黒々とした大岩。その芯のような結晶質。
これほど巨大な物体の隅々までに、大量の霊力を感じる。
この大岩は、地脈へと深く突き刺さっていた。
地脈に巨大な穴を穿ちながら、自らその穴を物理的に塞ぐことで、流れ込む霊力を一身に受け止めているのだ。
それでも抱えきれない分は岩肌から滲み出し、外へ逃がしにくい中心部では霊力が渋滞を起こす。その果てに、エネルギー貯蔵へ特化した結晶体にまで変質したらしい。
「溢れ出す分だけでも十分な霊地だ。だからここを選んだ」
都市の地下にこれがあるのではない。これの上に都市がある。
そうなると、どこまで取っていいものか。
これは天然の霊力汲み上げ装置であり、フィルターだ。この都市がメシア汚染を免れているのがそれを証明している。
メシア教が支配した土地にまず何をするか。それは地脈の汚染だ。Lawへと極端に偏らせ、天使の湧く土壌を整える。
それがここまで届いていれば、ここの豊富な霊力を使って天使が無限に湧き続け、都市などとても維持出来ない。挙句にこの異界の主である
「好きなだけ持っていけ。全部でもいいぞ」
どこからどれだけ採ろうかとウロウロしていれば、テスカトリポカがそう言う。
「いや、だめでしょ」
「そうです。神よ」
ここに来る途中からしれっとついて来ていた神官もそう言ってるぞ。
「既に値段も量も決めたではありませんか」
そこ?
「意見か?」
「事実でございます」
「チッ」
テスカトリポカも分かっているのか、大人しく引き下がった。多分神官が居なければ勝手に話を進めていたのだろうけど。神官も大分扱いに慣れてるな。
「地面ってのは永遠に同じ場所を流れる川じゃない。まして、これから大嵐が来る。こんな物後生大事に抱えるもんでもない。
それとも何だ、黒曜石に戻るか?」
「それについては承知しております。
ですが、価値ある物を好きなだけ持っていけというのは良くありません」
「使えも売れもしなくなる前に恩に変えちまった方がいいだろ。人脈は貴重だぜ?」
「貴方が正しいことは知っていますが、我々には即座の利益も必要なのです」
盛り上がってるのにおいていかれると微妙な気分になるよね。言ってることは分かるのだが。
まあ、こっちが恩知らずなら普通に踏み倒されるからね。安全択を取りたいよね。
だが、どちらかというとテスカトリポカが正解か。
合金樹*1を筆頭に、ガイア連合には金属資源そのものを増殖させる手段がある。これに同じ手が使えるかはともかく、希少だからと抱え込んでいる内に希少じゃなくなる可能性は十分ある。どこまで想定しているかは知らんが。
とりあえずサンプルでも採ろうかなとエキドナにお願いしようとして、デジャヴを感じた。
また?
「────そこか」
星条旗を背負った男が、水路の張り巡らされた都市を見下ろす。
強化され、千里眼にも等しくなった透視能力によってこの異界を見つけた彼は、その中心部地下に佇む怨敵を見つけ出した。そして、待ちきれぬとばかりに飛び出す。
「侵入者だ! 迎撃急げ!」
しかし、ここは霊能者達の都市。
その中枢へと向かおうとすれば当然のように阻まれる。
「お前達は後だ」
無視して進もうとするホームランダーに、水路から飛び出た水の蛇が噛み付き、その身に秘めた雷を解き放つ。
「──チッ、邪魔だ」
しかし、それは不快げに叩かれただけで霧散した。この程度では、最早彼の肉体を傷つけるに至らない。
それでも最低限の役目は果たしたと言えるだろう。足止めした僅かな時間で次々と後続の霊能者が現れ、その術を浴びせかける。
戦士達が、自らを神と照応させ、その力の一端を振るう。
ケツァルコアトルの風が切り裂き、トラロックの雷が降る。トラルテクトリの地が閉じ込め、その中をシウテクトリの炎が焼き尽くす。
更には自らに傷をつけ、即席の生贄とする術式まで。
援護と妨害の術式が畳み掛ける。
バカブの四方結界が内部の動きを停止させる。黒曜石が金星を写し、その光で呪う。トウモロコシが芽吹き、傷ついた味方を癒す。
だが、そんな猛攻も、腕のひと振り、熱線の一閃で終わりを告げた。拘束を打ち破り、現れたのは煤がついただけのホームランダー。
