これは要らない。これも要らない。これは……あったら嬉しいけど換金でいいかな。
山と積み上がった戦利品を仕分ける。どれも深層一歩手前の下層素材なだけに、これだけでビルが建ちそうな資産だ。これから一瞬で消えていく儚い資産だけど。
なんで一体とエンカするまでにこんなに溜まってしまったんでしょうね。誰かが物欲センサーを実装したに違いない。
「全部換金お願いします」
「今回も随分と集めましたね?」
「今日も早めに終わる予定だったんですけどねぇ」
受付のちひろさんが慣れた様子で仕分けるのを見ながら、ため息をつく。ヤマタノオロチなら縁もあるし早々に出てくるでしょと考えてたのが運のつき。
悪魔全書*1に登録してやったからせいぜいこき使われるといい。
「支払いはマッカでよろしいですか? ガイアポイントもありますが」
そういえば最近は……そう、最近はガイアポイントでの取引も盛んだったね。マッカは触媒にも使う都合上、完全な通貨というわけでも無いし、発行元はルキフグスだから、ガイア連合としても別の決済手段が欲しいってので始まったんだっけ。
「……大丈夫です?」
「ちょっと時の流れを突き付けられた感じで。
あ、支払いは半々で」
前世じゃあ当たり前だったはずなんだけどね。
こっちで産まれた時期が前世より随分早いからなぁ。適性もあってか、早々と不老の領域に踏み込んだから若者気分のままだったけど、普通に子供がいてもおかしくない年だからね。
まぁ、今考えることでもないか。
「これだけあれば一個行けそうかな?」
「うーん、時価が絡むから正確ではないけれど、パワーなら十分、リアリティは足りないだろう。その他は市場次第だね」
素材マーケットサイトを軽く見てみれば、大体エキドナの言うとおり。早速、威力増強系のスキルカードや力に関する悪魔のフォルマを買っていく。
他にも色々並行して動いてはいるが、最近のメインは自己強化。レベル上げもそうだし、装備作成もそうだ。そして、装備作成のメインはインフィニティストーン。元ネタほどの万能性は無いが、幅広い自己強化にはうってつけだ。
「やっぱり殆ど手元に残らんね」
メメントスで手に入るイシを参考にしたこのアイテムは、概念を抽出、圧縮し、物質化させたもの。素材の全てを使える訳ではなく、無駄になる部分も多いために、大量の材料が必要なのだ。
狩りの成果が大体吹き飛んだ口座残高を見ながら、働くという行為の虚しさを噛み締める。座ってるだけでも金が入ってくるようにはしているが、比例して出費もデカくなるせいでなかなか理想には届かない。かと言って、質素にするつもりもないのだが。
「なんか良い案無い?」
「学校とかはどうだい? 終末後を見据えるなら必要だし、優秀な人間が増えれば自然と稼ぎも大きくなる」
「それはやるけども、迂遠すぎない?」
長期を見据えるのは大事だろうが、そこまでの長期計画は色々並行して進めるやつじゃん。手っ取り早く稼げるのは悪魔狩りだが、それじゃいつもと変わらない。欲しいのは金の卵であり、それを生む鶏なんだよね。
まあ、そろそろ支部の財政を独り立ちさせるべきか。スノーボール効果を狙って突っ込んで来たが、もう十分だろ。
「じゃあそうだね、インフラなんてどうだろう」
インフラ?
