なんとか月2更新の1万文字前後は保てそう。
程よく頑張ります。
『喉越し豊かに広がる最高の味!!』
『コレを飲めば貴方も最前列に!!』
『先頭の景色は誰にも譲らない!!』
『エナジードリンク!新発売ッ!!』
「随分と可愛い子役達を使ったCMだな」
「あれ?もしかして端側のスズカちゃん?」
「なんだ、知ってる子か?」
「うん、知ってるよ。なんならスズカちゃんとは配信始めたての頃にリスナーとの雑談で直接話したことあるんだよね。まだ登録者数が800人とかで私もけっこうゆるゆるにやってた時期だね。今は私も登録者数が6桁でそういうの控える方針にしたから、スズカちゃんと話す機会はここずっと無い感じかなー」
「何かと妹のコミニティーが広い件について」
「私も有名になった!」
誇らしげにしながら飲み物のストローをチューと音を立てつつ、人をダメにするクッションをグネグネと潰すのは妹のミソラ。
テレビの奥ではミソラと同年代のスズカという名前の子が、他の子役達共に新作の飲み物のコマーシャルに出ている。
そうして新商品をゴクゴクと飲むと固有結界のように大草原が広がって、一気に走り出す。
このまま沈黙の日曜日も許さず大欅を超えて1着でも取りそうな飛翔感あるCMだ。
「ところでクッションの座り心地は?」
「良いよ。長く座ると本当にダメになりそう」
「安心しろ。そこで溶けちまってるリンネに比べたら俺達はまだ自制心持ちだ」
「あー、だね。蕩けきってるねぇ」
俺も灰色のクッションを崩しながら横を見るとだらしないヘルメットが眼に入った。
「うごいてないのぉにあっついよぉ…」
「それ深く埋もれているからだろ?」
「わーい!ふかふかのふわふわー!」
有名ブランドの高級クッションだろうと遊び道具に化しているカノンはともかく、とてもだらしない状態でクッションに座れて…いや、吸われているリンネの姿にシオンは呆れる。
こちらから引っ張り上げてやらないとこのままクッションと一体化しそうな勢いだ。
まあそれほど気に入ってくれてるのだろう。
「しかしスズカちゃんか。もしミソラも芸能人としてデビューしてたら同じ業界の者として競い合ってたかもな」
「ええー、そうかなー?」
「そうだよ。だってお前すごく可愛いし。愛嬌もあるからテレビ業界でもウケが良いと思う」
「そ、そう?にゅへ、にゅへへへぇ…」
と、クッションの中に沈んでいく。
でも俺の言ったことは本当。
兄としての色眼鏡抜きに見ても、響ミソラってのはアイドル性が高いし、本当に可愛い娘だ。
配信でも新衣装でお披露目すれば「かわいい」のコメントで埋め尽くされるし、それでいて女の子らしく歌が好きという個性は庇護欲を掻き立てしまうほど。
しかし、そんな年相応の女の子らしいギャップからギターを構えて歌い出すと、そこから放たれる年齢以上の力強い歌唱力はリスナーを虜にしてしまったりと、配信中の
しかもライブ配信だけじゃなく、普通の動画として歌ってみたとか、名曲のカバーも完成度高かったりと、小学生の動画配信者としては上澄みの中の上澄みレベルだ。
それを証拠に最近になって登録者数が7桁に突入していた。この勢いなら半年も経たないうちに8桁突破するかもしれない。全てに於いて響ミソラはレベル高い。
「もう、お兄ちゃんわたしのこと好きすぎー」
「そうだな。えい」
「ふぎゅうぅぅ。にゅへへへぇぇ」
「だらしないお顔だ」
ま、それでも俺からしたら甘えたがりの妹だ。
人をダメにするクッションの効力も合わさってより一層だらしない顔でにへらとする妹が今日も愛おしくてたまらないから、スキンシップの一端としてその無防備なほっぺを突っついてやれば無抵抗にされたい放題。
すると…
「まぁすぅたぁー!カノンもぉー!」
「え、カノンちゃん??げふっぅ!!?
