が阿良々木先輩の背後に忍び寄り、『あら、こんなところに隙が!』と言いながら耳たぶを甘噛みしたり、ジャージの裾から侵入を試みたりする『不誠実な遊び』が、道徳的に禁じられるということだろう?それは私にとって、呼吸を止めろと言われるに等しい死刑宣告なのだ!」

 

神原はそう言うと、不意に僕の脚から手を離し、シュバッ、と謎のポーズを決めた。

 

「そこで私は考えた。阿良々木先輩が羽川先輩の『委員長』という属性に縛られているのなら、私が『委員長かつ変態』という、光と闇が合体した究極のハイブリッド属性になれば良いのだと!」

 

「……。嫌な予感しかしないんだけど、一応聞いていいか。具体的にどうするんだ」

 

「よくぞ聞いてくれた、阿良々木先輩!」

 

神原はブルマの腰に手を当て、胸を張った。

 

「今日から私は、『神原・委員長・駿河』を名乗る!毎朝、阿良々木先輩の家の前で待機し、登校中の阿良々木先輩に『阿良々木くん、遅刻よ! 罰として、私のブルマの繊維の本数を数えなさい!』と、論理的かつ破廉恥な指導を行うのだ。どうだ?これなら羽川先輩も太刀打ちできないだろう!」

 

「太刀打ちする前に、警察が来るわ! というか、羽川がその光景を見たら、笑顔のままお前を『論理的に』消滅させるぞ! 神原の言う委員長要素が、今のところ『遅刻よ!』というセリフ一つしかないのも問題だ!」

 

「阿良々木先輩……。まさか、私のブルマ姿に、羽川先輩の眼鏡以上の価値を見いだせないと仰るのか? ……ならば、仕方ない…奥の手だ」

 

神原はゴソゴソとブルマのポケット(どこにあるんだ)から、一枚のレンズを取り出した。

 

「これを……片目に装着し、モノクル(片眼鏡)委員長となった私を愛でるがいいッ!」

 

「ただの海賊だよ! 属性が渋滞しすぎて、もう神原が何者なのか誰にもわからないよ!」

 

「いいえ阿良々木先輩、これは海賊ではない。……先輩の理性を略奪しにきた、愛の私掠船(プライバティア)だ!」

 

「上手いこと言ったみたいな顔するな! 誰か! 誰かこの猿を檻に戻してくれ! 忍野でもいい、戦場ヶ原でもいい! 早くしないと、僕の語彙力が神原のブルマに吸収されて消えてしまう!」

 

僕の叫びは、埃っぽい塾の跡地に虚しく響き渡った。

 

神原駿河という名の「暴走特急」は、止まるどころか、片眼鏡を装着してさらに加速する。

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