最初は綾小路視点。途中から赤司視点になります。
綾小路清隆が担任の茶柱佐枝に呼び出されたのは、一学期の終業式を終えた日のことだった。
生徒指導室。正面に立つ茶柱は、いつもと変わらぬ表情で綾小路を見据えていた。
だが、話の切り出し方は普段と違っていた。
しばらく様子を窺うような言い回しを続けた後、彼女はようやく本題を口にした。
「――数日前、ある男が学校に接触してきた。綾小路 清隆を退学にさせろ、とな」
その言葉を聞き、綾小路の脳裏に一人の男の姿が浮かんだ。
心当たりはある。むしろ、自分を退学させようとする人物など、一人しか思い浮かばなかった。
「退学にさせろって、そりゃまた意味不明ですね。それが誰だか知りませんが、本人の意思を無視して退学なんてさせられませんよ」
「そうとも限らない」
茶柱は即座に否定した。
彼女の口から続けて語られたのは、学校側が生徒を退学させるための理由についてだった。
喫煙、いじめ、盗み、カンニング。いずれも発覚すれば、退学の要項に当てはまり得る不祥事だ。証拠を用意することさえできれば、本人の意思など関係ない。
そして、証拠が存在するかどうかを判断する側に、どれだけの裁量があるのか。
茶柱の口調は、まるで担任である自分の匙加減次第だと言わんばかりだった。
「……もしかして、俺を脅しているんですか」
「これは取引だ。お前は私のためにAクラスを目指す。そして私はお前を守るために全面的にフォローする。悪くない話だろう?」
茶柱は強気な態度を崩さなかった。
しかし、その瞳に余裕がないことは綾小路にも見て取れた。
彼女もまた追い詰められている。だからこそ、自分を利用する必要があるのだろう。
綾小路は内心でため息を吐いた。
ここで茶柱に逆らったところで、状況が好転するとは思えない。彼女の要求を拒み、退学の危険を冒すほどの理由もなかった。
何より、綾小路がこの学校で求めているのは自由だった。
他人の思惑に振り回されず、誰かに管理されることもなく、ただ自分の望むように過ごす。
その自由を守るためなら、多少の譲歩は受け入れられる。
「……分かりました。協力します」
綾小路の返答を聞き、茶柱はわずかに表情を緩めた。
取引が成立したことに安堵したのか。それとも、これで自分の立場を守れると考えたのか。
いずれにせよ、綾小路にとってはどちらでもよかった。
彼女の要求を受け入れた以上、当面はAクラスを目指すことになる。
ただし、それは茶柱のためというより、自分自身の自由を守るための選択だった。
綾小路はそれ以上何も言わず、生徒指導室を後にした。
夏休みを前にして、余計な問題が一つ増えた。
それだけのことだった。
♦
夏休みが始まって一週間が過ぎた。
一年生たちは豪華客船に乗り込み、南国の島へ向かっていた。
船内は浮き立った空気に包まれている。普段の学校生活から解放された生徒たちは、夏のバカンスを満喫しようと、それぞれ思い思いの時間を過ごしていた。
綾小路は、そんなクラスメイトたちの様子を横目に見ながら、デッキの手すりに寄りかかっていた。
眼前には、どこまでも続く水平線が広がっている。束の間とはいえ、自由を満喫できる時間だった。
綾小路は小さく息を吐いた。
そのとき、船内にアナウンスが響いた。
『生徒の皆様にお知らせします。お時間がありましたら、是非デッキにお集まりください。間も無く島が見えて参ります。暫くの間、非常に意義ある景色をご覧いただけるでしょう』
奇妙な言い回しだった。
島が見えるというだけなら、わざわざ意義ある景色などと表現する必要はない。
綾小路は首を傾げたものの、すぐに考えるのをやめた。
周囲のクラスメイトたちも、特に気に留めている様子はない。旅行先の景色を紹介する程度のものだと受け取っているのだろう。
それから数分後、水平線の向こうに島影が現れた。
船が進むにつれ、輪郭が徐々に明らかになっていく。
白い砂浜。その背後に広がる濃い緑。ところどころに見える岩場と、内陸へ向かって盛り上がる地形。
遠目には美しい南国の島だった。
