八千と百六八年   作:節足甲殻

4 / 5

 まさか拙作がここまで閲覧していただけるとは⋯⋯誠にありがとうございます。そして投票やお気に入り登録等も、非常に励みになりました。どれだけ時間がかかろうと必ず完結させるのでそれまでお付き合いいただけると幸いです。


 投稿が遅れた理由は特典とFIRSTTAKEです。あれはズルいじゃん


第三話 パンケーキ

「ねぇ~おなかすいた~」

 

「承知ですぅ⋯⋯」

 

 ハイハイおなかがすいたのね。もう声を聴くだけで何を求めているのかわかるようになったからね、また泣かれないようにさっさとやろう。

 

「いまお湯を⋯⋯⋯ん?」

 

 台所に立ち、ポッドに水道水を入れたところで違和感に気づく。あれ今泣いて⋯⋯え?

 

「うわぁっ!?」

 

「うおっ!?」

 

 なんか、いる。子供が、いる。十歳くらいだろうか、かわいい顔立ちに腰まで伸びた灰色と金色が混ざったような色の艶やかな髪。プルっとして形のいい唇に、ダボっと着ている私の服の下から覗く肌は暗がりでもわかるほどに白い。造形だけ見れば美少女だ。

 

(あんた⋯⋯だれよ)

 

「ビビったぁ⋯⋯⋯」

 

 ああまさか、いやそうだ。私にはわかる。この三連休ずっと一緒にいたもの。ミルクを上げてオムツも変えたのだからわかりたくないのにわかってしまう。この子は私たちが拾った赤ちゃんだ。

 もう確定だ。電柱から出てきたことや急激な成長、そして決定的なのはその腕輪。私たちが取ろうとしても取れなかったし、彼女の成長とともにともにサイズアップしていた。

 コイツは、宇宙人だ。宇宙人でなくとも少なくとも人間ではない。あまりの衝撃でベビー用品を段ボールとビニール袋に詰め込み彼女に突き出す。

 

「お帰りください!!」

 

「⋯⋯どゆこと~?」

 

「てかなに!?なんで急に大きくなってんの!?怖っ!」

 

「ん~まぁ今時は何もかものスピードが速いんですわ~」

 

 やかましいわ、インタビューみたいこと言いやがって。そういえば寝ぼけていたけれどこの子が夜中に目覚めてタブレットで遊んでいたのを覚えている。なんなら抱きかかえて一緒に寝た。まさかそれから情報を得ていたとでもいうのか…?

 

「ともかく」

 

「?」

 

「得体のしれないものはお断り⋯!」

 

「イ~ヤ~~!」

 

 無理やりにでも追い出そうとして両腕を引っ張る。しかしどこからこんな力が出るのか足をバタバタさせて抵抗する少女。コ、コイツ⋯⋯舐めるなよ。生後三日のがきんちょに負けるほど筋力がないわけでは⋯⋯⋯あれ待って結構拮抗してる。

 

「いたいいたいいたい!」

 

「あ、ごめん」

 

「ああああああああああ!」

 

グキッ!!!

 

「ウッ!」

 

「わっ、だっ大丈夫!?」

 

「お尻いたい~!手もいたい~!助けて~!」

 

 子供一人引っ張り出せない腕力でも痛かったらしい。ゴロゴロと窓のほうへ転がった少女だが、何かを下敷きにする感じで止まった結果、お尻を痛めてしまったらしい。ん?まて、今低い音が鳴らなかったか?それにこの子の下にあるのは……

 

「こ⋯⋯腰が⋯⋯⋯」

 

 腰に手を添え、頭にたんこぶを膨らませ、目がオレンジ色に光っている佐野だった。コイツスマコンつけっぱなしで寝ていたのか、ぶっちゃけいたこと忘れてた。

 

「ねぇたすけて~」

 

「揺らさないで揺らさないでホントこっちも痛いから⋯⋯」

 

―――――助けて?そないなことが言えるのが私の娘やなんて、ほんま驚きやわ。この世で頼れるんは自分一人だけゆうたよな?そないなことも忘れてしもたん、せやったら⋯⋯

 

