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ちくしょう赤じゃなくなった!!力量不足!!!くやしい!!!!
「いや~さっきの建物の中涼しかったね。あれ彩葉ん家でできないの~?」
時刻は周り茜色の空となった夕暮れ時。彩葉に手を引かれたままのかぐやは能天気に語り掛ける。そんなかぐやに一気に詰め寄り怒りをあらわにする彩葉。
「正気!?正体ばれたらどうすんの!なんで家から出てくんの!後何で佐野のことを言ったのー!?」
「だってつまんないんだもん」
あっけらかんと言い放つかぐや。本当にどうしてやろうかと悩みだした時、一人の声が聞こえる。
「居た!」
「あっ満月だ~!おーい満月ー!」
ダッシュ駆け寄ってくる満月に手を振るかぐや。なんとタイミングの悪いと彩葉は思ったが、彼も彼で心配していたのだと自分を納得させる。
「探したよ…今度から何処かに行くときはちゃんと書き置きとか残してよね?」
「はーい!」
「いや父親か?それはそうと⋯⋯」
迷子になった子供を見つけた方のような口ぶりで語り掛ける満月。彩葉はそんな姿に呆れつつも矛先はいまだにかぐやからは逸らしていない。
「あのね、そんな風に生きてると自滅するよ?時には我慢ってもんも必要で⋯」
蘇るのは母と自分。かぐやに言おうとしたことはかつて母に言われた言葉だと気づき、口をつぐんでしまう。
(う⋯⋯)
「ねぇねぇ、これどうやって使うの?」
「私のスマコン?持ってきたの?」
差し出されたのはコンタクト型デバイスのスマコン。彩葉の自宅から持ってきたのかと思い問いかけるが、思いもよらない答えが返ってくる。
「満月のノートPCで
「は?」「え?」
酒寄彩葉様
貯金残高¥13,452
前日比ー¥124,400
最近のご利用
―――デバイスの殿堂
佐野満月様
貯金残高¥26
前日比ー¥235,164
最近のご利用
―――デバイスの殿堂(¥194,920)
―――周辺機器のご購入(¥40,244)
「ヒュッ」
「ミ゜」
とんでもない返答に大慌てでウォレットを確認した所、彩葉の口座が雀の涙に、満月の口座はほぼ全額無くなっていた。
無残な姿になった自分たちの口座を前にわなわなと震えだす彩葉。泡を噴き出す満月。
「死ぬ気で貯めたんですけど⋯⋯死ぬ気で貯めたんですけど!暑い日も寒い日もお腹が空いた日も!推しへの課金も我慢して!貯めたんですけど!」
「な、なんか銀行?の数字書き換えれば増やせるっぽかったよ?やる?」
方や放心状態。方や涙を流してやけくそ気味に嘆く。さすがに悪いと思ったのかビビリながら慰めにもならない提案をするかぐや。それを聞いた彩葉は悲鳴交じりの怒声を叩きつける。
「ダメに決まってるでしょ!ぜ~ったい、しないでよ!!」
「ワ⋯ワァ⋯⋯」
そんな二人の傍らで満月は泣いてるように見えた。
「できたよ~!」
貯金がほぼなくなった私たちが家に帰った後、ジャーンと仰々しく並べられたあまりにも豪華な食事。オイ待てよなんだこの料理。
「満月みたいに作ってみたの!」
聞きたいのはそれじゃない。
「まずは、生のとうもろこしから作ったポタージュ!こっちは新ゴボウとアスパラのカリカリサラダ!メインはトマト煮込みハンバーグ!ズッキーニのソテーをそ・え・て♡」
「これも、ウォレットで⋯⋯?」
「そだよ~」
震える声で問いかけ恐る恐る確認すると、様々なスーパーや青果店などの引き落としがあった。その惨状を見ただけで心と体が冷えていく。さらに追い打ちをかけるように鍋やらフライパンやらがぐちゃぐちゃになった姿が目に映る。あぁ、これが地獄か⋯⋯⋯。
