たくさんの方が書かれてるので、どんな要素が既に出てるのか把握しきれないので、間違いなどあればすいません
8/11 全文入れ替えの改修
穏やかな心持ちだった。
以前は恐れ、怯え、それでも使命として対峙していた悪魔。今からそれを討伐しに行くというのに、その心持ちは変わらない。
この一月、ずっとそうだ。
この身を包む愛が教えてくれるのだ。
恐れることはない。主は共にあると。
木々が密集し、葉が光を遮る森型の異界。
視界は悪く、地面を這う根は歩みを妨げる。歩行に適さないそこでも、彼女は速度を落とすことなく進んでいく。
以前の彼女ならば、この森を進むだけで神経を擦り減らしていただろう。悪魔の奇襲を警戒しながら、足元の根に注意し、1歩ずつ進まなければならなかっただろう。
今は違う。
霊装の巫女服を纏い、光を圧縮したような青白い和弓を左手に携える。弓と同一の素材で出来たサーフボードのような板に立つことで空を滑る彼女は、木々の間をスイスイと進んでいく。
そして
「いた」
悪魔を発見する。
醜悪な見た目の餓鬼が、しきりに周囲を気にしている。
こちらの接近を察知されたのだろうか。
そう思いながらも、彼女の手は淀み無く動く。この障害物の多い空間においても滑らかに、あるべきところへ収まるように、和弓という大柄な武器を構える。以前は恐怖を抑え、使命感によってなんとか行っていた動作を、なんの気負いもなく。
「主よ、悪魔を打ち払う力を」
弦を引くと共に、いつもの祈りを口にする。
それに応えるように矢が生まれ、神聖なる力が宿った。
一瞬の集中。静寂と共に狙いを定める。
神聖なる矢は放たれた。
『ギィィッ!?』
木々の隙間を縫い、青白い閃光が餓鬼の胸を貫く。
矢に悪魔を吹き飛ばすような衝撃は無い。
動きを止める状態異常も付与されていない。
しかし、存在の根幹を揺るがすような痛みに襲われ、餓鬼は攻撃者に意識を向ける余裕が無い。
そうしている間にも、彼女は淀み無く動く。
次の矢は、既に番えられている。
祈りの言葉は無かった。それは心の所作であるから。
二射目が餓鬼の頭部を貫き、その存在を青白い光へと変えていく。
悪魔が完全に消滅したのを確認して、彼女はようやく弓を下ろした。
怖くなかった。
手も震えていない。
「感謝を」
誰にともなく、彼女はそう呟いた。
「これは……どうなん?」
「だめだね」
「そっかー」
過去視と千里眼の併用で問題の映像を見る俺とショタおじ。こうしてサラッと披露される超技術にももう慣れてしまった。
目標を定め、それに向かって邁進する日々は、驚くほどあっという間に過ぎていく。
霊能の存在を知り、この世界に飛び込んでからはや数年。
ようやく一つ目の成果が出来上がった。こんなにもかかってしまったのは、最初から完璧を求めてしまった凝り性と、霊能の奥深さ故のこと。
いつの間にかレベル50手前にまで上がっていたレベルは、きっと関係ないはず。
問題の霊装の名は、中央制御型後天的霊能付与システム。
長ったらしいので、提供する術式から取って
媒体を用いて使用者から霊力を吸い上げ、中枢から使用者に術式を提供する。その際にいくらかの手数料をもらうことで維持費と利益とする。そんな思想のシステムだ。
これによって本人の才能に依らず一定の効果を発揮できる上、中央からの制御によって簡単に力を取り上げられる。
何よりペンダント一つ持っているだけでいいのはメリットだろう。かさばらず、小回りの効く手札を半オートで使える。ガイア連合の高レベル帯は必要としないだろうけど、そこそこの需要もあったはずだ。
四文字の加護がなければ。
何しろ、四文字と言えばこの世界で暴れまわっているメシア教とそれを率いる天使の総親玉。メシア教による洗脳、誘拐、人体実験のことを知っていればいい感情は抱かないだろう。少なくとも他にも選択肢があればそちらを選ぶ。なんなら破壊しに来る人もいるかもしれないね。
流石にそこまではないか。
当初見込んでいた客層は、支部を持った黒札。
転生者以外は霊能の才能ある人間がほぼいない中で、本人の才能関係なしに一定の力を発揮できるのは魅力的なはずだ。それも、簡単に取り上げられるし、コストもかからないならなおさら。
「いい案だと思ったんだけどな〜」
「発想そのものは悪くないさ」
俺の傍らに浮かんでいた分厚い本から声がした。
次の瞬間には本の姿がほどけ、女の姿へと変わる。
俺の式神、エキドナ。
知恵と助言の女神メーティスを本霊として作った、魔術と技術開発における相棒である。真っ白な肌と髪に黒曜石の瞳、黒いマーメイドラインのドレス。見た目は前世のアニメの強欲の魔女そのものだが、長々と知識を披露するより必要な答えだけを寄越すタイプなので、性格まで同じというわけではない。
