八千と百六八年   作:節足甲殻

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 お久しぶりです。息抜きに書いた小説の方が筆進んじゃったのと忙しさが爆発してました。投稿遅れてすみません。
  


 ハッピーバースデイかぐや。誕生日勘違いしないでね。




第五話 あなたに聞いてほしくて

 

 彩葉がログアウトする前、ミニヤッチョの集団に誘拐された満月はライブ会場から離れた湖の底にいた。

 

「⋯誘拐にしてはちょっと雑じゃない?」

 

「いやごめんねー?いろ⋯⋯あのコと二人きりで話したくてねー。それより今回のライブ、どうだった?」

 

「最高。演出も派手で歌も聞き惚れてたよ。流石はツクヨミの歌姫だ」

 

「ふっふーん♪どやぁ〜♪」

 

  満月が褒めるとミニヤッチョの集団とシンクロするように腕を交差してピースする。その姿はあまりにもあざとくキュートな為彩葉がここにいたら大変なことになっただろう。

 

「はいはいかわいいかわいい」

「オヨヨ~。あの頃のピュアピュアな満月君はどこに行ったのやら⋯⋯。雑に扱わないでほしいなぁ?」

「フランクに接してって言ったのそっちでしょ?」

「ファンとして接するって言ったの誰だっけ?」

 

 軽く言い合ったりするが結局クスッと笑う。長い付き合いなのでこれくらいでいいと判断しているが故にだ。

 

「⋯君から見て、うちのかぐやはどうだった?」

 

「⋯⋯明るくて、かわいくて、あざとくて。キュートなかぐや姫なんじゃないのかにゃー?」

 

 満月がそう問いかけると袖で口元を隠し妖しく答える。

 

「ヤチヨカップ、どんな人でもヤッチョとコラボることができるようにしたんだけど、うまいことマッチしちゃったみたいだね~」

 

「まああの魅力と行動力じゃあ秒読みだろうよ」

 

「あんな子は伸びるよね~⋯⋯ところで、今後の報酬の話なんだけど」

 

「七より上は受け取らない」

 

「えー?」

 

  頑として譲らない彼の姿をみて頬を膨らませ、不満をあらわにするヤチヨ。

 

「何度も言ってるけど、毎週五十でも足りないくらいなんだよ?負担が大きいし、趣味の時間も取れないでしょ?」

 

「そんなことない。データの書き換えとか改良ぐらいならすぐ終わるし、バグだって一つも出てないから君が思ってるより自分の時間も作れるんだよ」

 

「むぅぅ⋯⋯⋯」

 

「⋯⋯その代わりと言っては何だけど、頼みたいことが「何々!?ヤッチョが何でもしてあげるよ!」近い」 

 

  とたんに目をキラキラさせて抱き着かんほどに身を乗り出すヤチヨ。ここが人目につかない湖の底でなければ明日のネットニュースを独占しただろう。

 

 

 

 

 

 

「——————」

 

 

 

 

 

「⋯なんで、そんなの欲しいの?」

 

 

 

 

 

「⋯ひみつ。一月でできる最高級のを頼むよ」

 

 

 

 

 

  彼が提示したモノは確かにヤチヨであれば叶えられる。しかし、用途が一切わからない。怪しむヤチヨを見ながら、彼は口元に指を当てて笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ライバー、なりかたっと⋯⋯」

 

  ツクヨミからログアウトした私の耳に聞こえたのはテンポのいいタイプ音と美しいソプラノボイスだった。

 

「えっ?なんでまだ金髪なの?」

 

 さっきまでティーミルクのような髪色だったのにツクヨミのアバターのような金髪になっていたかぐや。この短期間に染めたのか⋯?