「はい」「ングッ」
極寒地獄を味わっているときに温かいポタージュを口にぶち込まれる。その温かさとおいしさは冷え切った心と体を溶かしていき、思わず涙が出てきた。
「お金がないのよ⋯⋯貧乏なのよ⋯⋯。こちとら必死に学費稼いでんのよ⋯⋯。なんなのよあんた?うまいじゃないの?久しぶりの高級な料理に体が喜びに満ちてくじゃないのよ⋯⋯⋯」
「にっへへ―♪ほら満月も!」
「んっ」
財産の半分がこの子のスマホやヘッドフォンなどに消えてしまったことに対する現実逃避かの如く、渡していたものとは別のPCにかじりついていた佐野にスプーンを突っ込むかぐや。美味しかったのだろう、ジト目で睨んでいた彼の顔がどんどん崩れていく。
「あったかい⋯⋯沁みる⋯⋯⋯」
「どう?美味しい!?」
「美味しいけど切ないよ⋯⋯」
涙を流しながら口に運ばれる匙は止まる様子がない。まぁそれは私も同じだが⋯⋯⋯
「悪魔⋯」
「悪魔じゃないよ!かぐやだよ!」
「ムカつく⋯クソッ、ムカウマい⋯⋯」
結局私たちは体が温まる食事をキレイ平らげた。食後の水道水もいつものより美味しく感じた。けどやっぱムカついた。
「あのさ、マジでここでは匿えないよ?ただでさえ親に無理言って一人暮らしさせてもらっているんだから⋯⋯」
「で、ここはこうで⋯⋯そうそうそう」
「シュタタタタタタタ⋯⋯⋯」
横になって膨れたお腹をさすりながら語りかけるが、そんな私の言葉は知らないと言わんばかりに佐野に教えてもらいながらPCをいじくるのに夢中になっている。
その姿はまるで、幼い頃、お父さんと一緒にピアノを弾いていた自分のようだった。
「できた~!」
過去に思いを馳せながら眺めていると嬉しそうな声が響く。
「できたって⋯⋯まさかサイバー犯罪とかじゃないでしょうね?」
「ただのプログラミング。覚えるの早いねかぐやは、ここまでやるのに一年はかかったよ俺」
「携帯ゲームキット見つけたんだ!これで犬DOGEといつでも一緒だって!」
かぐやが手にしていたのは兄からもらった卵形育成ゲームの機体。押し入れにしまっていたのを見つけたのだろう、使ってなかったからいいけど。
「ねえ、明日何の料理する?食べたいものある?」
「一生住む気満々かよ⋯」
「ふぅん⋯」
「だって~ほかにどこ行けばいいの?もし捕まったらかぐやちゃん解剖されちゃうかも~」
うれれれれれ~などととても女の子がするような顔ではないが、言っていることは確かにそうだ。もし佐野の部屋に住むなんて言い出したら彼の生活が終わるし、私も困る。
「⋯あれ?」
「迎えが来るまででいいのね?」
「いいの!?」
「一、目立たない」「あっ」
「二、許可なく外でない」「おっ」
「三、私たちの邪魔しない」「ヒ~~~~」
「これ守れるなら、家いていいよ」
だいぶ妥協したほうだろう、元々追い出すつもりだったのだから。
「⋯お友達作ったりは?」「第一項により、ない」
「カフェについていったりは?」「第二項により、ない」
「一緒に遊ぶのは!?」「第三項により、ない」
犬DOGEを握りながらドンドン顔が青くなっていくかぐや。ちょっと面白い。
「ルール追加、いい?」
「どうぞ」「やだ~」
今までずっと沈黙を貫いてきた佐野が口を開いた。その顔はいつになく真剣で、有無を言わせない迫力があった。
「四、勝手にお金を使わない。使うときは俺か彩⋯⋯酒寄に相談すること。ちゃんとロックをかけてなかった俺たちにも責任はあるけど、今日みたいに勝手に使われるとみんなが困る。お金を稼ぐのだって大変だし、ご飯だって食べられなくなる」