片眉を釣り上げて煤を落とした彼は、しばし自らの手を見つめる。そしてぐるりと周囲を見回すと、突然地面を踏み砕いた。
乱舞する熱線、轟音と共に飛翔する瓦礫。
「不味い!」
狙いに気づいた翡翠暦盟の霊能者が思わず叫ぶが、もう遅い。
的確に術式の要を焼き抜いていく熱線。飛来する瓦礫は不自然に軌道を曲げ、その傷口へと吸い込まれるように殺到する。
食い込み、抉り、押し広げ、破壊を確実なものとする。
用は済んだと、再び怨敵の姿を透視しようとした。
「────ッッ!」
本能が叫んだ警告に従って振り返る。
そこには、首を掴もうとする怨敵の姿があった。
「おっと」
手を弾かれ、引き回していた男を取り落とす。ここまで来れば十分だろう。
すぐさま放たれる蹴り、拳、熱線の全てを
手元に現れた──いいや、既にそこにあった天裂による自動防御だ。
俺の霊力に浸り、
「私は真に
砂塵に塗れた状態で言われてもね。
また乱入者が出ることは無いと思……いたいが、改めて考えると大分不安だ。なんだよメシア教の人造救世主とアステカの全能神って。こっちは石を掘りに来ただけだぞ。
まぁ、獅子は兎を狩るのにも全力を尽くすという諺もある。あまりに非効率だし手の内も晒すので避けていたが、やれということなのだろう。
ペルソナの顕現、認知存在化、時間加速、エキドナによるバフに加えて、新顔のお披露目と行こうか。
「── 卍解」
なんちゃって。
今まで刃のように振る舞っていた紅い流体が溶け落ちる。これこそが鞘。剣合体、その合体事故にて生まれた
守りに長けたそれを分離し、ようやくこの剣は真価を発揮する。
二対の蛇が互いに巻きつくような柄。その蛇が噛み付くのは時計の針を思わせる鍔。ズルワーン神像における蛇の絡みつく杖を象った、光を吸い込むような黒い細身の長剣。
【天裂】変じて【天歴簒裂】
アップグレードした愛剣がようやく出番だと意気込む思念を伝えてくる。
ペルソナがその形を崩す。影となったそれが怪盗服を取り込み、無数の瞳が浮かぶ不定形の大外套となる。その瞳の全てが本来の眼と同等の力を持ち、無数の未来を見通し、それを支配する。
甲縛式O.S.【
ようやっと原作再現に辿り着いた、理不尽の権化。
「ついに本性を現したか。醜い姿だ」
「原典じゃ天使もこんなもんだろ。
聖書はもっとよく読んだ方がいいぞ」
青筋を浮かべて早速の突撃。沸点低すぎない?
音を突破し、地を踏み砕き、殺意を存分に込められた拳が迫る。
対処手段は選り取りみどりあるが、どれも必要無い。
「既に斬った」
右腕が飛ぶ。肩から血飛沫を上げた男が目を見開く。
しかし、それも一瞬のこと。すぐさま分かたれた腕を掴み、傷口に押し当てただけで治してみせた。
相対未来に傷が居座り、延々と治癒阻害をする斬撃をこれだけで治してしまうとは驚き。見えてはいたが、随分と多才だね君。
初撃を防がれ背後に回った彼が地面に足を突き入れ、アスファルトを蹴り上げる。アスファルトが砕けないのが不自然だが、大規模な畳返しだ。あからさまに目が主張するこの姿を見て、視界潰しが有効と判断したのか。やはり頭は回るようだ。
見えている時点で関係ないのだが。
「それも斬った」
瓦礫が切り刻まれて粉となり、その勢いを失う。
その後ろから迫っていた男は膝から下を両断されるも、そのまま猛烈な速度で俺の肩を掴んだ。傷の方は、ひとりでに飛行した足が追いついて繋がっている。
「これで終わりだ!」
両目を輝かせ、至近距離の熱線。透視とでも組み合わさったのか、直線上の全てに同時に熱が発生し、その他の全てを蒸発させて押し退けた。
しかし、未来にあったその光景は、ついぞ実現しなかった。
熱線が俺を貫くことは無い。
視認し、理解した時点で、それは俺に平服する。その時点で俺を倒す事はおろか、傷付ける事すらできない。
それが【
想定外の事態を把握したらしい相手が、やっと次の行動に移ろうとする。掴んだ肩を引き寄せて、頭突きか膝蹴りか。しかし、そのどちらも叶わない。
肘と膝の全てを両断。引き寄せるべき腕は既に繋がっていない。
「そんなもの消耗が大きいに決まっている!
