自分なりのお兄ちゃんを書いて見たので、どっか変でも温かく、温かく(ここ重要)読んでください。
俺はその日、天使を見た。
母さんの腕に抱かれた赤子。同伴していた父さんも顔いっぱいに汗を滴らせながら、母さんと赤子を労っている。
隣に立つ朝日も突然の来訪者に動けずにいる。
母さんが妊娠しているのは分かってた。時期的にもそろそろかなと予想も立ててた。だが、どれだけ身構えても実物を見てしまえばそんな覚悟はその純朴な寝顔の前では霧散する。
「俺も触っていい?」
「ええよ。でも起こさんようにな」
先に動いたのは朝日だ。恐る恐る近寄り、その頬をつつく。
「温かい…………名前、決めとるん?」
「彩葉、酒寄彩葉。この子の名前や」
彩葉、その名を聞いた瞬間、俺の脳内に溢れたのはこの子が成長して大きくなるまでの
幼稚園は少し人見知りが強く、俺や朝日の後ろに引っ付いてたか。
保育園は、成長の色が見えてきた姿に良く泣いたっけな。
小学校は……中学高は…………。
「葵もそんな所に立ってへんで、触ってみ?」
ツっ、と頬を涙が一筋流れ落ちる。彩葉、なんて芳純な響きだろう。
「…………保育園の出し物は、ダンスだったか」
「……………………葵?」
母さんの腕の中で眠る彩葉を見た瞬間、胸の奥から
もはや臨界点を突破した激情を抑えられるわけもなく、俺は全力で叫んだ。
「退け!俺はお兄ちゃんだぞ!!」
俺はその日、初めて家族全員から怒られた。
*
俺、酒寄葵は前世の記憶を持っている。とは言っても前世の自分の全てが分かるわけじゃなく、こんなら人間だったな、と他人事の情報としてあるだけだ。
一体いつ死んだかとか、どんな人生送ったかとか、見当もつかないが、それでも今生きている。
「…………そろそろか」
時刻は0時。家族全員が寝静まった頃合いを見計らい、窓を開け、
今から数年前、俺は人とは違うナニカに気づいた。
キッカケはある日、我らの
赤子というのは好奇心旺盛な生き物だ。何でも触るし何でも食べる。
その日、彩葉は俺の目を盗んで台所に居た。丁度昼だったからお湯を沸かしていたんだが、あろう事か彩葉は鳴くやかんに興味を示し、触ろうとした。
触れることは無かったものの、バランスを崩しその弾みにやかんの中身がぶちまけられそうになった。
「彩葉ッ!」
それを見た俺は即座に助けようとした。このままいけば、きっと彩葉の顔に消えない傷が付く。あってはならないソレを幻視した俺は、巡る思考の中、本能的に
俺は忘れない。次の瞬間には俺と彩葉の位置が
その瞬間、俺の中で全ての歯車が噛み合った、そんな確信があった。
前世の情報にあった漫画『呪術廻戦』に出てきた術式の一つ『不義遊戯』。それが今世の俺が持つ力だったのだ。
だが、そんな事はどうでもいい。
彩葉を、妹を、家族の宝を守れたのだから。
因みに、俺は両手と顔を火傷した。
「――――ふぅーーー」
あの日から術式の鍛錬は怠っていない。人気のない山で対象の入れ替え、身体の強化。まだ先は遠い。
自分以外の呪力も呪霊も居ない世界で、何故こんな力が刻まれたのか、ずっと考えている。
何故、自分だけが『不義遊戯』を持つのか、何故、呪力を持っているのか…………何故俺が選ばれたのか。
何か理由がある筈だ。この世に理由のない施しは無い。世界が、人が、そうあれと望んだから力が与えられる。
理由を探さなければ。当面の目的は決まった。
「ただ、今は家族を……妹を守る為に使おう」
その為ならいくらだって頑張れる。時刻は丑三つ時、呪力が冴えてくる。
今日も日課が始まる。
*
「なぁ葵、一つ聞きたいことあるのやけど」
「どうした朝日」
「いや、最近彩葉にべったりやと思ってなぁ」
「変なことか?
「ん、おおきに。てか、京都弁使わへんねんな。まあ、父さんも母さんも嫌な顔せえへんからええけど。オッケ、やりー」
休日、俺は朝日と一緒にテレビゲームで遊んでいた。ゲームは朝日の得意なFPS。二人モードでオンライの敵をボコボコにしていた。
母さんは用事で外。父さんは家で俺達の遊ぶ姿を見ながら彩葉の世話をしている。
「うし、第二ラウンドと行くか?」
「おっと、やるんわ良いけどお母さんが帰ってくるまでや。昼前には戻る言うてたからそれまでな」
「母さん怖いもんな、早めに辞めとくか」
「そうやな、怒られるんは嫌や」
母さんが怒る時は結構キツイ。こう、雷の様な勢いで捲し上げるんじゃなく、ジワジワと正論のパンチで腹の底深くを殴られる様な感じだ。
何度も受けられるもんじゃない。
「ほら、彩葉も止め言うとるよ?」
「あうー」
おうふ、何という眩しさ。天使か?天使だわ。
「彩葉、おにいにおなおししてって言うてみーな?」
「…………にいに、おな……おし」
「「?!」」
今、何と言った?にいに、おなおし?にいに?おにい、お兄ちゃん!?
「彩葉ーーーーー!!!!」
「うっさ」
*
「『不義遊戯』。対象と自分を入れ替える術式で、発動条件は手を叩く事。しかし、その実態は無機物、有機物問わず、呪力が付与されていれば物を選ばない」
真夜中。いつもの場所で自らの術式を振り返る。
術式の確認。これは初めて自覚してからずっと繰り返している。別に開示の効果は無いが、自分が持つ力と、行使の責任を定着させるための自己作業。
まずは呪力の循環。俺は生憎と呪術の恵まれた才能は無い。前世の情報から原作の講義内容を反芻しても、手応えは掴めない。無意識に呪力を扱うのなんて夢のまた夢だ。
術式の使用も苦戦している。厳密には入れ替え後の肉体の操作だ。
何せ肉体は動かすにあたって視界の情報を踏まえて動く、蹴りを放つのにも視界が立つ場所、光景を捉え、そこに沿った動きをするように脳が命令を下す。
だが『不義遊戯』を使用してとなると、視界の情報はほぼ意味を成さない。
手を叩くことによる入れ替えで景色が変わる。そうなれば脳は突然の変化に戸惑い、体は数秒のラグが生まれる。
それではダメだ。
流れる様に動き、コンマ数秒のラグなく肉体を動かす。
やはり、呪術師というのはイカれてる。何度も自分がイカれてないのかを実感する。
「…………遠いな」
地面に寝そべり、夜空を見上げる。
もう何度目か分からない目指すものの遠さに苦笑してしまう。
諦める?それこそ論外だ。ゴールは遠いが、それだけ。目指すものが見えていればそれは手が届くと同義。
「よし、休憩終わり…………」
焦るな、焦りは成長を最も阻害する感情だ。基礎を積み重ねろ、変に思い詰めるな、今ある要素で最大のパフォーマンスをする、それだけを考えろ。
呪力を漲らせ、石を手に取る。
一呼吸置き、俺は全力でソレを投げる。夜の空気を裂きながら俊速で飛ぶ石を視界に、俺を手を叩いた。
「寝返りうった時にぶつけたって、ホンマか?」
「うっせ」
翌朝、『不義遊戯』のミスで出来たたんこぶに家族が心配そうな顔して見に来たが、何とか誤魔化した。
京都弁ってこんなんだった?分からん。
早くかぐややヤチヨ出したいなー。