「少なくとも、想定した機能は全て正常に働いている。移動、武装生成、神秘の否定。遠隔接続の遅延も許容範囲内だ。技術的な試験だけなら合格を出していい」
「だよね?」
万の味方を得た気分でショタおじを見る。
「機能性と危険性は両立するから。それは免罪符にはならないよ」
「そうだよね〜」
手のひらは数秒もせず裏返ったが。
問題の彼女だって、一月前までは餓鬼一体を相手にするにも複数人で陣を組み、頼りない霊装を手に袋叩きをするしかなかった。
それが今では、一人で異界へ入り、二射で仕留めて帰ってこられる。
本人が急に強くなったわけではない。彼女が担当しているのは敵の発見と攻撃の意思決定だけ。武装の形成も、術式の構築も、属性の付与も、必要な工程は全て中枢側が肩代わりしている。
才能のない者へ才能を与えるのではない。
才能がなくとも、必要な結果だけを出せる仕組みを作ったのだ。
我ながら、中々の金のなる木だったと思う。
「霊装による装備者への影響予測が楽観的すぎだね。低レベル向けならもっと気を使うべきだったよ」
「アレでも大分フィルターかけてるんだけど?」
「確かに霊質への影響は考慮されてるけど、精神への影響は抜けてるよね?」
「鳩さえ……鳩さえ無ければ」
頭を抱え、恨み言を吐く。
確かに仕組み上影響を受ける余地があるとはいえ、予定外の加護の影響を最初から予測しろってのも無茶な話だ。
「見た通りな気がしないでも無いけど、アレはどういう状態なの?」
「軽いトランス状態……かな?」
「そこ疑問形なんだ」
「別に精神は専門じゃないからね」
まぁ、完全に悪影響という訳でもないのだろう。だが気をつけねばならない。某狩人も言っているが神の祝福なんて呪いと紙一重だ。それにアフターフォローも何もあったもんじゃない。
「ちょっとシステムの制御端末を貸して?」
言われるがままに滅却十字を渡せば、何やら確認してうんうんと頷くショタおじ。そして幻術の応用だろうか、空間に図が投影される。これは、システムの構造図か。
「天使の気配は無いね。本当に
「うっす」
一瞬で内部構造把握されたっぽいんだけど。笑う。
でも、ある意味安心の措置ではあるか。
ショタおじチェックを抜けられる小細工が無いのは式神のセキュリティで保証済みだし。
「すまないが、何故加護を与えられたか聞いても?」
終わりの気配を感じたのだろうエキドナが口を開く。確かにそれは大事だ。
別に神を敬ったりとかした覚えは無いし、天使もそれなりに殺してきた訳で、呪われる覚えはあれど、祝福される覚えは無いんだが。
「大体は欲張りすぎな事が原因だと思うね」
「あーね。……はい」
こーれは完全に見透かされてますね。
「この神秘否定、一神教由来だよね?」
「はい」
「これさ、態々四文字とシステム中枢を混同するように術式組んでるよね?」
「そうです」
「信仰MAG欲しいなって思ったんだね?」
「手数料程度ならいいかなって」
「これでちょっかいかけるなは無理があると思うんだよね」
「スーーッ……はい」
並べられるともはや原因しかない。
万全の準備をして融資を申し込んで、いざ受理されたら浮かない顔をする間抜けは俺です。
「野心的なのはいいけど、手に負える程度にしてね」
【Tips】ショタおじ
本名は峰津院堂満。星霊神社の神主であり、ガイア連合のトップ。人知れず人類を救っている超抜級の霊能者。
そんな人物が分身を過労死させながら働くのは、偏に人類の業ゆえである。
誰かが言った。
真に富めるものは自らが利益を生み出すのではない。利益を生み出す仕組みを創造するのだと。
確かそうだった。そうだったはず。そうだったと思う。
「精密チェック終わったよ。
性能に問題はない。むしろハード的な限界値まで高まっていると言っていい。術式規模、展開速度、応答速度、霊力効率その他全てが理論値だ」
声をかけられて、意識を戻す。
先端研究室を、オカルト的に置き換えればこうなるだろう。我が事ながら、そんな感想を覚える部屋でエキドナの報告を受けている。事態が発覚して直ぐにヤバイと判断してショタおじチェックを受けに行ったため、精密検査はしていなかったのだ。
結果は到達限界までの性能上昇。世界最大の神は、大盤振る舞いしてくれたらしい。それとも、かの神にとって測るのも面倒な程に矮小な器であったのか。
「理論値と言っても実験機だし、せいぜいLv10〜15を10人程度だろ?」
「例えその程度でも1支部の黒札を抜いた戦力は倍増するからね?