 そうして四時間に及ぶお説教へ⋯⋯って違う今はそれどころじゃない。

 

「さ、佐野!その子は…」

 

「大体わかってる。夜中に目、あったし。あの赤ちゃんでしょ?」

 

 スゲェ、もうそんなことまで把握しているのか。彼の質問に首肯すると、いまだに騒ぎ立てている彼女を静かにさせねばと声をかける。

 

「ちょっと、やめて。また壁ドンされちゃうから」

 

ぐぅ~

 

 しかし私の思いとは裏腹に、帰ってきたのは壁を殴る音でも怒声でもなく、少女からの腹グーだった。おなかが空いたと言っていたし、まだミルクを飲ませていない。

 

ぐぅ~

 

 ⋯⋯気まずい。そういえば私たちも晩御飯を食べていなかった。顔を赤くして佐野にまたがった少女と見つめ合う。

 

「たすけて〜?」

 

 上目遣いで頭をコテンと傾け、可愛くあざとく頼み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ⋯⋯それはズルいじゃん。断れないじゃん。そんなかわいい頼み方はないじゃん。

 

 「⋯⋯⋯ちょっと待ってな」

 

 あ、あいつ折れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コンロを点火し玉ねぎに火を通す。その間に鶏肉を刻み食べやすい大きさにして一緒にフライパンの中に入れる。すると瞬く間に香ばしい匂いが部屋中に広がり、背後からはしゃぐ声が聞こえる。

 

「ねぇねぇ!満月は何してるの!」

 

「何してるって、そりゃ料理だよ。⋯⋯ってなんで佐野の名前知ってんの!?」

 

「彩葉!料理って何!」

 

「私の名前も⋯⋯⋯」

 

 どういうわけか彼女は俺たちの名前を知っているようだ。そういえば気を失う前に彼女がPCの前にいたことを思い出し、メールなどから知ったのだろうと合点がいく。

 

「多分PCからじゃない?スリープ状態になってるし⋯よし、できた」

 

 あらかじめ炊飯器の機能でケチャップライスを作っていたため、フライパンの中に入れればチキンライスが完成する。皿にとりわけ、卵を盛りつけて完成したオムライスを腹をすかせたお客様二人に提供する。

 

「はい、どうぞ」

 

「「おぉ⋯!」」

 

 10分ちょっとで作った簡単な料理だが、お気に召したようだ。みんなで卓を囲み、酒寄と両手を合わせる。

 

「「いただきます」」

 

「?」

 

「⋯あぁ。ご飯を食べるときにする合図だよ。両手を合わせて、感謝を込めていただきますって言うんだ。」

 

「⋯いただきます!」

 

 無邪気に教えたことをやってくれる。こう見ると本当に純粋な少女にしか見えないが、生後三日の不可解存在なのだ。

 酒寄がスプーンですくい口に運び、幸せそうな表情で舌鼓を打つ。その光景を真似したのか、左手でスプーンを握り、突き刺そうとする。左利きというか、酒寄の行動を鏡写しにしているようだった。

 

「ああ違うよ。スプーンの持ち方はこうで⋯⋯」

 

「こう?」

 

「そうそう」

 

 危なっかしい持ち方をする少女に思わず正しい持ち方を指導してしまう。不躾だったかと思ったが不快に思わず実践してくれたので少しホッとした。スプーンを突き刺し大口を開けて食べる。瞬く間に目を輝かせうれしそうな顔を見せる。

 

「すごい!なにこれ!」

 

「えっと⋯⋯オムライス、かな」

 

「オムライス!大好き!」

 

 直球に味の感想を伝えられ思わずにやけてしまう。その光景に酒寄も癒されているようで彼女に見惚れているようだった。

 

「⋯⋯ふふっ、ありがとう。ほらケチャップついてるよ」

 

「んっ」

 

 嬉しくなって甲斐甲斐しくかまってしまう。俺の両親もこんな感情で育てていたのだろうかと親の気持ちらしいものが芽生える。⋯⋯いかんいかん、ちょっとセンチメンタルになってしまった。そんな気持ちを誤魔化すように彼女に構う。

