膝を抱えて泣く、いつかの小さなわたしへ   作:しらなぎ

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 床板の下には石造りの階段があった。女性の後を追いランプのついた階段を下りると、白い石で出来た広い空間が一味の目の前に広がっていた。

 冷たい石でできているとは思えないほど、あたたかで、生活感のある居心地の良さそうな部屋だ。飴色の大きな木のテーブルと猫足のチェア、壁にはオレンジ色のランプが垂れ下がっていて、部屋中に観葉植物や花々の植木鉢が所狭しと置いてある。

 

「地下室……!」

「うおおーーッ! スゲェ〜〜〜ッ!!」

 ルフィがワクワクと輝いた目で部屋を見渡し、一味は感嘆とも感心ともつかない吐息を漏らした。

「なるほど、地下で暮らしているのね……! もしかして、この島の人たちみんな?」

「ええ。春嵐は人の手では太刀打ちできない災害よ。だから、石と土で守られた地下で生活しているの」

「でも、外には崩れた家屋がいくつもあったけれど……」

「こんなに綺麗な街なのに、ずっと地面の下で生活するのはもったいないでしょう? だから春嵐のあとはひと月ほどで街を上げて復興して、お店や屋台で普段は交流するのよ。そして、安心する地下の寝床でぐっすりねむるの」

「へぇ〜。これも生活の知恵ってやつよね」

「どうぞ、椅子にかけて」

 

 ふたつしかなかったが、部屋の隅にあった椅子をみっつ持ってきて、女性は部屋から見えるキッチンに向かった。コトコトと鍋の音が橙に照らされる空間にひびく。

「レディ、お名前をお伺いしても……」

「ロザリー、誰が来てんの?」

 目をハートにさせたサンジが言い切る前に、リビングのドアがあいて少年が顔を出した。明るい茶髪の少年は、4人を見て少し鋭い目付きを丸くすると、すぐに不信感を浮かべた。

「……こいつら、誰?」

「さぁ。さっき、上にいたからご招待したの」

「はァ!? またよく分かんねェやつらにホイホイ優しくして……だから変な奴に好かれるんだろ!」

「あなたとか?」

「……」

 むっつりと黙り込んだ少年に女性はクスクス笑い、木のトレーにティーカップを載せて、一人一人に並べた。

 

「紅茶でも良かったかしら」

「ええ、ありがと」

「こんな美女に手ずからお茶を淹れてもらえるなんて、おれァなんて幸せものなんだ……♡」

「助かる、おれたち腹減って死にそうなんだ」

 ルフィは一気に口に淹れて、ケプッと息を吐いた。それでも足りなさそうに腹を撫でている。当然だ、もう何日も飯を食っていない。

 

「何のんきに茶なんて出してるんだよ!」

 和やかな空気を唖然と見ていた茶髪の少年が、ハッと思い出したように喚いた。

「こんな時期に島にいる外の奴なんかロクな奴らじゃねえだろ! お前ら誰なんだよ?」

「私たちはただちょっと食料を売っていないか確認に……」

「おれはモンキー・D・ルフィ! 海賊王になる男だ!」

「ギャーーッ! なんでそう全部言うのよバカ!」

 正直がルフィのいいところだ。ナミは頭をひっぱたきスパァン!と小気味よく音が鳴った。

 

「カイゾクオウ……? 海賊王?! お前海賊なのか!?」

「ああ!」

「バカじゃねえの! 今この島に略奪する物なんかねえよ! バーカ! 今に海軍がやってくるからな! あっオイ、ロザリーから離れろ!」

 

 紅茶を絶賛して女性を口説こうとしていたサンジを追い払って、毛を逆立てた猫のように威嚇する少年に、サンジは鬱陶しそうに眉をひそめ、ルフィはのけぞって笑った。

「元気なヤツだなー」

「あんた話聞いてた? 海軍に通報されそうになってるのよ、あんたのせいで」

「えェ!? 困る!」

「そうよ困るの!」

「少し黙ってて! あの、略奪なんてするつもりありません。でも春嵐に巻き込まれて食料も底を尽きてしまい……。もちろんこの街も復興が必要でしょうからたくさんとは言いません。ただ、少しだけでも売ってもらえたら……」

「……」

 ビビの海賊とは思えない、下手からの、どことなく上品な物言いに女性と少年は顔を見合わせた。

「何日食べていないの?」

「4日ほど……」

「まぁ。食料はどれくらい必要かしら?」

「ロザリー!」

 