 

「えー駄目?んじゃあ⋯」

 

 かぐやが目を瞑ると緑色の髪になったり褐色肌のショッキングピンクの髪になる。ごめん、ちょっと気持ち悪い。

 

「でもやっぱこれっしょ〜!」

 

  お気に入りなのか元の金髪に戻してタレントさながらに髪をかき上げるかぐや。

 

 「理解の範疇超えし宇宙人⋯まあもう何でもいいか⋯⋯」

 

「⋯ん。何の話?」

 

どうやら佐野も帰ってきたようで疑問符を浮かべながら尋ねてくる。

 

「み〜つき!どう?」

「え染めた?」

 

  至極真っ当だなと二人を尻目に参考書を開く。⋯⋯⋯あっ。やばい、時間差できた。

 

「ライバーって何するのかなぁ?やっぱ戦うやつかなぁ?ねぇ〜満月どうなの?」

 

「ヒトによる。俺もライバーやってるけどもうそんなにやってないし、やるとしても作業とか雑談とかだし。こういうのは俺より酒寄のほうが詳しいんじゃない?」

 

「そっか!ねぇ彩葉〜教えてよ〜戦うやつ〜」

 

 ヤチヨ。ああヤチヨ。目を合わせて話しちゃった。手も握っちゃった。 私だけのための時間を味わったことを思い出し、ニヤけながら机に突っ伏す。

 

「んふっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ俺は部屋戻るから、酒寄の言う事ちゃんと守ってよ?」

 

「え〜ヤダ!」

 

「ヤダってあんたねぇ…」

 なんとか平常時に戻ると、佐野がささっと身支度をして部屋に戻ろうとするが、案の定かぐやが引き止めてくる。

 

「満月も一緒にいようよ!一緒に寝ようよ!彩葉だけじゃ足りないもん!」

「語弊を招く言い方はやめなさい」

「やだやだ〜!一緒いるって言ってたじゃん!」

 

  困った。赤ちゃんの頃からの付き合いだからわかるけどこの状態になったらテコでも譲らないぞ。

 

 「いてあげたいけど、流石にこれ以上酒寄の部屋で厄介になるわけにはいかないよ。この部屋狭いし」

 

「それがいいの!」

 

「⋯⋯あのねぇ」

 

  ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯しかたない。

 

「⋯わかったわよ」

 

「「?」」

 

「ここで、寝泊まりしてもいいわよ」

 

「え?」「ほんと!」

 

「これ以上ゴネられても佐野に迷惑だし、ちょっと狭いくらいだし、それに私だって⋯」

 

「それに?」

 

 

 

 

 

「⋯⋯いやじゃ、ない⋯⋯⋯」

 

 

 

 

「⋯⋯⋯⋯おう」

 

 

 

  ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯顔、あっつ ————————————————————————————————————————————

 

 

 

 

 

 

どこかの真っ暗なへやで

 

 

 

 

 

 

 

ガリッ

 

 

 

 

 

 

 

 

「⋯つづき」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブチュリ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しゃべりたかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迷子が親を探すようにつぶやいた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ヤチヨのミニライブから数日。茹だるような暑さが鬱陶しいが、ついに待ちに待った夏休み。毎日6時間は眠れるし、バイトと勉強に専念できる。

 

「な、なぁにこれ〜?」

 

 かぐやのおねだりによってほぼ同居人となった佐野の足の間から震える声で話しかけるかぐや。いいなあ。

 

「なにって、夏休みの予定だけど?」

 

「相変わらずとんでもない日程だね」

 

「ええヤダ〜⋯かぐやと遊んで〜?」

 

「一秒とて無駄にできないから邪魔禁止ね?」

 

  もうお前のせいですでに予定が狂っているんだ。これ以上邪魔されてたまるか。

 

「えー!やだっぴぃ〜!!!」

 

 ジタバタジタバタと布団に飛び込んで暴れた結果、ちゃぶ台に頭をぶつけるかぐや。その拍子にドタドタと参考書が彼女の頭に降り注ぐ。

 

「ぐえっ痛っああ痛い痛い⋯」 「追い出すよ⋯?で、あれらは?」

 

