元修羅木綿の乗り換え先を、指輪からマントに変更。片外套やバッハの赤マントになったり、単純に元の一反木綿型式神のような運用も可能。
照りつく日差しが肌を焼き、舗装された地面からは焼けつくような熱気が照り返す。肌を撫でる海風さえ、熱と湿気を孕んでべとついている。
まるで街全体がサウナにでもなったような気候は、うだるような暑さとは何かを強烈に主張していた。
霊装で適温を維持していなければ帰ることを検討していたであろう暑さだ。パラソルの影から出る気が起きない。
まだ本格的な観光シーズンには少し早い為に人が疎らなビーチを見ながら、どうしようかと頭をひねった。
バレずにやるのは面倒だぞと。
そう、ここは周辺住民が海水浴に訪れ、観光地としても整備された街。
なにせ、隕石が落ちたのは約6600万年前。それだけ経てばクレーターは堆積物で埋められ、その上に街が出来て観光地になっていようと不思議ではない。
隕石落着地点として朧げに荒野とか巨大な窪地をイメージしていた俺は、早速躓いていた。
「水晶の渓谷よりはマシだが……」
高位霊能者の言霊を考えれば不用意なことを呟きつつ、方法を考える。
ここでの問題は二つ。人目があることと、隕石本体が地下深くに埋まっていること。
どちらか単体ならそう難しくは無い。人払いの魔術を使うなり、地変魔法で大規模掘削するなりすればいい。しかし、二つ同時にとなると面倒になってくる。当然の話だが、隠すものが大きくなるほどに隠蔽に必要なリソースは加速度的に大きくなるからだ。
マイクラのごとく自分が通れる分だけの直下掘りなら隠れつつ掘れるが、隕石の大きさ的に辿り着いてから金属部分を目指すことになる。そうなると崩落のリスクが気になってくるため、不測の事態を想定するなら退路は保っておきたい。
人目の方は夜にでもやればいいか。遮音以外は最小限で良くなる。いや、雨季だしスコールがあるな。激しい雷雨の中なら作業は紛れるし、掘削痕も誤魔化しやすい。視線よりも雨風のほうが遮るのは簡単だ。
となると、しばらく待ちだな。日が落ちる前に雷雨になると、俺のサイドエフェクトが言っているしね。
「こんなの持ってきたんだ」
「荷物くらいは把握しておいたほうがいいんじゃないかい?」
「必要な物以外はいちいち確認しないなー」
アイテムバッグを手に入れてからは、大は小を兼ねるとばかりに大量の荷物を持ち歩いている。その中にはいつ入れたか忘れたものや、式神たちが入れた物もあり、把握しているとは言い難い。
誰か中身をデータベース化する機能開発してくれ。もうありそうだけど。
そんな闇鍋にエキドナが入れていた水着に着替え、俺も完全にバカンスモード。と言っても、変わらず日陰浴をするだけなのだが。
エキドナも自前の変化によって水着に着替えた。今回は水着というよりドレスのような白いワンピースに、黒い大きなリボンで髪をくくった姿。*1最近はファッションにも凝っており、変化データの意匠権を買ってるらしい。何でも、山梨で黒札がそんなサービスを展開しているのだとか。
せっかくなので海の家っぽい店で買ったものを摘みながら、日陰で時間を潰す。
「うーん、微妙?」
「舌が肥えすぎたね」