しかし、島が近づくにつれて、アナウンスを聞いた生徒たちが次々とデッキへ集まり始めた。
「おい邪魔だ、どけよ不良品ども」
後からやってきた数人の男子生徒が、前列に割り込もうとした。
そのうちの一人が綾小路を突き飛ばす。
綾小路は手すりをつかみ、体勢を崩さずに受け流した。特に反応を示すつもりはなかったが、傍にいたクラスメイトが押されたことで、須藤健が血相を変えて近づいてきた。
「テメェ何しやがる!」
須藤の威圧にも、男子生徒は薄ら笑いを浮かべるだけだった。
「お前らもこの学校の仕組みは知ってるだろ。この学校は実力主義の学校だ。Dクラスに人権なんて無い。不良品は不良品らしくしてろ。こっちはAクラス様なんだよ」
Aクラス。
綾小路が知るAクラスの人間は、赤司征十郎と、もう一人だけだった。
赤司は圧倒的な実力を持ちながら、無意味に他人を見下すような人物ではない。むしろ、クラスや立場の違いを越えて他人に手を差し伸べることさえある。
そんな赤司の下にいる生徒が、目の前の男子のような振る舞いをする。
綾小路には、少し意外だった。
「Aクラスだぁ? テメェら赤司の下っ端かよ。それなのに、そんなくだらねーこと言ってんのか?」
須藤も同じような疑問を抱いたらしい。
心底不思議そうに尋ねると、男子生徒は顔を歪めた。
「はぁ!? ふざけるなよ、誰があんなやつの下に付くか!? 俺たちが支持してるのは――」
「その辺にしておけ、弥彦」
荒ぶる男子生徒を制止したのは、スキンヘッドの男子だった。
「か、葛城さん……」
葛城と呼ばれた人物が姿を見せると、男子生徒は途端に大人しくなった。
葛城は綾小路と須藤へ軽く頭を下げた。
「すまない。非礼を働いた以上、当然ここは君たちがそのまま使っていてくれ」
そう言うと、葛城は彼の肩に手を置き、デッキの前列から離れていった。
無用な争いを避け、非礼を認め、相手に場所を譲る。
少なくとも、葛城は先ほどの男子生徒とは違うようだった。
須藤は納得したのか、まだ何か言いたげな顔をしながらも引き下がった。
やがて、島の全容が見え始める。綾小路は、それらを一つずつ目に焼き付けた。
「……そういや、堀北はどうしたんだ?」
不意に須藤が尋ねた。
「さあ? 部屋にでもいるんじゃないか」
綾小路は曖昧に答えた。
姿が見えないことは気になったが、今はそれよりも島の方が重要だった。
先ほどのアナウンス。意味深な表現。島内に見える人工物。
単なる旅行ではない。
その予感は、間もなく確信へと変わることになる。
♦
「――ではこれより、本年度最初の特別試験を行いたいと思う」
砂浜に集められた一年生たちを前に、真嶋智也が淡々と告げた。
説明されたのは、一週間にわたる無人島での集団生活。各クラスに支給される試験専用ポイント。それを使った物資の購入と、試験終了時に残ったポイントのクラスポイントへの加算。
加えて、リタイアによる減点や、島内のスポットを占有することで得られるボーナス。クラスごとにリーダーを選び、他クラスのリーダーを特定することも重要な要素となる。
ルールが明らかになるにつれ、生徒たちの表情から余裕が消えていった。
綾小路は説明を聞きながら、他クラスの様子を観察していた。
Aクラスは、すでに何人かが互いに意見を交わしている。対してBクラスは、一人の女子生徒がまとめて落ち着いて話し合いを進めていた。Cクラスはまた雰囲気が違うようだが、中心となる者の存在が予感させた。
一方でDクラスは、話し合いを始めるなり、意見のぶつけ合いになっていた。
考えるべきことが多いのは分かるが、全員が好き勝手に発言していては、結論が出るはずもなかった。
その間にも、Aクラスは話し合いを終えたらしい。何班かに分かれ、早くも行動を開始していた。
――リーダーとしての質は頭ひとつ抜けているか。
赤司がどのような指示を出したのか、ここからでは詳しく分からない。
それでも、クラス全体の動き出しが早いことは明らかだった。
――やはり、最大の障害は赤司だな。
綾小路はそう結論づけた。
その後、BクラスとCクラスもそれぞれの方針を決め、島内へ散っていった。