 

「ねぇあなた、どこから来たの?」

 

「ん~ん?」

 

 当然と言わんばかりに窓の外を指さす。

 

「「つ⋯⋯月?」」

 

「かなぁ?」

 

 うーんやっぱりよくわからん。酒寄は頭痛でもしているのか頭に手を添えており、ため息をついている。

 

「で?宇宙人は月から何しに来たの?侵略?」

 

「物騒だなぁ」

 

「うーん、なんかあんまり覚えていないんだけど、とにかく毎日超つまんなくて、楽しいところに逃げた~~いって思った気がする」

 

「逃げんな~」

 

「え~なんで~」

 

「か~~~~~~~」

 

 曖昧な説明と責任について気にしない様子だったからか、おじさん臭い仕草でため息をつく酒寄。気持ちはわからんでもないがここには俺もいることを忘れないでほしい。

 

「⋯ちなみに、こんな話に心当たりある?」

 

「なにこれ?」

 

「竹取物語だな。月からやってきた姫が竹の中から出てきて山の翁に拾われて育つんだけど、結婚迫られたりとか⋯⋯まぁいろいろある感じの話」

 

 かぐや姫についての簡単な説明をするが、どうやらこの子はまともに聞いておらず、半分程食べられた酒寄のオムライスによだれを垂らすほど夢中になっていた。

 

「んえ、けっこん?」

 

「まぁあんたが出てきたのは竹じゃなくてっ⋯!電柱だったけど!」

 

 そうつぶやいた矢先に少女の手が酒寄のオムライスに伸びる。酒寄は当然抵抗するが、少女はすぐさま泣き出しそうになる。泣き落としか、賢いな。

 

「食べるならこっち食べなさい」

 

「やった!」

 

 二、三口程食べた自分のオムライスを目の前に持って居ていくとあっという間に鞍替えする少女。気に入ってくれたようで何よりだが、無視され続けている酒寄が不憫だ。

 

「んで結局彩葉はこのおじいさんなわけ?」

 

「グフッ」

 

「八十年後の姿でも見えてるのかなぁ違うよ!?後佐野笑うな!」

 

「ウッ」

 

「ぬはは~」

 

 水を飲んでいたのに唐突な酒寄おじいさん発言にツボってしまい彼女からのボディブローが飛んでくる。悪かったとは思うがここは許してほしい。

 

「で、お話はどうなるの?」

 

「⋯⋯月からお迎えが来て、翁たちが引き渡すまいと戦うもむなしく、姫は羽衣を着せられて、地球のことは忘れる。で帰る」

 

「「おー」」

 

「⋯⋯⋯」

 

「で、続きは?」

 

「ない。終わり。めでたしめでたし」

 

「あれこれだけ?」

 

「月に帰って終わり?何それ超バッドエンド!かぐや姫絶対不幸じゃん!しかもいい話風になってるのが余計許せないよー!」

 

 話が載っているタブレットをスワイプしてもこの先の物語はない。そんな事実が嫌なのかかなりオーバーアクション気味に憤慨している。たしかに、十数年ぶりに見たらかなりのバッドエンドだ。果たして姫にとってこれは本意だったのだろうか。

 

「これは、そういうお話なの」

 

 付き合いきれなくなったのか食器を流しに持って行った酒寄。突き放したつもりなのだろうが上がったボルテージを抑えきれないみたいで、少女は止まる気配はない。

 

「バッドエンドやだやだ~。ハッピーなのがいい~」

 

「そうだよな~どうせならハッピーなのがいいよな~」

 

「らーらーららーらー」

 

「しょうがないじゃん。暴れたって、歌ったって。決められていることが変わけじゃないし」

 

 歯を磨きながらシンクにもたれかかった酒寄は現実を突きつける。…言わんとすることはわかる。実際問題現実はハッピーエンドとは程遠い。俺だって生活に余裕があるとは言い切れないし、酒寄だって限界ギリギリの日常を送っている。

 

「受け入れて、覚悟するしか、ない」

 