「うぅ…」
「使ってもいいお金はお小遣いとして出すから。これは君のためだよ?夕方の銀行のデータ書き換えの話で分かったけど君にはまだ善悪が付いてないから、それがはっきりわかるようになるまで。自分で稼ぐ分にはいいけど、出来るようになるまではそれで我慢して?」
「ひぃん⋯⋯」
「五、ちゃんと勉強をすること。読み書きとか、モラルとか。人がされて嫌なこと、うれしいこと。それらをしっかり学ぶこと」
「うぇぇぇ⋯⋯」
すごい、滅茶苦茶その通りだししっかりしてる。ちゃんとした説明付けもされてるし、確かにやりかねないからなという信頼感がある。
悪さをしてしまった子供に優しく諭すように目を合わせて話す彼の姿はまるで父親のようで、
―――彩葉
ちちおやの、ようで。
「とりあえずこんなもん。どうかな酒寄⋯⋯酒寄?」
「へっ、ああ!いいよ!すごくいい!」
いかんいかん、物思いにふけってしまった。慌てて返答していると絶望したような顔と声でかぐやが嘆いていた。
「じゃあかぐやは、どこにも行けず楽しみもなく、ずっとこのままってこと~?」
「自分でハッピーエンドにするんでしょ?巻き込まないで!」
「ぷっぷくぷ~!」
「ヨシじゃあこの話はなかったことにしようぜ酒寄」
「やっぱみんなでハッピーエンド行こ?おねがぁい♡」
そんなかわいくおねだりしたって効かないさ。無視するように口笛を吹きながらそっぽを向く。かぐや姫はそんな私が気に食わないようで、如何にも不満ですといった態度で食って掛かってくる。コイツやっぱ図々しいな。
「ちょっと~!無視するの禁止!」
「無視してないよ聞いてないだけだよ」
「それ無視じゃん!満月も無視禁止!」
やっぱ追い出そうかなと思っていたら携帯のアラームが鳴り響く。現在の時刻は19時半。しまった、予定がすべて狂ってた⋯⋯。
「この時間までに予習やるつもりが…」
「俺も仕事終わってない⋯」
「なに!どこ行くの!?またかぐやを置いてくの?この映えないつまんない家でかぐやは、一人で⋯⋯」
二人そろってため息をついていたら大きく両手を開いて腰に抱き着いてきて泣き出した。見た目は私とほぼ変わんないのにほんとに子供のまんまだな。後悪かったな映えなくて⋯⋯
「マジで迎えが来るまでだからね⋯?」
「ルールが守れなかったら旅立たせるよ?」
「「いい!?」」
ため息に続き声をそろえて条件の再確認がてら問い詰める。⋯⋯あ、そうだ。あれも付け加えなくちゃ。
「六!食費は定額制!」
「増えた!」
当然だ宇宙人。
「おお~~!!」
少し時が経ち二十時過ぎ。私と佐野に挟まれたかぐやは左手で私の右腕を握りながら目をキラキラさせてスマコンを装着した。その瞳はオレンジ色に輝き、問題なくツクヨミにダイブすることができるようになったことを知らせている。
「行くよ?せーのっ」
手をつなぎ、みんなで一息にツクヨミにログインする。
「太陽が沈んで、夜がやってきます」
厳かに、月見ヤチヨが顕現する。何回見ても飽きないツクヨミのログイン画面。赤い夕焼けを背景にたたずんでいるその姿はまさに歌姫。女神。この世の美その物。
今頃かぐやはヤチヨ直々のチュートリアルを受けているのだろう。あれはほんとによかった⋯⋯。実際に触れてアバターの見た目や服装について手取り足取り教えてくれる大人のお姉さん感が本当にもう最高だ。
ちなみに私のアバターは青を基調にしたストリート風。着物にフードやベルトを着けて、狐をモチーフにした耳と尻尾を生やしている。初めて作ったときのかわいさとカッコよさには痺れたなぁ⋯⋯⋯。
