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パァン!と設けられた空間に木霊する。
音の出は一人の男からであった。
長い髪を一つに束ね、黒の和服に身を包み、腰を深く沈め構えている。
対する者は身の丈以上もある大太刀を持ち、まるで先ほどの現象が何か困惑している様子だ。
「それスキルか何かかよ。それとも職の固有か!」
「…………どうかな」
「調子乗りやがって!」
忌々しげに吐き捨てながら男は大太刀を振り下ろす。
対する男は未だ武器を出さず、というよりも武器らしきものが無い。
だがその目には微塵も恐怖は無い、どころか振り下ろされるのを待っている期待がその目にあった。
パァン!再度音が鳴った。
「…………姿が!」
「こっちだ」
いつの間にか、目の前に居た男は背後へと移動…………いや、
ゲーマーとしての意地か、それとも負けん気が起こした超反応か、男はそれに気づき振り返る。
しかし、男は既に動きを終えていた。振り返った男の眼前には岩の様に硬い拳が、その顔へ向かっている。
防ぐことも、避けることも間に合わない。
敗北。その2文字が脳裏に浮かび上がる。
「ゴッハァ!!」
殴り飛ばされた男は一直線に吹っ飛び場外へ落ちる。
K.Oの文字が空へ浮かび上がり、光が男の周りを漂う。
「…………少しは楽しめたかな」
そう言って男は場を後にした。
ツクヨミ。それは老若男女問わず遊べるVR空間。管理人のAIライバー『月見ヤチヨ』が経営、運営するそこはミラーボールの月が光り輝き、見るもの全てを圧倒させる天守閣が聳え立ち、いつだってプレイヤーが笑い、踊る世界。
「迷った」
だがそんな常夜のサイバー平安京とも呼べる街で件の男はその余りの街並みに立ち往生していた。
男の名は酒寄葵と言う。気の知れた兄弟を持ち、下には目に入れても痛く無い、なんなら見なくてもそのシスターオーラで浄化されるほど(葵フィルター付き)の妹を持つ普通…………?な大学生。
つい最近。プロになった朝日からこのツクヨミの事を聞かされ、一緒にやろうと半ば強引に連れてこられた。
「朝日は一体いつ来るんだ」
ツクヨミに入って早二週間目。余り一人で彷徨く気も無く、他にも設けられた戦闘ゲーム『SENGOKU』の一対一のモード『SETSUNA』もっぱらそこに入り浸っている。
妹の彩葉が家を出てから、もう一度自分を鍛えようと『不義遊戯』を使った鍛錬を行いながら、呪力をゲーム空間で纏いながら術式を使うと言う新しい特訓の練習に使っている。
とは言え『不義遊戯』は余程のことがない限り使わず、万が一使ったところでそれはスキルの効果と言っておいてある。
無限の遊びがあるツクヨミだ。『不義遊戯』に似たスキルの一つや二つあるだろう。
因みにリアルで行う鍛錬による肉体の追従性と呪力で強化した動体視力、そして『不義遊戯』にボコボコにされたプレイヤーの中にはプロ、もしくはアマチュア上位の者も居たらしく、プレイヤーネーム『アオイ』には注意しろとの警句が流れている。しかしそんなことは葵は知る由も無い。
さて、良くも悪くも馴染んできた葵は今ツクヨミの一角で朝日を待っている。
プロとして忙しい日々を過ごす朝日だが、今日は休みが取れたらしく二人で久しぶりに兄弟水入らずでツクヨミを歩こうと誘われたからわざわざ人目の無い所に来たのだ、そろそろ来ないものかと待ちぼうけしていると。
「よっ、待ったか?」
「待ってないさ。初々しいカップルか」
「はは、何か『SETSUNA』で暴れてるらしいじゃん。楽しんでるようで良かった。お兄ちゃんも嬉しいわー」
「朝日は兄らしい事全くしてないだろう。あと、お兄ちゃんは俺だ」
「結構気にしてる事言うなよ…………あと本名はやめてくれ。ツクヨミでは帝アキラって呼んでくれ」
朝日、いや帝アキラはリアルとは違い、彩やかな赤に髪を染め、2本の角が生えている。まるで赤鬼だ。
