【カオ転三次】怠惰を求めて   作:茅薙

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舞台を飾るは叢雲の化身 2

「はーい。今日もやっていくよ〜」

 

︰今日なんか違くない?

︰告知まじ?

︰今日もカワイイ!

︰後ろだれ?

 

 いつもの合成背景とは異なる、観客席のような背景。しかも、何時もは一人での配信しか行わないというのに、今日は背後に二人。

 

「告知もしたけどー、今日は主(マスター)の要望で決闘の実況配信。なので、新設した闘技場異界からお送りします〜」

 

︰ま?

︰毛色違いすぎる

︰後ろ何?

︰明らかに怪しいのがいるんだよね

 

「でも〜、一人でやるのは大変なので、解説役の」

 

「エキドナだ。よろしく」

 

「それと賑やかしの」

 

「I am DOOM」

 

「だそうでーす」

 

︰なんで?

︰名古屋弁が聞こえる

︰仮面が悪魔博士の方なんだけど

︰誤魔化す気無いだろ

 

 パチパチ

 

︰切り替え式かよ

︰無駄機能過ぎる

 

「今回は宮津家当主宮津琴刃と、難民の霊能組織代表の四名による、一対四の戦いになってまーす」

 

︰これで勝てるん?

︰配信するってことは勝てんの?

 

「それは見てのお楽しみ」

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

 疲れていたのでしょう。

 

 故郷を追われ、仲間を失い、遠く東の果てまで来ました。

 慣れない土地に苦心し、現地の霊能組織の技術に驚愕し、それでもなんとか生き残って来たのです。

 

 だが、そうして私達が得たのは、帰るべき故郷が既に無い事実でした。

 

 半終末と呼ばれているらしいそれ。地上は悪魔達の世界たる魔界と化し、既存の法則も地形も崩れ去り。

 故郷は既に無く、この地に根付くしかありませんでした。

 

 だからでしょう。非礼と分かっていながら、私達も同列に見られると知っていながら、ルールも守らず権力者に泣きつくという愚かな行動を見逃したのは。

 

「自分の未熟さに目眩さえしてきますねぇ」

 

 口をついて出た言葉は、自分でも驚くほどに、端的に後悔を表していました。故郷を失ったのも、泣きついたのも、自らの実力不足が故。噂に聞く黒札の方ならば、このような事態に陥ることさえ無い力をお持ちなのでしょうから。

 

「SMASH!!」

 

 ゴリーニの拳は、これで何度目か分からないほど当然のように躱される。

 ……あなたの専門は錬金術でしょうに。

 

「"鎖(Kette)"──"戒め(Warnung)"──〈罪科の足枷(【スクンダ】)〉」

 

 霊装から放つ足止めの魔術(鎖)もやはり届かない。何度か掠めてはいるものの、その度に巫女服に弾かれている。けれども、霊装に頼りきらず、毎回律儀に避けている。その慎重さのおかげで妨害にはなっているが、それだけでしかない。

 

「最低限壁ぐらい作ってくださいませんかねぇ!?」

 

「それは俺に相応しい仕事じゃない!」

 

 これだからボンボンは。

 

「雷鐘(【雷龍撃】)」

 

 雷を纏った刀が振り下ろされる。それを見て、反射的に横へ飛ぶ。

 斬撃の延長線上に雷が落ち、つい先程まで立っていた位置が暴威に見舞われる。

 

「入道雲(【水龍撃】)」

 

「ウンディーネ!」

 

 間髪入れずに雲の巨腕が戦場を薙ぎ払う。

 ハルトマンが使い魔の力で作った安全圏に飛び込むことで難無きを得たが、受けていれば大きな隙を晒していた。この戦いは、彼が複数の悪魔の力を使い、器用に立ち回っているからこそ互角に持ち込めている。

 

 師祖キングスフォードとまでは言わずとも、大師メイザースの魔術の一端でも使えていればここまで無様を晒すことは無かったでしょうに。

 

「TORINO SMASH!!」

 

「雷鐘(【雷龍撃】)」

 

「〈誘雷塔〉 準備が進められません!」

 

 ゴリーニと近接戦を繰り広げながらも、ついでのように落とされる雷が、逆転の策の進行を阻害する。

 

 明らかに近接戦主体の戦い方でありながら、その攻撃範囲によって戦場を支配しているのが、我々が侮った宮津家の当主。身に纏う霊装の格は寵愛を示し、それを使いこなす実力を持つ。

 

 私達の愚行を証明しているようだった。

 

「なんとかしましょう。

 "剣(Schwert)"──"征服(Eroberung)"──」

「大時化」

「っ!」

 

 ゴリーニが投げ飛ばされた。よりにもよってウェイトの方か。タロットの設置がまた遅れる。

 