「おつ」
「お、やほ」
かつての自分とヤチヨの最高の瞬間を思い出しながらトリップしていた所に佐野がやってきた。佐野⋯うらやましいなぁ⋯⋯。ヤチヨと一緒に仕事してるらしいし、ヤチヨの配信にも出たことあるし。
そんな佐野のアバターは白黒を基調としたハイカラ風。白いパーカーを羽織ってその下に機械的なデザインを取り入れた黒の忍者服がかっこいい。ちなみに某少年漫画のように額当てやマスクは着けていない。モチーフはツチノコだそうで、大きな尻尾が一本生えている。
「かぐや、どんな格好で来るかな?」
「さぁねぇ。⋯部屋着のまんまで来るかもよ?」
「それは無いね」
くだらないことを駄弁っていると目の前にあった赤い鳥居の中心が光りだし、その光を引き裂いてかぐや姫が降臨する。
「うわぁ~~~~!⋯ぶぇ!」
楽しそうな声を出していたかぐや姫だがツクヨミ名物「初ログインには必ずコケる」を実践して見せた。
かぐやは朱色と若草色を基調とし、腹部に大きな三日月模様の穴が開いている着物を着ていた。髪飾りにも三日月があり、背中の水引がまたいい味を出している。ポップでありながらもスポーディーなスニーカーを履いているその姿は行動力の化身といったところだ。
どうやらウサギモチーフのようで、美しい金髪のロングヘア―に沿うように長いうさ耳が生えている。
「金髪⋯⋯ギャルいかぐや姫⋯⋯⋯」
「似合ってんじゃん」
正直に言おう、かわいい。
「あっ満月!隣は⋯もしや彩葉!」
「やっ」
「てか、それ何?」
「あっ犬DOGE!連れてこれるんだ~」
かぐやの足元にいた柴犬のような生き物は佐野と一緒にプログラムしていた犬DOGEだった。さすがツクヨミ、何でもありだ。
犬DOGEを抱きかかえたかぐやはツクヨミの世界を一望し、圧倒されている。そんな彼女の手を引くように歩を進め始める。
「行こ」
「一名様ごあんな~い」
「行こ、行こ」
「ヤバ~!」
キラキラ輝く天守閣。空を泳ぐ深海魚の群れ。空に帆を立て駆け巡る巨大な遊覧船。それらすべてが圧倒的な存在感を放ち、ここがまさにもう一つの現実ともいえる世界を作っている。
『初ログイン、おめでとう!』
この世界に目を輝かせていたかぐやのもとに一匹のウミウシが泳いできて語り掛けてくる。このモフモフはFUSHI。ツクヨミを代表するマスコットで、ヤチヨがツクヨミとともに生み出した彼女の相棒だ。
『ツクヨミではみんなが表現者!君も何かをして人の心を動かしたら、運営からふじゅ~がもらえるんだ!まずは、初ログインボーナスをプレゼント!ふじゅ~を使って、君の好きなクリエイターを応援しにいこう!』
「おぉすげ~!面白そうなもんが死ぬほどある!」
初めてログインしたかぐやのもとにふじゅ〜が投げ込まれる。受け取ったかぐやは笑顔で駆け出し、出店にあった手頃な猫のぬいぐるみを抱きしめる。
「超楽しい!」
超かわいい。
「あれTumikiじゃね?」
「マジ!?」
「隣にいんの彼女?」
「あの天然野郎に彼女!?しかも二人!?」
「かのっ⋯⋯!?」
「やっべ」
はしゃぐかぐやを親の目線で見ているとおそらく佐野のファンであろう人達の声が聞こえてきて顔が赤くなる。そうだった、佐野は八万人以上のファンがついていてヤチヨとのコラボだったりでそれなりの知名度があるからアバターバレしてるんだ。
「悪い、一旦逃げる。また会場で」
「えっ満月!どこいくのー!?」
「ちょっと忘れ物!後で合流するよ!」
「おい逃げんな!」
「どうゆう了見だオマェ!」
「めっちゃ可愛いっすね紹介してください!」