 少年が目を剥いて咎めた。

「海賊なんかの言うことがどれだけ信用できるかよ!」

「あなたは海を渡ったことがないから言えるのよ。あの大海原で何も食べられない苦しさときたら…。それに、ここで断ったら略奪の理由をわたし達が与えることになる」

「略奪なんかしないわ!」

「そう信じたいわね」

 

 柔らかい物言いにナミは黙った。無害そうだったが、意外としたたかな女性らしい。

「ロザリーちゃんと言うのかい? 看板と同じ名前だ」

「ええ。花屋を営んでいるわ。この子は店員のリュカ」

「フン」

「船には何人乗っているの?」

「メシ分けてくれんのか?」

「ええ。だからこの島で何も奪わないでちょうだいね」

「当ったりめェだ! お前いいやつだな、ありがとう!」

「ふふ。少年みたいな海賊さんね」

 

 少し待っていて、と奥に食料を取りにいったロザリーの背中を見送る。サンジは「なんて心が広い優しいレディなんだ〜♡ じっくりお礼をさせてもらいたいぜ…♡」とメロリンしているが、ナミは少し怪訝そうだ。

「タダで分けてくれるなんて、話が上手すぎるわ」

「なんだよー、くれるってんだからいいだろ?」

「そんなにたくさんはいただけないでしょうけど、何か食べられるだけずっと助かるわ」

「うちの船にゃ大食らいが多いからな……。おいルフィ! もうぜってェつまみ食いすんじゃねェぞ」

「分かってるよ」

 

 ナミは部屋の隅でカイゾクたちをジトジト睨む少年に「ねえ!」と声をかけた。少年は大げさにビクッと肩を揺らし、それに自分を恥じるように強がる顔をして「なんだよ」と吐き捨てた。

 ハリネズミみたいに丸まってるのに、それでも返事をするリチギさにナミは小さく笑う。

「こっちに来て色々教えて。えーっと、リュカだっけ?」

「気安く呼ぶな」

 だが、いそいそと寄ってくる。グレきれない、ちょっと目つきが悪いだけの、育ちが良い少年だ。

「さっき海軍が来るって言ってたでしょ? 常駐してるの?」

「そうだよ。それに半日も船を出せば海軍の基地があるんだ。海賊なんかすぐにお縄だからな」

「ウゲッ基地が近いのか…」

「ここはリゾートだもの。お金持ちも集まるわ。前泊まった時は護衛が物々しかった気がする…」

「来たことあんの?」

「小さい頃だけどね。とっても大きい大木の下に潜る、秘密基地みたいなホテルで…」

「えっ、あれ泊まったのか!?」

「え、ええ…」

 リュカはビビをマジマジと穴が空くほど眺めた。居心地悪さに気まずげな顔をしたビビに気付き、サンジがスっ叩く。

「いでぇ! てめェ何すんだよ!」

「レディをジロジロ不躾に見んじゃねェや」

 マッタクお前が言うなという言葉であったが、少年は拗ねながらも、「悪ィ」と小さく謝った。ビビはそれが可愛くてクスクス笑った。

 本当に気のいい少年のようだ。

 

「そのホテルはさ、この島1番の高級ホテルだよ。王族だって泊まりに来るくらいで、海軍がいつも目を光らせてる。海賊じゃぜってェ泊まれないさ。だからンなとこに泊まれる女が、なんで海賊なんてやってんのかと思ってさ…」

「そ、それはまぁ……うふふふ」

「人には色々あるのよ、色々」

 胡乱な目に笑って誤魔化していると、ちょうどよくロザリーが戻ってきた。

 

