超かぐや姫!のクラファン目標額の4,000%越えってスゴイですよね、目標額の40倍って。合計額どんだけだったんだろう………。
「へっ?」
もうなにがなんだかがわからない。とりあえずこの事実を受け入れる前に今日を振り返ろう。まず、学校行ってその帰りにバイト行って、バイト帰りに流れ星を見た。これはまだいい、流れ星を見るのは稀ではあるがまだ理解も納得もできる。
その後に佐野とばったり会って、ご飯を作ってくれることになって、アパートの前に行くと電柱がゲーミングになっていた・・・。いや意味わかんねぇよ。しかもその中から赤ちゃんが出てくるなんてどうなってんだよ。
「ふぇ…」
目の前の怪現象が現実であることを受け入れると後ずさってしまう。そんな私を見て赤子は悲しそうな顔をして泣きそうになる。やめろ、そんな目で私を見るな。かわいらしい顔をゆがめてこっちを見るな。
「すまん!ですがわたくし手一杯ですので……!」
「え置いてくの!?」
「じゃあほかにどうしろってんのよ……!」
「警察に通報とか……」
「誰が信用すんのよこの子のこと……!」
たとえここで通報したとしても信用してくれない。ゲーミング発光している電柱から赤ちゃんが出てきましたなんてイタズラ電話にしか思えない。
そりゃそうだよ。ここに置いておくのは危険だそんなことはわかっている。でも私には人を助ける余裕なんてないだよ。
「ふぇぇ」
「!」
忍び足で立ち去ろうとすると赤ちゃんの声が聞こえて思わず振り返ってしまう。するとなんだコイツは、うれしそうに笑うではないか。もうやめて、私のライフはもう0に近いんだ。
「うぅ…くっ……失礼いたします!」
ーーーあ~もうどうなってもいいんだ~。だぁ!
ーーーワオォォォォォォォン!!!!
ーーーガー!ガー!ガー!
そう言ったったとたんに酔っ払いのどうなってもいいんだ発言、犬の遠吠え、カラスが喚く音などが聞こえてくる。こんなに治安悪かったっけ。
ダメだ、やっぱりこんなところにこの子を置いていけない。どうなるかわかったもんじゃない。
「さ……さすがにここは危ないかも」
「とりあえず警察に届けるか?」
「冷静だなオイ……。どう持つんだこれ」
おっかなびっくり赤ちゃんを抱っこするした感想はとにかく軽い、だった。少し力を込めてしまったらつぶれちゃいそうな軽さで、柔らかいフワフワのタオルを持っているような気分。そのことに気を取られている間に電柱は七色の輝きを失い、赤ちゃんが出てきた扉も空洞も消えて元の姿に戻ってしまった。
「あ消えた」
「ちょ…ちょっ待てよおい!お~いすみません!お忘れ物ですよ!」
必死になって電柱を叩くが、私の役目は終わったといわんばかりに元通りになってしまった電柱を前に体の力が抜ける。佐野が支えてくれたが本当にどうしよう。何のあても手立てもないのに押し付けられてしまった。さらにそこに嫌な現実を突きつけられる。
「ねぇ……この状況じゃ俺らがさらったみたいなんじゃ」
冷汗が流れる。そうだ、こんな時間に赤ちゃんを連れている学生が二人、事案にならないはずがない。そんな心の内を知らずに、抱きしめられていることに安心しているのか赤ちゃんは笑みを浮かべているのを見て、思わず全身を振って拒否をしてしまう。
「ひぃ~ムリムリムリ……」
「あっ急に動いたら」
「ふやぁ~!」「ヒャーッ!」「泣いちゃうよ…」
泣き叫ぶ赤ちゃんにびっくりして悲鳴をあげてしまった。彼も彼で困り眉であたふたしており、本格的にどうすればいいのかわからない。
深夜とはいえここは住宅街、このまま泣き続ければそのうちだれかが来るだろう。そんなことになったら誘拐犯として通報されてしまうは明白。佐野がどうにか泣き止ませようとしているが全く効果がない。どうすれば、どうすれば………。
「ちょっと来て…!」
「えっ」
パニックになった私は彼の手を引き、階段を駆け上り自分の部屋に駆け込んでいた。
「ああ、よーしよし。え~どうしようどうしよう………」
腕を引っ張られその勢いのまま彼女の家に連れこまれる。泣き叫ぶ赤ちゃんを泣き止ませるために部屋を歩いたり優しくゆする酒寄を見ながらバックの紐を両手で握りしめる。
(どうしよう)
誰かの家に入ったのはこれが初めてだった。ご飯を分ける時は玄関で済ましていたし、勉強会をするときは綾紬さんたちと協力してカフェや図書館でやっていた。遊ぶ時だって基本ツクヨミの中だったりするから招くことはあれど招かれたことはない。なのにいきなり生活感あふれる彼女の部屋に連れ込まれてしまってどうすればいいのかわからなくなり立ち往生してしまう。
ドンッ!!
