【カオ転三次】怠惰を求めて   作:茅薙

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日常回兼説明回



怠惰への努力

「20連勝耐久終わり!おつかれー」

 

︰おつかれ

︰1時間しか経ってないんだけど

︰強すぎる

︰お手手ピカピカ過ぎて草なんだが

 

 映りが良くなるよう計算されたライティング。各種高級品で揃えられ、パソコンには霊能強化さえ施された配信機材。用途に対してオーバースペックもいいところの機材達が映すのは、浮遊するソファに身を預けたどこか気の抜ける美少女。

 

「これは日頃の善行の賜物だね。間違いない」

 

︰運だけの春日

︰スナイプしたリスナーもなぎ倒していったし

︰運営は運無効アプデをすべき

 

 モニターで踊るコメントを眺めつつ、背もたれを倒し、伸びをする。肩が凝るかは怪しい肉体故、気分的なものと、配信受けを狙ってのものでしかない。

 

「んんー。いや、最終戦は危なかったね」

 

︰伸び助かる

︰危なかった(完勝)

︰あれTCGガチ勢

︰10戦目の方がプレミ多くて危なかった

︰わざわざスナイプ配信して「完全メタデッキだぁ」とか言ってたぞ

︰全ターンで完璧な解答出されて憤死してて草

 

 世界最大の信仰を集める一神教。その最高位の天使のガワを被る彼女だが、その中身はとうに信仰を失った古き神格。最も勢力を肥大させた側面はキリスト教に立場を追いやられ、今の彼女の中心となる側面も宗教ごと廃れてしまった。

 主神の匂いのする主人に侍る今は、被る仮面の苛烈さを抑えるため埋め込まれた因子によって、彼女は怠惰であること定められている。扱う力が力であるためしょうがないと納得しているが、本霊からの催促が鬱陶しいことこの上ない。

 

 しかし、力が増すのはいいことだ。

 多少便宜を図ってやれば本霊から対価を分捕れるかもしれないし、そうすればガワの方も扱える力が増える。仕事を増やすのは論外だが、力が増せばより小さい労力でそれもこなせる。

 それに、怠惰が即ち何もしないことを意味しないのは、それを求めてのたうち回る主人(優羽)を見れば誰でも分かるだろう。

 

 ────ドッ!!

 

 突然の爆発音に対して、メトラは足を組み換え、眠たげな目を扉の方に向ける。カメラ映えを意識した動きも今ではすっかり自然体になった。

 

「ちょっとーうるさいんだけどー」

 

︰そろそろご飯か

︰この音でお腹空くようになったわ

 

「これでお腹空くのは流石におかしいよ」

 

︰マジレス草ww

︰戦場で腹ぺこになってそう

 

 余韻を楽しむようにコメントと駄べりつつも、ふと顎に手を当て、考える。爆発が頻発する料理風景を思い出しながら。

 

「本当、何で美味しいんだろうね」

 

︰食ったことないから知らん

︰美少女作ならどんなのでも美味い

 

「見た目も完璧なんだよねー」

 

 過程と結果の齟齬に、最初は柄にもなく驚いた。慣れた今でも、もうちょっと静かに出来ないのかとは思うが、美味しいので問題ないかとも思ってしまう。

 

 こういう雑談が意外とファンを増やしてくれるが、予鈴(爆発)がなったということで、そろそろ終わりの時間だ。

 

「そろそろ終わるねー」

 

︰おつー

︰おつかれー

︰始めた時刻的に最初から1時間で終わらせる気じゃん

︰真面目に耐久なんてやるわけ無かったんだ

 

「じゃぁねー」

 

 一神教に追いやられ、その勢力を失った彼女は今日も信者(ファン)の獲得に余念がない。

 より良き怠惰のために、人は何処までも勤勉になれるのだ。

 

 

 

 

 

 

「はい。注文のアークリアクター」

 

「おっ、サンキュ。

 悪いね。わざわざ作ってもらって」

 

 巨大人形ロボの動力炉研究をしているロボ部の一人に、電球より一回り大きい程度の動力炉を渡す。彼は、渡した途端に礼だけ言って早速とばかりに確認し始めた。

 

 しばらく掛かりそうなので、そういえば来たことがなかったなと、辺りを見回す。

 ここは山梨支部にあるロボ部のラボ。現実的な物から頭のおかしいものまで様々な物を作り出すガイア連合製造斑の、部室みたいなものだ。今居るのは休憩所みたいな場所なので、見回したところで設備も何も見えはしないのだが。

 

「まだ試したいことがあるんだ!せめてメモだけでも!」

 

 建物の奥から近づいてくる叫びの元は、両脇を抱えられて連行されている研究者らしき人物。彼の訴えは黙殺され、レベル差によって抵抗も意味を成していない。

 初めて来たので知らなかったが、ここは異端研究が取り締まられたりするのだろうか。

 