  目を向けるのは大量のぬいぐるみやら変なおもちゃなんかの山。

 

「配信用!全部百均だしお小遣いの範囲だし安心!ねぇ見て見て〜♪ライバー始めたんだ〜♪」

 

 

 

『かぐやっほー!月からやってきたかぐやだよ〜。今日はやること思いつかないからこれで終わり!じゃあね〜♪……ん、これで切れてるのか?』

 

 

 

  オイオイオイ放送事故もいいとこだ。立ち絵は手描きの下手くそな絵だし、初配信が十秒ぐらいしかないし素顔晒してんじゃねえか。

 

 

「てかなんだこの不安になる不協和音は⋯」

 

「ジングルだよ」

 

 先ほど聞いたイヤな音楽が流れ始める。多少音楽をかじっていた身としてはよくこれをインターネットの海に流せたなと思う。

 

「んん⋯ストップ。それやめて」

 

「あれ、どうやって曲をって、あぁ!私のキーボード!勝手に出さないでよ⋯⋯」

 

  がらくたの山に埋もれていた私のキーボード。かつて父にもらったがいつしか触れることはなくなった。思い出の品として押し入れにしまってあったのを引っ張ってきたのだろう。

 

「あっ、彩葉もしや弾けるね〜?全然うまくいかなくてさぁ〜。いっちょ、お願いしますよ先生」

 

 都合のいいやつだ、本当に。

 

「そもそも、まずコードってのが⋯」

 

 促されるままキーボードの前に座った瞬間、思い出してしまう。

 

「あって⋯⋯」

 

 割れる陶器。燃え上がる焚き火。父と共にキーボードの前に座るかつての自分。その後ろには母がいて、まだ楽しかった頃の記憶が溢れ出す。

 

 

 

『彩葉、音楽は自由に楽しむんやで』

 

 

 

 あの人はいつのまにかいなくなった。最後に顔を見たのは葬式だったかな。いっぱい泣いて、いっぱい喚いた。

 

『やるんやったら勝ちにいきぃ言うてるやんな?』

 

 コンクールで銀賞を取った。お母さんは褒めてくれると思ってた。だけど帰ってきたのは無情な言葉。

 

 どうして?なんで?凄かったねって、やるやんかって言って欲しかっただけなのに。 もう、褒めてくれないの?

 

 

 

 やったら、私もう⋯

 

 

 

 

 

「彩葉」

 

 

 

 

 

 

 名を呼ばれ、後ろをふと見やる。彼は慈しむような目で優しくこちらを見ていた。

 

 

 

 

「大丈夫」

 

 

 

 

 ………なんで彼はこうも私が欲しい言葉を伝えてくれるのだろう。 スッと頭が冷えたので一息ついて改めて触れる。目の前には今か今かと待っているかぐやがいたので、意を決して指を押し込んだ。

 

  学校の授業以外で久しぶりに鍵盤を叩いて感じる。あの時と同じだ、お父さんに教えてもらって弾き始めたこのキーボード。何にも変わってない。 短い時間だが思いを込めて弾き切ると、キラキラの目でかぐやが見ていた。

 

「わぁ⋯⋯!!」

 

「どう⋯⋯かな?」

 

「最っ高!」「すごい!天才すぎ〜!」

 

 グーサインをしながら二人が認めてくれて、どこかが軽くなっていく。 いつぶりだろう。こんな純粋な言葉をもらえたのは。

 

 いつぶりだろう。こんな純粋な眼差しを向けてくれたのは。

 

「もっかい!エンドレスで!」

 

「⋯⋯ふふっ」

 

 促されるまま鍵盤をたたく。リズムに乗ってユラユラと横に揺れる佐野とかぐやが目を輝かせて夢中になっていく様子が嬉しくて、私も自然と笑顔になっていく。

 

「そうだ!彩葉の曲を私が歌って、満月が色々すれば、大バズ確定じゃん!」

 

