居なくならなければならない   作:徒然の連れ

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薬指が強すぎて笑っちゃうんすよね。ドーセントが第二眷属様より強いってどゆこと?


離脱と弁償

奥に進み、グレゴールの課長を名乗る男と出会い。戦った後のこと。

 

「ここからは敗残兵がたまっていた痕跡すら見当たりませんね」

 

「これ以上進むなとも警告してたけど…」

 

シンクレアとイシュメールが言うようにこの先には何かがあるようだ。

 

地面に多くの死体が散乱している様子からも、何事かがあったのは間違いがないようだ。

 

「これは私た…いえ、L社職員たちの死体です」

 

撲殺か…であるなら先ほどの茨のような幻想体とは異なる幻想体が近くにいるはずだ。

 

そうでないのならば人が殴ったものであろう。外見から推察するならば人為的なものである可能性が極めて高い。

 

「一体どんな幻想体が脱走すればこんな…」

 

その時、プシューという音と共に、腐った玉ねぎのような臭いが立ち込めた。

 

「待ってください…この臭いは?」

 

イシュメールがそう言ったとたん、ガスマスクをつけたホプキンスが

 

「…この前、事務所で高い装備を一つ新調したんですよ」

 

「特定の階層から毒物検出率が高くなるって、そんな噂を聞いたことがあるんです」

 

囚人たちも次々と中毒症状を起こしているようだ。耳から出血したり、咳が止まらなくなっている。

 

私はすぐに持ってきたP社製のハンカチで口を覆う。幸い管理人は問題なさそうだ。

 

「これ…以前補給された幻想体制圧用の毒性ガス弾ですね」

 

「死体の間で…けほっ…爆発でもしたみたいです…」

 

ユーリはどうやらガスマスクが支給されていないようだ。限界が近いように見える。

 

「ホプキンスさん…どうして言ってくれなかったんですか…」

 

ユーリが切実そうにそう問うと。

 

「逆に聞くが、お前みたいに何も期待してないような奴に渡す理由があると?」

 

「ホプキンス!私は渡すよう言ったよね!」

 

アヤが怒った様子で問い詰める。

 

「アヤ、お前も甘すぎるんだ!こいつらはもうここで全員死ぬというのに態々こいつを生き残らせる理由はないだろう」

 

「それにエンケファリンも結構手に入った。事務所に戻って真実を言ったところで立場が悪くなるのはお前の方だぞ」

 

アヤは苦虫を嚙みつぶしたような表情をしている。確かにダンジョンに入った協力者が全滅するなんて珍しい話じゃない。

 

事務所では「生き残ったばかりかエンケファリンまで持ち帰った優秀な人」の評価がもらえるであろう。

 

私からしたらバックに特色がついてるチームを見捨てる方がどうかしてると思うが。

 

「…それでも残るよ」

 

「そうか、ならそうしたらいい」

 

「もっとも、遺体なんて持って五体満足で帰れたらだけどね」

 

「そいつらも恥ずかしいだろうし、窒息死じゃなくて行方不明で報告してあげるよ」

 

「じゃあな」

 

その言葉を聞くと同時に、ユーリはへたり込み、流れ出す鼻血を手で受け止めていた。相当まずい状況だな。

 

「P社製の防毒布だ。さっきまで私が使っていた物で悪いが、しっかりと口に当てゆっくり呼吸しなさい」

 

そう言い、ハンカチを渡す。

 

「ありがとうございます。げほっ…」

 

「えらく準備がいいな、杖の旦那」

 

グレゴールが驚いた顔で言う。ついでにウーティスも悔しそうな顔で私を見つめている。

 

「げほっ…がはっ!」

 

ハンカチを外し、息を吸うだけで肺が爆発しそうな熱を帯びた。口から血が溢れ始めると意識が朦朧とし始め、視界も歪んでいく。

 

どうやら五体不満足な私ではこの毒に抗う術は無いようだ。視界が黒く染まり、強くなる耳鳴りを聞きながら、私は意識を失った。

 

 

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時計の音がする。真っ暗だった私の視界に一つの明るい点が見え、だんだんと広がる。その光が視界全体を覆うと、私は目を覚ました。

 

やはり何度やっても慣れないものだ。私はこれに慣れなければならないのか、それとも慣れたら終わりなのだろうか。

 

いや、そのような疑問には意味はないのだろう。今は私がすべきことに集中しなければ。

 

目を覚ましたのは私が最後のようだ。ユーリとグレゴール、アヤ、管理人が何か会話しているようだが。

 

『あっ、目が覚めたみたい』

 

そう管理人が言うと少し顔を青くしたユーリが

 

「あの…このハンカチありがとうございます。かなり血がついてしまったのですが…弁償などは…」

 

アヤもそれに続いて

 

「今回は私も悪いからできるだけ払うよ」

 

などとユーリに小声で言っている。

 

『このハンカチってそんなに高いの?確かに洗濯とかでは落ちないくらい血がついてるけど…』

 

グレゴールが若干気まずそうな口調で、

 

「あ~都市において良質な布ってのは武器並みに重要なんだ。質の高い布は柔軟性を持ちながらそこら辺の鎧を容易に上回る防御力があったりするからな」

 

「旦那のハンカチもこれだけの機能がついてると…口が裂けても安いとは言えないな。…経費とか使えないか?」

 

奥でホンルが、

 

「僕の部屋にもいくつかありましたね~デザインが好みじゃなくて使ったことはないですけど~」

 

などと言っているが、聞こえないところで言ってほしい。

 

というかなぜ弁償前提で話が進んでいるのか。

 

「気にする必要はない。思い入れはあるが、使い込んだ物であったしな」

 

「また毒ガスがあるかもしれないし、持っていてくれて構わない。無事出られたときにでも返してくれ」

 

ユーリはほっとしているようだ。するとウーティスが大きく咳ばらいをし、

 

「管理人様、蘇生も済んだことですし、そろそろ行くべき頃かと」

 

『確かに、じゃあ皆行こうか』

 

その掛け声とともに他の囚人も立ち上がる。

 

私もその声に従い、杖を支えに立ち上がる。外套の埃を払い、少し背を伸ばすと、先に歩いて行った囚人たちの後を歩いて行くのだった。




本当ならマスクを巡ってグレおじとの会話イベントがあるんですけど、この世界戦だと囚人を運ぶ時の会話になってます。

布の設定はルイナで言ってた気がするんですけどどうでしたかね。
あとP社が防毒までやってるのは完全にオリジナルです。でも安全を提供しているならこれくらいやってるやろ(適当)
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