「なんかやらかしたの?」

 

 アークリアクターからチラッと目を離しただけの彼は、あぁあいつねと興味なさげ。

 

「初犯だね。大方、資格無しで悪魔でも扱おうとしたんじゃない?」

 

 悪魔の召喚や契約はショタおじによる地獄の講習とテストを受けないと扱う許可が出ない。ただ実験を失敗しただけでは連行されないだろうから、好奇心のままに資格無しでやろうとしたのだろう。流石SFを現実にしようとする変態共の巣窟だ。未来を見るまでもなく、ショタおじの微笑み(アルカイックスマイル)が目に浮かぶ。

 

 

 空想を現実にするに当たって、科学的には困難なことでも、霊能を絡めると容易に解決する問題はいくつもある。

 原作再現を目指す転生者の中には原作の設定をそのまま再現するのに拘る派閥もいるが、そうでないものも多い。再現できるなら中身は問題ではないと考える派閥にとって、悪魔というのは実に便利な道具だ。実際、俺も使い倒してるし。

 

 悪魔とまでいかずとも、フォルマや概念を絡めた術式は、不可能を可能へと変えるに十分な力を持っている。

 言ってしまえば、科学の根拠である物理法則は聖四文字の敷いた世界観(テクスチャ)にすぎない。至高天に座す者が敷いたもの故に強固ではあるが厳格で融通が効かず、それ以外も併用するほうが自由度が上がるのは当然のこと。

 世界をこねくり回すなら、リスクというものは必要経費だ。

 

 

 あっ、忘れてた。仮面をつけ直して……と。

 

「このみゃーぎょうさん作ったで問題にゃー。

 でも感謝は受け取ったる」

 

 腕を組み、ちょっとふんぞり返った感じで言えば、流石にスルーしきれなくなったようだ。さっきまで格好を全く気にした様子はなかったのに、今はこちらに視線を向けたまま、どう反応すれば良いか迷ってますと顔に出ている。

 

「その……何?」

 

「よう見てちょう。俺は悪魔博士だよ」

 

「そんなキャラだったっけ。

 ていうか最初忘れてたよね」

 

「……ごめんやっぱ無理」

 

 全身を甲冑で覆い、胴体にはカーキ色の貫頭衣。後は仮面を被り深緑のフード付マントを羽織ればDr.ドゥーム、つまり悪魔博士の完成だ。

 名古屋といえばということで用意して、今の今まで温めてきた物を完全にノリで着てきたが、最後まで貫き通せなかった。こういうのは途中で日和るのが一番かっこ悪いのに。

 

 得心がいったと言うように頷く彼に追撃を入れられる前に話を戻す。

 

「急な注文じゃなかったし、演算宝珠の動力源としてまとめて作った時のだからほんとに大丈夫」

 

 仮面を外しそう伝える。これもただのコスプレではなく、それなりの霊装なので息苦しさとかは無いのだが、気分的に。

 大量に作ったのも本当のこと。材料も希少金属とはいえ高位霊能素材程に貴重ではないし、製造も分身式神を一体増やして割り当てれば十分だった。フィードバックで労働の記憶を圧縮体験させられるのには相変わらずゲンナリしたが。

 

「それじゃありがたく貰っとく。

 レシピは上げてもらってるから自分で作れたらよかったんだけど、ちょっと特殊で慣れがいるからねー」

 

「技術分類としては錬金術とバフデバフなんだけどね」

 

 このアークリアクターは、単純にいうと核融合炉。人類の目標の一つを、霊能によってショートカットして作り上げた物。

 名古屋支部(スタークタワー)の地下には大型のものがあるのだが、そちらは地脈から引き上げた霊力を使って制御する熱核融合炉であり、小型のこれは常温核融合炉。小型化研究で迷走した結果、同じ名前なのに全く原理の異なる動力炉となってしまった。

 小型化後の方が元ネタには近いと思われる。

 

 この小型アークリアクターは水素を燃料としている。

 錬金術によって、元々水素を溜め込む性質のあるパラジウムの吸蔵性質を概念的に強め、物理構造的にも最適なものに変形。稼働する際は貯蔵した水素を術式でプラズマ状にして原子を活発に移動させ、術式で制御する。中核として刻んだのは、原子が他の物を弾く力に対するデバフと、それをすり抜ける確率を上げるバフの術式陣。

 

 本来は天文学的な確率でしか起きない事象を、現実的な確率にまで引き上げるという仕組み。術式はどちらもミクロの世界の話なので燃費が良く、小規模故の制御の繊細さは定式化によって解決。柔軟性はないが、核融合が極論原子同士をぶつければ成立するからこその割り切りだ。

 それに、発生したエネルギーを霊力変換する術式も刻んでいるので、稼働中は自分で自分の面倒を見てくれる。

 

「正直、巨大ロボの動力炉なら五行炉とか太陽炉のほうが向いてると思うけど」

 

「研究用のサンプルは多いに越したことはないだろ?」

 

 それはそう。

 研究用と言うなら納得だ。元々個人兵装の動力炉として設計したので、1世帯の電力を賄えるほどの出力はあっても、大型兵器の動力炉として拡大するにしても、多数搭載するにしても、コスパ的に他のほうが良い。

 

「にしても贅沢だよね。これ一人一個でしょ?