それに自己拡張プログラムもある。加護の限界がこの程度とは思えないし、再稼働すれば更なる機能向上が見込めるだろうね」
促されて部屋の中央を見れば、巨大な水晶とその中心に埋まる四肢のない人影。観測器に囲まれ、計器がそれの状態を示す。
これが、霊王と名付けた、滅却師システムの根幹。
式神コアの制作と同様に、スライムにしかならないほどに個我を削って降霊した悪魔を、型に嵌めて契約でガッチガチに縛ったもの。周囲を覆うクリスタル状の物体は制御装置。
「概念的な部分では無い……」
水晶板をキーボードのように叩きながら、エキドナが珍しく独り言を呟く。ちょっと手持ち無沙汰だが、完全に任せたのでどこまで進んでるのかも把握しておらず、途中から参加とかも出来ない。
エキドナが機器を通して調べている巨大な水晶は、現在殆どがハリボテで、稼働しながら霊力を回し、制御装置として拡張していく予定だった。現在のキャパには加護が詰まっているので、稼働させればすぐに今の水晶分は埋まるだろう。
「どうやらこの素体に加護が授けられたようだね。
同一の物を新しく作っても自動で加護を授かることはないだろう。同じようにちょっかいをかけたらわからないけどね」
「大量生産して加護毟れたりしない?」
「大人しくするのではなかったのかい?」
パッと思いついたことを口に出せば、呆れ半分困惑半分の返事。流石にそこまで暇ではないのでやらないけど。
よく考えれば別にガイア連合に限る必要無いな。
メシア教に押されて弱った一神教や、メシアの穏健派閥に使わせてもいい。
セキュリティはショタおじに協力してもらう必要があるだろうけど、本体である霊王の制御権さえあれば何時でも止められるし。高位天使が出てきて乗っ取られましたは笑えないけども。
「タイミング外したしゆっくりでいいかな」
だが、いろいろ考えた結果面倒くさくなって先延ばしを選択。こういうのは伝手がないと厳しい。
ガイア連合の方も、ジュネスを建てたり支部を建設したりといった時期が過ぎてしまい、組織がひとまず出来上がっている所が多い。そこに売り込むにしてはまだ完成度が低いし。
コツは掴んだので、最悪これが売れなくても別のを作ればいい。
ひとまずの結論が出たと判断したのか、エキドナがティーセットを取り出してケーキを並べ始めた。専用のアイテムバックから取り出された艷やかなフルーツのタルトが、三段のケーキスタンドを飾り付ける。
初めは人生のトロコン目的でやってみたお茶会だったが、エキドナが気に入ったのか、最近は時間が空けばよく開催され、休憩時の恒例となった。専用のアイテムバック*1とティーセットも用意されるくらいに。全部買ったの俺なんだけどね。
念動で引かれた椅子に座るが、見事な手際で注がれる紅茶の香りが何時もより数段上の気配がする。
しかし、お茶を注ぐのを邪魔は出来ないので、ケーキの方をよく見れば……やっぱりこれはお高いな?
「気づいたかい?」
紅茶を注ぎ終わったエキドナが、クスリと微笑んで種明かしをする。
「探求ネキ*2のオカルト農業産の果物をふんだんに使ったケーキと皮を煮出したフレーバーティーさ」
今日はまた随分と豪華な。お小遣いの範疇で買ってきたんだろうけども。
美味い。
汗水垂らすような労働をしなくとも、これが毎日食べられたらいいのだが。その域に達するのはまだまだ遠そうだ。
【Tips】
足りない能力は外付けすればいい──そんな発想から生まれた霊装。滅却十字を介して、装備者はシステムの目となり意思となる。
名も無き神は、祈りに対し機械的に奇跡を授ける。そこに聖俗賢愚の別はない。