「曲って⋯⋯」「俺の仕事あやふやすぎない?」

 

 いきなりすごい要求をする子だ。まあ今更か⋯⋯

 

「カバーで良くない?」

 

「ええ〜?オリジナルがい〜い〜」

 

 相変わらずズルいおねだりだ。もう勝てないのがわかっているため、おとなしくPCの奥底に眠るかつての楽曲を引っ張り出す。

 

「新しく作る時間は流石にないからね?⋯もはや黒歴史だよ」

 

「結構あるんだよな」

 

「うおおヤバ〜!」

 

 イヤホンをつけてすぐさま再生したかぐやは控えめに叫ぶ。そこまで目をキラキラしているのを見ると、なんか報われる気がする。

 

「いいから⋯適当に歌ってみてよ」

 

「〜♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

  誰も止められやしない。歌わずにはいられない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ⋯⋯⋯すごい。私の妄想が、私の想いが、こんな綺麗で美しい歌声で歌われてる。

 

 「彩葉!プロデューサーになって!」

 

「へ?プ、プロデューサー?」

 

「満月はADで!」

 

「ディレクターは誰よ」

 

「私!かぐやD!」

 

 困り眉で問う佐野にさも当然と言わんばかりにかぐやが答える。

 

「今一位なのがヤチヨのライブにいた黒鬼っていう3人組なの!かぐやなんて1人で頑張って8000位なんだよ!?」

 

 そらあの人とアンタじゃキャリアが違うからな。当然やないか。

 

「ヤチヨみたいにオリ曲出したりする!黒鬼みたいに戦うやつもやる!満月みたいにカバー歌ったり色々作る!もうなんでもやる!優勝したいもん!」

 

 鼻息荒く興奮したかぐやは止まる様子はない。ヤチヨや黒鬼みたいに色々⋯⋯⋯ん?

 

「満月みたいって⋯⋯歌ってたの?」

 

「⋯⋯まー、ちょっとね」

 

 ビックネームに名を連ねた佐野の名前を聞き、思わず気まずそうに顔を背ける彼を見る。

 

「歌ってたよー。ねぇねぇ、満月も一緒に歌おうよ!すっごい上手いじゃん!」

 

「忙しいから歌いません。配信の手伝いならいいけど、流石に矢面に立って参加はしない。それと、男の影がチラついたらかぐやの人気が伸びにくくなる」

 

「そんなのどーでもいいじゃんね?」

 

 佐野はすごくちゃんとした意見を返すが無残にも両断された。 「サポートするならどーせチラつくんだしモンダイなーし!そ・れ・よ・り〜、かぐやの配信用アバターツクヨミのやつにしてぇん?」

 

「図々しっ」

 

 佐野はお前のことを心配してるってんのに⋯⋯⋯。

 

「⋯⋯どーしてもってんなら酒寄に許可もらいな」

 

「ええ!?」

 

 ちょっとホントに待って。また上目遣いでおねだりなんかされてみろ?

 

「いろはぁ⋯お願い。かぐや、優勝したい⋯。ハッピーエンドにしたいなぁ⋯?」

 

「ぐっ………」

 

 耐えられるわけ、ないじゃないか。

 

「⋯それ、ズルくない?」

 

「はい決まりー!満月も手伝ってもらうからねー!」

 

「はいはい⋯⋯」

 

 クシャッと笑い、パソコンに向き合う佐野。

 

 

 

 

(⋯あれ?)

 

 

 

 

 

 どうしてだろう。

 

 

 

 彼はいつも通りの笑顔のハズなのに、

 

 

 

 

  私は何故か、

 

 

 

 

 

 

 本当に何故か、

 

 

 

 

 

 

 

 泣いているように見えた。  




 いったいヤチヨに何を頼んだんだでしょうね?

  投稿頻度もっと落ちそうです。すみません。



 ps.間違えて昨日投稿しちゃいました。ごめんなさい

この小説一話平均一万字近くあるけど読みやすい?

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