「うわ!」「ハッ!」
鳴き声が煩わしかったのか隣の部屋から壁を殴る音が聞こえた。今は夜の11時、壁の薄いアパートなのでうるさいに決まっている。しかしそのおかげで正気を取り戻すことができた。
「壁ドン・・・初めて聞いた・・・・・・」
「え・・・在宅ワークなのにされたことないの?」
「ふやぁ~!」
「あーよしよしほらほら音なるよ~これ音なるよ~それたかいたか〜い」
「ほらほらほら怖くない怖くないよベロベロベロベロ~」
ドンドンッ!!!
「ふえぇぇぇぇ~!!」「わぁ!」「まーずい!」
咄嗟に目の前にあった空き缶をペンでたたいたりたかいたかいをして気を引こうとする。しかし、変顔をしてその後にハッとした顔を赤くしてこちらを見た酒寄と俺の健闘むなしく今度は二連続の壁殴りが聞こえてきた。周りの人たちに人生経験豊富と言われてれているが、さすがに赤ちゃんを育てたりなだめたりしたことがない。
「やっぱ子守歌とかかな‥‥‥ちなみに俺はわかんないよ?」
「え〜子守歌子守歌子守歌‥‥‥記憶にございませんな」
ダメダメじゃねぇか。二人揃って子守唄を歌われた記憶がないだなんて話にならない。
「子守歌といったら児童曲とか優しいメロディの曲だけど‥‥‥」
そう答えると酒寄は少し考える様子を見せ、意を結したように歌い始めた。
「大切なメロディは流れてるよ」
「あなたのハートに」
「鼓動のよう途絶えずにあふれてるよ」
優しい天女のような歌声が響く。彼女に翼を、生きる気力を与えてくれた曲。それは満月にとっても同じであり、二人が一番好きなヤチヨの歌であった。
その歌声を聞いて安心したのか赤ちゃんは、満月の腕の中でスヤスヤと寝息を立てて眠り始めた。
「ヤチヨパワーすげぇ‥‥‥」
「さすが酒寄」
「いやいや佐野のアドバイスのおかげだよ」
「またまたご謙遜を」
そんな問答を繰り返し、二人揃ってクスッと笑う。ようやく落ち着けたと安心した。するとそのせいか、彩葉は体の力が抜けふにゃふにゃと布団に仰向けで倒れてしまった。
「おい大丈夫か?」
「ああ、大丈夫。‥‥‥それはそうとよかった〜」
「でもこれ‥‥‥」
「うん‥‥‥」
「「どうしよう」」
そうなのだ。まだ寝かしつけただけで根本的解決には至っていない。これから赤ちゃんを一体どうするのか、何も決まっていないし何も見えてこない。
ひとまず話し合って警察に相談してみることにしたが、疲れとストレスで頭はまわらず、
「事件……なんですかね、あの…七色に輝く電柱からですね、こどもが…出てきて。いやあの、赤ちゃんが…あっえっと訳分かんないですよね。私たちもわけわかんなくてえっと…んん…
あっ大丈夫です今大丈夫になりました!すみません!はい、ありがとうございます………」
などとよくわからない説明だけして切ってしまった。
「……ひとまず、赤ちゃんが熱中症にならないように冷房を入れよう。ンでその後は……とりあえずご飯にしようよ。今日は疲れただろ?食材持ってくるから赤ちゃんをお願いね」
「わかった。何から何までありがとう」
「いいってことよ」
現在時刻は深夜0時、満月も彩葉も昼ごはんを最後に何も胃の中に入れていない。さらにバイトや仕事などで疲労がたまっており、赤ちゃんのことで限界が近い。
そのため、一度満月は部屋に戻り簡単な食事を作ろうと支度をして部屋を出ようとしたそのとき、赤ちゃんは泣き声を上げ始めた。
「うぇ、ふえぇぇ…」
「「!?」」
彩葉と満月に電流走る。まさかと思い、満月は彩葉に頼みかける。
「……さ、酒寄。ちょっと俺の部屋から食材持ってきてくれない?ほらこれ……」
「う、うん。ちょっと……行ってくるね……」
赤ちゃんを満月に任せ、カギを受け取り部屋を出ようとした彩葉。しかし現実は無常だった。
「ふえっ、うえぇぇぇ」
やはり間違いじゃなかった。彩葉か満月が離れようとすると赤ちゃんは泣きだしそうになる。2人を親と認識しているのだろうか。赤ちゃんにとっては親はいなくてはならない存在。一緒にいてくれないと悲しくなってしまう。一緒にいないといけない存在だと思っている。これはまさに脅迫されているようなものなのだ。