「ほら、かぐや行くよ!」
佐野は私たちに注意を向けないためか、フードをかぶって敢えてファンらしき人たちを通り抜けて駆け出していった。彼に気を取られている隙にかぐやの手を引いて正反対の方向へ私は逃げる。こんなものを見せるわけにはいかない。
その後しばらく佐野と離れてご機嫌ナナメなかぐやを連れてしばらく屋台を巡り、色とりどりな世界を見てすっかり元気になったかぐや。今は私と隣り合わせで縁側に腰かけ、川に足をながらパフェを食べている。
「私みたいな貧乏人でも、ここでならいくらでも遊べるんだよね」
ツクヨミではふじゅ~を用いて様々な取引ができるが、すべてにふじゅ~を必要とするわけではない。あくまでライバーへのスパチャや現実での通販などで使用するので、ツクヨミ内ではほぼすべてのコンテンツが無料で楽しめる。もちろん今食べているパフェも無料だ。
「あーんっ。⋯ん?味しなぁい」
「味とか匂いはまだ全然ムリみたいよ?」
「本物はないのぉ?」
「現実に届けてくれるのもあるけど、リアル並みの値段なのでとてもとても。私は佐野みたいに特技とかないから、ゲームで小遣い稼ぎするくらいが関の山だし」
空を泳ぐサカバンバスビスやシーラカンスに姿を変える光を見上げながら質問に答える。その小遣いもヤチヨのグッズ等に消えるのだが、本職の人は一体いくらぐらい稼いでいるんだろう。
ピポン♪
「時間だ。佐野と合流するし、行くよ」
「満月と?行く!」
あらかじめ設定しておいたアラームが鳴り、水の中から足を上げる。さぁ、ここ最近のストレスとはサヨナラする時が来た⋯⋯⋯。
「どの曲来るんだろう?」
「超楽しみー」
「ヤチヨーーー!!!」
「わぁ⋯⋯⋯⋯⋯」
遊覧船が円を描いて空をかける沿岸部でかぐやに手をつながれライブの開催を待っている。手元にライブ観戦チケットを広げ、あまりにも待ち続けた一瞬がもうすぐ始まることを実感する。何度も何度も応募して落選してようやく手に入れたこのチケット。しかもただのチケットじゃない。ミニライブ終了後にヤチヨと一対一で会話でき、しかも握手もできる超高レートの一級品。これに興奮しないわけがなく顔はニヤつき、アバターの耳と尻尾がブンブンと揺れる。
「ねえねぇ、さっきヤチヨと話した」
「しー。あれはチュートリだから、今から出るのが本物!」
瞬間、空中にディスプレイが表示される。
『来た来た来た来た~!これがないとツクヨミの夜は始まらない!」
ディスプレイの先に映るのは『忠犬オタ公』。ツクヨミ内でのあらゆるニュースやイベント情報などを広報する人気ライバーだ。
『本日のヤチヨミニライブ、今夜も完全生中継をツクヨミ各地でもお届け中で~す!』
あぁ、始まる。何度も何度も落選して、諦められず送り続けてようやく手にしたこの時間が。
「⋯ギリセーフ?」
「満月!ねぇ、彩葉動かないんだけど」
「あー、まあほっとき」
『10⋯9⋯8⋯7⋯6⋯』
「わぁ⋯⋯!!」
「魅せるねぇ」
周りの音が何も聞こえない。
『5⋯4⋯3⋯2⋯1⋯」
ゴーーーーーーーーーーン⋯⋯⋯
鳥居の上に、一人の女の子が現れる。
「おまたせっ」
我らが女神、
「エッヘヘへ♪」
あっもうヤバイ。
「ヤオヨロー!神々のみんな今日も最高だった~?」
「あれ?あれ?あれなの?ヤチヨ!?」
「うん、あれが⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯ヤチヨだぁ」
視界がグワングワンと揺れている気がするが全く気にならない。
「うんうん」