「「⋯⋯⋯」」

 

 歯磨きをやめ、真剣な表情で俺たちに説く酒寄には、彼女の諦めとその事実に対する覚悟が表れていた。少女はそんな酒寄の美しくも儚い顔に魅入られているのか、見つめたまま黙っている。

 ……そうさ、そんなことはわかっている。でも、諦めが悪い俺にとっては到底受け入れがたい。

 

「⋯そうだな。でも⋯」

 

 もうあんな思いをしたくないから

 

「できる限り抗わないとさ、そんなエンディング、納得できないじゃない」

 

「⋯⋯そうだけど、さ」

 

「⋯⋯⋯」

 

 ばつが悪そうにうがいをする酒寄。気まずい空気が流れ、自分が失言してしまったと思う。

 

「決めた!」

 

 そんな空気をブチ壊すかのように、月からやってきた姫が宣言する。

 

「自分でハッピーエンドにする!そんで、ハッピーエンドまで彩葉と満月を連れてく!一緒に!」

 

 あどけなく、無邪気に宣誓した少女。その美しさに思わず見とれてしまい息を呑む。

 

「ハッピーエンドいらない。フツーのエンドで結構です」

 

「うそうそうそ!なわけないでしょ⋯!ねぇ満月!」

 

「⋯ははっ」

 

 まるで母親に甘える子供のように勢いのまま酒寄に抱き着く少女。そんな情景に心奪われ、クシャっと笑ってしまう。

 

「うわっ離れて!不気味!エイリアン!」

 

「ひど~い」

 

「笑ってないで佐野何とかしてよ!てか寝かして~!」

 

「はいはい」

 

「じゃあ一緒に寝よ〜」

 

「それはだめ」

 

 こんな時間が、ずっと続けばいいのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「⋯ん」

 

 エンジン音と小鳥の囀りが聞こえてきて、朝日に照らされ目を覚ます。寝苦しいと感じて布団を捲ると、昨晩よりも大きくなった少女が抱きついていた。

 

「うぇへへ⋯⋯」

 

「まったく⋯」

 

 結局、ごねる少女のおねだりを断れず一緒の布団で一晩を明かした。離れて三人一緒に寝るということはこの三連休を通じて慣れたつもりだったが、隣り合わせの布団に酒寄がいるというだけでロクに眠れない。

 

「ごめんね」

 

「う〜ん⋯⋯」

 

 起こさないようにそっと両腕を解かせる。足音を殺して立ち上がると気配で察知したのか目を覚ました。マジかよ。

 

「みつきぃ⋯⋯?」

 

「うっ」

 

 やめて、引き止めないでくれ。流石にそろそろ自分の部屋に戻らないといけないんだ。三連休の間だけになったとはいえ半同棲ともいえるこの生活は心臓がもたない。溜まっている仕事もあるし、なにより今日は学校があるから準備をしないといけない。

 

「ほんっと、ごめん⋯!」

 

「なぁんでぇ⋯⋯⋯」

 

「一回俺の部屋戻んないといけないんだ、学校もあるし。絶対また戻ってくるから⋯⋯ごめんっ!」

 

 互いに向き合って頼み込むが、効果は薄い。それどころかどんどん不機嫌になっていく。

 

「一緒いてぇ⋯⋯」

 

「うおおおおお⋯⋯⋯⋯」

 

 なんだ、なんだこの子あざとい。やめてよもうやめて。俺のライフはもうゼロだ。

 

「わかったっ。じゃあこれ使っていいから⋯⋯」

 

 咄嗟にバッグの中にあったノートPCを貢いだ。不満げに弄っていたら次第に目を輝かせ、機嫌が良くなっていく。

 

「へ〜おもろ〜!」

 

「夕暮れ前には戻ってくるから許して、くれる?」

 

「ん〜〜〜」

 

 どうだ?