と、兄妹のスキンシップを見ていたカノンがミソラの上にドスンと乗っかることで構ってアピールをしだす。それはともかくミソラから女の子らしくない声が漏れた。かわいそう。
「かのんも、ほっぺたツンツンされるー!」
「はいはい。つんつん、と」
その小さな体でミソラに覆い被さりながらミソラの頬に頬擦りし、同時に俺からの頬っぺたツンツンを要求するカノン。
俺は指を2本にしてミソラとカノンの頬っぺたを同時に突っついてやる。
ミソラは好き放題されるのを飽きたのか頬っぺツンツンから脱出しようとして、カノンが邪魔で起き上がれず、まだしばらく俺から頬っぺたをツンツンされる。
「おにいひゃん、もうやめてぇよぉー」
「じゃあカノンを退けるんだな。それまではずっと俺のターンだ」
「ええー」
「まぁすたぁー!えへへへ!」
頬っぺツンツンだろうとキャッキャと楽しげに騒ぐカノンに、ミソラはしばらく動けずいた。
…
…
…
「おいおい!待て待て待て!
それはあかん!やめろって!
やめっ!アカーーンっ!!」
「あ、ごめん」
>草
>草
>ワロタ
>草
>大草原
>うそやろ?
>協力ゲーなのにw
>草生える
>ノートちゃん容赦ないw
>兄様かわいそう
>クソワロタ
>ひでぇw
>悲鳴助かる
>ノートちゃんやばいって笑
>1時間の苦労消えてるやん…
>兄様迫真の悲鳴
>面白すぎる
>これは切り抜き確定
>ノートちゃん兄様を優しくしてさしあげろ
>兄様の前だとポンコツノートちゃん
>兄様の悲鳴助かる
>これこんな風になるんだ、全然知らんわw
コメント欄が爆速で回る配信。
それは撮れ高に巡り会えたから。
さて、配信名ノートこと妹のミソラとコラボ配信ということで一緒にタワーディフェンスを主軸とした建築ゲームをしているのだが、ミソラが誤ったプレイングによって俺の1時間の苦労がパーになり、コメント欄が大盛り上がりとなっている。
しかも俺が可哀想な目にあって「助かる」って状態らしい。なんでこんなのが供給になっているんですかねぇ??前世だろうが今世だろうが配信という界隈はこのノリのままなんだろう。
「ごめんごめん!勢いよくやっちゃった!」
「この妹めぇ…まぁ良い。とりあえずリカバリーするぞ。まだ侵略の夜まで時間はあるから、建て直しておこう」
「あ、でも今の倒壊で入り口も崩れたらしい」
「え?…うわっ!?ほんまやん!!」
>草
>マジで笑う
>兄様リアクション良すぎる
>ノートちゃんさぁ…
>二次被害がデカすぎるッピ!
>この状態で夜のターン凌んの?
>こりゃあ序盤から直接戦闘強要されるわ
>敵の数多いのに耐えれるかなコレ
>もう無理ぽ
>入口捨てて地下に篭れ
>瓦礫利用して地雷仕掛ける方が良くね?
>あんなにあった資材がががが
>真面目にやばいな、おわおわかもしれん
>マジで笑う
安全圏から見ている側のリスナーからすればこの状況は愉快で楽しいかもしれないが、何かと本気で取り組んでゲームしている俺からすればそのミスは頭を抱える内容だ。
しかし諦めれない。
俺はコントローラーを無意識に強く握りしめながらリカバリーを行おうと勤しむ。
ミソラもミスを挽回しようと頑張るがとうとう敵が攻めてくるターンだ。
「妹よ、ここから正念場やぞ!」
「う、うん!頑張ろうねお兄ちゃん!」
>がんばれ兄様ぁ!
>砦も守る、妹を守る!
>兄様の辛ぇところだな!
>尚絶望的な状況な模様
>直接戦闘で耐えれたらワンチャン
>いやこのゲーム直接戦闘は高難易度だぞ
>砦作って耐えるのが楽だよなぁ
>諦めないで頑張って欲しい!
>ノートちゃんなんとかしてあげて!
「だってよ」
「いやいや!無理無理!」
「ノートなんとかしろ」
「ええー!?」
>急に辛辣で草
>ノートちゃんいい反応すぎる
>兄様急なノート呼びに大草原
>ノートなんとかしろwwwww
>兄様ノリ良くて好き
>【3000円】兄様宛てに
>流石兄様!
>さすおに、さすおに!
それからゲームは終盤に入り、建て直しが間に合わずに半壊したままの砦に次々と雪崩れてくるモンスター達。あとコメントも流れる。
そしてキャー!キャー!と横で叫びながら兵器を起動してモンスターを迎撃するミソラ。
そんな俺は兵器運用をミソラに任せて単独でモンスターと戦闘を行なっていた。
「おらおらおら!フレーム回避舐めんなぁ!」
>え、やばっ兄様!