最後までまとまらなかったDクラスも、ようやく探索班を組むことになった。
しかし、班分けにあぶれた綾小路は、佐倉愛里と高円寺六助と共に森へ入ることになった。
高円寺は相変わらず周囲に合わせる気がないらしい。佐倉は慣れない環境に不安を覚えている様子だった。
綾小路は二人を見ながら、ひとまず歩き出した。
◇
灯台で確認すべきことを終えた赤司は、周囲の森へと足を踏み入れた。
森の中は木々が密集し、日差しが遮られている。地面には木の根が張り出し、足元の草も深い。整備された道とは言い難いが、赤司の歩みに迷いはなかった。
「……ここを抜けた先に洞窟があったな」
灯台から見えた地形と、船上で確認した島の輪郭。記憶を頼りに進めば、そう遠くないはずだった。
慎重な葛城なら、既に洞窟へ到着している可能性が高い。
彼なら生活拠点としての適性を考え、雨風を凌げる場所や安全性の高い場所を優先して探すだろう。洞窟はその条件を満たす候補の一つだった。
赤司がそんなことを考えながら進んでいると、横手から草木を掻き分ける音が聞こえた。足を止め、そちらへ目を向ける。
やがて、斜面を登ってくる人影が現れた。
「――綾小路か」
「赤司?」
現れたのは綾小路だった。その後ろには、ピンク色の髪を結んだ女子生徒が続いている。
彼女は斜面を登り切るなり、膝に手をついて肩で息をしていた。
「奇遇だね。君達もこの先の洞窟を見にいくつもりだったかい?」
「……洞窟? いや、オレ達は一緒にいた高円寺と逸れて追いかけていただけだが」
綾小路はわずかな間を置いて答えた。赤司は、その間を見逃さなかった。
「ふっ、なるほど。先ほど高笑いのようなものが微かに聞こえていたが、彼のものだったか」
森の中を進んでいた際、獣や鳥とは異なる声音が聞こえていた。正体が分からず気に留めていたが、どうやら高円寺のものだったらしい。
もっとも、彼なら森の中であろうと、周囲を気にせず笑っていても不思議ではない。
二人の会話をよそに、佐倉はまだ呼吸を整えていた。
「少し休むか、佐倉?」
「ごめ、なさ……あやの、こうじくん……」
佐倉の様子を見かねた赤司は、自身のポーチからペットボトルを取り出した。
「まだ開けていない。良かったら飲むといい」
「え……そ、そんな……もらえないよ……」
佐倉は遠慮がちに首を振った。
初対面の相手から水を受け取ることに抵抗があるのか。それとも、赤司のような目立つ人物に話しかけられたこと自体に緊張しているのか。
彼女の態度からは、どちらとも判断できなかった。
赤司は微笑み、もう一つ言葉を重ねた。
「佐倉さん。君にはまず感謝を伝えなければいけなかったね」
「え?」
予想していなかった言葉に、佐倉が顔を上げた。
「ひと月前。俺たちバスケ部が嫌疑をかけられた際、君が綾小路に語った証言が役立った。お陰で審議を優位に進めることができた。遅くなってしまったが、改めて感謝を」
「そ、そんな……私は大したことは……」
佐倉は慌てて首を振った。
彼女が審議の場に立ち、直接証言したわけではない。したがって、彼女の言葉だけで審議の流れが決まったわけではなかった。
それでも、バスケ部とは直接関係のない生徒が語った内容には、一定の価値があった。
「クラスが違う以上、あまり目立つ仕方で感謝を示すことはできないが、それでもこれぐらいの親切はさせて欲しい」
赤司は自然な動作でペットボトルを差し出した。
佐倉は少し迷った後、両手でそれを受け取った。
「……あ、ありがとうございます」
赤司は頷き、綾小路へ視線を向けた。
「綾小路。
穏やかな口調だった。だが、その言葉は明確な含みを持った指摘であった。
「ああ、赤司の言うとおりだな。すまない、佐倉。高円寺に追いつこうとしてお前のペースを考えてやれなかった」
「ううん……私は大丈夫だよ」
水を飲んだ佐倉は、ようやく呼吸を落ち着かせた。
「では、せっかくここまで来たんだ。一緒にこの先の洞窟を見にいくかい?」
「いや、遠慮しておく。まずは高円寺と逸れたことを平田に報告しないといけないからな。戻ろう、佐倉」
「う、うん……ありがとう、赤司くん」