 

「⋯⋯⋯⋯戻ってくるんだよね?」

 

「戻る!」

 

「絶対?」

 

「絶対!」

 

「⋯⋯⋯じゃあいいよ」

 

「よしッ!」

 

 ようやく得たお許しにガッツポーズをとり、喜びをあらわにする。ありがとうパソコン。ありがとう複数台持っていた俺。おかげで何とかなった。ただ、酒寄の家に匿うことは変わらないため、どうにか今日中に改善策を見出さないといけない。

 

「じゃあまた後で!」

 

「ぶぅ~~」

 

 いかにも不満ですと言わんばかりの少女に睨まれる。心苦しくなるのでやめてほしい。これまでの経緯を紙にまとめて酒寄宛に書置きを残し、荷物をまとめて部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

とんでもないミスを犯したことに気が付かずに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝、小鳥の囀りと新聞配達のバイク音を耳に目を覚ます。なんだろう、デジャブを感じる。

 

「あれ?」

 

 部屋を見渡してもあの少女はいない。佐野もいない。まさかと思い押し入れや風呂場の中、ベランダまで覗いてみたが、あの少女がいた痕跡はない。部屋には朝の粒子と夜の残渣が漂うだけ。

 

「出ていったか⋯⋯いや、すべて過労による夢だったのかもしれん」

 

 そうだそうに決まっている。大体電柱が七色に光ってその中から赤ちゃんが出てくるなんて。しかも、その赤ちゃんがたった三日で10歳児ほどにまで成長するだなんて夢に決まっている。

 

「よっしゃ!」

 

 三連休が消えたことは非常に痛いが、渾身のガッツポーズをする。

 

「ココダヨ~」

 

 タイミングを見計らったようにPCを抱えた少女がシンクの棚から出てきた。ま、そうだよな。

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ!彩葉がいっつも見てるこの人誰なの?好きなの?」

 

 パジャマから制服に着替え、コンロの前に立ってフライパンを手に持つ。佐野は一度自分の部屋に戻ったらしい。少女は彼から貰ったノートPCからヤチヨの配信を見ている。

 

「月見ヤチヨ。推し。分身もできて歌って踊れる8000歳って設定で活動してるAIライバー」

 

「AI?ロボットってこと?ぶぇー、おもろ〜!」

 

 ちゃぶ台に腰を据えて足をばたつかせる少女。テーブルに座るなと言いたいが、効果はないことを学習している私はため息をつくことしかできない。

 

「じゃ、大人しくしててね。いってきます」

 

「えー!やだやだ〜!」

 

 PCを投げ捨て猛スピードで抱きついてくる少女。なんだよ、文句あるのか。後そのPC壊すなよ?

 

「一緒いて!」

 

「ムリ。学校休めない、ご飯はそこね。パンケーキ」

 

 台所に盛り付けた皿を指差す。私が開発した画期的な貧乏飯、『粉と水のパンケーキ』だ。

 

「うぇくそまじぃ⋯⋯⋯⋯」

 

 少女は目を輝かせて口いっぱいにに放り込んだが、次第に顔が死んでいってこんなことを言いやがる。人がせっかく作ってやったのになんて失礼なやつだ、安くてお腹も膨れて便利なのに。

 

「えーやだやだ!満月も言ってたけど学校ってそんな大事!?」

 

「命より大事!」

 

 可愛い子にこんなことを言うのは心苦しいが、自分のためにも、この子のためにも突き放すように真っ直ぐ言い放ち、扉を閉める。

 

「あんたと関わったのは私たちの責任だけど、もう全部元に戻すから。早く月への帰り方思い出して」

 

「⋯⋯ぶー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今朝はごめんね、急にいなくなって」

 

「いいよ。こっちこそこの三日間ありがとね」

 

 学校に着くといの一番に佐野が謝ってきた。急いでいたとはいえ、私達をほっぽり出してしまったことに負い目を感じているらしく、非常に申し訳なさそうにしている。

 しかし、助けられたのはこっちもだ。佐野がいなければ路頭に迷っていただろう。

 

「⋯そう言ってくれると嬉しいんだけどね。これ、残り物だけどお弁当」

 

「ありがと⋯⋯あっ」

 

「どしたの?」

「あの子、大人しくしてるかなって⋯⋯」

 