 システム自体は演算宝珠単品で完結してるのに」

 

「低レベルでも飛行戦闘をできるようにするなら、どうしても動力炉は必要だったんだよねー」

 

 演算宝珠は懐中時計のような見た目で、ジョブデバイスと滅却師システムの要素技術を組み合わせた兵装だ。機能は全てそれに搭載されているが、大体の現地民(Lv.5未満)はそれを動かす霊力が足りない。戦闘に耐えられるようにするなら、動力炉とその他補助装備が必要な程に。

 

「後は演算宝珠のシステム自体も面白いよね。操縦システムに応用できそう」

 

 確かに、ロボ操縦にも使えるか。

 ロボの操縦方式はガイア連合でいくつも開発されており、どれもメリットデメリットがある。度合いは操縦者にも左右されるため統一はされておらず、有用なら気軽に採用される。

 

「マニュアルを体にぶち込んで、操縦者も機体制御に使うってこと?」

 

「そうそう。

 あれがやってることって、装備者もパーツとして組み込んだ戦闘ヘリみたいなもんでしょ? プログラムを展開する作業場(メモリ)に人間を使って、装備者を介在させつつ実質的には機械制御をしてる」

 

 流石は真面目に巨大ロボを作ろうとする変態だ。公開して間が経ってないのに既に本質を掴んでいる。

 それを人型ロボに応用するとなると、もっと直接的にか。

 

「あー、プログラム的なことを直感的に処理させるってことね」

 

「そういうこと。単純に必要な計算資源が減るし、フィードバックを抑えつつ機体と操縦者を近づけられる」

 

 コンピュータを制御するに当たって、理想は人間が直接命令することだ。だが、大抵の人間は機械語で指示を求められても対応出来ない。しかし、人間が理解できる形にしようとすれば、それ自体が処理を圧迫するタスクとなり、隙を生むラグとなる。

 それを人間の中に処理スペースを用意することで解決しようと言うのだろう。

 

「いいとこ取りをしようってこと?」

 

「その通り。

 操縦桿を握るより直感的で、呪術的一体化よりもリスクが低い。それでいて操縦者のステータスをある程度反映できる。まさにいいとこ取りだね」

 

 演算宝珠は人間の能力を機械的に運用するというテーマで作り上げたが、そういう方面にも応用が効くか。

 

「そううまく行くかね」

 

「それを研究するんじゃないか」

 

 さぁやるぞー、とテンションを上げて研究室へ向かう彼の背中に、俺は一つ確認しなければならなかった。

 

「代金は!?」

 

魔貨(マッカ)で全額振り込んだ!」

 

 振り返りもせずに答える彼は、あっという間に視界から消えた。仕事が早い。

 

 ロボへの応用は自分だけなら気づくのが大分遅くなってたかな。偶には研究談義もするべきか。掲示板で十分そうではあるが。

 

 この後は……予定通り修行場異界に行こうかな。

 レベルなんていくら高くてもいいからね。




演算宝珠(幼女戦記)
ジョブデバイスを宝珠核とし、それを演算装置が覆う懐中時計型の霊装。
ジョブによって能力を与え、滅却師システムが霊王に術式を使わせている技術の流用によって制御している。
現在は航空兵型のみが生産されており、飛行、環境耐性、防殻の能力を装備者に与えつつ、宝珠側にエンチャント術式も搭載されている。このタイプは銃と併用する前提のため、直接的攻撃力を持たない。
アニメ版のライヒ魔導士のような追加装備をつけることで、飛行速度の上昇やエネルギー補給を受けることが推奨されている。

アークリアクター
クーロン力のデバフとトンネル効果の確率アップで常温核融合を実現した小型動力炉。
メイン素材は錬金術加工をしたパラジウム。便宜的にバッドアシウムと名付けた素材によって大量の水素を貯蔵し、それを燃料としている。
燃費は良く、戦闘時間にして120時間以上の稼働を可能にしており、燃料補給はメンテナンスと同時に行う程度で十分。しかし、万一の備えとして水から水素を生成する補給装備もセットになっている。

今までの話を書き直そうと思ってるので、次は遅くなるかも。
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