「待って待って待って待ってよ……じゃあ俺たち」
「この子が泣かなくなるようになるまで」
「「一緒にいないといけないってこと……?」」
(由々しき事態だ)
現状を言い表すのはこれしかないだろう。2人のうちどちらかでも離れてしまうと赤ちゃんが泣く。赤ちゃんが泣いてしまうと隣人からの
「……状況を整理しよう。俺たちは赤ちゃんを泣き止ませて眠りへといざなった、俺が遅い夕食を作ろうと部屋を出ようとしたらこの子が泣きだしそうになった、じゃあ酒寄ならと思ったが酒寄が出ようとしても泣きそうになった……。ここまではいいね?」
「…何にもよくないけどいいよ」
「そんで、色々試したところ見えないところでも4m程度なら大丈夫だということが分かったけど、問題は4mっていうとこだよ。」
「?」
「つまりね、俺たちは、事実上の共同生活を強いられます。」
「あっ」
「このせっまいボロアパートの一室で」
「あっ」
「風呂や着替えも近くにいないと壁ドンが飛んできます」
「あっ」
「さらにそこに赤ちゃんの世話も入ってきます」
「あっ」
「以上の点を踏まえたうえで、どうする?」
「しゃわーあびてくる」
考えることを放棄しないでお願いだから。
背後から水音が聞こえてくる。一応目隠しと耳栓をしつつ赤ちゃんに腕枕をしてうつ伏せになっているが、脳裏にチラつく彼女のことが頭から離れてくれそうにない。
「不味いよなぁ…」
いや、こんな時こそ臨機応変に…できない。できるわけがない。自分の好きな人が背後でシャワーを浴びている。こんな状況で落ち着いてられる人などいるのだろうか。
「助けてじいちゃん……」
いまはもういない頼れる祖父に弱音を吐き、ただただ時間がたつことを望むしかなかった。
「目隠しとっていいよ佐野」
そもそもどうしてこんなことになったんだ?
「佐野ってば」
いや、そんなことは考えるな。誰も悪くないんだよこの状況は。
「お風呂あがったよ」
そうだ、だれも悪くない「佐野!」「ハァアイ!!」
耳栓を外され耳元で名を呼ばれる。滅茶苦茶ビックリしたが赤ちゃんが起きたらマズいので咄嗟に声を小さくしたことは褒めてほしい。
「あ……酒寄なに?」
「だからお風呂あがったから目隠しとっていいよ」
「……ヘイ」
許可をいただいたのでしゅるりと白いタオルの目隠しを外す。目の前には濡れ髪の天使が舞い降りていた。
「………」
「ちょっとこれからどうすんの?佐野は……その、泊まるの?」
「へっ?あ、あぁその、さすがによくないよ泊まるのは。部屋の前で寝袋でも張るよ」
「それこそよくないでしょ。風邪でもなったら本当にダメだし、何より赤ちゃんが泣くでしょ」
「あー確かに。でも女子高生の部屋に泊まるってのは世間体的にもよくないよ、それに何するかわかんないでしょ」
彼女の部屋に泊まるのはダメだ。酒寄彩葉は男を連れこんでいるなんて噂にでもなれば彼女の立場はおわる。そうなったら彼女の生活の支えになっている奨学金や特待生などの補助が受けられなくなる可能性があるため、絶対に回避しなければならない。
男はオオカミだという。恋人でもない男を同じ部屋で泊まらせるなんて彼女にとっても恐ろしいだろう。
「いいよ」
「ん?」
「佐野なら、いいよ」
………………………………なにをいっているのかわからない
新聞配達のバイク音が鼓膜を鳴らして目を覚ます。……寝れたな、6時間。もしかしたらすべて夢であったらいいなと思いながら顔を横に向けるが、そこにはスヤスヤと寝息を立てる赤ちゃんがいた。やはり夢ではない。どうやら夜泣きはしなかったみたいだ。
「おなかすいた…」
結局昨晩は何も食べてない。確か、料理をしてくれるはずだったのに私か佐野のどちらかが一定距離離れると泣きそうになっていたから部屋から離れることができなかったのだ。
「あれ、枕こんなに硬かった…っけ…」
赤ちゃんの横に佐野が寝ている。