「あー、確かに。あの自由奔放ぶりを見るとな⋯⋯。今日学校終わったら、すぐに様子見てくるよ」

 

 ありがたい、本当に助かる。

 

『2年の酒寄さん。酒寄さん。第一職員室までお越しください』

 

「⋯なんかやらかした?」

 

「やらかしたとしたらあんたも共犯よ、ずっと一緒にいたんだから。多分進路関係」

 

 私は、やりたいことが何もない。彼のように得意を仕事にすることも、芦花や真美のように趣味を生かして稼ぎを得ているわけでもない。ただ母の言われたとおりに、決められた進路に向かい認められたい、その一心だ。

 

「あーね。いってらっしゃい」

 

「ん」

 

 軽い調子で送り出され、職員室に向かう。さて、どう話そうか⋯⋯。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「殺人級の睡魔が〜」

 

「またぁ?」

 

 心地よいピアノの旋律が鳴り響き、昼食後ということもあり夢の世界に旅立とうとするものがちらほらと見える。うつらうつらとする真美に呆れる芦花、その光景を見て自分も眠たくなる彩葉。満月は禁止されているにもかかわらず、バレないようにスマコンを使っている。

 

「どなたか、弾いてみてください」

 

 音楽の先生が伴奏を求めるが誰もやる様子がなかったので彩葉が手を上げる。いつものように叩く鍵盤。優しい音色と引き切った後の拍手で彼女は日常が返ってきたと感じて特大の安堵を覚える。

 

(安らぐ~。⋯⋯あいつ、やっぱ大丈夫かな)

 

 

 

 

 

 

「ハアハアハア⋯んっ」

 

 ギラギラと熱を放つ太陽の下を駆ける者が一人。

 

「いや暑ぃ~」

 

 その人は栗色の髪をしたワンピースの少女。

 

「ニャーオ」

 

「ぬおぉ~こういうの欲しいなぁ⋯!」

 

 近寄ってきた猫を撫でまわし、願望を口にする。

 

「⋯⋯⋯」

 

 自らの目的の見落として。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し時が経ち、場面はサンサンロード周辺。珍しいモノレールが走る中、制服を着た三人組の少女たちがいた。

 

「ねぇ、彩葉って進路どこにするの?」

 

「音楽系でしょう?それかeスポーツとか」

 

「そんな才能ないよ」

 

 芦花と真美が問いかけ、彩葉が答える。彩葉はツクヨミ内で遊べるゲーム『SENGOKU』や『SETSUNA』で目標的中率96%を超える腕前を持ち、エイム以外のゲームセンスも抜群のため、真美が推薦するのも頷ける。

 

「ん~⋯多分東大とか行かないと認めてくれなそうなんだよね」

 

「最低がそこ?厳しい~」

 

「私なんかデロデロに甘やかされてるな~」

 

「いやいや、五体満足に産んでもらって悩んでたら、ぜいたくってもんよ。おかげさまでいつも生きておりますっ」

 

「さすが自力で学費と生活費を稼ぎだす超人。…でも彩葉忙しすぎだよ~。いくら佐野がお弁当作ってくれたりあれこれ手助けてくれたりしても。もっと休め休め!」

 

「アハハ⋯⋯」

 

 芦花からの正論パンチに苦笑いを浮かべる彩葉。ちなみに、満月が彩葉と同じアパートに住んでいることは二人は知っている。同級生の男が親友と同じアパートで住んでいることは最初は訝しんでいたが、満月が真摯な対応をし続けるうちに心を許したのだ。

 

「あ~休みます休みますから…」

 

「かわいい子いる~」

「尾行してるのかな?」

 

(佐野がそろそろ部屋につく頃だろうけどあいつ、大丈夫かな⋯⋯)

 

 大人しくしているように言いつけたが不安がぬぐえない彩葉。そんな彩葉の心知らず、親友二人は彼女の手を引いてモール内へと連れ込んでいく。

 

「こっちだよね?」

 

「登ったとこー。彩葉おいで~」

 

「えっ、何だっけ?」

 

「新しいカフェ。行くって約束したじゃん」

 