>すっご
>ゲーム上手いの知ってたけどこれは凄いな
>回避猶予フレームって幾つだっけ?
>たしか2か3くらい…?
>全部目押しで回避してんのかよすごっ!
>砦なんかいらんかったんや
>最終兵器兄様
>ノートちゃんの誤射も避けてんの気のせい?
>今日撮れ高多くて助かる
そうして最終フェイズを半壊した砦のままクリアし、コメントは盛り上がった。
ミソラは定期的にプレイしてることに対して俺のプレイ時間10時間程度であり、それで獅子奮迅の活躍でクリアしたことにリスナーから驚かれながらも盛り上がる。
ああ今回もこんなにスパチャが。
やっぱ凄いな配信をするって。
ただし前提として有名になることだろうが。
「つ、つかれためぅ…」
「お兄ちゃんお疲れ様!凄いね!私達!」
>無垢なノートちゃんかわいい
>妹ちゃんさぁ…
>凄いのは兄様定期
>なんでも出来ると聞いたが兄様凄いな…
>やっぱ兄様っしょ!
>ノートちゃんも頑張った
>がんばった(砦破壊)
>がんばった(二次被害)
>頑張る方向考えてもろて
>面白かったわ
>ノートちゃんも不慣れな中で頑張ったよ!
>二人ともえらいからヨシ!
>せやせや
>ノートちゃん!お兄ちゃんを私にください!
「あれ?もしかしてこのアイコンって…あ!スズカちゃんのコメントだ!やっほー!久しぶりー!飲み物のCM見たよー!あ、あとそのお願いはダメッ!お兄ちゃんは私のなんだから!!」
>草
>草
>最後食い気味に拒否るの笑う
>お兄ちゃんは非売品です
>ノートちゃんかわよ
>兄が取られると感じて声量上がるの助かる
>兄様の巡り合い宇宙くる?
>切り抜き確定
>【2000円】身代金
>相変わらずの兄様好きで推せる
>ナイスパ
>これはナイスで良いのか?
>リスナーが身代金を払うのか…(困惑)
「あれ?もしかしてこの子が噂のスズカちゃん?本当にリスナーなんだねぇ。あ、自分もCMお伺いしました。スズカちゃんのことは妹と応援してますのでこれからも頑張ってください」
>ありがとうございます!頑張ります!
>兄様の貴重なファンサ
>良かったやん
>ウチらも応援してるぞ!
>なるほど鈴鹿ちゃんか、覚えたわ
>てかさりげなく古参リスナーで笑っちゃう
>ああそれでコメの文字が太いのか
>芸名はスズカで登録してるからよろしくぅ
>ノートちゃんもスズカもどっちも応援だ!
>兄様のお仕事も応援しろ
>皆応援します
>これが絆かぁ
>良い話だなぁ
>兄様まさかのスズカちゃん推し!?
>まーた切り抜き確定かいな
>兄様登場回何かしら起きるよねぇ
>今回もコラボが神回で面白すぎる
と、そんなこんなで配信が終わった。
時計を見たらもう夕方超えている。
休日の午後は全部配信になったか。
楽しかったけど、やっぱ疲れるわ。
「お兄ちゃんお疲れ様。コラボありがとうね!」
「ミソラもお疲れ様。毎回毎回良くやるよ」
「もう慣れちゃった!」
「楽しんでるようで何よりだ」
「えへへ。これも全部お兄ちゃんが提案して、用意してくれたからだね。ありがとう」
「どういたしまして」
なんとかコラボ配信を乗り越えれた事で一息ついていると、配信用のノートパソコンの画面がパチパチと瞬き。
「まぁすぅたぁー!構って構ってー!」
「うおっと、いきなりパソコンから飛び出してきやがったか。ミソラ!カノンをパァス!」
「え?きゃっ!ちょっとお兄ちゃん!?」
「わーい!みぃーそぉーらぁー!」
配信が終わったタイミングで配信用のノートパソコンから飛び出してくるカノン。
実は配信中ずっとハートマークとか飛ばして画面を賑やかにしてくれていた影の功労者。
そんな甘えたがりのカノンは俺に飛びついてきたのでそのままミソラにパスして人をダメにするクッションに押し込んだ。この手に限る。
「さて、俺は夜ご飯の準備するからミソラはかまってちゃんのカノンをよろしく」
「ちょっと!朝もやったんだけど!?」
「みぁそらぁ?もしかしてカノンのこと、いや?」
「っ!そんなことないよ!カノンは私の大事な妹だもん!いつも可愛いよカノンちゃん!ずっと大好きだよ!ぎゅぅぅぅ!」
「わーい!カノンもみぃそらをぎゅぅぅぅ!!」
と、仲良しぎゅぎゅっする二人。
天使達かな?