お前の剣では私を殺せない!」
「そう思うんなら続ければ?」
すぐさま手足を繋ぎ直し距離を取った彼が、自身に言い聞かせるように叫ぶ。だが、ちょっと見当違いだ。消耗は普段よりは大きいが戦闘に制約を課すほどではないし、殺してないのはこっちの都合だ。
彼が地面を捲り上げる。足場崩しと視界制限を兼ねているらしいが、空に立つだけで何の問題も無い。
捲り上げた地面を砕いた散弾銃のような一撃も、その後の彼自身による突撃も、未来で既に斬ってある。
何かを掴んだらしい彼が、瓦礫を纏めて自らの拳とする。巨大なボクシンググローブのようになったそれはしかし、振るう前に斬ってある。
殴りかかる、腕が飛ぶ、引き寄せて繋げ直す。
蹴りかかる、脚が両断される、引き寄せて繋げ直す。
熱線が牽制とばかりに連発される、かすり傷一つとて負うことはない。
肉体的には再生していても、共に直ることの無かった装備が、幾度も両断されたことを示す。髪は乱れ、息は荒く、それでも闘志を絶やさない男。
そろそろ十分だろう。
「掲げよ」
言霊を紡ぐ。無くても問題無い程に準備をしたが、本格的に使うのは初めてだ。やっておくに越したことはない。
「銀の紋章・灰色の草原・光に埋もれた円環の途」
話し出したのを隙と見たのか、何かに勘付いたのか。男が目の色を変える。
「瑪瑙の眼球・黄金の舌・頭蓋の盃・アドナイェウスの棺」
自身が突撃すると共に、踏み砕いた地面を拳へと繋ぎ直し、更には巨大化するように瓦礫を纏い始めた。
巨大化は負けフラグだぞ。既に斬ってあるが。
腕が、瓦礫が、斬り飛ばされて宙を舞った。
「掲げるものは、お前の心臓!」
そこで初めて、手にした剣の切っ先を彼へと向ける。
ゆったりとした詠唱は、最後まで邪魔されることは無かった。横槍は無し。流石に不運も打ち止めだったか。
「
目に見える変化はほとんど無い。
光の柱が立つことも、天空に五芒星が浮かぶこともない。ただ、傍らに鞘だったラハトハレヘヴの一片が炎を纏って剣となっただけだ。
しかし、これ以上無い程に勝負はついた。
「【接続】か。良い物持ってたじゃん」
腕が落ちる。
直前に斬った傷口を繋ぎ止めていた力が失われ、治りきっていなかったそれが重力に従い地に落ちた。
「ゴボッ……何だ……これは」
男が血を吐いて地面に膝を付く。無理矢理繋げていた脚が、その衝撃で外れた。
「何をした!
────ッ!!──ァぁッ!」
熱線を放とうとした眼球が沸騰し、破裂する。
痛みに悶える動きさえ自らを傷つける。
彼を彼足らしめていた力が失われ、奇跡の全てが牙を剥く。
【天歴簒裂】が司るのは歴史。
出自、来歴、経験、強者を強者たらしめるものは全てその者の歴史にある。それを奪い、弱体化させ、自らの力として振るう魔剣。
かなり入念に斬り刻んだが、概ね手間に見合った成果と言えるんじゃないだろうか。権能を根こそぎ一つ奪えたようだし。
「見てるだろ。用がある」
殺すのにも一手間必要か。
周りはさんざん荒らされたが、ここに居ないはずが無い存在を呼びつける。
「まあまあいい戦いだった。一方的すぎて好みではないがな」
言葉通りの微妙な拍手と共に、テスカトリポカが現れる。そのポップコーンはどこから持ってきたんだ。完全に娯楽扱いか。
「
「戦士なら良いが……俺は今は無理だぞ」
「こっちでやるからそれは良い」
メシア教の天使は、死んでも天界に情報を持ち帰る。こいつにも似たような仕掛けが施されていてもおかしくない。そんな存在に異界都市テノチティトランや、俺の能力を知られた以上は魂も渡したくない。
なので、ちょうど良く冥界も司る存在がいるのでそっちに投げてしまおう。その手段もちょうど手に入れたし。
傍らに浮かんでいた炎の剣を左手に持ち、這いつくばりもがく男の側に立つ。
ん? 再生してね?
悪魔化し始めてんじゃん!
「
更に何か続けようとした男の首を、【接続】を宿す炎の剣で落とす。
その権能でもってミクトランとこいつの魂を繋ぎ、なるべく一神教系の縁を斬っておく。
元所有者だからか上手く繋がったが、使った感じどうも他者同士を繋ぐのには向いていないらしい。
MAGと化して霧散していく遺体を見ながら、精神慰撫の煙草を取り出す。
散々荒らしてくれたけど、これさっさと帰れるかな。
【Tips】神話や歴史、神や英雄に自身を照応するのは魔術において有り触れた手法だ。
それが意図したものかは関係がない。
優羽
完全耐性持ち崇光なる宣告者。スターヴヴェノム付。クソボス。
ヒノカグツチを目指して剣合体をしたら、別の火属性神剣が出てきた。多分、メトラが隣に居たせい。そのまま使うのはあれなので、素材として消費した。
【全知全能】
未来視過去視の強化、全攻撃に射程:視界の付与、とあるの『光の処刑』再現術式から着想を得た、理解した対象を自身の下に位置づける能力。見て、理解するという工程が必要だが、それを経てしまうと非常に高い貫通系能力が無いと突破出来なくなる。
【天歴簒裂】
与えた傷に応じて歴史とそれに伴う能力を奪う。時間関係能力のバフもある。
納刀状態だと耐性一段階上昇に加えて、ダメージ付オートガード。抜刀状態だと今まで奪った能力を保持し行使するラハトハレヘヴが付属している。
ホームランダー
自己改造に向いた才能を持っていたために、唐揚げとカレーとラーメンとケーキのごちゃまぜみたいな料理なのに美味くなっていた。
【接続】
自身と何かを接続し、自身の一部とする。
これから使い倒される予定。