霊的味覚を刺激する神話的美味を俺らが次々と開拓するのが悪い。
もそもそと早々に食べ終え、暇に任せて砂を弄り始める。最初は適当な城だったはずが、気になるところを直しているうちに見覚えのある形になってきた。
「何処まで凝るつもりだい?」
「ここまで来ると完全再現したくなってきた」
そうしていれば、吹き付ける風が徐々に勢いを増し、湿気と共に雲の天幕を運んでくる。太陽がその威光を遮られて暑さは幾分か和らいだものの、湿り気を増した海風が肌にまとわりつき、不快さはむしろ増している。
いよいよ雨が降り出す頃には、影に包まれたビーチから人の気配は失せていた。
「よし、やろうか」
暇つぶしに作った砂の1/100スケール
まだ雨量は少ないが、今の内に掘る場所のあたりをつけておこう。
地球に衝突した隕石の推定直径は10から15km。地球環境を一変させたのが有力なだけに巨大であるが、落着時に砕けているだろうし、どんな組成かもわからない。だが、隕石由来の金属が欲しいだけなので、推定深度の金属を集めればどれかは当たるだろう。
しかし、地中深くにあるせいで通常の探知機は役に立たず、修練の甘い占術では大雑把に過ぎる。
そこで行うのが、術式による金属探査。探知機では届かない深さとは言ったものの、それは通常の規格での話。レベル70を超えた者が行うならば話が変わる。霊力の隠蔽は緩むが、それでも気付ける者はおるまい。
『ここまでやれば流石にバレるよ?』
そう言いつつも、変化を解いたエキドナが改造
磁気の性質を持つ霊力が、指向性を与えられて地中へと投射される。本物の磁気を使えば普通の観測器にまで探知されてしまうので、これは霊的な磁力と言うべきもの。この術式は、金属に特化したレーダー魔法と言うことになる。
帰ってきた反応からして、掘るべきはビーチのすぐ側。波打ち際から沖合へ10mの辺り。街の中心部でなくて良かった。少し荒れるがスコールのせいに出来る。
周辺広範囲に敵勢力が居ないのは確認済み。察知されたところで尋常の速度では作業が終わるまでに辿り着けない。
掘削地点の海水をモーセよろしく割って退かす。
露出した地面を掘り返すのはエキドナによる
同時に出てきた土を押し固め、塀として穴の周囲を覆いつつ積み上げていく。水深はそう深くないが、水が入って土が緩めば、崩落対策に余計に霊力が必要になるからね。
早回しのビデオのような掘削風景を見ていると、直感に反応。
「ん?──あっフラグ」
反射で開いた
「何をしている?」
掘削穴に降りていた最中故に、見上げる形になったコスプレイヤーは、意外なほど常識的な問いを投げてきた。
その間も掘削魔法は止まらない。
「ロマンを求めてる」
神足通の領域に足を踏み入れた権能で空中に立ち、相手を少し見下ろす。下から見上げるには、スーツがちょっとピッチリし過ぎている。
「目的は何だ」
相手が高度を上げ、再びこちらを見下ろす。
客観的に見れば今の自分が非常に怪しい人物なのは理解したが、そんな人物からまともな答えが返ってくるとでも思っているのだろうか。それとも時間稼ぎかな。
「趣味の一環で」
一歩上り、再び相手を見下ろす。
「ふざけているのか?