いや天使達だったわ。
「ん、ならマスターは私をギュッするべき」
「お前も急だな。どこから現れた」
「電波は早いから瞬間移動はお手のもの」
「空中のウェーブロードはともかく地上ってそんな電波状況良かったっけ?」
「歩き慣れたところなら瞬間的に動ける。サテライトの管理者から授かったギフトは伊達じゃない」
「マジでウィルスとしての枠超えてんだなぁ…」
もうすっかりとヒトとしての生活に慣れきった三人娘ット達。それでいてちゃんと電波体としての強みを活かしているし、順応していることがよく分かる。
なんなら現在進行形で俺がフライパンに火を通しているとリンネがポチっと炊飯器のスイッチを押してくれた。完全に生活慣れしてやがる。
「あれ?そういやシオンは?」
「パソコンの電脳で素振りしてる」
「相変わらず血の気高いなぁ」
「シオン言ってた。自分もギフトが欲しいって」
「それに関してはサテライトの管理者が接触してこないと進展無いな。まあ俺からしたらギフトとか無くても君達を変わらず君達として扱うから急がなくても良いんだけど。つーかアレってペガカスの一方的な施しだろ?むしろギフトの名称を隠れ蓑にしたサテライトの力ってやらを与えられた君達に異常無いか心配だわ」
「ん、特に無い。むしろ調子が良い。段々とヒトらしくなって私達は楽しい」
「一応、建前上アップデート的な扱いみたいだから調子良くなることは正常だとしても、俺からすれば過剰に与えられてる気がしてなんか怖いんだよなぁ…」
「マスターは心配?」
「力に責任は付きもの。それが怖いだけさ」
フライパンに材料をぶち込んで炒める。火が通る香りで火加減しつつ、明日の予定を考えているとリンネがちょんちょんと肩を叩いてきた。
「私にはマスターがいる。だから平気」
「信頼が厚いな」
「このフライパンも熱い。火傷する。でもマスターは危ないモノの使い方を知っている。だからギフトも大丈夫」
「……本当は危ないんだぞ?
「マスターは詳しい?」
「……それなりに、な」
誤魔化すようにフライ返しをする。
夜ご飯の香りに意識を向け、配信後のエネルギーを補充できるよう味付けに勤しんだ。
…
…
…
パコーーンッッ!!
と、数メートル先で弾け飛ぶ音。
そうしてボウリングのピンが全部倒れる。
「やるな、ワタル!」
「シドウは5連続でストライク取ってるじゃねーかよ。俺なんてやっと2回目やぞ」
ボウリングの経験はあるが俺は言うほど上手くはない。
代わりにシドウはサテラポリスの兵として現役なので筋力もあり、体幹もしっかりしているのでボウリング玉に左右されず、投げたい場所に投げ切れる。
って、考えてたらまたストライクだ。
コイツ、狙う事に関しては本当に上手いな。
カーブとか掛けずにストレートの一本でボウリングのピンをぶっ倒してしまう。それで勢い余って隣のレーンにまでピン吹き飛んでしまう始末。少しは加減しろよこのフィジカルバカ。
「しかしワタルから誘ってくれるとはな」
「案件だったり、引越しだったり、最近まで色々忙しくてな。それでやっと落ち着いたから今の内にとシドウを飯に誘ったんだよ。でもボウリングに関してはシドウの提案だからな?」
「ワタルが鈍ってないか確かめようと思ってボウリングに誘った。あとは腹を空かせるためだな」
「後半はともかく前半は余計なことを」
「まぁまぁ、良いじゃないか。共に研修期間を凌ぎあった仲なんだ。こういうのも現状確認ってヤツさ」
「そうかよ。まぁ…訓練とかそういう本格的な鍛錬はしてないけど、でも体力は落としたくないからたまにミソラも加えて朝のランニングくらいはしているとだけ伝えとく。これでもたまのフィールドワークは必要だからな」
そう言いながら俺はボウリング玉に転がして9本だけピン倒れた。
二投目でスペアになるか。また渋いな。
「今のワタルはそれで良いさ。それにワタルはあの場所を去ったとしてもウィルスバスティングシステムの開発によって民間を支えているじゃないか!ならサテラポリスと同じだな!」