「1週間ほどかかるんでしょう? これで足りるかしら」

 ロザリーはドサドサッと大きな麻袋をみっつ床に置いた。サンジの腰あたりまである巨大な大袋だ。口が開いてゴロゴロと野菜が転がり落ちた。

「ウオーッ、こんなにいいのか!?」

「こんなにやったら俺たちの食う分がなくなっちゃうよ!」

「まだあるわ」

 さらにロザリーは麻袋をまたみっつ持ってきて、リュカは呆然と口を開けた。それにはたっぷりと果実が入っていた。

 ルフィたちは諸手を上げ、目を輝かせて袋をあさっている。

「どこからこんなに……。倉庫にこんなになかっただろ?」

「ふふ」

 ロザリーはニコニコ笑っているばかりで、答えない。

「「どうしてこんなに……」」

 リュカとナミの呟きが被る。

「…ありがたいけど、私達何もお礼なんか渡せない。どうしてこんなにくれるのよ?」

「気にしないで。この島に何もしないでほしいだけよ。ここは素敵な場所だもの」

「もちろん何もしないけど…本当にお礼はいらないわけ?」

「ええ」

 ずっと微笑んでいるロザリー。ナミは袋を見つめた。毒でも入っているのか……。でも厨房を握るサンジは、「助かるぜロザリーちゅわ〜ん♡ きみはまるで女神だ…♡」と身体をくねらせながらも、目は冷静に袋を検分している。

「…本当にありがとう、ロザリーちゃん。どれも新鮮で美味そうだ。採れたてみてェに」

「いいのよ」

「早くあいつらに持って帰ってやりてェなー!」

「いい船長さんなのね」

「あいつらがいい仲間なんだ!」

 

 ナミはサンジにそっと近付き、小声でたずねた。

「大丈夫なの?」

「! …ああナミさん。どれも美味くて長持ちするのばっかりだよ。調理に毒抜きが必要なのもない。こんだけあればアラバスタまでじゅうぶん持つ」

「そう……」

 サンジが言うならたしかなんだろう。

 本当に善意で分けてくれたのかもしれない。分けるというにも、豪勢で、まるごとくれてやると言わんばかりの破格の量だが…。

「あんた達の分は残ってるの?」

「もちろんよ。わたし達が飢えることはないから安心して。……ふふ、優しいのね」

 ペースを崩され、ナミは思わず顔をしかめた。

 

 麻袋を持って階段を上がる。ひとつだけでも肩が外れるほどズシッと重かった。

「ありがとな、ロザリー! リュカ!」

「早く船を出した方がいいわ。春嵐は今日で終わりなの。明日にはもう、避難していた海軍が戻ってくると思う」

「何から何まで本当にありがとう!」

「ロザリーちゃん! この恩はいつか必ず……!」

「あんたいいやつね、ロザリー。リュカも、この子を守ってあげなさいね」

「あんたに言われるまでもねぇよ! さっさと帰れよ!」

「あはは!」

 

 手を振る4人を、リュカは物言いたげに眺めていた。隣のロザリーを盗み見る。1年以上この人と一緒にいるけど、何を考えているかずっとよく分からない。

 ただ、ロザリーはリュカを助けてくれた。受け入れてくれた。

 

「なァ、なんで助けてやったんだよ」

「悪い人じゃなさそうだし、飢えるのはつらいものよ」

「そうじゃねェよ! それだけであんなに親切にするほど、あんたはただ親切な人間じゃないだろ!」

「あら、ひどい子ねぇ。わたしは優しいわよ。知らなかった?」

「誤魔化すなよ!」

 噛み付くリュカに、ロザリーは苦笑して肩を竦めた。そして、なぜかリュカの方が怒られ始めた。

 

「それよりリュカ。海賊にあんな物言いしちゃダメよ」

「なんだよ! だってあいつら、いつも島に来て食べ物とか、客どもの荷物とか荒らしていくじゃねェか!」

「そうよ。海賊には荒くれ者が多い。あの人たちがたまたま子供を笑って許す寛容さがあっただけで、普通なら殺されてもおかしくない」

「殺すって……」

「殺すわ。海賊は怖いの」

「……でもあんたは怖がってなかった」

「気がいい人だと思ったからよ。危険を見抜けないあなたは、同じ真似をしちゃダメ」

「なんだよ、ガキ扱いしてさ! それに俺だって分かってた! あいつら笑ってたし、うるさくて、弱そうだったしさ。なんかあったら俺が海軍呼べばいいと思ってたし…」

「……弱そうに見えた?」

「え? うん」

「バカね…」

 小さくため息をつかれ、なんだかバツが悪くなる。ちょっとムキになって「弱そうだろ! 俺よりは強いかもしれないけど……」と拗ねた声音で言った。

 