誰の許しがあってやっていると聞いているんだ」
相手がまた高度を上げる。
「君の許しが必要とは思えないな」
更に一歩……。
「その、巫山戯た真似を、今すぐ、やめろ」
先に音を上げたのはあちらさん。下手な笑顔が引き攣り、声のトーンが一段下がる。
精神攻撃は対人の基本だというのに、実にやわなことだ。
「最後だ。その魔法を止めて投降しろ」
「まだ見えてたんだ。あいにく、停止ボタンなんて高尚な物は……」
傍らに本として浮かぶエキドナへ予兆無く放たれた熱線を、こちらの炎の壁が格を示すかのように召し上げる。
「……無いんだ。すまないね」
「…………」
もはや口を開く気も無いらしい。
高速で飛来しての右拳。足場の無い空中故に腰の入っていないそれを側面からそっと押してやれば、拳は顔の横を通り抜けていく。
お返しに放つのは剣撃。流動し、太刀の身幅となった剣で胴を薙ぐが、意外にも刃は通らない。しかし踏ん張りの効かない相手が吹き飛び、距離が出来る。仕切り直しだ。
『叩き潰すかい?』
「長引かせるつもりは無いから大丈夫。
作業を続けといて」
エキドナには掘削を続けてもらう。距離が開いてしまったので効率が落ちているが、本来の目的を優先してもらったほうが良い。余ったリソースで周辺警戒も続けてるしね。
男はというと、脇腹に薄くついた切り傷を指でなぞり、傷の程度を確かめる。
それだけだったことに安堵したのか、口元に自信に満ちた笑顔が戻った。今度は嗜虐性を隠しもしない。
またもや熱線。これは当然のように炎の壁が遮る。
そうしてできた死角からの突撃。耐久性と勢いに任せ、炎を突き破ってきたタックルを一歩上ることで躱す。
慣性を無視するような急反転。雨を吸ったマントが引き千切れそうなほど大きく煽られる。そこから、防御を考えていない拳のラッシュ。助走も無い手打ちのパンチなために一発一発が軽いが、単純な腕力だけで攻撃として成立させている。
しかし甘い。
一歩下がるだけで間合いから外れ、距離を埋めるために近づかなければならない。それも、待ち構えている相手にだ。
工夫はしているのか、熱線とそれによる炎壁で再び死角を作っての突撃。狙い通り近づいてきた相手の懐に入り、身幅を
身幅を縮めすぎたのか、与えた傷は深いものの致命傷には程遠い。やけに硬いな。ちゃんと骨は避けるべきだったか。
「ぐっ……」
動きの鈍った相手に蹴りを叩き込み、地面へと叩き落とす。そろそろ作業を仕上げに入りたい。
追いかけて着地。砂埃から現れた男は、傷が急速に塞がっていっている。回復薬でも使ったかな。
今度は最も得意な長剣の身幅となった剣を構える。対する男は表情が消え、顔には虚無が浮かんでいる。
「一応聞いとこうか。どこ所属?」
返事は拳だった。地面を踏み砕き、今度は腰の入ったそれを初撃と同様にいなす。
しかし、未来の一つでは何かを振り切るように叫んでいた。自分はメシア教の救世主だと。
「どういう目的でここに?」
振り向いた瞬間に熱線。当然、より高位の炎が熱量を平らげる。自分でも効くと思っていないだろうに。
可能性の一つでは誇るように語っている。悪魔から人々を救うのだと。
「ビザはお持ちですか?」
『持ってる訳が無いだろうね』
再び距離をとった男に問いかける。
どの未来でも完全に無視された。ビザはお持ちではないらしい。
総合するに、メシア教の戦闘員といったところか。
殺そう。
そう思い、一歩踏み出す直前。時間への干渉を感じ取った。それも権能級。
直感にしたがって大きく距離を取る。犯人は目の前の星条旗男ではない。第三者による横槍。
乱入者を全く察知出来ない。
結果を未来に固定され、今は絶対に成し遂げられないこの感覚は……因果の操作か!
刀身が再び流動する。先送りされた結果との距離を権能によって一歩に縮める。さらに時間への干渉に対処しようとしたその瞬間。
直感をすり抜けて肩に手が置かれた。
「まだ潰すには惜しい。取引と行こうじゃないか」
驚く間もなく、視界は黒い煙に包まれる。未来視の視界さえも。
【Tips】メシア教勢力圏は広範だが、その全てを完全に支配しているとは言い切れない。
その何処までも雑な支配体制は、救世主さえ生まれるならばその他は全て些事とする思想故だろう。
優羽、エキドナ
Lv.70代後半。ペースは大分落ちたものの、修行場異界に通って地道に上げている。
剣の見た目はFF14のレイピアオブズルワーン。
ホームランダー
Lv.45くらい。強化改造によって得意分野はレベル相応より強め。V型覚醒剤による覚醒者は、副作用が強いがレベルは一定までは上がりやすい。
???
黒き太陽、煙る鏡。個人的趣向によって介入した。