「君ほど命は賭けてないけどな」
「それは戦う場所が違うからだ。君は比較的安全な後方支援に位置するようになった。それだけの違いだ。支援なくて前衛はありえないぜ?それを証拠にオレ専用に特注のバトルカードを送ってくれているだろ?前に送ってくれたオーラのバトルカードなんかメットリオ程度の攻撃なら無制限に防いでくれたりと重宝しているんだぜ。現場としてはとても助かっている」
「そうか。そう言ってくれるなら開発コストが高くても良かったと思えるさ」
「とても助かってるぜ。しかし相変わらずそういう器用なのは得意だな、ワタル」
「まぁ……そうだな。うん…得意。そうだな」
歯切れ悪く返してしまう。
だから、シドウに悟られる。
「今も、
「!……なんでそう思う?」
「研修生の頃もバトルカードの開発なんかは趣味の一旦と言っていたが、しかしそれにしてはバトルカードの完成度の高さ。また本格的な実用性は軍用として想定されている面がある。何より
「考えすぎじゃないのか?」
「いや、ワタルの開発するバトルカードは人の身で使うにはとても適している。それは意図しなければ作れない代物まで手が広い。ここまで来るとその熱量は趣味の領域ではないことはオレでも分かるものさ。で、どうなんだ?
「…ったく、シドウの癖に良く見てやがる」
「何だよ癖にって、ひどいなぁ。こんなオレでも計画が進めばいずれは特殊部隊を運営することになるんだぜ?だから物事を広く見るように訓練してる。特に、相棒の事はよく見てるぞ」
「だから俺の考えが分かったと。ああ…そうだよ。俺のバトルカード開発は趣味の領域を超えているんだろう。多分それは昔から。それで民間から軍事にも転用できて、それでいてあの計画に加えれるその想定。だからヨイリー博士からも推薦を受けたんだろうな。
お前と一緒にアシッドエース計画を担える、そんな特殊部隊になって欲しいと」
過去を思い出し、ほんの少しだけ力が入ってしまうが、それでも転がしたボウリング玉はシドウのようにまっすぐ力強く転がる。
それでも倒れたピンは8つだけ。
それも両脇に離れて残るスプリット形式だ。
「でも、俺は非情かな。正直に言うとさ。アシッドエース計画なんかどうでも良く考えてしまう時があるだよ」
「そうなのか?」
「辞めてから特にな。ああいや、計画自体は素晴らしいと思うぞ?アレが本格化されてるなら対ウィルス兵器として大戦果は期待できるし、現場の急行にとても向いている。でもさ。これほどの技術開発が現代なんかよりも過去に備わっていたのならと…嫌に願ってしまうんだ」
「ワタル…」
「なんというかさ、もう少しさ。技術発展がゆっくりならば、人は急がずに便利と擦り合わせれたいたのなら、あんな
「それは…」
「分かってる。これは全てたらればだ。過去に頑張ってくれた人達に対する冒涜だ。アシッドエースの計画だって今を救うために積み重ねてきたサテラポリスの結晶体。けれど考えてしまうんだ。これほどの技術力を用意できるならもう少し足並みくらい合わせれた筈だと」
人は夢を膨らませて木々を伐採し、そこに素敵な物を作ろうと急ぎ、そして固まってない地盤に足を取られて大災害を起こす。
電波社会の発展はそれの繰り返し。
もう少し計画的に段階良く踏み込めたなら最悪な事態は発生しなかった。
その想像すら容易い__10年前の大事件。
「暗黒期の自分は今よりもまだ幼くて、前線で命懸けで戦った父の力にもなれなかった自分の
「無力感、か…」
シドウの呟きをその場に置いて、俺はスペアを試みて鋭くカーブをかけて転がすが一ピンも掠らずにガーターに落ちる。ああ。なんともお粗末だろうか。しかし…
「ワタル、その気持ちはオレも分かるぜ」
と、シドウは気持ちを汲み取り、肯定する。
俺は少し驚きながら振り返る。
「暗黒期を考えたらワタルは複雑だろう。だからこんなオレにワタルの悩みと願いを否定する力も言葉もない。何故ならオレも同じだから。今の自分が昔にあったのなら、そしたら救えた筈の数も形もある。そう願わずにいられない」
