機動戦士ガンダム 美味しんぼ ロンド・ベルの究極、ネオ・ジオンの至高 逆襲のシャア前夜、ロンド・ベル寄港中の補給食堂 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
U.C.0092年12月。サイド1、ロンデニオン。
港の倉庫は伝票の山で完全にパンクしていた。軍需余剰! 民間端数! 大学保管分! 避難者支援物資! 同一の木箱に4つもの相反するラベルが貼られた狂気の官僚主義! 中身は古米、麦、塩、カピカピの乾燥野菜。書類の上では「誰の物でもない」食物だ。
私は手帳を開く。キッカ・コバヤシ。港湾救護活動の臨時記録員。廃止寸前の旧実習棟へ運び込まれる食材の出所をドロドロと書き写すのが私の仕事だ。水道不完全、電源要確認の廃墟同然の物件。だが港の泥縄的運用により、臨時の仕分け場所に指定されていた。食堂ではない。まだ、仕分け場所だ。
「これ、食べ物なの!? それともただの書類なわけ!?」
エル・ビアンノが木箱を覗き込み叫ぶ。民間荷役の応援で、壊れた台車を直し、果てしなく余計な口を挟む天才だ。
リィナ・アーシタが冷徹な手つきで伝票を押さえる。彼女も救護班補助員で、目の光は完全にベテランの帳簿係だ。
「食べ物です。ですが書類上は配給先が未定です」
「じゃあ食べちゃっていいよね!?」
「その浅はかな発想が1番危険です!」
間髪入れずに一閃! 誰の物でもない食物と、名簿に入らない子供たち。私は酷似する2つに寒気を覚え、手帳を固く閉じた。
その時、港湾端末が「照合不能」の冷酷な警告音を鳴らした! 私は急行した。配給所の裏には名前のない白い紐が虚しく落ちていた。書けばその子の不幸を所有してしまう気がして、私は拾わなかった。
「書かないんですか」とリィナ。
「人の逃げ道を定規で精密に測らないでよ」
「定規は極めて便利です。逃げ道を測る時でも正確な方が役に立ちます」
旧実習棟へ戻ると、ファ・ユイリィが立っていた。彼女は古米と麦の袋を破ると、1粒ずつ確かめて一喝した!
「あなたたち! この古米をそのまま塩むすびにするつもり!? 『とりあえず』で食べさせないで!!」
雷鳴のような一撃! ファは古米を分け、片方はすぐ炊き、片方はぬるい水で十分吸水させた。すぐ炊いた方は中心がガリガリと硬い! だが吸水させた方は素直にほどけた!
「女将! 同じ米なのにどうしてこんなに味が違うの!?」
「古米は水分を完全に失っているのよ! 水が足りないのに塩や油で誤魔化しても解決しないわ! 出来損ないよ!!」
恐ろしいこだわり! 麦も別鍋で火を通してから投入する。炊き上がった飯を、ファは手の中でたった2度だけ返し、表面がまとまった瞬間にピタリと止めた! 口に入れた瞬間にパラリとほどけ、麦の優しい甘みが駆け抜ける!
「おいしい……んじゃない! 『マシ』なんだ!!」
エルの叫びにファが力強く頷く。
「今はその『マシ』が大切なのよ! 喉が乾いている人に強い塩分をぶつければ、後で水を求めるわ。料理は飲み込んだ後、その人がどう生きていくかまで計算し尽くすのが本物よ!」
エルは大小のおむすびを作ろうとするが、リィナが「小を選んだ人が卑屈になる」と制し、大きさは統一して握り加減で選択肢を作った。
私は黒板にチョークを走らせた。
1、食文化研究部を申請する。
2、補給線と配給外の空欄を追う。
3、食べさせたら勝ち、とは考えない。
配給所の片隅に、例の照合不能の子供がポツンと佇んでいた。私は2種類の塩むすびを手渡しず、机の端へそっと置いた。その子は取らなかったが、2つの握り飯を真剣に見比べた。私は手帳に「見た。2つを、見比べた。それだけ」と書き留めた。
夜、ロンド・ベル関連の補給優先順位の見直しが告げられ、港の空気は一変する。
「利用人数はどうするの!?」とエル。
「空欄にします。ですが必要な椀の数だけは正確に記録します。むすびの数=人間の数だと記号化して処理しては絶対にならないのです!」
私は手帳を開かなかった。黒板の文字を見つめる。
食べさせたら勝ち、とは考えない。
食堂と呼ぶにはあまりにも惨めで頼りない空間。だが、ただの殺伐とした仕分け場所に戻すには、炊き立ての古米と麦の香りが、少しだけ温かすぎたのだ。