佐野が寝ている。二人揃って顔がいい。赤ちゃんと私を挟んで一緒に腕枕していた。
「うわぁぁぁっ!」
「ン……何?」
何じゃねぇよなんで一緒に寝てるんだ……あ、そうだ。私が泊ってもいいって言ったんだ。赤ちゃんが泣かないようにしながら私を傷つけないようにしてくれていた。見たところ制服を着崩し、ズボンとワイシャツ姿で眠っていたようだが、私の寝間着は荒れておらず無事であることがわかる。艶めかしい首元から見える鎖骨がまた……いや違うだろ。赤くなった顔を見られないようにすぐさま視線を赤ちゃんに向け、何事もなかったように話しかけた。
「さ、佐野調子…どう?」
「んーそれなりに快眠。いまは……6時半か、何か作るね。ちょっと食材とってくるよ」
「でも、赤ちゃんが泣くんじゃ…」
「一分で戻る。カギ閉めないでよ」
赤ちゃんを起こさないようにやさしく腕を抜きながら上着を持って部屋を出た。
そのことに気づいていないのか、赤ちゃんはすやすやと眠っている。あれ、こんなに大きかったっけ。
「あっ濡れてる!まじか」
やられた、まぁ赤ちゃんだししょうがないよね。さすがにおむつくらいは変えてやるか。後は着替えも必要それにミルクも、ほかには抱っこ紐にタオル………
「あれ多くない?」
「戻ったよ」
「あ、おかえり。ねぇこの子漏らしちゃったけど」
「とりあえず脱がして。タオルも持ってきたからそれで包んであげてね。その間に作っておくから。ご飯食べたら西竹屋に行こう」
テキパキと料理をしながら今後の予定を立てる佐野。お母さんの味方の西竹屋に行くことは賛成だ。あそこに行けば子供用品がたくさん売っているため、赤ちゃんの服やミルクなども集まるだろう。少し離れているがそこはまぁ致し方ない。
ジュージューと食欲を掻き立てる音を聞きながら赤ちゃんの服を脱がす。
「できたよ、ピザトーストだ」
「わぁ……!」
チーズとベーコンの香ばしい匂いが鼻腔をくすぐり、小麦色の生地はまるで輝いているようで思わず喉を鳴らす。
「「いただきます」」
そんな生地を噛み占める。口角は広がりニヤついてしまい、半日ぶりの食事を胃の中に入れる。…あぁ最高だ。いつも節約に節約を重ね、一食百円で乗り切っている私としては、彼の作るご飯が私の生命線といっても過言ではない。
彼に会っていなかったらどうなっていたのだろう。昨日そんな関係はいやなどと言っておきながら、結局このざまだ。
―――言うんたんなら最後までその言葉曲げたらアカン。曲げてまうんならハナから言うんやない。そんなんただのホラ吹きや。私は噓つきは嫌いやよ。
私がこんななのに佐野はすごいなぁ。自分でお金を稼いで、学校にも通って成績もよくて、こんな風にご飯も作ってくれる。
「どう、美味しい?」
下から見上げるように聞いてくる。そんな彼に心の内を察せられないように咄嗟に笑顔を浮かべる。
「…うん、すっごくおいしい」
……あぁ、やっぱりおかあさんのいうことはただしいなぁ。
朝食を食べてしばらくした後、私服に着替えた私たちは西竹屋にいた。赤ちゃんに必要なものをそろえるためだ。しかしそれらは一人暮らしの苦学生二人には、あまりにも大きい壁だった。
「無理…無理無理無理!オムツ高~!」
「…こんな、するんだ…」
あまりにも必要なものと量の値段に悲鳴を上げる、しかも種類が多く高いやつもあれば安いやつもある。品質にも影響するのだろう。
……そりゃあ、できることなら質のいいやつを選びたいじゃん。そんな気持ちもあるのだが、子供服だって安くないし、哺乳瓶を消毒するための消毒液などという想定外の必須アイテムも必要」だった。
最終的な値段は以下のとおりである。
「合計で一万三千二百四十三円です」
どこが味方だ
「ふじゅ~ペイで」
呆然としている間にふじゅ~!という決済音が流れる。あれ、おかしいな。私はまだスマホを出してないぞ。隣を見ると赤ちゃんを抱きかかえている佐野がさっさと会計を済ましていた。
「あっ、ちょっと!何勝手に払ってるの!」
「ん~?さて何のことやら……」