それだけを告げ、二人は登ってきた斜面を下り始めた。
赤司は、その背中をしばらく見送った。
――意外だったな。この試験でも彼は静観を貫くだろうと考えていたが。
赤司は二人の姿が十分に遠ざかったことを確認すると、改めて進路を定めた。
森を抜けると、山肌の一部に大きな穴が開いていた。
洞窟の入り口だった。
入り口の周辺には補強された跡があり、内部の壁にも人の手が加わった形跡が見られる。自然にできた洞窟をそのまま利用しているのではなく、試験のために整備された施設なのだろう。
赤司が入り口を観察していると、奥から複数の人影が現れた。
「む……赤司か。まさか1人か」
先頭にいたのは、予想通り葛城だった。
その背後には戸塚と的場がいる。二人とも葛城を慕う生徒であり、彼の復権を望む派閥の一員でもあった。
「ああ。物資の選定は橋本に任せたからね」
「手が空いたからと言って単独行動をして良い理由にはならない。お前に万が一のことがあったらどうする」
葛城の口調は厳しかった。
赤司の身を案じているからこそ、率直に指摘しているのだろう。
規律を重んじる葛城にとって、複数人で行動するよう指示した本人が単独で動くことは看過できない。
赤司もまた、そのことを理解していた。
「葛城さんの言うとおりだ! 俺たちには複数人で行動しろと言ったくせに、お前が守らなくてどうする!?」
戸塚も同調した。
普段なら葛城が諌めるところだが、今回は口を挟まなかった。戸塚の指摘にも一理あると判断したのだろう。
「心配をかけたな。次からは気をつけよう。だが――」
赤司は葛城へ近づき、その胸を軽くノックするように叩いた。
「俺が不在となった時の不安はないよ。このクラスには、お前がいるからね」
「そう言う問題では……はぁ、もういい。お前のことだ。何か考えがあっての行動だろう。だが動く時は、なるべく共有してくれ」
「ああ、勿論だ」
赤司は葛城とすれ違い、戸塚と的場の間を抜けて洞窟内へ入った。
入り口から少し進んだ場所に、スポット占有用の機械が設置されていた。
「やはり、ここもスポットの一つだったか」
「ああ。雨風を凌げ、同時に避暑地にもなる。かつ占有の機械も奥にあるため、リーダーの発覚も起こりにくい。ベースキャンプとして良いと思うがどうだ?」
葛城の判断は理にかなっていた。
洞窟なら天候の影響を受けにくく、日中の暑さもしのげる。占有用の機械が奥にあるため、外から様子を窺われてもリーダーの特定につながりにくい。
ベースキャンプとしては申し分ない場所だった。
唯一デメリットがあるとすれば、水源が見当たらないことだろう。
「悪くないな。だが一度、他の探索班の情報を聞いてからでも遅くはないだろう」
「だが、その間に占有されてしまっては元も子もないぞ」
「その点は問題ない。先ほど牽制は入れた。彼もすぐには戻ってこないだろう」
赤司の言葉に、葛城は疑問を浮かべた。
しかし、問いを口にする前に赤司が続けた。
「それなりに時間も経っている。他の班の様子を見ながら浜辺まで戻ろうか」
「ああ、分かった」
葛城は素直に頷いた。
戸塚と的場はまだ何か言いたげな様子だったが、二人も後に続いた。
♢
赤司と葛城は、探索班の生徒たちと合流しながら浜辺へ戻った。
予定していた探索時間よりも三十分ほど早い。浜辺では、女子生徒の班もほぼ同じタイミングで戻ってきていた。
橋本たちが待つ場所に全員が集まると、赤司は周囲を見渡した。
「――じゃあ、それぞれの班の得た情報を共有していきたいと思う。俺と葛城達は占有スポットの一つである洞窟を見つけたが、鬼頭達はどうだったかな」
「……俺たちは森の中で井戸を見つけた……が、悪いが既に先を越されていた。おそらくBクラスの人間だろう」
鬼頭は淡々と報告した。
井戸があるなら、生活に必要な水を確保できる。ベースキャンプとしては非常に優秀な場所だろう。
先を越されたのは痛手だが、誰が確保したのかを把握できたことにも意味がある。
「先を越されてしまった以上、仕方ない。だが、それ以上の好条件のスポットはなかなか見つからないだろう。Bクラスはほぼ確実にそこをベースキャンプにするはずだ。よく見つけてくれたね」