◆◇◆
「新型ナビの試用依頼ねぇ」
空間投影されたモニターに浮かぶ、場違いな依頼に首をひねる。ここは異能者の斡旋所であって、自動車メーカーじゃなかったはずだが。
物珍しさから詳細を開く。報酬が妙に高い以外は常識的な内容説明。しかし、いくつかの条件に目が止まる。
人形同伴
レベル5以上推奨
戦闘用装備携行推奨
「……見間違いじゃねえな」
支部の運営が依頼元のテスター募集だ。人形同伴なのは分かる。そう考えれば、
「異界に突っ込まされんのか?」
悪魔を効率よく轢き殺すルートでも出てくるのだろうか。もしそうだとしたら公募するのはおかしい。もっと適役がいるはずだ。
「まあ、悪いようにはならないか」
信頼と共に、画面をタッチした。
「これがそのナビなのか?」
戦闘用の重装備のままに案内されたのは、驚くほど普通の自家用車。しかし、後部座席を装置が埋め尽くしており、今回試す「新型ナビ」がどれなのかは一目瞭然だった。
「観測機器の関係でこの大きさです。量産段階では座席一つにも満たない予定になります」
案内役の人形が答えた内容にひとまず納得する。
「今回は使用感の調査が主な目的です。指定するルートを走行した際の不満や改善提案などを出していただきます」
「専門じゃねえから細かくは出せないが」
「そこまで期待はしておりませんので問題ありません」
支部運営からの依頼で、人形が監督役に付き、微妙に辛辣。
下手すれば支部長直々の案件だぞこれ。なんで神にも等しい御仁がナビ開発なんてやってんだ。
だが、ここまで来た以上はもう逃げられない。公募する時点で無いとは思うが、死人に口なしは常識だ。
「その装備では運転もしづらいでしょう。ドレッサー*2に収納をどうぞ」
「今回は三段階でのテストを行うため、長時間の運転が予想されます。シート位置の調整をどうぞ」
「目的地を設定しました。第一段階はナビを試用しない通常の運転です」
あれよあれよと準備が整えられ、あまりの手際の良さに不安さえ感じてきた。
「では、出発してください」
ええい、ままよ!
固めた覚悟は空振りし、至って普通の運転だ。
慣れたとまでは言わないが、それなりに見知った道を、変な要求をされることなく運転する。
信号に何度も引っかかる。行けなくもないタイミングでも、同乗者の目が気になって止まるからだ。安全運転といえば聞こえは良いが、免許取り立てのビビリみたいだ。
「…………」
ルートに路地が多いせいで歩行者も煩わしい。狭い道で見通しも悪く、慎重になるほど同乗者に意識が向く。
「…………」
名古屋は車線が複雑だ。交差点なんか、ナビがあってもどの車線か迷うほど。間違えないよう慎重に車線を選ぶ。
「…………」
だから何か喋ってくれ。無言で観察されるのは気まずくてしょうがないんだ。
「第二段階に移行しましょう。装置を起動します」
「走行中なんだが!?」
気まずい無言を終わらせた宣告に対する抗議は無視され、僅かにモーター音のようなものが聞こえる。装置の起動音か?
それにしちゃ、視界に何も出てこない。テスト対象はナビのはずだろ。何で……いや。
「……動いていない」
並走する車がいない。信号を待つ歩行者がいない。道路を走るのがこの車しかない。
それに、この感じは異界か。そのくせ一瞬気づかなかった程に景色がそのままだ。
「これが新型ナビってやつの効果か」
「ええ。鏡面異界に潜航し、通常の交通を無視する運転が可能です」
凄まじい。異界を使っておいて、やることが高速道路かよ。
「これ、速度制限とかは?」
「私有地ですので、特にありません」
「じゃあ飛ばさせて貰うかな!」
貴重な体験だと思い、ストレス発散だとアクセルをベタ踏みする。車線を気にせず広い道を突っ切り、意味のない信号は無視する。
死角から不意に何かが現れる事もなく、雑な運転に文句を言うものは……居るか。
「…………何か?」
「あー、正直難癖に近いと思うんだが」
「ご不満点でしたらどうぞ」
「邪魔が無くなっても、元の道路がそのままなのは勿体無い気がしてな」
路地は狭く、真っ直ぐな道は長く続かないし、曲がるには速度を落とさなければならない。信号も歩行者も並走車両も無くとも、都市の作り自体が速度を出すことを想定していない。
「テストだからこんな道選びなんだろうが、ルート選択でどうにでもなる部分だからな。気にしないでくれ」
「承知しました」
走った距離自体は同じ程度なんだが、さっきと比べて随分と早く着いたな。
「値段によっては多少無理しても買いたいね。あーでもどこまであるんだ
「延伸の予定はありますが、現在は名古屋全域とその周辺に留まります。値段については未定です。しかし、そう高くなることは無いかと」
正直大分欲しくなってきたが、俺の稼ぎで買えるか微妙な代物だなこりゃ。
「他拠点でも、同様の鏡面異界が整備される可能性はあります。
では、第三段階に移りましょう。直進してください」
「いや、
「ええ、ですから直進してください」
流石になんかあるよな? クソっ。
「治療費は出してもらうからな!」
アクセルを踏み込む。流れる景色がやけにゆっくりと感じる。それに、目もおかしくなったか?