「麦わらのルフィ。懸賞金3000万ベリーよ」

「さんぜんっ!?」

 リュカは顎が外れそうなほど口を開けた。絶句し、混乱し、パクパク開け閉めする。

「知ってたの?」

「もちろん」

「だから黙って分けてやったのか?」

「そうよ」

「……ウソだね!」

「嘘じゃないわ。手配書もある。あの人たちは本当に……」

「ちげェよ!」

 リュカはロザリーを睨んだ。

「それだけが理由じゃないだろ。毎日一緒にいるんだから、それくらい俺だって分かるよ!」

「リュカ…」

「あいつらになんであんなにしてやるんだよ。あいつらに何を見たんだよ! 秘密主義もいい加減にしてくれよ!」

 

 ガキみたいに癇癪を起こして、ギロッと誠実な目でリュカが睨む。躊躇いがちな沈黙が続いた。ロザリーは何度か唇を舐めた。

 メガネの奥の大きな桃色の目が伏せられ、金の睫毛が顔に影を作った。

 

「そうね……。"D"の名を持つから」

「……でぃー?」

 リュカは聞き返した。

 多分、滅多に出さない本心だったはずなのに、それをリュカには理解できなかった。でぃーってなんだ? 何を持つって? けれどもうロザリーは繰り返さず、儚げな淡い微笑みを浮かべた。

「両親を…思い出したの」

「分かった」

 

 それを聞いて、リュカは弾丸のように走り出した。

 理解はできなかったけど、それだけ聞いたならリュカが動く理由になった。

「えっ? リュカ?」

 

 驚いた声を置いて、リュカは海賊たちを追いかける。

 ロザリーはリュカの夢を叶えてくれたから、ロザリーにも自分の夢を叶えてほしかった。

 

*

 

「おーい! 待てよあんたら! 待てったら!」

 

 背中から聞こえてくる声に振り返ると、リュカが追いかけてきていた。驚いて足を止めると、ゼェゼェと息を切らせてリュカが「やっと追いついた…」と肩を上下する。

「どうしたんだ?」

「あんたら海賊なんだろ」

 当たり前のようにリュカは並び、歩き始めた。4人も戸惑いながら船に向かい始める。

「船を見せてほしいんだ。あんたらの仲間も」

「おう、いいぞ!」

 ルフィはにししっと破顔し即答した。ナミは咄嗟に叱りたくなったが、口を閉じる。早く出航するべきだけど、これだけしてもらって少年の小さな願いを叶えてやらないというのも狭量だ。

 何度も「海賊なんか」と言っていたが、ほんとうは興味があったのかもしれない。

 それに、どっちにしろまだ風は荒れている。数時間も経てば落ち着くはずだから、出航はそれに合わせた方が安全だろう。

 

「帰ったぞーー!」

「ルフィ! 食料は売ってもらえたか?」

 

 初めて間近で見る海賊船は、押しつぶすように巨大に感じた。海賊旗も初めてだ。強風の中でドンとはためいていて、心臓がドキドキするのを感じた。

 近づいてみると、船の色んなところがツギハギされているのが分かって、旅の過酷さや、乗り越えてきたものが伝わってくるような感覚がして、13歳の少年は圧倒される。

 

「エエーーッ! こんなにか!? スゲエーーッ」

「へぇ、こんだけありゃメシには困らなそうだ」

「サンジーッ、メシーッ」

「うっせェな、さっさとキッチンに運べ!」

「!? なんだこれスゲェ美味ェぞ!?」

「ウソップ! 勝手に食ってんじゃ…いや、果物を2、3個腹に入れておけ。水分が多い…あァこれなんかいいな。ナミすわぁん、ビビちゅわぁん、これどうぞ♡ いきなりたくさん食うと腹がいたくなっちまうから」

「ありがと」

 

 デッキでワイワイ騒ぐ声に少年は、船の下でドギマギしていた。

「リュカー! 何してんだ? 早く昇って来いよ!」

 上から手を振られ、頬を赤くして怒鳴る。

「うるさい、船を見てんだよ!」

 

「なんだあのガキ」

 ゾロがたずねた。チョッパーやウソップも物珍しげに見下ろした。

「食料を譲ってくれたお店の子よ」

 ナミやビビが敬意を説明すると、チョッパーは「なんていいやつなんだ……!」と感動し、ウソップも「運が良かったなァ!」と笑ったが、ゾロだけは「良い奴、ねぇ」と胡乱につぶやいた。