(やっべそうだった)

 

 ここ数日のゴタゴタですっかり二人との約束を忘れていた彩葉は冷汗をかく。一応早く帰ろうと思っていたのに先約があるという初歩的なミスを犯していた。

 

「いや、今日は⋯」

 

「れっちごー!」

 

「後生ですから~」

 

 なけなしの抵抗をする彩葉だが、甘美なスイーツを前にした女子は止められず、抵抗空しくカフェに招かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

’’ピンポーン’’

 

「お~い満月だよ~、鍵開けて~」

 

 ピンポンを鳴らして一分ほど待つがまったく住人が出る気配はない。

 

「⋯⋯あれ?」

 

 用心な家主の扉の鍵は開いており、だれでも入ることができる状態になっていた。

 玄関で靴を脱ぎ捨て部屋に突入し部屋を一望する。

 

「いない」

 

 風呂場をノックしても反応はないので覗き込む。

 

「いない」

 

 押し入れの中やベランダの外、シンクの収納棚まで見る。

 

「⋯⋯どこにも、いない」

 

 人っ子一人いない部屋の中央で呟く。彩葉が想定していた通りの事態が起きてしまった。

 

 

 

 

 

 冷房が効いたカフェ内で注文されたのは三階建てのふわふわの甘いパンケーキ。一階にはいちごがきれいに並べられており、最上階にはクリームをたっぷり乗せて、アクセントにイチゴが一つと砂糖でできた花が添えられている。

 

「彩葉ノートで赤点回避記念」

 

「お礼の品で~す」

 

「「ご査収くださ~い♪」」

 

「あっ、ありがとう⋯!」

 

 それぞれのケーキ等が出揃い、まずは彩葉にと二人が差し出した。彩葉にはこんなスイーツを買う余裕などはないが、今までのノリから奢りだとわかっているため、遠慮なく口にすることができる。

 

「いただきま’’シャッ!!’’えっ、あ⋯」

 

 両手を合わせていざ突き刺そうとした瞬間、思いもよらない三つ又の武器が三階建てを二階建てにする。その武器の持ち主は一口でそれを頬張り飲み込んだ。

 

「うま~~~!!!!」

 

 あまりの衝撃で呆然とする彩葉。何で、何でここにいる?佐野が面倒みているはずじゃと自身の服を着た宇宙人に混乱してしまう。

 

「よっ、彩葉!」

 

 軽く挨拶を済ませた侵略者は彩葉の気持ちを知ることなく、二階建てにしたパンケーキをドンドン口に含んでいく。

 

「え~かわいい。彩葉の友達?」

 

「彩葉の服着てる~」

 

「パンケーキ好き?はい、これもどうぞ」

 

 突然現れた可憐な少女に心奪われたのか、はたまた親友の服を着ているほどの仲なのかと思ったのか、気を許した芦花は自分のパンケーキを少女に差し出した。

 

「パンケーキ?これが?彩葉のと全然違う!」

 

 名前を呼ばれたおかげか、衝撃で意識を飛ばしていた彩葉は何とか怪しまれないように説明をしようと口を開く。

 

「いや!友達っていうかえっとあの…」

 

「月から来たの!」

 

「「?」」

 

 今朝がた彩葉からするな、言うなと言われたことを自慢げにすべてやって見せた少女。芦花と真実の二人はつき?と頭に疑問符を浮かべている。

 

「ツー⋯⋯ツツ、築地だよね!?私のいとこ!」

 

「わぁ。おいしいおすし屋さん教えて~」

 

「お名前は?」

 

 食べることが大好きな真実はこれで何とかなったと安堵するもつかの間、かわいいものや綺麗なものには目がない芦花の追及がやってきた。

 

「あっえ~と⋯」

 

 この宇宙人には名前がない。名付けたこともないし名乗ったこともない。しかし、彼女は咄嗟にこの名前を付けてしまった。

 

「かっ⋯かぐや!」

 

「かぐや!かわよ~」

 

「ねっ、かぐや?」

 

 無言の圧で訴えかける彩葉に対してかぐやと名付けられた少女は自信を指さしながら初めて呼ぶように、始めてもらった宝物のようにつぶやく。

 

「かぐや?⋯⋯かぐや!かぐやかぁ。エヘヘへへへ~♪」

 

’’ヴー!ヴー!ヴー!’’