「シドウ…」
「オレもあの時さ、もっと力があったら彼女の手を引いて共に逃れることは出来た筈。それを何度何百と考えてしまう。これはワタルと同じなんだろう」
「…」
「けどこのボウリング玉のように過ぎ去る。ならばせめて、今は力強く放り込めるオレを信じて何度何百を繰り返さない。だからいつか必ずと願う。それで報われたらハッピーエンドさ」
「……強いな、お前は」
「何を言うか…!それは、ワタルだって…!」
そして出番が来たシドウはバ力強く転がすとゴーン!と音を響せて、ストライク。
それはまさに今の彼を表すかのように。
そうしてストライクを自慢するようにニカッとした表情で振り返り、親指を立てる。
マイナス思考など暁シドウには似合わない。
それでいて隣人にも似合わせないと振る舞う。
「ワタルだって残された家族のための選択をしたんだ。それも今だからこそ出来る響ワタルとしての選択だ。両親亡き中でお前一人だけの腕で妹を守ってみせると決めた。そんな奴は強いに決まっている!相棒として保証してやるさ!」
「相棒って、俺はもうサテラポリスにはいない存在だぞ?」
「ははは!関係ないな!オレの相棒は研修期で共に凌ぎ合い、それでアシッドエース計画を共に担おうと研鑽を積み合った男は響ワタル一人だけさ!だから戦う場所が違くともオレが飛び込む最前線に力を与えてくれる響ワタルは常に相棒だ。だろ?ブラザー!」
「ああ……そうだな。そうともさ。俺はもう其処にいない。でもシドウが、俺のブラザーが戦っているなら届けるさ。だから今を何度何百と当てにしろ。暁シドウの最前線は支えてやる」
そして俺は最後の投球。
次こそは俺のやり方で転がす。
すると理想通りの軌道で転がるカーブボールはボウリングのピンを全て弾き、ストライクを掴み取った。
結果はシドウの圧勝だが、久しぶりのゲームにしては上々だ。
とりあえずシドウには鈍っていないことを証明出来てると良いけどな。
「じゃ、良い感じに腹減ったし何か食べに行こうぜ!」
「そこそこ高級なフレンチを予約してるから、そっちに行くぞ」
「おいおい?オレは別にカツ丼とかラーメンとかそこら適当なので良いぞ?てかそれが良い」
「前に言ったろ?恋人連れるに良い場所はリサーチできるようなっとけって。これを機に舌も慣らしとけ。フレンチもちゃんと美味いから」
「ええー、せっかく腹減ったのにお上品なお料理で満たされるかー?コッチはもっとジャンクでガッツリなのを想像してたけどな」
「丁度良いじゃん。なら頼みまくって、食べて比べてみれば、いざ実践で格好も付くだろう?」
「ま、それもそうか。ほんじゃ行こうぜ」
「ああ」
ボウリング場を後にして予約した店に向かう。
もう俺はサテラポリスに居ない身だ。
しかし休日くらいはシドウと肩を並べれる。
そんな気さくな関係でも充分に彼の相棒。
なら少しは胸も張っていよう。
コイツが前世で命懸けているなら、その命懸けも負担できる、そんな今の響ワタルとして。
何度何百を助けるブラザーとして。
つづく
ミソラも好きだけどスズカも好き。
そして気さくな兄貴なシドウも好き。
そんな欲張り作者でこれからもよろしく。
【アシッドエース計画】
原作では流星3に登場したアシッドと電波変換をしてウィルスやらノイズやらに対抗する軍用電波兵器。この作品ではヨイリー博士の推薦によって響ワタルもこの計画を担うことになったいたが、サテラポリスに本格加入することなく研修生で退役したので現在は暁シドウだけで計画を進めている状態。二人で負担できたらよかったのにねぇ(無邪気)
【サテラポリスの暗黒期】
Q__ 森を伐採しまくって地盤とか考えず便利な建物立てまくってしまい、それで技術発展しまくったのはええけどそれらを管理し、環境を支えるシステムが用意されてない時に発生する大規模な電波災害にサテラポリスは耐えれますか?
A__ 文字通り命懸ければ耐えれんじゃね?
ってこと。
それが10年前。
じゃぁな!