ヤチヨは会場に響き渡る歓声をかみしめるように頷き、最上級のかわいい笑顔を見せる。
「よーし!今宵もみんなをいざなっちゃうよー!!」
「Let’s go on a trip!」
人生最上の瞬間が始まる。
魚が入り乱れ、乙姫の唄声が響き、手のひらサイズのヤチヨ、通称ミニヤッチョがファンのもとへ向かう。
その世界はまるで、まるで竜宮城のようで、儚く、尊く、一瞬だった。
「ヒック⋯⋯うっっ⋯⋯⋯ヤチヨォ⋯⋯⋯」
両手を合わせてきつく握りしめ、あふれる涙が止められない。だらしない顔を見せているのだろうか、でもそんなこと些細な問題にもならない。
「泣きすぎ」
「んーー⋯」
会場中から、いやツクヨミ中から歓声が響き渡る。私だけでない。佐野だって笑顔を浮かべているし、全ユーザーがこのライブに涙していることだろう。
その歓声を受け、ステージ上のヤチヨははしゃぎ倒して飛び跳ねている。
「イェーイ!感謝感激雨アラモード!ヤチヨは果報者なのです⋯⋯」
はーまてまてなにそのヤバイかわいすぎるかわいすぎるかわいすぎる⋯⋯。
ライブの余韻にさらなる劇薬が投下され、限界化している私のもとにFUSHIの瞳から新たなディスプレイが表示される。
「ここでお知らせ!ヤチヨカップっていうイベントを開催しま~す」
『参加資格があるのはツクヨミの全ライバー!一ヵ月の期間の仲だけで、最も多く新規ファンを獲得した人が優勝だよ!優勝者にはなんと!ヤチヨとのコラボライブの権利を進呈!世界一盛り上がるコラボライブステージを一緒に作れるよ!』
ヤチヨが前例のない特大級のサプライズをぶっこんで来た。イベントロゴが映ったのちに様々なライバーがヤチヨとともに配信のコラボ等をしてきたシーンが切り抜かれて続々と流れゆく。
「あっ満月いる!」
「まじ?」
え、ちょっと待って⋯⋯
「うっそコラボ!!??」
「それすごいの?」
「すすすスゴイも何も⋯⋯配信のコラボはコイツでも何度もあったけど「オイ」ライブはいつも一人で歌ってたんだよ?何?誰とー!?」
「へぇ~じゃあ彩葉、満月一緒にやろ!」
「私らみたいなモブとやるわけないじゃん、佐野ならまだしも。こういうのは最初から誰になるか大体決まってんの。すぅぅ⋯⋯ヤチヨーーー!」
「いやお前はモブじゃないだろ⋯」
そこ、うるさいぞ。それに、モブじゃなくても一緒にできる気がしない。私よりもっと適任な人がいる。例えば⋯⋯
バーーーーン!!
爆発するような音を轟かせながら一台の牛車⋯⋯ではなく、虎が荷を引く虎車が現れ、この場のすべての人の注目が集まる。
そう、小癪ではあるがあんな人達だ。その人達は虎車を切り裂きド派手な登場を果たす。
「よう、子ウサギども!お前らの帝様が来たぜ!!」
「げっ」
「帝さん達か」
こちらのアバターはバレていないだろうがもしバレていたら面倒なのでかぐやと佐野の後ろに隠れる。つーか待て佐野お前面識あるの?
彼が指を鳴らすと会場のディスプレイがジャックされ、プロゲーマーグループ、「Black onyX」通称『黒鬼』の代表曲をバックに、企業スポンサーや華々しい活躍を映したPVが流される。
「かぐやも!かぐやもあんな戦うやつやりたい!」
黒鬼はリーダーである赤髪の帝アキラを筆頭に、クールな参謀の雷、男のアバターをかわいく着飾る少年乃依の三人組で、それぞれが「KASSEN」のトッププレイヤーであり、アイドルとしても人気がある。ファンの数は1900万人以上だ。
「また、祭りが始まるな」
「俺って今日も作画良すぎ⋯でしょ?」
「俺たちに優勝してほしいよなぁ?底なしの夢を、見せてやるぜ!」
ドーーーン!