「断風(風龍撃)」

 

 すぐさま踏み込んで来た相手の抜刀術に、触媒としていた剣を挟み込んで防御する。それなりに拘った霊装だったものの、半ばまで刃が食い込み、もう剣としては使えそうにない。

 

 だが、ここまで近づいてようやく分かりました。

 

「その剣。神器ですね? いや、降神ですか。

 素晴らしい。羨ましく思ってしまい〼(ます)ね」

 

「…………」

 

 何も答えないものの、半ば時間稼ぎの問答だ。問題ない。それに、答えを聞いたところで、対処できるとも限らないのだから。

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

「────というような形で、天候を再現することでヤマタノオロチ(自然災害の化身)から連なる天候の神として、草薙剣を降ろす儀式としている訳だ。威力が上がっているのは属性の循環による増幅では無く、降霊術によるものだね」

 

「ゲーム的に言うなら、かみなりパンチとかが全部グロパンになる感じ。あの子は相性良いから剣舞だけど」

 

︰ま、真面目に解説してる……

︰バフ積みながら殴るのは最強

︰感覚としては理解できる……

︰神ってそんな気軽に降ろせるもんなん?

 

「そこは知らない。気質によるんじゃない?」

 

︰お前も神だろ

︰出来ることは前提なの?ここ

 

「相手の方は……あれだね。伝統的な感じ」

 

︰あの脳筋はなにやってんの?

︰武器入れ替えるの忙しそう

︰最初は悪魔いたけど追加出てこないね

 

「一個ずついこうか。まずは一番何やってるかわかりにくい脳筋からお願い」

 

「あれは……錬金術かな。分類は怪しいところだが、何かしらの概念から……金貨を取り出しては消えてるのを見るに金銭的価値かな? から身体強化に変換しているみたいだ」

 

「見る感じ使い手が悪いね。あれ使うならもっと他のことやればいいのに」

 

︰やっぱ脳筋だった

︰でも威力凄くない?

 

「威力と技術の使い方は別問題かな。

 次は武器交換が忙しそうな人」

 

「あれはヘルメス学だね。概念を象徴する霊装を通して、その概念を掌握しているとする魔術だ。四元素を用いたものが有名だね」

 

︰その割には魔法って感じじゃないけど

 

「デバフ系統を好んで使っているようだからね。それに適した象徴武器を使っているんじゃないかな」

 

︰便利そう

︰一個は覚えるとお得?

︰魔法はスキルポン!だと思ってた

 

「基本はその認識でオッケー。スキル外でやりたいことが出てきたら手を出すくらいで良いよ。レベル上げるのが正義だし。霊装作りたいなら必修だけど。

 次はあの悪魔召喚師」

 

「変節はしているようだけど、ソロモン系の召喚術かな。それも、悪魔を器物として召喚して、霊装として扱う変わり種だ。ペルソナ以外では初めて見たよ」

 

「よく見れば、四元素は着てるね」

 

「追加で雷専門も出したようだ」

 

︰強くね

︰ソロモン系まだ生きてたん?

︰便利すぎん?

︰そのせいで社畜の如く走り回ってる

 

「完全に裏方にまわってるね。なんならこの人も象徴魔術使ってる」

 

「技術交流はあったんだろう。四元素の悪魔を使えるならうってつけの魔術だ」

 

︰確かに、悪魔なんて概念そのものか

︰COMPで出来ない?

 

「やりたかったら自分でアプリ開発してねー。

 最後はあんまり目立たないけど、カードの人」

 

「見ての通り、タロットに基づく現象を操作しているね。使い手の主観によって引き出す効果は変わるから、あまり解説できないが」

 

「セフィロトかな? それに基づく大技を準備しているみたい。召喚師がカードを置いてまわっているね」

 

︰セフィロトというとあれか

︰英霊召喚でもするんか?

︰タロットだけ雑で草

︰召喚師がそろそろ死ぬ

 

「局面も煮詰まってきたようだね」

 

︰後ろの奴はいつ喋るん?