「あのガキは海賊に興味があるだけなのか?」

「さァ。でもどっちにしろまだ船は出せないわ。風は多少弱まってきてるけど…」

「サンジのメシを食わせてやろうぜ」

「宴だァ!」

「宴なんかするヒマないわよ! 海軍がいるんだから」

「ええ〜っ」

「でも、ご飯を食べて行ってもらうくらいの時間はあるわね」

「! にししっ」

 

 ルフィはいつまで経っても二の足を踏んで上がってこない少年に、ズイッと腕を伸ばして巻き付けると、船に持ち上げた。バビュンと風が少年の頬を叩く。

「っ!? え、うわああああ!!」

「お前サンジのメシ食ってけ! あいつの料理はすげー美味ェからよ」

「おま、おまっ、うでっ……」

「お? ああ、これか? おれゴム人間なんだ」

「ゴ、ゴム人間ッ?」

「なんだよ、悪魔の実の能力者を見るのは初めてか?」

「悪魔の実……」

 長っ鼻の男が気さくに話しかけた。ルフィのビロビロ伸びる腕に腰を抜かしかけていたリュカは、悪魔の実でなるほど、と安堵の息を吐く。

 聞いたことはあった。

 能力者は初めて見る。本当だったのか…。

「おれはウソップ。ルフィはゴムゴムの実を食べたから全身がゴムみてェに伸びるんだ」

 悪魔の実は母なる海に嫌われる代わりに超越的な力を得るという、伝説めいた果実だ。リュカだってそれが本当にあるとは思っていなかった。

 当の本人は、ビビに「子供を乱暴に扱って!」と叱られている。

 

「ごめんなさいねリュカくん、大丈夫だった?」

「平気だよ」

 かがんでビビに撫でられ、顔を赤くしてその手を払いのける。リュカだって男だ。ロザリーといい、ビビといい、子供をあやすような態度ばっかりとるけど、そんなに臆病だと思われるなんて心外だ。

「それで……」

 ムスッとしたまま、不機嫌そうに言った。

「それで3000万ベリーも懸賞金がかけられてるんだな」

「お? 知ってたのか?」

「ロザリーが言ってた」

「ふぅん……」

 ナミは目を細めた。だから快く分けてくれたのだろうか?

「知ってるのに、よく海賊の船に来させたわね」

「黙って来たんだよ。なんか叫んでたけどムシして来た」

「まぁっ! きっと心配してるわよ。そんなに海賊船を見たかったの?」

「ちげェよ。あんたらを見極めに来たんだ」

 ゾロが眉毛をピクッとした。

「へぇ…威勢のいいやつだな。おれ達の何を見極めるって?」

「……!」

 極悪面に上からニヤッと凄まれ、リュカはガタガタ増えたが、それでも「フンッ」と顔を背けた。

「俺みたいな一般人のガキを怖がらせて楽しいかよ!」

「ハッ」ゾロは思わず嘲笑とも、呆れともつかない笑いを零した。

「メシ食ってさっさと帰れよ」

 片腕を上げて引っ込んだゾロに、リュカはやっと肩の強ばりをほどいた。

「なんだあいつコエーーッ……。あいつが船長じゃねェのか?」

「ゾロはおっかねえからなー。お前よく泣かなかったよ。あいつは元海賊狩りで有名なんだ」

「海賊狩り……」

 ウソップの言葉にふーん、と背中を見る。海賊狩りまで仲間に引き入れる海賊団……。

 

「オーイ、メシだぞ野郎共!」

「ウオーーーッ!!」

「「キャーーッ」」

 

 サンジの声が聞こえた瞬間、雄叫びを上げて船員たちが中に走り去っていった。

 ポツンと置いていかれたリュカは、呆気に取られて風に吹かれた。どうにもペースを狂わせられる連中だった。でも、やっぱり、気のいいやつらかもしれないと思った。

 

 船の中におそるおそる入り、ドンチャン騒ぎが聞こえる方に行くと、キッチンのそばの広いスペースで、テーブルを囲んでルフィたちがケモノのようにメシをかっくらっていた。

 食事を取るというか、まるで戦争みたいだ。

 怒声と怒号が響き、ガシャガシャガチャガチャうるさい。

 ロザリーと2人での食事は静かだし、ロザリーは綺麗にご飯を食べるから自然とリュカもそうなって行った。

 

