あ、今回はかなり自己解釈があります。賛否分かれると思います。
気づいたらお気に入りが90を超えてーら。ありがとうございます。
「父さん、彩葉と何やってんの?」
「彩葉が曲一緒に作りたいって言うとって、二人で作ってるんや」
「へー、
「えへへ、内緒やー」
「――――カフッ!」
「あ、葵が倒れた。母さん、葵持つの手伝うてくれへん?」
「ええよ、全く」
これはなんて事の無い日常。彩葉が生まれて数年が経った時のこと。
父さんの膝に乗って二人で楽しそうに曲を作っている。彩葉は時々鼻歌を歌いながら頭の中の曲を鍵盤へ乗せている。父さんはそんな彩葉を微笑ましく見守っている。
――――最近、父さんの体調が良くない。赤みがかった頬は少しやつれ、目元も隈が出来ている。
アーティスト業をしている父さんは、もう前から仕事で家を空けることは無くなった。
何というか、死期を悟った者がありきたりな日々を最期に目に焼き付けようとしているような。
いや、そんな事はない。父さんの不調は母さんが誰よりも早く察知する。
気づかない、なんて事はそれこそあり得ない。きっと、直ぐに治る。
「父さん」
「なんや?葵」
「曲が完成したら、歌ってくれよ。もちろん、歌を歌うのは彩葉で」
「ほんま!?私頑張って歌わな、約束!」
「なら張り切って作らななぁ。約束したさかい」
更に張り切る彩葉の姿を俺達は宝物を見るような目で見守る。彩葉は頭が良い。というよりかは飲み込みとその出力が天才的だ。
直ぐにでも出来上がるだろう。
「近いうちにパーティーの準備をしないとな」
「何を言うとんの?」
「母さん。葵はこんなもんや、慣れへんと」
あぁ、何て幸せ何だろう。
*
2020年、某月某日。酒寄朝久、3X歳という若さで逝去。
家の中の雰囲気が、いつもより何倍も重く、暗く感じられた。
当たり前だ、いつも家に帰れば春の柔らかな日差しの様に温かい笑顔で迎えに来る父が居ないのだから。
母さんは葬式が終わってからも気丈に振る舞い、その生き方に陰りは見せてない。でもふとした時に見せる揺らぎは隠せない。
朝日は父さんの死を受けとける力はあった。けれど前までの気さくさは無くなったように思える。一人でいる事も増えた。
彩葉は、葬式の日から隠れて泣いている。無理もない、情緒の成長には早く、誰かの死を受け止める基盤が出来てない時に身近な、しかも父親が亡くなったのだ。
頭が理解しても、心までは誤魔化しきれていなかった。
父さんの存在の大きさを再確認させられる。
何で気づかなかった。前から違和感はあった、俺はその違和感の正体に気づくべきだったのだ。それをかもしれないの心で誤魔化して口を閉じた。
………………俺が殺したも同然だ。
*
「なあ、葵」
「なんだ?」
「俺、近いうちに上京する」
帰り道、朝日が隣でそんなことを言い始めた。
「いきなり何だよ」
「やりたい事が出来た」
「それは…………ゲームか?」
「まあ、そうやけど。母さんが許してくれるかは分からん。でも、譲れへん」
その目は既に覚悟を決めた目をしていた。何を言っても揺らぐ事の無い瞳。
そろそろ高校卒業も間近、朝日の進路は決まったのだろう。
実際、朝日の腕は既にプロ並みかそれ以上。幾度か大会にも出て実績もある。それに何組かの会社から声が掛かってるらしい。それ一本で食ってくと言われても違和感がない。
「彩葉はどうする?」
「分かってる。無責任な事をお願いする、俺が居なくなった後は頼んだわ」
「…………無茶を言うな」
俺は、どうすれば良いのだろうか。将来を考えても、やりたい事が見えてこない。
家族を守る。その約束は既に果たせていない。もし、『不義遊戯』の能力で父さんの病を他の何かと入れ替え出来たのなら、何てもしもをずっと考えている。
術式の解釈を広げろ。そんな言葉を思い出した。広く、自由に考えればもっとやれた筈だ。
いや、そんなものは全て言い訳に過ぎない。
俺はどこかで満足していたんだ。人が普通に生きているだけでは決して手に入らない力が。呪力という力と術式という異能にどこか浮かれていた。
少し力を入れれば人の何倍もの速度で、力で動ける。何だって出来るんだと
昔は素晴らしく思えたこの力が、今は人の命を吸い取る呪いの様に感じられる。
最近は、もう術式の鍛錬はやっていない。
父親も守れない奴が家族を守ると良く言えたものだ。
「葵は進路どうするん?」
「俺は…………この近くの大学にでも通うよ。朝日みたいにゲーム上手くないし、彩葉のような頭の良さもないからな。母さんは…………色々言うだろうな」
父さんが亡くなってから母さんは今まで一人の力で俺達を育てた。父さんと出会う前に似た様な事をしていた母さんからすればこんな事はなんて事ないと言っていたが、どうにもそれを周りに求める節がある。
前にも、彩葉がピアノのコンテストで二位だった時、なぜ一位を取れなかったのかしきりに問い詰めていた。
俺と朝日が何とか母さんを落ち着かせたが、日に日にその勢いは強くなってる。
「反対するだろうな」
「その程度の壁を越えられへん限り先はあらへん」
「言い切ったな。ならやってみせてくれ。その先を」
俺と朝日はそっと拳をぶつける。こいつは強い。きっと直ぐにでも有名になる。余計な心配は要らない。
なら…………俺は。朝日は変わった。父さんが亡くなって、変わった家族の中でそれでも夢を諦めなかった。
俺はこのまま燻るのか?