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

「もう少し付き合ってもらい〼よ!」

 

 近接戦闘の鍛錬を怠ってきたつもりは無いが、やはり本職には劣る。こうして斬撃を避け続けられているのも、素直な攻撃が続いているからだ。

 

「SMASH!!」

 

「っ!」

 

 突然現れたゴリーニの拳が彼女を後退させる。初めてまともに入った一撃。

 あの脳筋が隠密とは……ウェイトか? いや、今はどうでもいい。

 

「良くやりました」

 

「火砕龍(火龍撃)」

 

「下です!」

 

 しかし、相手が止まる様子はない。

 刀を地面に突き刺してからの振り上げ。ウェイトの警告に従って飛び退けば、地面が割れ、マグマの龍が立ち上る。追尾は弱いようだ。大きく動けばそのまま上に逸れていく。

 

「灰吹雪(氷龍撃)」

 

 しかし、そこで終わりでは無かった。彼女が刀を振り下ろすと共にマグマの龍は灰となり、黒煙が降り注ぐ。ご丁寧に、包囲を縮めるように渦を巻きながら。

 

「散開を!」

 

 先程の攻防で三人が一カ所に集まってしまった。

 ここまで来れば流石に理解する。これは天候の再演。この戦いそのものが儀式だ。いやはや、参ってしまいますね。

 

「"我が呼び声に答えよ"

 "西方の王、二百の軍団を従えし者"

 ──来たれ、パイモン!」

 

 黒煙が霧散する。彼女の表情からして不本意。次の行動にも移っていない。

 詠唱からしてハルトマンが切り札を切りましたか。ならば千載一遇の好機。私も続かなければ。

 

「"檻(Käfig)"──"罪人(Sünder)"──"正義の重圧(Der Druck der Justiz)"──〈戒めの格子(【ランダマイザ】)〉」

 

 未だ慣れない滅却師システムで、彼女の周りに無数の棒を突き刺す。それを檻に見立てての罪人用封印術式。後ろ暗い仕事も時には役に立つものです。

 

「……っ」

 

「今日は自信が無くなることばかりですねぇ」

 

 渾身の魔術を受けて、なお膝さえつかないとは。だが、剣先は地につき、霊力に動きは見えない。ただ、思案する瞳がこちらを射抜くのみ。

 

 諦めたように目を閉じ、そして決意の眼差しが開いた。

 

「"四の御名" "八の尊称"」

 

「っ!早く次を!」

 

 なんだこれは。

 

「"ROTAの秘文はその回転によってTAROすなわち一〇の球と二二の経路を示す山札へと変じる"」

 

「"三位一体" "二十四の玉座"」

 

 神道ではない。これはこちら(欧州)に近い、カバラか数秘術か。あまりに毛色が違いすぎる。隠していたのか?

 

「"さあ目覚めよ七八枚。樹の外から注ぐ光とはすなわちアインソフオウル、アインソフ、アインに迫る正規にして唯一の出入口なり!!"」

 

「"光に分かたれし七十二の神名"」

 

 どんな魔術だ? ウェイトは間に合うのか?

 さっきまでは手を抜いていたというのか?

 

「〈アインソフオウルの光(【メギドラオン】)〉」

 

「"その一端を担うは我"」

 

 光が視界を埋め尽くす。間に合ったか。

 準備が必要な分、絶大な火力を誇るのがこの魔術だ。流石にこれを受けて無傷とはいかないはず。

 

 しかし、追撃を行うことは出来なかった。

 何かを見落としている気がした。致命的な何かを。

 

 数瞬か数秒か数十秒か。追い詰めているのはこちらのはずだというのに、異様なプレッシャーに圧され、時間が引き伸ばされる。

 

『要請承認

 神名開帳

 権能貸与』

 

 風が吹く。不自然に強く、強く、強くなって。

 

 砂煙が晴れた先には、天輪を戴き、嵐の翼を広げる天使。額から血を流し、巫女服を僅かに焦がしながらも、一切の陰りを見せない彼女が居た。

 

 

滅却師完聖体クインシー・フォルシュテンディッヒ

神の嵐シュトゥルメル

 

「ここからは、蹂躙です」




キルゲ・オピー (元ネタ BREACH)
ヘルメス学の魔術師。すぐに解散した伝説の結社『黄金』を祖とする結社の現代表。しかし、その力はかつてのそれには程遠く、彼自身も戦闘を得手とする術者ではない。彼より得意とする者は、全員戦死してしまった。
今回のことには消極的反対。内心は文中の通り。

バルド・ゴリーニ (元ネタ 僕のヒーローアカデミア)
錬金術系の家系の現当主。相応に現実は知るものの、わがままなお坊ちゃん気質が抜けないボンボン。彼の家系は『価値』を万象に変換し、その逆も行うという秘術を積み上げてきた。しかし、彼の気質では発展が期待出来そうにない。
今回のことには積極的賛成。主導者。

コンラート・ハルトマン
ソロモンに連なる召喚術の家系。分派も分派なので本流には程遠い。実力は大したことが無いが、技術の希少性から黒札に注目されるタイプ。
今回のことには消極的反対。

エティエンヌ・ウェイト
『黄金』や薔薇十字を祖に持つ家系。タロット占いや絵柄に基づく魔術を扱う。アインソフオウルの光は彼が扱える中で最も高位の魔術。
今回のことには消極的賛成。
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