「わぁ~キラキラだぁ」
「というわけで俺たち優勝するから、ヤチヨちゃんコラボ、よろしくね?」
「そうゆう運命なら、もちろんヤチヨは従うよ~」
彼らが宣言した瞬間紙吹雪が舞い上がり、皆が目を奪われる。ヤチヨがその発言を肯定するかのような発言をしたことで会場は彼らが優勝すると確信した。
「最高なライブを約束するから、みんなドシドシ参加してね!一緒にハッピーになって、めでたししちゃお~!」
「しちゃう~♡」
「おーい顔えらいことなってるぞ」
あかん、もう黒鬼とかもうどうでもいい。私はヤチヨがハッピーならもう私もハッピーや。
「はぁ~~~~~~」
「⋯オイまてかぐやまさかお前」
「⋯はぇ?」
そんなことを考えているといつの間にかかぐやが私の前にいる。大きく息を吸っているようだが一体何を⋯⋯
「やぁぁぁちぃぃぃぃぃよぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!」
「かぐやがヤチヨカップ優勝する!そんで、絶対コラボライブする!満月といろ⋯⋯んぐっぐぐ⋯⋯」
突然叫んだかと思えば会場にいるすべての人に宣戦布告をするかぐや。実名を公開されそうだったので佐野と阿吽の呼吸で口と体を抑える。
「ヒュー♪」
「フシューー!」
「⋯⋯いとかわゆし」
しかしすでに遅かったようで会場内にいる有名なライバー、黒鬼、さらにヤチヨまでもにこの姿を見られた。あぁ待って恥ずかしい恥ずかしいいぃぃぃ⋯⋯⋯。
「ハイハイそこまでにしましょうね~?」
「あんたは⋯いつも勝手に⋯⋯!」
「ほいでは!ライブはいったんここでクローズ!みんなとちょこっとお話しさせてね~♪さらば~い!」
締めの挨拶を済ませたヤチヨが分身をしてファンのもとへ飛んでくる。しかしそれにしてもこのわがまま姫は⋯⋯
「さっきの約束もう忘れたの!?」
「ねぇ満月彩葉~一緒にやろう!」
「俺は一緒に参加すんのはムリだよ」
「ダメ、そんなの⋯⋯」
「ムリムリムリ!小娘が!」
「こらぁ」
あぁついに、ここ数日の多すぎるトラブルがどうでもよくなるような時間が来た。ヤチヨと話せる、それだけで他のすべてがどうでもよくなる。しかも握手付きで⋯⋯って、小さいヤチヨ!?身長130cmほどの子供の姿をした出現条件不明の超激レアヤチヨの一人で、周りの人の分身はみんな160cmほどのいつもの姿なのになんで!?ぎえええええ!!か!わ!い!す!ぎ!る!!!
「お忘れかなぁ?ヤチヨカップの参加はライバー限定なのです」
「そっか!じゃあかぐやライバーになる!準備準備~♪」
かぐやは速攻でログアウトしてヤチヨと佐野と私の三人になる。ああ待ってヤバイヤバイ興奮で情緒がボロボロのぐちゃぐちゃで⋯⋯
「はーいTumikiさんはこちらへどうぞ―♪」
「ちょちょちょちょちょ」
わらわらと集まりだしたミニヤッチョの大群に押されて佐野が退場。ついに二人きりになる。あぁマズイマズイなんて話そうなんて言おう。
「あっあの今日はじゃぁ⋯これで⋯⋯「待って」へぇっ!?」
「忘れ物」
なんでなんで!?!?!?!?!?!?!?!?!?なんでヤチヨが私の両手を⋯⋯あそうだ握手権付きだった。
「あの、」
頭が何週もしてぐちゃぐちゃになって、言うべき一言が見つかった。この言葉だけでいい。私程度の人間がこれまで生きてこれたのはヤチヨのおかげだから。今までの全部の感謝を込めてこの言葉を贈らせてください。
「ありがとうございました!」
そして後ろを向いてヤチヨに手を振られながら、興奮冷めぬ間にログアウトした。
「いつも来てくれてありがとね」
「彩葉」
最後にそんな幻聴も聞こえた気がした。
ここまでの閲覧誠にありがとうございました。今回はお試しで満月くんパートを無くして執筆してみましたがいかがでしたか?面白ければ何よりです。
彩葉が本編とキャラがちょっと違ったりするのは小説版と映画版をごっちゃにしたうえで、満月くんができるだけお世話したら少しは心の余裕ができるだろうと考えて書きました。他にも貯金額が本編と違ったりと設定を少しいじっています。原作改変のタグ付けたほうがいいかな?
最後に今後の書き方を決めるアンケートを取りたいと思います。よろしければご投票ください。
彩葉誕生日おめでとう!ハッピーバースデイ!!
この小説一話平均一万字近くあるけど読みやすい?
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読みやすい
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読みにくい