赤司の労いに、鬼頭は特に反応を示さなかった。
彼の報告は必要な情報を過不足なく伝えるものであり、赤司もそれ以上の言葉を求めなかった。
「次に白石達はどうだった?」
「はい。私達は海岸線に沿って歩いていたんですが……途中で浜辺が途切れて岩地になり、水位もそれなりにある様子でしたので、引き返してきました。ただ海を挟んだ先に小さな浜辺と小屋のようものが見えました」
白石の説明に、赤司は頷いた。
船が島の外周を進んでいた際、赤司もその小屋を確認していた。
「浜辺からは直接たどり着けない小屋か。占有スポットの一つだろうな」
「ああ。森から迂回して向かえる場所なのだろうね。ありがとう、白石」
「赤司くんのお役に立てて良かったです」
白石は嬉しそうに笑った。
その隣では、神室が仏頂面を浮かべている。赤司は苦笑しながら、彼女へ視線を向けた。
「なによ」
「いや、神室の方はどうだったかと思ってね」
「どうも何もこっちは延々と浜辺が続いているだけだったわ。スポットらしきものも無かったし、引き返してきたの。強いて言えば、途中でCクラスっぽい連中を見かけたぐらいよ」
神室は不満そうに答えた。
他の班が何かしらの成果を得ている中、自分たちだけが空振りに終わった。そう感じているのかもしれない。
「なるほど。悪くない成果だ」
しかし、赤司の評価は違った。
だが神室は赤司の言葉をお世辞だと受け取ったのか、苛立った様子で顔を背けた。
赤司はそれ以上触れず、全員へ向き直った。
「――とにかく。俺たちもベースキャンプを決める必要があるだろう。そのためには、まずリーダーを決めたい」
誰をリーダーにするかは、この試験の行方を左右する重要な判断だった。
赤司は一同を見渡し、穏やかな笑みを浮かべた。
「このクラスのリーダーは――」
その言葉を聞いた生徒たちは、一様に驚きを示した。
◇
夜が訪れた。
日中は照りつけるようだった太陽も沈み、島内には月明かりと星々の光だけが降り注いでいた。
森の中は暗く、木々の輪郭すら判別しにくい。波の音と虫の鳴き声が、静かな夜を満たしている。
生徒たちは、それぞれの拠点で点呼を待っていた。
そのときだった。
暗闇を切り裂くように、一筋の光が夜空を横切った。
森の上を照らし、海岸線へと伸びる光。
島のどこからでも確認できるほど、はっきりとした光だった。
「あれって……」
一之瀬は驚いた様子で空を見上げた。
「ああ。灯台の光、だろう。だが何のために……」
神崎もまた、困惑を隠せずにいた。
灯台は、島の中でも目立つ場所にある。占有スポットであるなら、他クラスに存在を知られない方が有利なはずだ。
それなのに、灯りを点ければ位置を自ら知らせることになる。
何のために、そんな真似をするのか。
同じ疑問は、別の場所でも生まれていた。
「何を考えてやがる……赤司」
浜辺から空を見上げた龍園は、苛立ちとも困惑ともつかない表情を浮かべていた。
自分以外に、このような奇策に出るとすれば龍園の中での候補は赤司しかいないと確信していた。
だが、その赤司の意図が見えない。
光を点けること自体に、目立つ以外の利点があるのか。それとも、何かを誘い出そうとしているのか。
龍園は暗闇の向こうに目を凝らした。
綾小路もまた、光を見上げていた。
「…………。」
あの灯台は、船上から確認できた人工物の一つだった。
試験のために用意された施設である以上、何らかの役割を持っているのは間違いない。だが、灯りを点けたことで得られる利益が何なのか、綾小路にも、まだ判断できなかった。
灯台という占有してるスポットの位置を他クラスに知らせる行為は、一見すれば損にしかならない。
だからこそ、無視することもできない。
四つのクラス。その全員が、夜空を照らす光を目にしていた。
誰が灯台を占有しているのか。
何を狙っているのか。
確かめなければならない。
それを見届けた各陣営の共通の感情であった。
感想や評価をありがとうございます。大変励みになっています。
どうぞ引き続きよろしくお願いします。