朝日は言った。妹を頼むと、俺に託したのだ。
もう一度自分の原点を振り返ろう。まだ自分のやりたい事とか、前までの自信とかはないけど、それでも今やるべき事は見えてきた、そんな気がする。
「朝日」
「何?葵」
「俺も、頑張るわ。もう一度やりたい事探してみる」
「…………期待しとる」
そして、1ヶ月後。朝日は東京へ行った。
*
あれから月日は流れ、彩葉は中学を卒業。母さんとのごちゃつきを経て、まさかの一人で東京の高校へ行くと決意。
正直、彩葉の成長振りが激しい。
「本当に忘れ物ないか?」
「大丈夫だから、これで5回目だよ?お父さんか」
「お兄ちゃんだ」
既に引越しの準備を終えた彩葉は今は俺と二人で駅の待合室に居る。後数分もすれば電車が来て、それに乗って東京へ行く。
「長かったな……いや、あっという間か?」
「まあ、色々あったもんね」
朝日が家を出た後、彩葉と母さんのぶつかり合いを宥めたり、母さんと口喧嘩したり、全力でお兄ちゃんを遂行したり。
「彩葉が母さんに啖呵切った時は驚いたな」
「いや、あれは…………その、若気の至りと言いますか」
「本音を言えばスッとした。俺もまだまだだな…………そろそろか」
席を立ち改札口へと向かう。前を歩く彩葉の背中を見ていると、目頭が熱くなる。大きくなったものだ。
「ちょっと…………泣いてるの?」
「す"ま"ん"……………………なんか、今までの事を思い返したら、涙が…………!」
「周りの目が怖いから押さえて、押さえて……!」
感極まる俺に彩葉はクスリ、と笑う。
心の想いを叫びたい所だがそこはグッと堪える。
ポツリ、彩葉が呟く。
「…………ありがと。ずっと助けてくれて」
「彩葉…………」
「辛い時、一緒にいてくれた。それだけで嬉しかったから」
だから、ありがとう。そう言って改札口を通る。
朝日も、彩葉も家を出て、行きたい道を行こうとしてる。それが本音か、それとも意地か。なんであれ、その意思は強さだ。
その姿に、その心に…………俺はどう報いる。
「彩葉…………ありがとう。俺こそ、充分助けられた」
その声に彩葉は振り返る。まさかそんな事言われるとは思ってなかったらしく、すこし照れている。
「ずるいわ、そないなら急に言うなんて。今まで言うてこーひんかったやん」
「俺はお兄ちゃんだからな。カッコつけたいんだよ。まあ、なんだ…………偶には顔見せに行くさ」
俺は一歩改札口から下がる。ここから先は俺が立ち入る所じゃない。彩葉の未来だ。
「彩葉!」
最後に贈る言葉は決まってる。
「楽しんでこい」
「…………うん!」
そう言って彩葉は電車に乗り込む。扉が閉まり電車が動き出す。その姿が見えなくなるまで俺は見続ける。
「…………強くなったな」
まだ微かに残る熱に浸りながら駅を出る。
いつの間にか追い越されてしまった。俺は置いてけぼりでいいのか?
「そんな筈がないだろう。俺はお兄ちゃんだ。誰よりも前を歩かなきゃいけない」
自らの原点。それは家族を守る、ただそれだけ。もう一度やってみよう。
一度は間違えた。なら今度はそうならない様にしよう。
今一度お兄ちゃんとして、強くなる。俺は誓いを立て、帰路に着くのだった。
*
2030年7月。
『お兄ちゃん、突然の電話ごめん!…………笑わないんでほしいんだけど………………七色に光る電柱から赤ちゃんが出てきたって言われて…………信じる?』
――――――――はい?
退屈が裏返る。そんな予感がした。
過去編はグダグダしたら駄目だと思いつつも、そこはちゃんと書きたかった。結果としてこんな端折りをしてしまった。
駄目な俺を許してくれ、下さい!