 気圧されたリュカだが、ルフィに呼ばれて隣に腰掛ける。

「こっち座れよ! ほら!」

「あ、ああ」

 大皿にルフィがテキトーにぐちゃっと置いた。けど、美味そうだった。

「……!」

 一口食べてリュカは目を見開いた。うれしそうに「にししっ! なっ、美味ェだろ?」と笑う。

 サラダも、穀物のハンバーグも、スープも、どれもほっぺたが落ちそうなほど美味くて、こんなに美味いものを食べるのは初めてだ。たぶん……たぶんロザリーは料理が上手くないし……。

 まずくはないけど、めちゃくちゃ美味いというほどの腕でもなくて、リュカと当番を交代して作っている。なんならたぶんリュカの方が料理は上手い。

 

 目を輝かせるリュカに、サンジが寄ってきて「気に入ったか?」と皿を差し出した。

「こいつら行儀がなってねェからな。取られる前にこれ食えよ」

「あ、ありがとう」

 ちゃんとお礼を言える少年にサンジは片眉を釣り上げて返事をした。

 

「4日ぶりのメシだー! 染み渡る〜ッ」

「うめぇ! うめぇ! 久しぶりだからこんなうめぇのか!?」

「バーカ、おれのメシはいつでも美味ェだろうが! それにロザリーちゃんに貰った野菜たちはどれも新鮮だからな。美味いはずさ」

「お前のとこの店長なんだろ? ありがとな!」

「いや、べつに……」

「酒はねェのか?」

「ねェよ、贅沢言うな!」

 

 リュカの隣にはペットの小鹿もちょこんと座っていて、人間みたいに皿に乗ったメシを食っていた。ナイフとフォークも使っている。

 人間と同じのを食べていいんだろうか……。

 ちょっとの心配と好奇心をもって眺めていると、小鹿が視線に気付いてパッとリュカを見た。

「おれ達ほんとに困ってたんだよ! 食料分けてくれてありがとなー」

 ニコニコ屈託のない笑顔を向けられ、リュカはガタガタッと椅子から転げ落ちた。

「うわっ!? どうしたんだ!?」

「シカが喋ってる!?」

「おれはシカじゃねェ! トナカイだ!」

「どっちでもいいよ! 動物が喋ってる! お前も海賊なのか!?」

「……! ああ、おれも海賊だぞコンニャロ〜!」

「なんで喜んでるんだ……」

 

 ルフィやウソップはひっくり返ったリュカを見て腹を抱えているし、喋るトナカイはいるし、緑髪は怖いし、うるさくて耳が痛くなるような船だ。

 なぜか緑髪とサンジは喧嘩を始めていて、荒くれ者しかいない。ナミとビビは慣れたように呆れ顔で食事を取っている。

 飢えていたからこんな喧騒なのかと思ったけど、きっとこれが日常なのだ。うんざりするような荒くれ者の光景なのに、なぜかみんな楽しそうだった。

 

 ここなら……。

 こいつらなら……。

 

 

 食事が終わるとやっと一味はやや静かになった。

 船に吹き付けていた風も落ち着いている。

 

「あんたら、もう島を出るのか?」

「ああ。急いで向かわなきゃ行けねェ場所があるんだ!」

「そうかよ。そんならさ……」

「?」

 リュカは俯いて、拳をギュッと握りしめると、ガバリと床に膝をついた。

「何してんだ、おめェ!?」

「リュカくん!?」

 

 ざわついた一味を、腹の底から怒鳴って黙らせる。

「頼みが……あるんだ!!」

「頼み?」

 船の床板を見つめる。グッと唇を噛み締める。

「あんたらの船に……ロザリーを乗せていってほしい……!」

「ロザリーを?」

「なんだそりゃ。お前が乗りてェのかと思った」

「そのロザリーってやつがお前に頼んだのか?」

「いや……俺が勝手に頼んでる。でも、ロザリーは本当は海に出たいんだ! 前に1度だけそう言ってるのを聞いたんだよ」

「やだね」

「なっ!?」

 

 ルフィはあっけらかんと言った。

「なんでだよ!」

「乗せてやるのはかまわねーけどさ、ロザリーが乗りてェって言ってるわけじゃねーんだろ?」

「頼むよ! あんたら海賊だろ!? この島からロザリーを攫って行ってくれよ……! このままじゃ……このままじゃ、ロザリーは無理やり結婚させられちまうんだよ!」

「「け……結婚〜!?」」

 

*

 




家族と折り合いが悪い13歳の少年、リュカ。CVイメージ岡本信彦or吉野裕行。
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