このやろう、はぐらかそうったってそうはいかないぞ。こいつはこうゆうところがある。人目も気にせず彼を叱咤する。
「いつもご飯とか作ってもらってるからここは私が払うって言ったよね!?あんたばっかりに負担かけられないから!」
「別に負担と思ってないからいいよ。それより帰るころには昼だ、ミルクもあげないといけないしちゃっちゃと行こうよ」
そんなことを言いながらカゴを持ってってさっさと行ってしまった。不満げな私を見ないようにエコバックに商品を詰め込んでいる。
「もう………!」
「お嬢さんお嬢さん」
「はい?」
「彼、いいパートナーね♡」
「?…………っ///」
何を言うんだパートのおばちゃんは。
「なぜ私がこんなことを…」
「まぁまぁ…」
「きゃっきゃっ」
隣り合わせでぼやきながらがえっちらおっちら坂を上り、面白いのか佐野の顔をぺちぺち赤ちゃんに叩かれたり。
「えっと説明書だとこれくらいの量で…」
「はいはいもうちょっとまってね~、もうできるから」
「これで、できた……と思う」
「ほーい。ご飯ですよ~」
「…ちゅっちゅっちゅっ」
「…かわいい」
ミルクをたくさん飲む赤ちゃんに癒されたり。
「……うわっ!!」
「どうしたっ!」
「ちょ…服着ろ!バカ!!!」
少し目を離した隙に布団から赤ちゃんが落ちそうになったり。
「コラ!マウス食べない!」
「筆箱がよだれで…」
「おしゃぶり買った方がよかったか…?」
何でもかんでも食べられそうになったり。
「ふひひひひっ」
「やっぱ酒寄の子守歌が好きなんだな~」
「ヤチヨの歌だもん。当然でしょ……あっ配信!」
赤ちゃんはよく泣いたが、それ以上によく笑った。一度見るとまたもう一度見たくなる。子供が生まれると子供中心の生活になるというが、まさに子供を笑わせるためだけに私たちの三連休が過ぎ去っていった。勉強も仕事もすることはなく。
「……あれ、何やってるんだ私」
「んー?」
部屋で赤ちゃんを抱きながらぞっとした。
待て待て待て、私は何子育てに没頭しているんだ。違うだろう、そうじゃないだろう。本来ならこの三連休は全部勉強に充てるはずだったのに。佐野は合間合間をみてスマコンをつけてあれこれしていたが私は何もやってない。ペンを持ってすらいないし、参考書だってめくっていない。
「……佐野、ここ数日過ごしてハッキリわかった。やっぱりこの子を警察に届けよう?これ以上はもう無理だよ」
この子はもう手放さないと。疑われたっていい、どんなゲームよりも配信よりも早く時間が過ぎていく。
「……そうだね、明日からは学校も始まるしそうなるよね。……わかった、けど今日はもう遅い。明日の朝イチで警察に行こう」
少し悲しそうな表情を見せる佐野。チクリと胸が痛むが赤ちゃんに催促されてミルクを上げることで目をそらす。そうだ、子育てごっこはもうおしまいだ。
嬉しそうに、美味しそうにしているこの子の顔はやぱり天使のようだった。
誰もが寝静まる深い夜、一つの物影が動いていた。 正面扉のほうでも人影があるが、それは全く動こうとはしなかった。動いている影はリモコンを使ってタブレットを操作し、有名なドラマの再放送、巨大隕石接近のニュース、物事の流れが速いというインタビューに昔の童謡アニメなどが矢継ぎ早に切り替わり、次第に持ち主が影を抱きしめる。
………影は徐々に大きくなり、持ち主は重いと呟き影がずり落ちる。影は机の上のPCを操作し、メールをのぞいたり動画投稿サイトを見ている。まるで情報を求めているようだった。
「ん…酒寄?」
寝ぼけ眼で影に近づく男が一人。
「……へっ?」
影の全容を男は見る。
「うわっ……!?」
男は宙を舞う。足元にはベビー服、いつの間にか床に脱ぎ捨てられていた。
ガッ!
男は頭を強く打つ。
「いっ…!」
意識を失う直前に見たのは、月明かりに照らされる少女だった。
これはイチャイチャに入りますか?
この小説一話平均一万字近くあるけど読みやすい?
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