「そろそろ行こうぜ」
話もそろそろに、アキラは手招きする真似をする。そこはかとなくその顔は何か悪ガキがよからぬ事を考えてる意地悪な表情をしている。
嫌な予感がする。そんな確信にも似た予感が葵の胸中に込み上げる。
「因みに、どこに?」
絶対碌な事にならない。恐る恐る聞けば更にその悪戯な笑みを深くし一言。
「『SETSUNA』」
*
私には二人の兄がいる。一人はいつもゲームばかりしていてよく私に意地悪してきた。でも、困ったときは必ず前に出て守ってくれた、素直に言えないけど頼もしいお兄ちゃんだ。
もう一人は…………何て言おうか、上の兄と比べて一言で言うにはこと足りないと言うか。一言で言うなら変態…………だろうか。
いや、誤解ないようにしたいけどもう一人の兄、葵は朝日とはまた違う熱がある。小さい頃からそばに居てもう一人のお父さんの役割をしていた。
様子がおかしい時を除けば、手放しで尊敬できる兄だ。
とまあ長々と語った訳だが、何故突然お兄ちゃんの話をしたのか、それにはちゃんと理由がある。
「――――スー…………葵、一言聞いていい?」
「何だ?」
「……………………何で私の家に居んの!?てか何で私の家の住所知ってんのー!?」
「俺はお兄ちゃんだからだ!」
「彩葉ー、この人誰ー?」
理由になってない!あとあんたちょっと黙ってて!
時刻は2時。部屋には私と私の服を勝手に来た燻んだ金髪の子供、そして買い物袋を持った葵が。
事の発端は隣で我が物顔でオムライスを頬張る子供だった。
分かりやすく説明するならバイトから帰ってきたら家の前のもと七色に光るゲーミング電柱から赤ちゃんが現れて数日もせずに成長して中学生位までに成長した。
やばい、自分でも言ってて馬鹿みたいに思えてきた。
「真面目に答えて、葵なんで家に来たの?」
「何でって言われても………………兄の勘としか。で、隣の子は」
「あーーー」
そうだ、まだこの子の名前知らないんだ。
「君、名前は?」
「名前…………?」
「あっ!えーーっと…………!」
名前、名前…………!この子は月から来たって言ってたよなぁ、月…………あ、そうだ!
「かぐや!この子はかぐや!…………ね!?」
「月からやって来たのか、成程なぁ」
「そっ!月って退屈だから逃げ出して来ちゃった!」
「おぉい!」
気がつけば月から来た女の子、かぐやは葵にベラベラと素性を明かしていた。
これには葵も変なものを見るような目で…………いや、なんか同類を見たような目で見てる。
「彩葉、念の為と思って色々飯を買って来た。食うか?」
「えっ!いや、申し訳ないy「何!食べる食べる!」ちょっ!?」
どさりと買い物袋を机に置いた葵。中身を見れば野菜や肉類、コンビニ弁当までも入っている。これだけで3ヶ月は持つんじゃないかな。
かぐやはかぐやでこれは何?これは何?と仕切りに葵に質問している。
「食べるか?余り食えてないんだろ」
そう言って差し出されるコンビニ弁当。既にレンチンされて温かい。
グ〜、と私のお腹が鳴る。夜食は軒並みかぐやが食べてしまって無い、目の前に置かれた弁当はそれこそ天からの恵みそのもの、食べたい欲求と一人で生きていくと決めた私のプライドのせめぎ合いの末、私が出した結論は。
「………………食べます」
やっぱり、空腹には勝てなかったよ。
*
朝、妙な重さもなく私は起きる。辺りを見渡せば、散らかり一つもないいつもの部屋がある。
かぐやが居たとは思えないくらいに。
まさかと思いかぐやが隠れてそうな所を一通り探す。
風呂場、無し。ベランダ、無し。押入れ、無し。
「…………居ない。もしかすると、今までのは疲れから来た幻覚かもしれん…………っし!」
「――――居るよーー」
「因みに俺も居る」
居るのかー…………。
因みに葵は『不義遊戯』使って夜通しぶっ続けで彩葉の家に行きました。
え?プライバシー?………知らない子ですね。