世界が回る。ビルが曲がり、地面がうねり、二つに巻きとられるようにして道が開ける。──は?
「どういうことだよこれ! 崩壊してんじゃないだろうな!」
万華鏡のように変化し、折り畳まれる地形におもわず叫ぶ。こんな状態じゃ逃げることも出来ない。
「これがオプション機能となります。鏡面異界を組み換え、利用者の行き先へと道を通します」
「……マジかよ」
バックミラーを見れば、通り過ぎた場所が元通りになっていく。進む先に道がひかれ続ける都合のいい現象は、確かに異界の崩壊ではない。
「左右だけでなく、上下の移動も行ってください。操作はこのレバーで行います」
おっかなびっくり走っていたが、その言葉で我に返る。道が出来るなら地面とか関係ないのか。
レバーを倒し、速度を上げる。景色に鏡写しの道路が増え、それが折れ曲がりながら空へと伸びていく。
「……やべーな」
先程までとはまた違う、増殖しながら組み上がっていく道。異様な光景のはずなのに、既にもっと見たいと思っていた。
「境界付近です。現在、エリア外警告は実装されていませんのでご注意ください」
はしゃぎすぎて警告を出されたくらいだ。
気づけばあっという間だった。童心に帰った気分だ。
道に沿って進むのではなく、進む先が道となる感覚は、意外と癖になる。
「これ出るときはどうするんで? 突然現れる車とか不審だと思うが」
「出入りの際は認識阻害が展開されます。簡単な視線外しですが、用途的に問題ないかと」
入る時も使ってたのか。気が逸れてたし、気づかなかったのはしょうがない。こいつらの言う「簡単な」は信用出来ないからな。
「これも値段は未定?」
「そうなります。こちらは継続的な利用料を予定していますが、やはりそう高くなることはないかと。
具体的にはこの程度だそうです」
今決めたよなこれ。リアルタイムで見られてる感じか?
「……テスター特典で割引とか無い?」
「……考えておくとのことです」
【Tips】便利さに果てはなく、人はどこまでもそれを追い求める。それが原罪の一つ故に。
依頼受注者
在野の闇サマナーだったが、ガイア連合が進出してきたのを幸いに表に復帰した。引き際を見極めるのが上手く、それ故に他人との距離を詰めるのも上手い。
鏡面異界
(元ネタ Dr.ストレンジ)
鏡の概念を利用し、現実を写し取るよう整備された異界。建物や道路など、動かないものは現実と対応し、座標も基本的に一致している。
合わせ鏡として自在に組み変わる異界を、優羽はインフラとして活用することにした。第三段階の方が本命であり、お試し用の廉価版が第二段階。エネルギー源は小型アークリアクター。
その性質上、出入りはそう難しくないが、
黒札向けの更なる上位機種として、鏡面異界に入るのではなく、周囲に展開するタイプも計画中。こちらは異界制御資格が必要。
インフィニティストーン
(元ネタ MCU)
単一概念の圧縮結晶。装備者に、その概念に対応した能力補正と関連するスキルを与える。(タイムストーンなら時間系能力補正と【獣の眼光】)
時間は自身から汲み出せたが、その他はそうもいかないため、スキルカードやフォルマから抽出する形を取っている。