 

「彩葉スマホ鳴ってるよ?」

 

「や、まずはその子の⋯」

 

「いーよ彩葉!出なよ!」

 

(あんたが言うじゃない!)

 

 頭が混乱する現況を作った張本人に指摘され怒りを覚えながらも、着信に対応する。

 

「はい、もしもし⋯⋯」

 

『もしもし酒寄!?』

 

「さ、佐野?どうしたの?」

 

「佐野?」

 

 連絡をしてきたのは満月だった。ひどく焦った様子で何かを探している様子だった。

 

『あの子が消えた!どこ行ったか心当たりない!?』

 

「あっ満月だ~!」

 

『何一緒にいるの!?』

 

「いるよ~!満月もおいでよ~!ここは涼しくていいところだよ~!てかここ最近ずっと一緒だったのに何で彩葉と一緒にいないの~?」

 

「「えっ」」

 

「あっ」

 

 どうやらかぐや姫は荒らしに来たらしい。特大の爆弾を落とし、場の空気を一変させる。

 

『それは置いといて今どこにいるの?すぐ行くから場所教えて⋯』

 

「サンサンロードの西側のほうに来て!私たちもすぐ行くから!また後で!」

 

 叩きつけるように通話を切り、大急ぎで残ったパンケーキを食べる彩葉。しかし当然親友二人は彼女を見過ごすわけにはいかない。

 

「ねぇ彩葉!佐野とずっと一緒って何!ついにそういう関係になったの!?どうなの!?」

 

「教えてよ彩葉~!」

 

 花の女子高生はこのような話題を見逃さない。大きな声で周りの視線を集めてしまう事も厭わず目をキラキラさせて詰め寄っていく。急いでこの場を離れなければと彩葉はかぐやの手を引っ張り席を後にする。

 

「私が忙しい時に面倒見てもらってただけ!ほんとにそれだけ!ごめん帰る!ありがとねごちそうさま!あとで埋め合わせするから!」

 

「あっ待ってよ~!」

 

 風のような速さで退店していった彩葉達を見つめ、残された二人はこの話題について語り合う。もっとも、ほのぼのとしたものではないが。

 

「⋯ねぇ芦花?大丈夫?」

 

「…大丈夫。どこぞの馬の骨より佐野、なら、うん、平気。ヘーキヘーキ⋯⋯⋯」

 

「まったく見えないけど⋯」

 

 綾紬芦花、17歳。酒寄彩葉に特別な感情を向けている。そのことを知っている真実は苦笑いをすることしかできない。

 

「まぁでも、佐野だし!大丈夫だよ!」

 

「うん⋯⋯」

 

「⋯⋯後で問い詰めよっか」

 

「うん⋯⋯」

 

 乙女は、恋に敏感である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 つ、疲れた⋯⋯⋯これキャラクタープロフィールです。あと、投稿遅れてすんませんでした。


 佐野 満月

 誕生日・・・2/1

 身長・・・168cm

 体重・・・62kg

 髪色・・・白が少しつよい灰色

 髪型・・・乱雑なウルフカット擬き

 顔の特徴・・・たれ気味の二重、黒と黒味がかった灰の後天的なオッドアイ、左鼻下にホクロ

 好きなものやこと・・・コーヒー、お団子、何かを作る、会話、酒寄彩葉、かぐや、???

 趣味・・・音楽鑑賞、配信や動画の視聴、読書

 特技・・・両手で別々のキーボードをミスなくタイピングできる

 得意科目・・・化学、数学、情報系

 苦手なもの・・・辛いもの、病気、雷、船、確定申告、社会科

 年収・・・364万円

 最近の悩み・・・寝不足気味で疲れが取れない

この小説一話平均一万字近くあるけど読みやすい?

  • 読みやすい
  • 読みにくい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。