ユーリとアヤとの別れを済ませ、私はバスへと戻った。バスへ入ると全員から目線を向けられる。
「な~にロレンス、そんなに別れが惜しかったの?」
ロージャをを筆頭に何人かに話しかけられるが、それは後にしよう。今は上司との交渉へ臨まなければな。
「ファウスト、少し用事が出来た。暫く自室に居たいのだが問題はあるかね」
「…この先、目的地へ移動を開始します。目的地の説明があるので、それまでには戻ってきてください」
「承知した」
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自室へ戻り、ジュラルミンケースを開く。そしてその中から少し古びた通信機を取り出す。
「ふぅ」
短く深呼吸をし、通信機に手をかける。何回かビープ音がして、相手が出る。さて、交渉の時間だ。
「やあロレンス、君の方から掛けてくるとは何か忘れ物でもあったのかい?」
「お疲れ様です、部長。急になって申し訳ありませんがいくつか話をさせてください」
「問題はないが…ああ、あの契約について何か想定外があったんだね。それで
…やはりこの程度の腹の探り合いはお見通しか。であるならば真っすぐ言ってごねた方が勝算がある。
「…そうです。すでにこの案件は私の想定をはるかに上回っています。何があったのかは本社との契約により話せませんが、情報が必要なのです」
「もちろん直接話をするわけにもいかないので、仲介者を介しますが」
「なんで?ちょっとぐらいならすぐに用意するよ?」
「わかっていると思いますが、私と貴方が翼や五本指の情報のやり取りをするのはリスクが高いのですよ。辞めた職員がそのような情報を探している時点で怪しいというのに、さらにそれをわざわざ部長が返すなんて言うまでもありません」
「ですので私の知り合いをそちらで働かせて欲しいのです。凍結されていた食堂の件を覚えていますか?その計画を再始動して、その食堂で雇ってほしいのです」
…どうだろうか、反応がないが。
「う~ん、食堂は問題無いけど予算はどうすんの?財務部のあいつを説得できる?」
よし!食いついた!
「予算は福利厚生費から出せるはずです。財務部のフェデラーもいちいち外食なり出前なり取らなければいけないことに文句言ってましたから」
「場所も北に開いていた場所があったはずです。あそこに店舗型の食堂を作れば収まりが良いです」
「それなら良いか。その知り合いは料理が出来るそうだし、周りの飲食店からも何人か引き抜いておけばいいかな」
どうやら上々な反応だ。このまま押し切れれば楽だが…
「ではそのようn…」
今まで上手くいっていたからといっても、それはこれからも上手くいくことを保証しない。
部長とは長年の仲だ。だからといって、それで交渉が楽になることは決してない。
「食堂の件は分かった。だが君に情報を渡すメリットは何もないようだが?」
どこまでも底冷えするような声で語りかけてくる。裁判所で何度も聞いたこの声、どうやら本気のようだ。
…ここからが正念場だな。心の中で深呼吸をする。この人と「交渉」をしても勝ち目は万に一つだ。ならば予定通りごねまくって譲歩を引き出すしかあるまい。
「…確かにその通りです。しかし、凍結していた案を動かして料理人まで紹介しているのですから相応の見返りは求めてもいいのでは?貴方も大きな恩恵を得ることができるはずですよ」
「うん。それは分かっているよ。でも都市における情報の価値を分かっているだろう?」
確かにこのパイプは都市でもトップクラスに有用なものだろう。この価値を分かっている人は、相当な代償を払ってでも繋ごうと努力するはずだ。
「私の話が虫がいいのは重々承知しています。…メニューの決定権でどうでしょうか?」
「う~ん。それでも厳しいな~。…食後のスイーツも追加で」
「なるほど…そういえば最近良い茶葉が手に入ったんですよ。…私の秘蔵の茶葉では?」
くっ!仕入れに8か月掛かったのに…
「なんか気が変わってきたな~そういえば君が抜けた後の決済が大変でね~」
「……他人の目があるので加工を行ったデータをくれるのであれば」
「もう一息!」
「…………またいつかスコーンでも焼きに来ますよ」
…つい言ってしまったがどうだろうか、というかそろそろ決めてもらわないと差し出すものが無くなってしまう。
「ふっ、よく言えました。やっぱり変わってないなロレンスは。こっちは君が居なくなってから皆寂しそうだよ。特に君が作ってくれたスコーンは大人気だったんだからね」
今まで彼が纏っていた雰囲気が一気に口調が柔らかくなり、口調も砕けていく。
「まあ今は気にしなくてもいいさ。一人抜けただけで崩れるほど脆弱な組織じゃないんでね」
「あぁ、今回の交渉は成立だよ。続報はまた送ろう。じゃあ…またな」
「ええ、また会いましょう。部長」
安堵の息を吐きながら通信機をしまう。交渉何とかなったな…席へ戻らなければ。
一息つく暇もなく席へ戻ると丁度、次の目的地への説明が始まるようだった。席を立っていたシンクレアは、おそらく私を呼びに行こうとしてくれていたのだろう。
「…全員揃ったようだな」
ヴェルギリウスが口を開く。
「はぁ…今回の目的地は、金に溺れることも干からびて死ぬこともできる歓楽の巣……J社だ」
この一言に車内は少しざわめいた。特にロージャは明らかにいやそうな顔をしている。
「あぁ、…おあいにく様ですが、今回は支部の前までお連れすることが出来なくなりました、お客様」
「カロン、停車」
バスが急停車する。ということは当然バスの中のすべての物体は慣性によって動かされ、前方へと吹き飛ばされたのである。私の杖ように、何かを支えにして立つ囚人もいたが、大半はそのまま吹き飛ばされ、首を痛めたようだ。
その後、カジノの地下に枝があることを教えられた後、私たちは下車した。
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ちなみに下車した後にすぐにヂェーヴィチが来て、私の茶葉と引き換えに、とても素敵な部長からのプレゼントを残していった。
執行までが早いさすがはウーフィの長だな……。失った茶葉を運ぶ配達員を見ながら、案内に従い、質屋へと足を運ぶのであった。
次回の放送は
~アヤとユーリ!炎の料理人対決~
~密着!ツヴァイ警察24時~
~THE MAKEING 認識阻害仮面ができるまで!~
の3本でお送りします!